佐藤小夜子の挑戦

尾張・名古屋は古くから芸どころとして知られ、舞踊もなかなか盛んである(特にバレエ)。とはいえ、私的には、時おりバレエを見に行く機会があるのと、愛知芸術文化センターによる自主企画公演に足を運ぶくらい。管見ということもあり、モダンやコンテンポラリー系のアーティストの中堅・若手クラスで自主公演を中心に活発な活動を展開するアーティストはなかなか見当たらない印象だった。そんななかゴールデンウィークの最後に、意欲的な公演に接することができた。佐藤小夜子DANCE LABORATORY「ダンス日記 vol.2−笑顔の法則−」である(5月4、5日 名古屋クラブクアトロ)。
佐藤は故・三田美代子のもとで踊り始め、1985年からは振付も手がけて合同公演等に出品。1993年より故・藤井公、藤井利子に師事している。近年はモダンダンス畑の枠にとらわれることなく俳優やパフォーマーを用いた異色のパフォーマンスを展開しており、地元のみならず東京でのジョイント公演やショーケースにも参加するなど積極性が際立つ存在だ。これまで東京で観ることのできた佐藤作品は『足並みそろえて』『おとなのポルカ』『Polka』といった小品佳作。そこはかとないユーモアの底に深い人間洞察を湛え、表現スタイルもダンスの枠に囚われない自在なタッチが魅力的だった。
今回、名古屋で観た「ダンス日記 vol.2−笑顔の法則−」も、タイトルに“ダンス”と銘打たれているが、これは俳優やパフォーマーを中心としたキャスト陣が出演するもので、演劇的な要素も取り入れたオムニバス作品(上演時間1時間ほど)。佐藤含む9人の男女が日常的な、ありふれたようでありふれていないような悲喜こもごもの情景を繊細につむいでいく。男女カップルの切ない距離感や詐欺にあったりと転落していくバカっぽく愛らしい訛った田舎者ロックシンガー生み出す悲喜劇……。ダンサーだけでなく役者含めたパフォーマーが優しさ愛おしさに満ちた佐藤ワールドを確かな実在感を持って伝える。衣装の武田晴子、照明の御原祥子といった関東/名古屋のベテランスタッフの強力なサポートも作品に奥行きを増していた。パフォーマーの個性と役割分担をより明確にして演出・構成に緩急自在さが加わればと思ったのと、あと、もう少しパワフルなダンスが観たいというか、カタルシスが欲しい気はするが、総じて好印象の持てる公演だった。ダンスと演劇の境界の先にさらなる独自のパフォーマンスを期待したいと思う。
会場は名古屋の繁華街ビルにあるライブハウス。劇場プロセニアム空間とは違った解放感があり、ダンスや演劇に関心の薄い層でもドリンク片手に肩が凝ることなくパフォーマンスを楽しめる。そして、チラシをみると、入場券の取り扱いは地元のプレイガイド3つのほか、ぴあ、ローソンチケット、イープラスと並ぶ。小スペースでの2日間3公演という公演規模・委託料等を考えると、自前・手売りで済ませるのが効率的なはず。それなのに手間と経費のかかることをするのは、ひとりでも新たな観客を獲得しようという意思が強いからだろう。実際、チラシや公演情報等に触れて来場した観客も少なからずいたようだ。マネージメントへの意識も高く、未知の観客が会場に足を運ぶまでのバリアを少しでもフリーにしていきたいという自助努力の感じられる制作姿勢は頼もしい。地域におけるダンスの自主公演のあり方を考えるうえで貴重な試みに感じられた。
創作・制作の両面において積極的な佐藤小夜子の挑戦を見守りたい。