Hatena::ブログ(Diary)

ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

2006010203040506070809101112
2007010203040506070809101112
2008010203040506070809101112
2009010203040506070809101112
2010010203040506070809101112
2011010203040506070809101112
20120102030405060708091112
201301020304050607091011
20140102040508
201506070809

2010-04-03

[]2010年3月

3月は例年同様に異常な公演ラッシュだった。重なっていたり、都合がつかず足を運べなかったものも少なくない。主なものではアマーニ、トニー・リッツイ、木佐貫邦子、M-laboratry、輝く未来、「踊りに行くぜ!!」スペシャル公演などを見落としている。

今年の一大イベントのひとつといえるのがパリ・オペラ座バレエ団『シンデレラ』『ジゼル』の来日公演。後者に関しては媒体に求められて評を寄せたが、ダンサーの質、舞台の洗練度にかけてはさすがに極上といえるものだった。ニーナ・アナニシアヴィリが芸術監督を務めるグルジア国立バレエ『ジゼル』『ロミオとジュリエット』ヤン・リーピン『シャングリラ』などもそれなりに楽しむことができた。来日バレエが『ジゼル』を持ってくるのは珍しい。それも立て続けに。それに日本バレエ協会『ジゼル』は初演時の楽譜に基づくメアリー・スキーピング版だったが(なかなかの仕上がり)、パリ・オペラ座バレエ団、グルジア国立バレエ公演と同じ東京文化会館で上演された。各々の上演の質や演出の違いをより細かに比較してみることができ有益だった。

バレエ協会公演のほか、このところ勢いを増してきている東京小牧バレエ団『火の鳥』『ショパン賛歌“憂愁”』新国立劇場『ボリス・エイフマンのアンナ・カレーニナ』といったバレエ公演があり、それぞれ好評のようだ。とはいえ、個人的には見落としたものも少なくないとはいえ、コンテンポラリー・ダンスの公演に注目すべきものが多かったように思う。多様な取り組みで観客と対峙したり、場を共有することで対話を行っているアーティストの活動に共感させられる上演が続いたのは何よりだった。

下記にあげた以外でもいくつか。ダンスと演劇を行き来する岡田利規のチェルフィッチュ『わたしたちは無傷な別人であるのか?』がまず印象に残る。演劇作品だが、テーマの切実さ、語り口のおもしろさ、身体性の新しさ、いずれとっても刺激に満ちていた。1990年代以降のダンスシーンを底から支えてきた実力派・能美健志&ダンステアトロ21『White Reflection』は、真摯に身体と向き合いつつ緻密な空間構成をみせ健在をアピール。深見章代率いる女性集団・高襟『東京サイケデリック』は、露悪趣味でもなくクールさを装うでもなく「かわいい」とかいって媚びるでもなく、いい意味であっけらかんとして、ふてぶてしい。独自のエロチシズムを模索しつつあるようだ。

印象に残る公演3点

東野祥子solo dance『VACUUM ZONE』

アンサンブル・ゾネ『Fleeting Light つかの間の光』

TOKYO DANCE TODAY #5井手茂太『イデソロリサイタル [idesolo]』

東野祥子のソロ公演は、まずもってダンスの凄さで突出している。そのうえ、映像・美術・衣装・音楽らの諸ジャンルとのコラボレーションの緻密さと大胆さが際立つ。完成度も高い。ダークかつハイテンション、それでいて謎めいていて、観るものの想像力を激しく刺激する東野ワールドはハンパなく魅力的だ。アンサンブル・ゾネ新作は、中村恩恵の客演に興味津々だった。淡々とソロや群舞を連ねるゾネの舞台に、メンバーとは異なる身体性の中村が入りソロや群舞、岡とのデュオを踊ると、いい意味での異質な要素が混在する印象を受ける。その差異こそが、ゾネというカンパニーの生む世界の特質や孤高性と浮き彫りに。そして、岡・ゾネと中村が違った価値を持ちながらも互いを認め歩みながら踊る姿に、ダンスというものが打ち出し得るコミュニケーションの可能性を感じさせる。深く感銘を受けた。井手茂太のソロ・リサイタルは、あふれるユーモアや切なさで親密感を抱かせてくれる好編だった。ダンスの楽しさを伝え、さらにダンスという概念を軽々と超えたパフォーマンスで意表を突いた展開を繰り出す手際は職人技といえる。パイロットやラグビー選手、演歌歌手と早代わりする疾走感のある展開が楽しく、大御所の沢田祐二の照明もよくマッチした。例によっての小太りなのに異様にしなやかな井手ダンスもたっぷりと堪能させてくれる。すっかり心地よい気分にさせてもらえた。

印象に残るアーティスト3人

矢内原美邦(『あーなったら、こうならない。』の演出・振付)

酒井はな(東京小牧バレエ団『火の鳥』、日本バレエ協会公演『ジゼル』の演技)

折田克子(石井みどり追善公演の演技)

矢内原美邦は、振付・構成のみに徹し「ダンスとは何か」ということを、主題としても手法としても徹底して突き詰めた。生と死、人と人の関係性や距離といったモチーフを深く問うとともに、感情の発露をいかに身体を使って切実な表現として定着させるのかと真摯に探求する姿勢に共感した。酒井はなに関しては、近年、そのドラマティックな資質を活かす機会が少なく残念だった。が、今月は『火の鳥』『ジゼル』と性質は違うけれども、ともにドラマ性の強い役柄を踊る得がたい機会であった。それに酒井が出ることによって舞台の格が高まったように感じたのは私だけだろうか。どちらもゲスト出演だが(だからこそ)、主役を踊るに相応しいだけの存在感と説得力の十分なプリマとしてやはり貴重だ。折田克子は、故・石井みどりの息女であり、現代舞踊界の大御所だが、かつて音楽家のカール・ストーンとのコラボレーションを行ったり、先日もアナ・ハルプリンに師事した川村浪子とのレアな共演も果たしている。かの黒沢美香が“100年に1人しかいないはず”の踊り手と敬愛する先達なのだ。石井みどり追善公演でも、決して押し出したり派手なことはしないのに、その怜悧な感性と空間にしっかりたたずむ地に足着いた存在感に圧倒された。極めて上等にして稀有な芸術家魂を備えた大家である。

2010-03-02

[]2010年2月

印象に残った公演ベスト3は、牧阿佐美バレヱ団『三銃士』東京バレエ団『シルヴィア』黒沢美香ソロダンス・薔薇の人『早起きな人』。印象に残ったアーティスト・ベスト3は、秋元康臣(NBAバレエ団『ラ・フィユ・マル・ガルデ』の演技)、田中結子(東京バレエ団『シルヴィア』の演技)、川口節子(バレエグループあすなろ公演における『マダム・バタフライ』の振付)。今月は特別に洋舞系中心の観劇リストをUP。

3日(水)「マニュエル・ルグリの新しき世界」Aプロ@ゆうぽうとホール

ルグリ×ド・バナを向かえ〈ポスト・ベジャール〉を模索する東京バレエ団の動向に注目。ダンサーでは、先月の『ラ・シルフィード』においてさらなる新生面を拓いた上野水香がコンテンポラリーでも鮮やかな造形美を見せ充実ぶりが印象的だった。

4日(木)横浜SoloxDuo<Compétition>+@横浜赤レンガ倉庫1号館

5日(金)横浜SoloxDuo<Compétition>+@横浜赤レンガ倉庫1号館

7日(日)横浜SoloxDuo<Compétition>+@横浜赤レンガ倉庫1号館

4日間のうち3日間を観覧。ファイナルに残った15作品のうち11作品を観られたわけだが、もっとも鮮烈な印象を受けたのが三東瑠璃/小暮香帆/篠ヶ谷美穂<japonica-ponica> 『そのにわ』。小暮と篠ヶ谷のデュオだけれども、カワイイ系のスタイリッシュなパフォーマンスでも、男性の視線に媚びないクールな強さが芯にあって新しい感覚を打ち出している。動きのセンスのよさ・新しさも際立っていた。2010年代のシーンを担ってほしいグループだ。きたまり『女生徒』も気になった。客席からの登場に始まって、なんちゃってヒップホップを躍るなど破天荒で奔放なパフォーマンスが楽しい。が、ちょっと受け狙いが露骨に出た嫌いも。ただ、きたまりには代表作『サカリバ』に顕著なように、仮にそれが私的感覚に依拠したものであっても人に伝えたい・伝えずにはいられないという核みたいなものがあるので表層的な計算を超えて表現が信じられる。パーソナリティがにじみ出て華もある。審査の行方はきたまりの評価如何だと思っていたが、日本人審査員が選出する《未来へはばたく横浜賞》を獲得。japonica-ponicaは審査員賞に落ち着いた。観れなかったが《若手振付家のための在日フランス大使館賞》《MASDANZA-EU 賞》をW受賞した長内裕美(『digitalis』)は可能性を買われてのことだろう。

6日(土)池田+プラテル+ヴォルドング『ナイン・フィンガー』@彩の国さいたま芸術劇場

言葉と身体を通しての対話や挑発を通して、時代と向き合い、未来を問う。とはいっても、押し付けがましさは欠片もなく観客と場を共有することで切実なリアリティある問題提起を行う真摯な姿勢に深い感銘を受けた。欧州ではありがちな創作方法にも思えるが、若い作り手には参考になるかもしれない。

6日(土)東京シティ・バレエ団『カルメン』@新国立劇場中劇場

媒体に公演評を寄稿しました(「オン・ステージ新聞」)。メリメ原作を現代の東京を舞台に換骨奪胎した異色のドラマの再演。説明が過剰に感じられる箇所も散見されるが、現代社会の問題に取り組みつつグランド・バレエとして多くの観客に訴求する骨太な作品は歓迎だ。この版の真の主人公ともいえるホセを演じた黄凱の脆く繊細な男の内面を体現した演技には完全に魅了された。

8日(月)「マニュエル・ルグリの新しき世界」Bプロ@ゆうぽうとホール

古典のパ・ド・ドゥがひとつもない構成が目を惹くガラ。ギエムとルグリの“雪解け共演”(『三人姉妹』『優しい嘘』)を拝めたことをただただ感謝したい。

9日(火)タバマ企画『リバーシブル』@こまばアゴラ劇場

対面式の客席やブラインドを吊るして死角を遮るなどアイデア豊富な意欲作だが、総じて中途半端に終わってしまった。田畑真希のダンスはまた見たい。

10日(水)新国立劇場ダンスプラネット「近藤良平トリプルビル」@新国立劇場小劇場

コンドルズの出ない真面目な?3本ながら近藤テイストは健在。ダンサーが、いい。

11日(木)「まことクラヴかけぬけ下町商店街」@円頓寺商店街

名古屋駅から一駅の街の商店街を巡行し、各商店を紹介しながらのダンス&パフォーマンス。仕掛けたっぷりで楽しめた。

11日(木)バレエグループあすなろ第8回公演@名古屋市芸術創造センター

名古屋を拠点とする岡田純奈バレエ団と川口節子バレエ団の合同公演だが、完全にひとつのユニットとしてまとまって質高い舞台に仕上がっている。古典『ドン・キホーテ』、小品集に加え、創作『マダム・バタフライ』を上演した。プッチーニのオペラで有名な物語を蝶々夫人の愛と葛藤に焦点を絞ってドラマティックに描いたもの。名作『イエルマ』『奇跡の人』等で知られる川口節子の演出・振り付けは、人間の暗部や深い悲しみを描きながらも、美と感動を大切に見るものの感情に訴え、思考を促す。舞踊語彙も多く、造形・構成力も確かだ。地域で活動する振付者のなかに世界レベルで語り得る人がいるのは、なんとすばらしいことだろう。

12日(金)desnudo Flamenco live Vol.6「Poema de Amor〜愛の詩〜」@MUSICASA

フラメンコの可能性を追求する鍵田真由美と佐藤浩希の仕事は乗りに乗っている。小空間でのシリーズ公演は毎回見逃せない。

12日(金)フォースド・エンターテインメント『視覚は死にゆく者がはじめに失うであろう感覚』@Vacant

男優によるモノローグ劇。「〜は〜」とひたすら小一時間のあいだ過剰に世界を定義していく大胆さに乗せられた。

13日(土)トモコエハラダンスカンパニー『種撒く人』@シアターχ

ポストモダンの洗礼を受け、それに独自の境地をみせる江原朋子。意味や皮相な主題を超えて身体で思考する作家・江原の存在は貴重で健在ぶりがうれしい。

13日(土)牧阿佐美バレヱ団『三銃士』@新国立劇場中劇場

デュマ原作の痛快な冒険活劇。ヴェルディ曲を集めた編曲もすばらしい。故アンドレ・プロコフスキーの名作のひとつだが、団員の層の厚さが活きて充実の仕上がり。堪能した。プロコフスキーは古きよきロシア・バレエの伝統とヨーロッパ・バレエのエスプリを融合させた物語バレエの作者としてより評価されるべきだ。牧バレエ団には、今後も貴重なレパートリーとして末永く受け継いでいってもらいたい。

14日(日)現代舞踊協会・都民芸術フェスティバル「現代舞踊公演」@東京芸術劇場中ホール

稲葉厚子、小林容子、坂本秀子作品を上演。総じて伝えたいことはよくわかるし創作の核があることは大切に思うが、それを伝える手法や構成がそれぞれにやや常套的で、客席との距離が生まれていた感無きにしも非ず。とはいえ坂本作品は現代舞踊界最高水準の抜群に技量高いダンサー陣をつかいつつ彼女たちのダンスよりも身体に傾斜した作り。普段と趣が違っていて興味深かった。動きへの意識の高さが感じられるのは江口-金井系を担うだけのことはある。

14日(日)埼玉県舞踊協会「ダンスセッション2010」@彩の国さいたま芸術劇場

媒体に公演評を寄稿した(「オン・ステージ新聞」)。モダン/バレエといった区分けなく広く国内、そして海外との交流を深めてきた埼玉県舞踊協会ならではの特色の活きたプログラム。創設以来の精神を受け継いだ質の高い上演には、協会立ち上げに苦心した泉下の藤井公もさぞや喜んでいることだろう。

19日(金)じゅんじゅんSCIENCE『怒りながら笑う』@d-倉庫

元「水と油」・じゅんじゅんのソロ。人形と人形師が出てきてじゅんじゅんと絡んで面白い展開になりそうだったりと魅力もある。が、何も起こらず終始した感はあった。

20日(土)新国立劇場バレエ研修所「エトワールへの道程 2010」@新国立劇場中劇場

5期生の修了公演。これまでの修了生に比べ突出した存在はいないか。研修生・予科生含め男性に伸びが期待できそう。

20日(土)NBAバレエ団『ラ・フィユ・マル・ガルデ』『ラスト・コンサート』@ゆうぽうとホール

ニジンスカ版『ラ・フィユ・マル・ガルデ』日本初演は快挙。スピーディーでセンスがいい。秋元康臣の躍進が著しい。折り目正しく、優美に技を繰り出すなかに力強さも加わってきた。ショパン曲による『ラスト・コンサート』(振付:安達哲治)も秀作。

21日(日)松山バレエ団・新『白鳥の湖』@NHKホール

皇女と皇太子の愛を描き出しつつ中世の歴史のうねりを感じさせる壮大なスケール感、スペクタクルが特徴と再認識。清水哲太郎による演出は、オリジナルを超え、バレエという枠を超えんとする。「新」と名乗るだけのことはあろう。

23日(火)Visual+Dance performance『fragment muder case /不連続殺人事件』@東京都写真美術館B1F

BABY-Qの映像を手がける斉藤洋平による映像中心にしたダンスとのコラボレーション。映像によって立体感と距離感が増幅されて面白かった。

24日(水)黒沢美香ソロダンス・薔薇の人『早起きな人』@テルプシコール

シリーズ開始から10年、待望の最新作。奔放さ・過激さに加え、軽やかさも増した黒沢は、アンダーグラウンドをクールに疾走し続ける。それにあそこまではっきりバレエを踊る!黒沢を見たのははじめてかも。不意打ちの連続に驚きつつ耽溺させられるというコンテンポラリー・ダンスを観る快感に充ちた至福のひとときだった。

25日(木)熊川哲也 Kバレエカンパニー『海賊』@オーチャードホール

初演の熊川×吉田都×キャシディによる歴史的な名演が忘れられず、どうしても比較してしまうのだが、熊川の踊るアリは今回もやはり絶品だった。Kバレエが、10年にわたって公的助成を受けずこれだけの規模の舞台を続けてきたことは驚異的。それは確実に歴史に残るだろう。

26日(金)東京バレエ団『シルヴィア』@東京文化会館

アシュトンの大作で荒唐無稽な筋立てながら部類に楽しく盛り上がれるバレエ。国際水準で上澄みにあたる大バレエ団にしか上演できないだけに日本のカンパニーによる上演を喜びたい。女性群舞や山羊とかの踊りなどは出来がよく、英国ロイヤル・バレエの上演に負けていない。初顔合わせのセミオノワ&ゴメスも好演。

27日(土)東京バレエ団『シルヴィア』@東京文化会館

田中結子&木村和夫主演。正直、予想以上のできばえだった。田中の、幕を追うごとに精彩を増していくエモーションに富んだ演技に感動した。技術的完成度やアシュトン・スタイルの咀嚼度はともかく「私はこう表現したい」という強い意思と解釈力のある演技は現在の国内の若手・中堅プリマの多くに欠けているもので、それがあるというのは大きな強みだ。『オネーギン』タチヤナに期待。

27日(土)日本-フィンランド共同制作プロジェクト『inhabitants』@STスポット

フィンランド人振付家作品を幸内未帆と田中美沙子が踊る。異文化を超え、今を探る試みが刺激的だ。地に足着いた国際的な文化交流・芸術交流としてのプロジェクトを展開してきた横浜赤レンガ倉庫1号館の仕事には敬意を表したい。

28日(日)加藤みや子ダンススペース『赤い土』『骨の花』@日暮里サニーホール

身体と空間の関係を突き詰め、観るものの現前に新たな風景を立ち上がらせる加藤ならではの世界をたっぷりと味わえた。

2010-02-05

[]2010年1月

1ヶ月間の間に観た公演をおさらいしておく備忘録をはじめます。内容が優れていると同時に一観客として素直に感動できたものに感謝をこめて選ぶというスタンス。ベスト3とは便宜上に過ぎず年間ベスト級に入る水準のものしか挙げないつもりなので該当なしの場合もあればベスト5等になるケースもあるかもしれません。国内団体・個人中心。

特に印象に残る公演・作品3点

・Noism1『Nameless Poison-黒衣の僧』

・珍しいキノコ舞踊団『私が踊るとき』

・該当なし

Noism1『Nameless Poison-黒衣の僧』は昨年秋に新潟で初演された金森穣演出・振付による見世物小屋シリーズ第二弾(年末に名古屋で既見)。アントン・チェーホフの小説「黒衣の僧」「六号病室」から想を得たもので、チェーホフ作品の底流にある苦悩を現代に通じる普遍的なものとして捉えています。コミュニケーション不全、無名性のなかを彷徨う現代人の実相を怜悧に抉りとった快作。『人形の家』に続くシリーズ特有のアングラ・テイストに好悪あるでしょう。しかし、その点に気を取られ作品の本質を見誤ってはいけません。人間の精神的領域を身体を通して描く骨太にして知的な創作力は特筆されるべき。わが国の創作者のなかでは圧倒的に抜きん出ているのは疑いないところです。珍しいキノコ舞踊団『私が踊るとき』は、バレエ音楽からジャズ、ラテンにいたるまでの幅広いナンバーにのせて踊る踊る踊る。飽かせることない踊りのつるべうちに全身を解してくれるかのような心地よい時間を過ごせ至福でした。他では、H・アール・カオス×大友直人×東京シティ・フィルによるコラボレーションコンサートが充実していたのは衆目の一致するところ。でも、旧作中心で、2007年の『ドロップ・デッド・カオス』以来の新作自主公演が観たいのが本当のところなので挙げませんでした。大島早紀子のような才人が自主公演を打てず、今回のような企画でも1日限りしか公演できないのが残念。日本の舞踊をめぐる諸状況の貧困さを露にしているといえるのでは。

特に印象に残るアーティスト3人

・上野水香(東京バレエ団『ラ・シルフィード』の演技)

・橘るみ(金田あゆ子振付『完璧なお城』の演技 於:日本バレエ協会公演)

・廣田あつ子(真島恵理ダンスエマージ『百年の孤独』の演技)

上野水香というプリマは常に予想を裏切りさらなる先端をいつも見せてくれるという点で傑出した素晴しい存在。初めて挑んだ『ラ・シルフィード』のタイトルロールでは、強靭なテクニックを巧みに操りつつ妖精らしい浮揚感を表現し、持ち前のプロポーションのよさを最大限に活かしたポーズの美しさが映えていました。結果として、元来の資質が最良の形で反映されたというべきでは。橘るみは、ロマンティック・バレエの名作『ジゼル』に想を得た異色の創作において、女性の抱く愛憎や悲しみの感情やピュアな愛を雄弁に身体で語って胸に迫るものがありました。中村恩恵とのユニット活動が注目される廣田あつ子はモダン・バレエ的創作を続ける真島恵理作品で抜きん出た表現力を見せて印象に残ります。もっといろいろな振付家の作品や自作を観てみたいダンサーの最右翼のひとり。他では近藤良平とのデュオ『私の恋人(アイジン)』、飴屋法水の演出・構成による独舞『ソコバケツノソコ』と舞台の続いた黒田育世。ことに前者では、近藤との絶妙な掛け合いが興奮と笑いを誘いました。バレエでは、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』においてザハーロワに代わり急遽登板してオデット/オディールを踊った川村真樹。同役を踊った新星の小野絢子の踊りも折り目正しく破綻なくラインがすごくきれいで上出来ながら二役をきっちり演じ・踊り分け、舞台の中心を締めるという主役に相応しい働き・風格という点では経験豊富な川村に分があったように感じました。