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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2011-01-05

[]国内バレエ編

■東京バレエ団とKバレエの充実

公演数&動員・規模・国際性・一般への訴求力・芸術性といったあらゆる面においてバランスよく高い水準をみせたのが、以下のふたつのカンパニーではないだろうか。

前年からの創立45周年記念のシリーズを打ち上げた東京バレエ団は、物語バレエの最高峰クランコ振付『オネーギン』、アシュトンの異色大作『シルヴィア』を日本のバレエ団としてはじめて初演する快挙を成し遂げた。名ダンサー・小林十市の引退公演ともなった5年ぶりの『M』(ベジャール振付)もあった。ダンサーでは、役に憑依したかのような斎藤友佳理の『オネーギン』、斬新な解釈をみせた上野水香のラコット版『ラ・シルフィード』の演技など。欧州ツアーも行い、創設以来の海外通算公演回数が700回を超えた。今年2月にはベジャールの旧作集『ダンス・イン・ザ・ミラー』を世界初演する。

テレビ局をスポンサーにして公演数と舞台規模の大きさで際立つ熊川哲也Kバレエカンパニーは、全幕ものの新作初演はなかったものの『海賊』『コッペリア』等の熊川版の古典全幕を各地で再演。年末に行った赤坂ACTシアター版『くるみ割り人形』は立見の当日券も出るほどの盛況をみせた。新制作では、中村恩恵ら日本人振付家3人に新作委嘱した「New Pieces」を催している。日本人による創作バレエの発展のための貴重な機会であり、芸術監督・熊川哲也の英断と見識をいくら称揚してもし過ぎることはない。ダンサーでは、熊川のほか荒井祐子の安定感が際立った。

ジル・ロマン「ダンス・イン・ザ・ミラー」を語る

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■新国立劇場と大手団体

わが国のバレエの中核となるべき新国立劇場バレエ団も恵まれた条件に相応しい規模の大きな活動を行っている。春にはエイフマン『アンナ・カレーニナ』が、秋には新芸術監督ビントレーの『ペンギン・カフェ』等によるトリプル・ビルが話題に。前者に主演した厚木三杏の演技を多くの評論家が賞賛している。ベテランでは山本隆之、新鋭では小野絢子、福岡雄大。ビントレー体制の展開に注目集まるが、前芸術監督・牧阿佐美の10年に及ぶカリスマ的な指導力あっての現在であることを強調しておきたい。

わが国バレエ界の最大組織たる日本バレエ協会(会長:薄井憲二)は、原典に立ち返りつつ独自の演出をみせて説得力あるメアリー・スキーピング版『ジゼル』日本初演(都民芸術フェスティバル助成公演)が意義のみならず仕上がりの面でも大きな成果を挙げた。篠原聖一の引き締まった力作『カルメン』等を上演した「バレエ・フェスティバル」をはじめとする各事業も充実をみせる。2011年は公益社団法人として再スタートする重要な一年と位置づけられているだけに、さらなる躍進・発展を期待したい。

名門大手も安定した活動を行った。三谷恭三率いる牧阿佐美バレヱ団は若手の躍進が著しく活気を増してきた感。秋の『ラ・シルフィード』『セレナーデ』は、古典・新古典の確かな継承を感じさせる質的に高い仕上がりで、大手・名門の底力を示した。松山バレエ団は、森下洋子&清水哲太郎が相変わらず健在。秋には第3次となる『白毛女』の試演会を行い今年は本公演にて発表予定となっている。大阪を拠点とするわが国きっての名門・法村友井バレエ団は、ロシア・バレエの第一人者・法村牧緒の手による重厚で格式ある舞台づくりに定評あるが、期待の若手プリマ法村珠里が『ドン・キホーテ』『コッペリア』に主演し、いっそう華やぎのあるものとなった。

ビントレー振付『ペンギン・カフェ』(英国ロイヤル・バレエ団公演)

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■節目の年を迎えた団体の躍進

創立〜年というシリーズ公演を行った団体が積極的な活動を行ったのも特筆される。

創立60周年シリーズの後半を迎えた老舗・谷桃子バレエ団は、年初に前年度の成果を受けて団・団員が相次いで舞踊賞を獲得して波にのった。団付きの望月則彦の創作『レ・ミゼラブル』のほか『ドン・キホーテ』『リゼット』という日本初演以来磨き上げてきた十八番のレパートリーを高部尚子、永橋あゆみ、齊藤拓、今井智也、三木雄馬ら新旧の個性と実力を兼ね備えた魅力的なキャストで上演し、いずれも高い評価を受けた。創設者で日本バレエの生ける伝説・谷桃子はこの新春で卒寿を迎える。

創立45周年シリーズを行った神戸の貞松・浜田バレエ団も意欲的。『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』等の古典のほか同バレエ団出身でドイツ拠点に欧州で活躍する森優貴振付の大作『冬の旅』を世界初演して注目を浴びた。また、「ラ・プリマヴェラ〜春」においてスタントン・ウェルチ『ア・タイム・トゥ・ダンス』を披露。関西のバレエ団としては初めての中国公演(上海・北京)も行なった。年間通しての成果は水際立ったものといえる。ダンサーでは、大ベテラン貞松正一郎はじめ技量と華に加え芸術的解釈の深さ際立つ瀬島五月、コンテンポラリーにも独自の感性をみせる武藤天華ら多士済々。

貞松・浜田バレエ団『白鳥の湖』(瀬島五月&廣岡奈美&A・エルフィンストン)

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■首都圏中心とした主要団体の活動

在京中心に一定規模の公演を行い、文化庁助成等を受ける団体の活動を振り返る。

吉田都らを招いた「チャリティ・ガラ」等のほか中国公演も行ったスターダンサーズ・バレエ団、江東区との芸術提携を深め地域密着姿勢を堅持しつつ気鋭振付者キミホ・ハルバートを招くなど新理事長・安達悦子のカラーも出つつある東京シティ・バレエ団は東京バレエ協議会に属し、都民芸術フェスティバルの助成を受けての公演も行った。

関直人振付の古典全幕を手堅く上演し独自の美意識溢れる舞台を生む井上バレエ団、マクミランやド・ヴァロワ等の英国バレエの紹介に努め島添亮子の活躍が目立つ小林紀子バレエ・シアター、貴重なニジンスカ版『ラ・フィユ・マル・ガルデ』を日本初演してバレエ愛好家を喜ばせてくれたNBAバレエ団、「清里フィールドバレエ」のほか都心と地元・八王子で定期的に質の高い公演活動を続ける川口ゆり子&今村博明のバレエシャンブルウエストも個性豊かでこだわりの深さを感じさせる活動を展開した。

酒井はな主演『火の鳥』等のダブル・ビル、沖縄出身&国際派で近頃稀なスケール感ある新人・長崎真湖と中国のトップダンサー呂萌を招いての『コッペリア』を上演して名門復活へと気勢を上げる東京小牧バレエ団は、小牧正英の甥・菊池宗の下、近ごろ公演規模が急激に拡大してきており注目される。また、中部地区では、松岡伶子バレエ団がキーロフの名花だったナターリャ・ボリシャコーワ振付による『白鳥の湖』のほか「アトリエ公演」にてカナダで活躍する新鋭・井上勇一郎作品を上演して気を吐いた。

長崎真湖(遼寧バレエ団)『カルメン』

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■秀逸なガラ公演&女性振付家の活躍

作品/公演/個人で特筆すべきものを挙げる。

夏には海外で活躍する踊り手が帰国してのガラ公演等がいくつか行われたが、現代作品中心にクオリティと多彩さでローザンヌ国際バレエコンクール受賞者らによる「ローザンヌ・ガラ2010」が際立っていた。芸術監督は熊川哲也。福岡雄大、法村珠里のほか文化庁芸術祭新人賞を受けて波に乗る奥村康祐ら関西出身者でバレエ界の次代を担っていくであろう若手をフィーチャーしたほか田中祐子、岩田守弘、小嶋直也、法村圭緒らの超一流ダンサーが共演したMRB松田敏子リラクゼーションバレエ「バレエスーパーガラ」も企画性高く昂揚感もあって楽しませた。

振付では、前述のKバレエ公演で熊川哲也と、「ローザンヌ・ガラ」で首藤康之とのデュオを発表した中村恩恵が一皮むけた印象。各所での散発的な活動ではあったものの傑出した成果を挙げたのはだれの目にも明らかだろう。東京シティ・バレエ団に振付提供したキミホ・ハルバートの仕事も充実していた。「あいちトリエンナーレ2010」共催事業の川口節子バレエ団「BALLET SELECTIONS 2010」において川口が発表したドラマティック・バレエ『心地よく眠るアリス』が注目され、各紙誌等で高い評価を受けたのも印象深い。先述のベテラン望月則彦、円熟味を増してきた篠原聖一、新進気鋭の森優貴らの活躍もあったが女性振付家の健闘が目立ったように思う。

ダンサーでは、前述以外に、プリマ級としてフリーランスで活躍するベテランの下村由理恵、売り出し中の西田佑子、それにベルリン国立バレエのプリンシパルで夏にKバレエと「ローザンヌ・ガラ」に客演し活躍したSHOKO(中村祥子)を挙げておきたい。男性では、奥村康祐や碓氷悠太のような優れたノーブル・ダンサーも出てきたものの若手が全般的に小粒に思える。テクニックあって綺麗に踊る子は多いが見映えがパッとしない。身体条件とはおそらく無関係に。プリマに関しても同様で、テクニックが精確で清楚、身体のラインが美しい中堅・若手は少なくないのは喜ばしいが、大型で迫力のある大人のプリマが不足している。前者は玄人受けしても一般の観客には物足りない印象をあたえることも。日本のバレエの未来を考えるうえで、男女とも大型の新星が台頭してくることを期待したいし、それを育み受け入れる土壌づくりが必要に思う。

中村祥子『カラバッジオ』(ビゴンゼッティ振付)

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2011-01-03

[]概況&来日公演

■芸術文化と社会

2010年は、前年秋の「事業仕分け」における文化予算削減の危機に瀕したものの結果的に文化予算総額では0・5%増というニュースに糠喜びすることからはじまったように思う。いざ蓋を空けてみると、各芸術団体への助成金は公演単位では前年までよりも削減される傾向に……。文化庁の予算枠では、劇場からの発信事業や共同制作事業の方にシフトが傾きつつあるようだ。舞踊に限らず日本の舞台芸術は民間の力によって発展してきた。ただ、少なからぬ額の助成金を得るようになれば、社会的な責任も負ってしかるべきということになる(アーティストのなかにはそういうのを嫌う人もいるが)。各芸術団体が芸術面の追求のみならずより公益性を重んじた活動をしていくことも求められる。助成の在り方以上に、各芸術団体・アーティストが社会とどう向き合って活動していくのかが、あらゆる局面で問われてくるようになるだろう。

■厳しいなか盛況の公演

不況や助成金の減少等もあって公演数が減った/減らないといった議論が批評家等のなかで見られる。純粋に数だけで言えば、減っていない。むしろ小さなスペースでの公演等含めれば年々増えているのは間違いないだろう。が、このところ公演数や公演の規模が縮小気味の団体が散見されるのも事実だ。バレエの発表会等で出演者が減ったりするということも耳にする。欧州の先端のコンテンポラリー・ダンス等を紹介してくれていたカンバセーションアンドカムパニーが年末に倒産するという衝撃の報もあった。厳しい制作条件のなか懸命に活動を続ける団体・アーティストや制作関係者には敬意を表したい。そして、上演の水準でいえば今年は内外公演とも平均的に極めて高いものが揃った印象があり、充実した一年だったのは喜ばしい限りである。

■ビッグ・カンパニーの来日

来日では、3月にパリ・オペラ座バレエ団、6月に英国ロイヤル・バレエ団というビッグ・ネームが相次いで来日し底力を見せてくれた。ヌレエフ版『シンデレラ』、元祖本家たる『ジゼル』においてみせたパリ・オペの洗練されたスタイル、『うたかたの恋』『ロミオとジュリエット』等でみせたロイヤルの演劇性と各々の個性を心ゆくまで満喫できた至福の上半期だった。吉田都がロイヤル・バレエとのお別れとなる舞台をみせたのも記憶に残る。グレアム・マーフィーによる大胆な古典改作を携えて3年ぶりに来日したオーストラリア・バレエ団、亡き巨匠の魂を継いだジル・ロマンの下、感動的な舞台をみせたモーリス・ベジャール・バレエ団の公演も好評を博した。ニーナ・アナニアシヴィリ率いるグルジア国立バレエも来日しニーナのファンを喜ばせた。

モーリス・ベジャール・バレエ団『80分間世界一周』

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■世界有数のバレエ都市・東京

大カンパニー等の来日も実り多かったが、それ以上にインパクトあったのがガラ公演だ。ロシアの2大カンパニーによるボリショイ・バレエ×マリインスキー・バレエ合同ガラ公演やルグリとギエムの久々の共演が話題となった「マニュエル・ルグリの新しき世界」、パリ・オペラ座バレエ団のエトワール中心に現代作品を軸とした「エトワール・ガラ」も極めてレベル高かった。これらの企画は世界広しといえども東京でしか観られないもの。「世界バレエフェスティバル」こそなかったものの東京という都市がバレエ市場として世界有数であることを改めて実感した一年だった、ウラジーミル・マラーホフによる「マラーホフの贈り物」も現代作品中心の玄人好みの演目でマラーホフの芸術監督としての手腕を再確認。マラーホフは、現在、欧州バレエ界の最重要人物のひとりであるが、彼をいち早く愛し、育てたのは日本の観客であることが誇らしい。

ベルリン国立バレエ団「チャイコフスキー」プロモーション映像

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■ケースマイケルの活躍

現代ものでは、日本とも縁の深かいピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団がピナ亡きあと初めて来日し変わらぬ支持を集めた。熱狂的な観客の多いことで知られるオハッド・ナハリン率いるイスラエルのバッドシェバ舞踊団来日もファンたちの間で盛り上がっていた。日本初登場組ではナハリンの下から出て英国で活躍するホフェッシュ・シェクターが注目された。パリ公演でも旋風を巻き起こした注目株だけに時期を得た招聘だった。来日常連組のヤン・ファーブル、2度目の来日のピーピング・トムなどの公演もあった。ローザス/アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルジェローム・ベルと組んでの実験的な意欲作『ドライアップシート』を披露したほか、多彩なラインナップの光った「あいちトリエンナーレ」においてローザスの出世作『ローザス・ダンス・ローザス』を日本再演した。ヌーベル・ダンスの旗手として台頭し、いまや巨匠の地位にありながらチャレンジングな作品を発表するケースマイケル。両作を観ることで彼女の進化・深化が感じられ興味深かった。ケースマイケルはオペラの演出も手掛けるし、パリ・オペラ座バレエ団に代表作の『レイン』がレパートリー入りするなど存在感を高めている。ベジャールやカニングハム、ピナ亡きあとダンス界を牽引することが期待される。

ローザス『ローザス・ダンス・ローザス』

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■「奇跡の饗演」と「アポクリフ」

来日公演の主なものを列記したが、批評家等の回顧アンケートで圧倒的な支持を集めたのは純粋な来日公演というよりも国際共同制作のような舞台だった。ひとつめは、イスラエル・フィル&モーリス・ベジャール・バレエ団&東京バレエ団「奇跡の響演」。ズービン・メータ指揮によるイスラエル・フィルの至高の演奏にのせてのマーラー&ストラヴィンスキー曲によるベジャール・プロ。艶と深みのあるマーラーにのせての「愛が私に語りかけるもの」も忘れがたいが、私的にはベジャール・バレエと東京バレエ団という、いわば兄弟バレエ団がそれぞれの個性を保ちつつ溶け合った『春の祭典』に特に感銘を受けた。この公演も東京でしか実現しえない“奇跡”だ。もうひとつはシディ・ラルビ・シェルカウイ×首藤康之『アポクリフ』。人種や国籍の違うダンサーたちのスリリングな掛け合いと多彩な演出、アカペラグループの生演奏が相まった重層的な舞台づくりのなかに、ダンス表現が秘める思索性の高さを鮮烈に思い知らせてくれる衝撃の体験だった。初演から三年、東京での公演が実現したのは意義深かった。

シディ・ラルビ・シェルカウイ×首藤康之『アポクリフ』

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