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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2010-01-24

[]vol.5 志賀育恵(東京シティ・バレエ団)

現在、東京のバレエ・シーンにおいて活躍するプリマのなかで大きく注目されるひとりが志賀育恵(しが いくえ/東京シティ・バレエ団)です。評論活動を始める以前から東京シティ・バレエ団の公演には通っていましたが、志賀の踊りをみるのはいつも至福のひとときでした。何よりもラインが美しい。軸がしっかりしたうえで肩、背中、腰の使い方が実にしなやかで、彼女が舞うと、スッと周りの空間が拓けるかのよう。じつに爽快。踊る喜びがひしひしと感じられます。技術も精確なうえ、チャーミングな雰囲気も素敵。『コッペリア』のスワニルダ役はよくハマり最大の当たり役です。東京シティ・バレエ団は江東区と芸術提携を結び、地域に根ざした活動を続け、数ある在京バレエ団のなかでもいい意味で庶民的。質高いバレエを気軽にみせてくれるカンパニーとして独自の存在感を放っています。志賀はその中心として広く観客にも愛される存在でしょう。

略歴を記しましょう。福岡出身で7歳より小沼バレエアートにてバレエを始め、その後、名指導者として知られる田中千賀子に師事。ちなみに志賀と同世代で田中に習った人には息女の田中ルリ、貞松・浜田バレエ団の吉田朱里、ベルリン国立バレエ/Kバレエカンパニーの中村祥子ら一流どころが揃っています。1998年に東京シティ・バレエ団入団。その年から『くるみ割り人形』クララを踊り、2001年には『シンデレラ』にて古典全幕初主演。『コッペリア』『白鳥の湖』『ジゼル』等でも主演し、『真夏の夜の夢』ではハーミア役を好演するなど力をつけていきます。ボルテージの高い仕事をしたのが2006年。『カルメン』のタイトルロール、『白鳥の湖』オデット/オディール役に加え、野坂公夫振付のモダン『曲舞』に主演し、幅広い芸域を安定した技量で踊り「オン・ステージ新聞」新人舞踊家ベスト1などに選ばれました。志賀が大きく飛躍していったこれらの舞台について評・記事を書く幸運が重なったこともあり(依頼原稿しか書いたことがないため偶然が重なっただけですが・・・)、常に動向が気になっている踊り手です。

2007年夏から1年は文化庁在外研修員としてオーストラリア研修(オーストラリア・バレエ団)を行い、年間100ステージを超える舞台に出演してバランシン作品等も踊ったとか。帰国後も、2007年に加入した橘るみとともにバレエ団の看板プリマとして活躍しています。2009年には新制作された『ロミオとジュリエット』に主演しました。この舞台を観られなかったのは痛恨でしたが、好評を得たようで何より。2010年は2月に『カルメン』の再演が行われ主演が決定。舞台を現代に移した異色物語バレエであり、志賀のドラマティックな資質の更なる開花を楽しみに。7月『白鳥の湖』、12月『くるみ割り人形』のほか5月に行われる「ラフィネ・バレエコンサート」でも創作/コンテンポラリー作品の意欲作等が並びますので、そちらでも志賀の活躍を期待できそう。上半身の使い方が綺麗な踊りの魅力に加え、表現力・演技力のさらなる進化が加われば怖いものなし。一層の飛躍を心待ちにしたいところ。志賀にとっても勝負の年、一段とスケールと風格を増して大プリマになってもらいたいものです。よい結果を期待しましょう。


関連記事

公演予告 東京シティ・バレエ団『カルメン』全2幕 (動画予告編付)

http://www.kk-video.co.jp/schedule/2010/0206t_city/index.html


Clara 2009年08月号 特集 FEATURES巻頭対談 志賀育恵×キム・ボヨン

Clara (クララ) 2009年 08月号 [雑誌]

Clara (クララ) 2009年 08月号 [雑誌]

関連LINK

志賀育恵 オフィシャルWEBサイト「IKUE GARDEN」

http://www.ikue-garden.net/

東京シティ・バレエ団

http://www.tokyocityballet.org/

今後の出演予定舞台

芸術文化振興基金助成事業・2010都民芸術フェスティバル参加公演

東京シティ・バレエ団『カルメン』(全2幕)

●2010年2月6日18:30、7日14:00/新国立劇場中劇場

【主演】カルメン役(6日)、共演は黄凱。

2009-11-10

[]vol.4 佐伯知香(東京バレエ団)

バレエ公演の華たるプリマ・バレリーナ。いま、日本で名前だけで観客の呼べるプリマ、毎回一定以上の水準のパフォーマンスを必ずみせてくれるプリマがどれほどいるでしょうか。大手団体中心にマスメディアも使って若手プリマの売り出しに躍起になっていますが、現状はなかなか難しいようです。スター性で客を集める存在は出てきていませんが、しっかりとした技術・表現力を持ったプリマは何人も出てきており末頼もしい限り。今回ご紹介する佐伯知香(さえき ちか)は、その代表的存在といえます。

佐伯は、映画「フラガール」の舞台として知られる福島県・いわき市出身。内外のバレエコンクール入賞者を多数輩出する山本禮子バレエ団付属研究所に学び、横浜の木村公香アトリエ・ドゥ・バレエを経て2001年にチャイコフスキー記念東京バレエ団に入団しました。早くからソリスト役を務め、伸びやかで美しい身体のラインとチャーミングな演技によって熱心な観客や玄人筋に注目されてきました。小さな役でも必ずキラリと光るところをみせる逸材。開脚がしっかりし、体の軸も安定。基本に忠実に、誤魔化しのない正しいポジションから繰り出されるパの精確さラインの優美さは今の日本の若手プリマのなかでトップ・オブ・トップのひとり。『白鳥の湖』パ・ド・トロワ等では、しっかりソリストの任を果たし、愛くるしさ全開の『ドン・キホーテ』キューピッドは当たり役です。『ぺトルーシュカ』や『ドン・ジョヴァンニ』等ベジャール作品でも活躍しています。

全幕主役デビューは今年6月の『ジゼル』(学校公演・一般非公開)。遅きに失した感もあるかもしれませんが、私はそうは思いません。バレエ団が、メディアを使って大々的に若手の売出しを図るというのもひとつの方針でしょう。が、合わない役に就けたり時期尚早の抜擢を行ってダンサーのキャリアを潰すことにもつながりかねません。その点、東京バレエ団の場合、人材事情や時期によって例外はあるにせよ、基本的に若い踊り手を育てるに際して、着実にキャリアを積み上げさせる姿勢が顕著です。佐伯や先輩にあたる小出領子といった、決して派手さはなくても芯が強くしっかりとした技量を持った踊り手がプリマにまで育ったのも、そういう土壌あってこそではないでしょうか。

さて、話しが逸れました。佐伯は『ジゼル』の主演デビューに先駆けウラジーミル・マラーホフが指導するDVD「プレミアム・レッスン」シリーズ(新書館)の『ジゼル』『白鳥の湖』に長瀬直義と出演しました。マラーホフが伝えたいのは、技術面も大切ながら舞台とくに全幕バレエにおいては感情面・表現力が大事ということ。佐伯はそれを肌で感じて学んでいる様子が伝わってきます。主役デビュー前に貴重な体験ができたのは幸運だといえるでしょう。『ジゼル』本番の舞台は好評を博しました。そして次なる主演の舞台として設けられたのが11月21日に行われる東京バレエ団『くるみ割り人形』です。

この公演は、アリーナ・コジョカル&ヨハン・コボーを招き3回上演されるのと並行して土曜日のマチネに「マイ・キャスト シリーズ」と称した特別枠の形式で行われるものです。先にも触れましたが、若手を全幕主演に抜擢するのは大変なリスクを伴うものです。大バレエ団であるほどに。その点、東京バレエ団では、一般公演よりもチケット代金も大幅に抑え、若い才能を応援する観客に集まってもらいやすいようにと広報・宣伝にも工夫を凝らしてアットホームな客席を作るように心がけていくようです。スターというものは作り出そうとして作られるものでなく、生まれるもの、いや、観客が育てていくもの。来年1月の『ラ・シルフィード』、2月の『シルヴィア』でも同様の試みが行われますが、先陣を切って今回、佐伯と松下裕次が主演を務めます。ちなみに公演の際に販売されるプログラムに佐伯と松下の魅力と今回の舞台への期待を記した一文を寄稿させていただきました(上記した『ジゼル』公演の舞台の模様にも触れています)。詳しくはそちらもご高覧いただきたいと思いますが、一観客としても心から楽しみにしている舞台です。今回上演される『くるみ割り人形』のヴァージョンはワイノーネン版なので、クララ役から金平糖の精までほぼ全編を通して佐伯が出ずっぱり。次代を担うプリマの才能が大きく花開く瞬間にひとりでも多くの方が立ち会って欲しいと心から願っています。

今後の出演予定舞台

平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業)

東京バレエ団創立45周年記念公演8[マイ・キャスト シリーズ1]

チャイコフスキー記念東京バレエ団『くるみ割り人形』全幕

●2009年11月21日(土)13:30/東京文化会館

【主演】クララ役

http://www.nbs.or.jp/stages/0911_nuts/mycast.html

【岩国公演】

●12月12日(土)14:00/シンフォニア岩国

【主演】クララ役

http://sinfonia-iwakuni.com/event/details.php?schedule_id=643

佐伯と松下裕次の対談記事が載った「クララ」最新号↓


Clara (クララ) 2009年 12月号 [雑誌]

Clara (クララ) 2009年 12月号 [雑誌]

マラーホフのプレミアム・レッスン1「ジゼル」↓

マラーホフのプレミアム・レッスン2「白鳥の湖」↓

2009-10-20

[]vol.3 法村珠里(法村友井バレエ団)

大阪が誇る超名門大手バレエカンパニーが法村友井バレエ団です。創設は1937年。初代団長の法村康之、二代目団長の友井唯起子夫妻による創設期・発展期を経て1983年より法村牧緒が三代目団長を務めています。日本人としてはじめてレニングラードバレエ学校(ワガノワ・バレエ・アカデミー)に学んだ牧緒は、ペテルブルク派の精髄を知り尽くし日本におけるロシア・バレエの正統的な継承者として揺るぎない地位を誇っています。ベルギーや旧ソ連でも踊った経験を持つ名プリマ宮本東代子と公私共にパートナーとなり、ふたりの子女をもうけました。ひとり目がノーブルダンサーとして知られる長男の法村圭緒。その妹が今回ご紹介する法村珠里(ほうむら じゅり)です。

名門舞踊一家の三代目として陽の当る道を歩んでいますが、ロシア留学を経て法村友井バレエ団に入団して以後、着実にステップを踏んで今日に至ります。今年春には東京新聞主催全国舞踊コンクールのパ・ド・ドゥ部門にて第1位。予選から厳しい審査が行われ創作作品も審査対象とされる全日本バレエコンクールにおいても2年連続上位入賞を果たすなど実力は折り紙つき。近年は日本バレエ協会本部主催公演でもソリスト役を踊っています。両親から受け継いだ優れた容姿と柔軟な身体に恵まれ、バレエを踊る、主役を踊るに相応しい条件を生まれながらにして備えている逸材です。

技術の精確さに加え優美さ際立つ身体コントロールが特長。高々と脚を上げる際にも、無理に骨盤をずらしたりすることなく脚の奥からのびやかに繰り出す――しなやかで美しい体づかいにほれぼれさせられます。法村友井バレエ団は厳格なワガノワ・メソッドによる訓練が徹底されています。しかし、珠里の留学先は意外にもボリショイ・バレエ傘下のモスクワ舞踊学校。優美さを重んじるワガノワ・メソッドと力強さを誇るモスクワ派のメソッドの最良の精華を学んだ貴重な存在ということも特筆されるでしょう。

ソリスト・デビューは2005年初夏の『シンデレラ』夏の精。小気味よい踊りと清潔感溢れる演技に惹かれ、すぐさまプログラムの配役表を確認した覚えがあります。2007年秋に踊った『海賊』のグルナーラ役では、スケールの大きな演技を披露して急成長を遂げました。2008年初夏には『眠れる森の美女』オーロラを踊ります。幕を追うごとに精彩を増し、大変なスタミナを要求される大作を安定感十分に踊って底力を示しました。大舞台であるほど輝きを増し、実力を発揮する勝負強さ・舞台度胸の良さも大変に魅力的です。バレエ団公演のほとんどにおいて主役もしくは主要なソリスト役を踊っていますが、ロシア色の強いバレエ団ならではのレパートリー『騎兵隊の休息』主役や『シンデレラ』のタイトル・ロールで披露したはつらつとした表情豊かな演技は、上り調子の勢い・若さが相俟って爽やかな印象を残しました。技術だけではない心の感じられるバレエを踊る踊り手の多いバレエ団ですが珠里も例外ではありません。

このところはドラマティックな表現力が求められる役柄にも挑んでいます。先日亡くなったアンドレ・プロコフスキーの大作『アンナ・カレーニナ』のタイトル・ロールを今年1月、東京・新国立劇場(地域招聘公演)にて披露しました。悲劇のヒロインを体当たりで演じて評判となったため記憶に新しいかと思います。この作品のパ(ステップ)の組み立て自体はオーソドックスなものですが、パとパの間に感情をこめる余白があるのが振付の特徴。並みのプリマが踊れば単調な踊りと演技に終始し隙間風が吹いてしまう危険をはらみます。しかし、珠里は初挑戦ながらも熱演して健闘をみせました。芸術性と娯楽性を兼ね備えたロシア流ドラマティック・バレエの秀作ということもあり、キャリアを重ねていくに際して折にふれて踊っていくことが楽しみなレパートリーといえます。

今秋には大作『エスメラルダ』のタイトル・ロールに挑みます。ブルメイステル版を基に独自の版として磨き上げ再演を重ねてきた団の代表的なレパートリー(文化庁芸術祭大賞受賞作)。エスメラルダ役は、中村美佳、西田佑子という歴代のプリマが演じてきた役どころです。『アンナ・カレーニナ』も含め、若くして演劇性の強い作品に挑めるのは得がたいこと。父や母はじめかつて主役を踊った団員やキャラクター・ダンスを得意とする団員(日本のバレエ団としては例外的とも言えるくらいにキャラクター・ダンスの水準が高い)が脇を固め、しっかり支えるという布陣あってこそです。老舗ならではの長年の伝統を踏まえ、そこに清新なエネルギーが注入される刺激的な舞台となりそう。珠里にとってプリマとして一層の飛躍を占う上での試金石となりますが、近頃大役を重ねて踊り経験を積んでいること、大舞台に強いことからして成功が望めるはず。日本バレエの次代を担うホープたる彼女の快進撃はまだ始まったばかりです。(敬称略)

今後の出演舞台予定

法村友井バレエ団『エスメラルダ』

2009年11月5日(木)18:30/大阪厚生年金会館大ホール

※【主役】エスメラルダ役(共演:ワディム・ソロマハ)

2009-10-07

[]vol.2 伊藤友季子(牧阿佐美バレヱ団)

日本バレエ界きっての超名門大手・牧阿佐美バレヱ団の若きプリマとして活躍をみせるのが伊藤友季子(いとう ゆきこ)です。イギリスにて5歳からバレエを始め、帰国して橘バレヱ学校入学。同時に第22期AMステューデンツに選抜されています。新国立劇場バレエ研修所第1期生研修生となり、2003年同研修所を修了。橘バレヱ学校も卒業し牧阿佐美バレヱ団に入団します。2004年10月には『リーズの結婚』主役に抜擢され、以後、同バレエ団を代表するダンサーとして注目されてきました。華奢な身体を誇り、美しいラインの映える新鋭です。チャイコフスキー三大バレエを中心に全幕主演を重ねるほか、プリセツキー/牧版『ロメオとジュリエット』では、悲劇のヒロイン、ジュリエットを哀切に演じて涙を誘いました。2007年には橘秋子賞スワン新人賞を受賞。

伊藤の魅力としてまず指摘できるのは抜群の音楽性です。音楽にあわせて踊るのではなく、身体を楽器のように用いて音楽を奏でるかのように踊る。まさに歌う身体を持った稀有な才能の持ち主。一音一音を無駄にすることなくフレーズを大切にしつつ優れた音楽解釈を行います。新国立劇場バレエ研修所修了公演で踊った際の自作ソロでは、早くも抜きん出た音楽センスを発揮し、玄人筋や熱心なバレエ・ファンの間において、もはや伝説となっているほど。古典作品でもその資質を発揮していますが、現代作品、ことにダラー振付『コンスタンチア』、三谷恭三の佳作『ガーシュウィンズ・ドリーム』、さらには小島章司フラメンコ『ロマンセ』客演等における、音楽性に富み洗練された踊りは忘れられません。恐縮ですが以下、拙評を引用しておきます。

次代を担うSTARLETたちの魅力が弾けたのが公演の棹尾を飾る『ガーシュウィンズ・ドリーム』(初演:一九九七年)。「サマータイム」ほかガーシュウィンの名曲にのせ若い男女の恋模様を明るくお洒落に描く。ここでは大器として注目される伊藤友季子の稀有な音楽性を堪能できた。赤のロングドレスに身を包み、粋に、艶やかに踊る。上半身を伸びやかに、脚先を滑らかに用い身体そのものから流麗に音楽を奏でるかのよう。そこはかとなく漂う詩情もいい。

「ダンス・ヴァンテアン11」評 /オン・ステージ新聞 2007年11月16日号より抜粋

また、マイムを中心とした演技の巧みさにおいても、わが国の若手プリマのなかでは一頭地を抜く存在といえるのでは。その好例といえるのが『リーズの結婚』のリーズ役です。今年3月、英国ロイヤル・バレエのイヴァン・プトロフと共演した際の伊藤の演技には、作為めいたものはいささかも感じられず、ナチュラルさが際立っていました。マイムが板につかない日本人ダンサーのなかにおいて例外といえます。今夏初めて挑んだ『ジゼル』のタイトルロールにおいても、第一幕が特に絶品。初役とは思えぬ落ちついた舞台さばきが光り、マイムもこなれドラマティックな演技を披露しました。

音楽性・演技力に秀でているのに加え、少なからぬ人が伊藤の舞台に深く魅了されるのは、踊り心に富んだ詩的な表現力にあるように思います。とにもかくにも踊りが流麗。パとパの流れがスムースに流れるようであり、構築的なダンスというよりも淀みなくサッと舞い上げる感じの踊りに特に才能を発揮します。前記した現代作品や『ドン・キホーテ』街の踊り子&キトリの友人等でみせた、サラっと清流のように淀みなく踊り上げる舞踊センスには、観ていて快感を覚えたほど。ある評論家の方が伊藤を“舞い上手”と評しましたが同感です。無論、その詩的で流麗なダンス表現に関しては、最初に挙げた高度な音楽性と分かち難く結びついていることはいうまでもないでしょう。

近年、牧バレエ団では、旧来上演してきた古典全幕を総監督・三谷恭三が新たに改定演出・振付する作業を進めています。昨秋の『ライモンダ』、今年夏の『ジゼル』、そして今秋上演される『白鳥の湖』。一昨年、創立50周年記念公演シリーズを終えたあとの公演展開をみると、古典の王道を行くプログラムをしっかり上演し、若い踊り手を育て団を活性化する三谷の揺るぎない方針が見て取れましょう。その中核を同世代の逸材・青山季可とともに担うのが伊藤であり、期待に応える好演をみせています。今後、古典作品での揺るぎない評価を確立しつつ、同バレエ団の誇る貴重なレパートリー――プティをはじめバランシン、アシュトン、ドゥアトらの現代作品においての活躍も楽しみにしたいところ。無限の可能性を秘めたプリマとして今後も動向が注目されます。(敬称略)

表紙を飾った「ダンスマガジン」↓


DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2007年 09月号 [雑誌]

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2007年 09月号 [雑誌]

関連LINK

牧阿佐美バレヱ団公式ホームページ

http://www.ambt.jp/

今後の出演舞台予定

牧阿佐美バレヱ団『白鳥の湖』全幕

2009年10月24日(土)14:30、25日(日)14:30/ゆうぽうとホール

【主役】オデット/オディール(24日) 王子役:逸見智彦

牧阿佐美バレヱ団・藤沢公演『白鳥の湖』全幕

2009年11月28日(土)15:00/藤沢市民会館大ホール

【主役】オデット/オディール役 王子役:菊地研

牧阿佐美バレヱ団『くるみ割り人形』全幕

2009年12月11日(金)19:00、12日(土)14:00&18:30、13日(日)14:00/ゆうぽうとホール

【主役】金平糖の精(20日) 王子役:京當侑一籠 雪の女王:青山季可

2009-09-20

[]Vol.1 瀬島五月(貞松・浜田バレエ団)

今回ご紹介する瀬島五月(せじま さつき)は、関西を中心に大活躍しているプリマ・バレリーナ。クラシック・バレエからコンテンポラリーと、幅のある踊りと演技を魅せ、抜群のオーラを放っています。また、自作の創作作品にも才を発揮するなど注目の存在。

瀬島は7歳から神戸の貞松・浜田バレエ学園にてバレエを始めました。決して早いスタートとはいえないかもしれませんが、ジュニア時代から早々と頭角を表し、1998年には、全日本バレエコンクール・ジュニアの部にて第1位を獲得。翌年には、アジア・パシフィック国際バレエコンクール・シニアの部第1位も受賞しています。名門・英国ロイヤル・バレエ・スクール推薦留学を経て、2001年にロイヤル・ニュージーランド・バレエ団に入団、以後、主役級や主なソリスト役を踊りました。2003年に夫君のアンドリュー・エルフィンストンを伴って日本に帰国し、夫妻で古巣の貞松・浜田バレエ団に入団。以後、同バレエ団の看板ダンサーのひとりとして華々しい活躍をみせています。

瀬島の魅力としてまず触れておきたいのが、多彩な表情ぶりについて。『白鳥の湖』オデットでみせた楚々とした風情のなか屹立する強い意思、『くるみ割り人形』金平糖での舞台を締める圧倒的な磁力に満ちたオーラ、『ドン・キホーテ』街の踊り子における溢れんばかりの華々しさ、ジョージ・バランシン振付『セレナーデ』での心に染み入るかのような抒情、オハッド・ナハリン振付『DANCE』(東京でも公演)で大道芸人よろしく観客を惹き込む15分に及ぶ自在な即興ソロ……。作品・役柄によって、この踊り手には、こういう貌があったのか・・・と驚かされ、さらなる挑戦と進化を見守りたくなる――これこそ、スター・ダンサーたる条件の重要要素のひとつではないでしょうか。

その多彩な踊りと演技を支えるのが、アカデミックな役作りや魅せ方の上手さです。日本の中堅・若手プリマのなかで、振付の意味を考え、どう魅せるか、を誰よりも考えて踊っていると私が感じるのが瀬島です。古典にしろバランシンにしろ、パと音楽が緻密かつ有機的に組み立てられ構成されているという点は変わりません。振付を体に入れ、咀嚼するのはまず基本。とはいえ、作品が、振付が輝くのには、踊り手が自分なりのニュアンスを付けなければなりません。瀬島の踊りには、音楽性、ラインの魅せ方、腕の使い方、表情の付け方はもとより、メイク等の工夫といった面にまで意識が行き届き、幅広い視野から作品・役柄に挑んでいることが実感できます。アカデミックな探究に裏打ちされた、自己主張・意志のある踊りのできる、わが国では数少ない存在のひとり。コンクール受賞歴も華麗ですが、何よりも舞台で輝くのが末頼もしい。

そして、そういった緻密な役作りの上を行いつつも、計算があまり透けて見えないのは、天性ともいえる踊り心の持ち主だからでしょう。『くるみ割り人形』ゼリー、さらには山崎敬子振付『Do You Like The Piano ?』、貞松正一郎振付『ラグタイム』等では弾ける様な陽気さをみせて観る者の胸を躍らせますし、『白鳥の湖』オデットのようなドラマティックな役でも一挙手一投足が淀みなく折り重なって痛切にドラマを語ります。今後より多くの役柄に挑み、舞台経験を重ねていくに従って表現力が深まり、踊り心も磨かれ、一層魅力的な演技を魅せてくれるのでは、と期待したいところ。

今秋は出演舞台が続きます。9月末には『ジゼル』全幕に初主演。2006年に2幕パ・ド・ドゥのみ踊っていますが、そのときと同じくエルフィンストンとの共演になります。ドラマティックな資質が大きく開花するのを楽しみに。10月の「創作リサイタル21」では、バランシン振付『セレナーデ』に主演するほか、イリ・キリアンの日本初演作『6 DANCES』にも出演。現代作品において、その多彩さを発揮してくれるでしょう。12月には『くるみ割り人形』に主演、金平糖の精を踊ります。また、10月には、北海道において「櫻の園」というイベントに参加、自作等を踊るとか。手垢に塗れた言葉ですが、いま、もっとも見逃せない踊り手のひとり。その動向にますます注目が集るに違いありません。(敬称略)

表紙を飾りインタビュー掲載の「クロワゼ」↓

Croise (クロワゼ) Vol.30 2008年 04月号 [雑誌]

Croise (クロワゼ) Vol.30 2008年 04月号 [雑誌]

関連LINK

瀬島五月 公式ホームページ

http://ssatsuki.hp.infoseek.co.jp/

貞松・浜田バレエ団 公式ホームページ

http://www.sadamatsu-hamada.com/

今後の出演舞台予定

貞松・浜田バレエ団:特別公演『ジゼル』全幕

平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業)

2009年9月27日(日)17:00開演/尼崎・アルカイックホール

【主演】ジゼル役

貞松・浜田バレエ団:特別公演「創作リサイタル21」

平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業)

平成21年度文化庁芸術祭参加

2009年10月10日(土)18:30開演/神戸文化中ホール

【主演】『セレナーデ』のほか『6 DANCES』に出演

「櫻の園 vol.3 秋櫻〜Von〜」

2009年10月17日(土)19:00&10月18日(日)13:30開演/札幌市教育文化会館 小ホール

http://www.ac.auone-net.jp/~sakura-r/

貞松・浜田バレエ団:特別公演『くるみ割り人形』

平成21年度文化芸術振興費補助金(芸術創造活動特別推進事業・20日のみ)

2009年12月19日(土)18:30(お菓子の国バージョン)、19日(日)15:30(お伽の国バージョン)/神戸文化大ホール

【主演】お伽の国の女王(20日)