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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2010-07-16

[]大島早紀子演出・振付 東京二期会オペラ劇場 ベルリオーズ『ファウストの劫罰』

東京二期会オペラ劇場が東京二期会/東京フィル ベルリオーズ・プロジェクト 2010の一環としてエクトール・ベルリオーズ作曲『ファウストの劫罰』を上演した(初日観劇)。これは「4部からなる劇的物語」と題されたもので、ドイツの文豪ゲーテの「ファウスト」に基づいたベルリオーズの代表作。しかし、ドラマの展開が断片的といわれることもあって舞台上演は希少なことで知られる。日本では1999年にサイトウ・キネン・フェスティバルにて指揮:小澤征爾、演出:ロベール・ルパージュで上演され話題になっているが、今回は指揮にフランス音楽の第一人者と目されるミシェル・プラッソン、演出・振付にダンスカンパニーH・アール・カオスを主宰する大島早紀子という布陣だ。二期会と大島がタッグを組むのは2007年のシュトラウス『ダフネ』以来2度目のことである。

生への欲望から悪魔メフィストフェレスに魂を売った老人ファウストの悲劇――。大島はそこに現実と仮想が錯綜し、ヴァーチャルな世界で生の実感を得難い現代における身体性の喪失を重ね合わせる。これは、近年の大島の一連の仕事の延長にあるといっていい。2004年のH・アール・カオス公演『人工楽園』や2008年の愛知芸術文化センター制作によるダンスオペラ『神曲』などは、同様といっていい主題を扱ってきた。ことに後者は『ファウストの劫罰』と同じ原作者による「神曲」をモチーフとしたもので、時空を超えた空間で展開されるエロスとタナトスをめぐるドラマという点でも相似形を成す(『神曲』に関しては当時、美術誌に依頼されて評を書いた)。『ファウストの劫罰』は、これ以上ない最適の演出家の手に委ねられたいっていいだろう。実際、視覚的な美しさに定評ある大島演出であるが、今回はより哲学性の深い「読み」のある演出が光った。

大島のミューズ白河直子をはじめとしたH・アール・カオスのダンサーたちは例のごとく数々の象徴的なイメージを鮮やかに体現する。専売特許ともいえる華麗なるワイヤー・ダンスは今回も健在だ。しかし、これまでのダンスオペラや『ダフネ』上演のときとダンスの魅せ方は違ったように感じた。これまでは、命を燃やし尽くすかのような燃焼度の高いダンスが表象すべきイメージを超えてしまう印象も。それはそれで大変に魅力的であったが、構成や演出のバランスからすればやや過剰に思える印象もあった。今回は、ワイヤー・ダンスにしても床や階段を使ったダンスにしても最初は抑制された用いられ方をしている。終盤の山場でも多彩なダンスが展開されるが、音楽や歌・合唱それに照明と相まって劇的高揚を最大限引き出すための要素として効果的にダンスを配している。足し算でなく掛け算。大島の演出家としての懐の深さが広がった。オペラは趣味で見るだけなので門外漢だが、オーケストラ、歌手・ソリスト陣の水準も高いと感じた。沢田祐二の照明も陰影深くそれでいて随所に色気があってハッとさせられる。管弦楽と歌・合唱とダンスが高い次元で融合し、美術・照明等の諸要素も充実して、美的にも強度の高い作品に仕上がっていたのは喜ばしい。終幕に得られる圧倒的なカタルシスのすばらしさにはただただ圧倒されるばかりだ。

今日、オペラ演出には、映画監督や演劇の演出家をはじめ音楽畑とは違う異分野の演出家が参入している。ダンス畑でも今は亡きモーリス・ベジャールやピナ・バウシュにはじまり、トリシャ・ブラウン、天児牛大、勅使川原三郎、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ジョゼ&ドミニク・モンタルヴォらの仕事が知られる。大島と二期会のコラボレーションもこれらの系譜のなかにおいて特筆されるべきものであろう。二期会では映画監督の故・実相寺昭雄やミュージカル畑の宮本亜門、小劇場演劇出身の白井晃ら異分野の異才を演出に起用してオペラ上演を行っており、実相寺の『カルメン』や宮本の『フィガロの結婚』等は観たことがある。今回の『ファウストの劫罰』に接して、わが国の誇る多才な演出家を活かし、歌手・合唱陣は常に日本人オンリーで、実験的かつ質の高い上演を続ける二期会の活動の充実ぶりをあらためて実感させられた。


2008-11-20

[]NISSAY OPERA2008・東京二期会オペラ劇場『マクロプロス家の事』

平成20年度文化庁芸術創造活動重点支援事業

東京二期会オペラ劇場『マクロプロス家の事』

NISSAY OPERA2008 日生劇場/東京二期会オペラ劇場主催

オペラ全3幕、字幕付原語(チェコ語)上演

作曲・台本:レオシュ・ヤナーチェク(カレル・チャペックの同名の戯曲より) 

指揮:クリスティアン・アルミンク

演出:鈴木敬介

管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

合唱:二期会合唱団

(2008年11月20日 日生劇場)

ヤナーチェクのオペラ『マクロプロス家の事』が日本初演された(ステージ形式では)。アリアのない珍しいスタイル。秘薬によって300年も若さを保つ女性を主人公に錯綜するドラマが展開される。最近は日本でもヤナーチェクオペラが上演されるようで、今夏は長野のサイトウキネンフェスティバルにて小澤征爾指揮『利口な女狐の物語』が上演されている。金森穣らコンテンポラリー・ダンスのダンサーも出演して話題を呼んだ。個人的にもヤナーチェクの音楽に関心があったこともあり今回の上演は楽しめた。

2007-10-18

[]ベルリン国立歌劇場『モーゼとアロン』

旧約聖書に登場するモーゼとアロンの物語に材を得たシェーンベルク未完のオペラ『モーゼとアロン』は、演奏の難しいこともあってか上演されることはごく稀である。日本での舞台上演は今回のベルリン国立歌劇場公演で2回目、なんと37年ぶり。

ベルリンでの初演に際しては2年の準備期間が費やされたという。巨匠ダニエル・バレンボイム雄渾の指揮によって不協和音の洪水がなんとも力強く、そして艶やかに奏でられる。絢爛たる、そして妖しいまでの魔性を秘めた響き。アロン役はテノール、モーゼ役の歌手は、歌唱と語りの中間的な表現「シュプレッヒシュティンメ」を用いる。声と言葉、歌唱と語りの対比。アロンとモーゼの宗教観をめぐる対立というテーマと表現手法の対比がリンクしている。

演出は鬼才ペーター・ムスバッハが手掛けた。大きな特徴は、偶像崇拝の象徴たる金の仔羊像の代わりに、金色に輝く首のない胴体の巨像を登場させた点。フセインら独裁者のそれを思わせる。民衆は、男女問わず黒のスーツ姿でサングラスをかけ、神なき暗闇では、ライトセイバーを思わせる光る杖をもってさまよう。偶像の前では信仰心をなくし騒ぎ乱れる。いつの時代も変わらぬ、民衆の愚かさ…。

魔的な魅力を誇る音楽に対し、舞台空間は色彩感に乏しく、やや殺風景ではある。第二幕、民衆が偶像にすがり酒池肉林を繰り広げる場では、狂喜乱舞の派手なアクションはみられない。第一幕の、アロンが民衆にみせる奇跡――モーゼの杖を蛇に代え、病人を癒し、ナイル川の水を血に変える――も具体的なイメージは示されない。ここでは華美なスペクタクルは徹底して排される。声と語り、演奏の魅力を可能な限り際立たせる点にムスバッハの主眼はあると思う。

バレンボイムとムスバッハの出会いは、シェーンベルクの音楽の特性を最大限引き出す幸福なものとなった。

(2007年10月15日 東京文化会館)

2007-02-12

[]東京二期会『ダフネ』

東京二期会がR・シュトラウス後期の隠れた名作『ダフネ』を日本初演した。ギリシャの神々を題材にした、一幕の牧歌的悲劇である。指揮はシュトラウスを振らせれば右に出るものはいないと評される若杉弘。演出・振付はH・アール・カオス主宰の大島早紀子が手掛けた。ダンスは不世出の天才・白河直子はじめカオスの面々。

欧米では、コリオグラファーがオペラ演出を手掛けるのは珍しくない。トリシャ・ブラウンしかり、ケースマイケルしかり。日本人でも天児牛大、勅使川原三郎らが手掛けている。オペラ演出を手掛ければ振付家スゴロク(があれば)のアガリといえるのかな。とはいえ、オペラは第一に演奏・歌ありき。演出家はさまざまな制約のなかでいかに独自の色をだすのか難しいところだ。カオスお得意のワイヤーを駆使したスペクタクルは圧倒的であり、シュトラウスの甘美な音楽に拮抗しえていたと思う。流麗で力強い舞台。歌手にも大分動きをつけていたが、歌を聴かせる場はちゃんと心得ている。

歌唱・演奏とダンス、それぞれ魅力的であるがゆえ共振する場面では、何を聴き、何を観たらいいのか困惑してしまったのも事実。オペラは年に数えるほどしか観ないためすんなりとその世界に入り込めなかったという個人的事情もある。ダンスにしろ演劇にしろそのジャンルをある程度見慣れていないと舞台が発する気を受け止められないという一面はあると思う。さて、カーテンコールにおけるオペラ・ファンの反応はいかに?と興味深く眺めていたけれども総じて温かかった。各紙誌のレビューは音楽評論家が書くに違いないからその評価にも注目したい。一部ジャーナリストをのぞきダンス関係者の姿をほとんど見かけなかった。意外や意外。

(2007年2月10日 東京文化会館)

2006-11-08

[]オペラファンタスティーク『レ・パラダン-遍歴騎士』

オペラファンタスティーク『レ・パラダン』(04年初演)を観てきた。パリ・シャトレ座プロジェクトの最終公演。

ラモー作曲の3幕から成る喜歌劇&バレエだが、演出・振付のモンタルヴォ&エルヴュは元々のバレエシーン以外にも踊りを増やした。オペラというよりもほとんどダンスといっていい舞台。中世ベネチアが舞台だが、歌手、ダンサーは現代風のカジュアルな衣装。振付はバレエもあるけれどもヒップホップやコンテンポラリーの手法が中心だ。ヘッドスピンなんかも出てきてワケもなく楽しい。歌手も少し踊る。バロック・オペラにヒップホップという取り合わせは正直眉唾ものかと恐れていたが想像以上に面白い。それから映像。CG処理が巧みでダンサーの動きとシンクロさせて多層的な空間が生まれていた。演奏はウィリアム・クリスティ指揮、レザール・フロリサン。古楽演奏では世界一といわれるアンサンブルだ。歌手も一流なのだろう。ラモーの天上的な響きと、ポップで開放感あふれる演出の調和を楽しんだ。

実験性にとみエンターテインメントとしても楽しめる舞台。しかしかなりの空席で驚いた。オペラファンも有名歌手の出ている舞台や大歌劇場の引越し公演には駆けつけてもこの種の公演には来ないのか。バレエ、コンテンポラリー・ダンスファンに訴求する広告展開をしていたがその層も動かなかったようだ。チケットが高いからだろう。安い席はすぐに完売してしまう。S席はギエム×バレンボイム指揮シカゴ響より高い。ちょっと手が出ない。無論、価格設定は内容や制作内容からして妥当だとは思う。ちなみにこの舞台はDVDが出ている(ナマとは比べるべくもないだろうが…)。

(2006年11月5日 Bunkamuraオーチャードホール)