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ダンスの海へ 舞踊評論家・高橋森彦のblog このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2008-07-02

[]2008佐多達枝バレエ公演『庭園』

■日時:7月3日(木)19:30、4日(金)19:30

■会場:シアター1010(北千住駅西口徒歩0分)

■チケット:A:6,000円(指定席) B:4,000円(自由席)

■演出・振付:佐多達枝

■ダンサー:

足川欽也 穴吹 淳 石井竜一 後藤和雄 坂本登喜彦 武石光嗣 登坂太頼

遠藤綾野 奥田麻衣 宇山たわ 斎藤隆子 澤井貴美子 島田衣子

関口淳子 高部尚子 樋田佳美 永橋あゆみ 堀口聖楽

佐多・河内バレエスタジオ:

http://www.tarosha.com/ballet/

このblogではプレビューは書いてこなかったが、どうしても佐多達枝の『庭園』だけはひとりでも多くの人に観てほしいと思うので紹介させていただく。日本に(世界的に誇れる)有能な振付家はいない、とうそぶく識者も少なくないが、佐多だけは別格。主題、ムーブメントの造形、音楽性、演出力いずれとっても素晴しく、しかも年々その舞台は深化し、先鋭化している。外れも少ない。個人的には世界でも指折りの舞踊作家だと信じている。なかでも『庭園』は『ナギサカラ』と並ぶ傑作中の傑作。濃密なドラマが90分間ノンストップで繰り広げられる。ダンスが、身体が、ここまで人間の機微を、万物の深淵をえぐりだせるものなのかと、ただただ圧倒されざるを得ない。

文化果つる日本において、個人の振付家が定期的に高水準の創作を続けていくのは物理的、経済的にも相当の苦難があるはず。この国の舞踊界では佐多の凄さを理解している人は決して多いとはいえない(無論、良識ある批評家はちゃんと評価している)。なぜもっと注目されないのか義憤を感じる。だが、優れたダンサー、スタッフが何を差し置いても参集するのが救いだろう。佐多の人徳と創作に魅せられているからに違いないが、今回のキャストをみても一線級の、かつ引く手あまたの踊り手たちが揃う。バレエファンはもちろんのことコンテンポラリー・ダンスの公演に通うファンにも是非ひとりでも多く観てほしいと思う。そして、踊り手や振付をしている若いアーティストにとっても見逃せないものになるはず。

以下は2006年初演時に書いた感想を再掲しておきます。

http://d.hatena.ne.jp/dance300/07017330

読み直すと雑感にもなっていないような稚拙でお恥ずかし限りのものですが、興奮ぶりは伝わってくると思うのであえて載せます(ちなみに、佐多・河内スタジオのHPには大御所・著名批評家各氏による初演時の公演評や紹介文が出ている)。

凄い作品に出会ってしまった。


佐多達枝の『庭園』である。公演終了後、数日、虚脱状態というか、打ちのめされるくらいの衝撃だ。本年度ベスト1は確定、といっていい。世界的にみても極めてハイレベルだといえるのではないか。

佐多は大ベテラン。新国立劇場が上演した『踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ』、合唱舞踊劇『カルミナ・ブラーナ』などで知られる。功なり名を遂げた人に思われるが、もっともっと注目されていい。というか、評価が低すぎる。『beach〜ナギサカラ』以降の作品は、舞踊によるエセーの試みだ。エセーといっても雑文だとか軽いタッチという意味ではない。個人の視点からみた人間・社会の考察という意味である。透徹した視線、強靭かつ自在な動きの創り方、たぐい稀な音楽性。いずれとっても傑出しており、未踏といっていい境地に達している。

十三景から構成される。舞台は鬱蒼たる蔦の垂れ下がった庭園。いくつも印象的な場面がある。「光合成」における静謐な、あまりに静謐なソロ。「埋葬」と題された景は、スコップで穴を掘り、男を埋めようとする女をめぐる、ゾッとするような話。「ロマンチスト」は女一人男二人の典型的な三角関係だが生々しい。「湖水」という景では、壊れゆく家庭のありさまが描き出される。不気味な虫たちが地の底から現れ、うごめくシーケンスも…。一つ一つの場面が緻密かつ異なる質感を持ち、リンクする。生きとしいけるものの流転を容赦なく、しかし声高にならずに描き出した。

哲学性の高さというと、ベジャールやノイマイヤーを想起するが、彼らのように(ひとくくりにできないが)壮大でコスモロジカルな世界観とは違う。あくまで個人の実感からスタートしているのが佐多の特徴。動きに関しても、基本はバレエなのだが、ちょっと観たことのない動き、空間の創り方がある(企業機密なので書かないが)。音楽も、「アメリ」の映画音楽はさておいてアンゲロプロス映画の音楽で知られるエレニ・カレインドルーの曲を用い、荘厳な雰囲気を出している。安易にペルトなど使わないのはさすがである。

今回はとくに照明が傑出していた。足立恒はいつもいい仕事をする。先日みたKバレエの『ジゼル』第ニ幕のあかりなども独創的だが、それは、今回のための実験だったのでは?と勘ぐりたくなるくらい。日本のバレエでここまで独創的かつ綿密なプランが立てられた(と思われる)ものはそうそうお目にかかれない。


ダンサーも柳瀬真澄、高部尚子、島田衣子、足川欣也、穴吹淳、石井竜一、後藤和雄ら超一流どころが揃った。


本年観たすべての舞踊作品のなかでもトップ。安易に比較できないが、キリアン、フォーサイスの新作もそれぞれ独自の境地に達しているし、ドゥアトの振付もよかったが、それらをはるかに上回る。日本には国際競争力を持つ振付家がいない、などとのたまわっている御仁は佐多をみたことがないのだろうか。少なくともそれなりに多くの舞台を観て、舞踊に関する知識もある人間で本作の凄さがわからないのであれば、理解に苦しむ。そういいきれるくらいの傑作だ。ただ、残念なのは、再演される可能性が少ないと思われること。なんとかならないものか。

(2006年9月27日 メルパルクホール)