U研輪読:Genetic diversity of Daphnia magna populations enhances resistance to parasites*1
寄生者のホストへの感染率は、ホストの遺伝的多様性が高いと低下する、ホストの遺伝的多様性が低いと上昇するという現象が知られている。この効果をmonoculture effectという。この効果は、主に農業の分野で、作物とその寄生者との間の関係で調べられてきた。今回は、これを動物のシンプルな系で、この現象が見られるかどうかを調べた。
結果、monoculture effectは見られた。感染Daphniaの競争能力が低下することで、この現象が見られるらしいことがわかった。
この論文は発表を聞いててすごく面白かったです。実験デザインもすごくエレガントで、仮説の証明を少ない手間で行おうとしてて、すごいなぁと思った。こういう研究したいなぁ。
- これまでのmonoculture effectを確かめた研究
- この研究の新しさと重要性=Daphniaには、社会性も空間構造もない。:Daphniaには空間構造はないし、社会性もない。空間構造のないDaphniaでmonoculture effectが見られるのか?見られるとしたらどういうメカニズムか?を明らかにすることは、社会性のない動物一般でのmonoculture effectを明らかにする上で、とても重要。
- 仮説:ホストの遺伝的多様性が高いとき、集団全体での感染率は低下する。メカニズムは、パラサイトに感染したDaphniaの競争能力(繁殖率とか)が落ちると、ホストの遺伝的多様性が高い集団では、落ちた系統だけが減って他の系統が増えるので全体の感染率が低い。ホストの遺伝的多様性が低い集団では、集団全体が全て感染するので、遺伝的多様性が高い集団に比べて感染率が高くなる。
- 実験材料
- ホスト:Daphnia magna なんちゃら:バルト海沿岸部の水溜りにいるミジンコ。水溜り毎に集団が分かれており、集団間での遺伝的分化は大きく、集団内では比較的均一。6プールから取ってきたメスを、一個体ずつクローンで増やして系統を作る。
- 寄生者:忘れた。。。単細胞の真核生物って言ってた気がする。
- 実験デザイン
- ホストの多様性が高いものと低いものの2パターン、寄生者の多様性が高いもの、低いもの、いないもの3パターンの2×3で計6処理
- 各処理5レプリケート
- ホストの多様性
- 高い処理:10系統のメスを10匹、合計100匹
- 低い処理:1系統のメスを100匹
- パラサイトの処理
- ある系統の感染したメス1匹を、何かで*2Daphniaだけを殺す。で、殺した後のパラサイトだけを水と一緒に加える。
- 多様性高い:感染したメスの系統が多い処理
- 多様性低い:感染したメスの系統が少ない処理
- 野外のタンクにホストとパラサイトを水と一緒に入れて、3年間(2005年の春から2007年の秋まで)放置する。3年の間にDaphniaはだいたい20〜30世代くらい。パラサイトも多分同じくらい。
- 垂直感染(母子伝播)は100%
- サンプリングは、1)感染の程度、2)Daphniaの密度、3)Daphniaの遺伝的多様性(酵素多型で調べた。)
- 結果
- 2005年の春から徐々に感染率は上昇する。
- ホストの多様性が高い方が、感染率は有意に低かった。monoculture effectが見られた。
- ホストの多様性とホストの密度の間には関係が無かった。*3
- ホストの密度とパラサイトの感染の程度の間には負の相関があった。
- 3年間、ホストの多様性の高さ、低さは維持された。
- ホストの多様性による感染の低下は20%程度。植物では90%見られることもあり。
- 最終的には、どの集団のDaphniaも100%に近く感染された。これは、寄生者の進化のスピードがはやいから。