daphnia_magnaのメモ帳

2008-10-03

[]U研輪読:Genetic diversity of Daphnia magna populations enhances resistance to parasites*1

 寄生者のホストへの感染率は、ホストの遺伝的多様性が高いと低下する、ホストの遺伝的多様性が低いと上昇するという現象が知られている。この効果をmonoculture effectという。この効果は、主に農業の分野で、作物とその寄生者との間の関係で調べられてきた。今回は、これを動物のシンプルな系で、この現象が見られるかどうかを調べた。

 結果、monoculture effectは見られた。感染Daphniaの競争能力が低下することで、この現象が見られるらしいことがわかった。


 この論文は発表を聞いててすごく面白かったです。実験デザインもすごくエレガントで、仮説の証明を少ない手間で行おうとしてて、すごいなぁと思った。こういう研究したいなぁ。


  1. これまでのmonoculture effectを確かめた研究
    • 植物:monoculture effectのメカニズムは、植物ではいろいろ調べられている。メカニズムの基本となるのは、「感染個体のとなりに完全耐性(絶対感染しない個体)が存在すると、寄生者の並行伝播が妨げられる。」というアイディア。「あるgenotypeを持つホストに寄生できる寄生者は別のgenotypeを持つホストには寄生できない」という仮定があれば、ホストの遺伝的多様性が高ければ高いほど、同じgenotypeを持つホストが隣同士になる確率が下がるので、ホスト全体に対する寄生者感染確率が低下するということになる。
    • アリ:社会性昆虫である。*2
  2. この研究の新しさと重要性=Daphniaには、社会性も空間構造もない。:Daphniaには空間構造はないし、社会性もない。空間構造のないDaphniaでmonoculture effectが見られるのか?見られるとしたらどういうメカニズムか?を明らかにすることは、社会性のない動物一般でのmonoculture effectを明らかにする上で、とても重要。
  3. 仮説:ホストの遺伝的多様性が高いとき、集団全体での感染率は低下する。メカニズムは、パラサイト感染したDaphniaの競争能力(繁殖率とか)が落ちると、ホストの遺伝的多様性が高い集団では、落ちた系統だけが減って他の系統が増えるので全体の感染率が低い。ホストの遺伝的多様性が低い集団では、集団全体が全て感染するので、遺伝的多様性が高い集団に比べて感染率が高くなる。
  4. 実験材料
    • ホスト:Daphnia magna なんちゃら:バルト海沿岸部の水溜りにいるミジンコ。水溜り毎に集団が分かれており、集団間での遺伝的分化は大きく、集団内では比較的均一。6プールから取ってきたメスを、一個体ずつクローンで増やして系統を作る。
    • 寄生者:忘れた。。。単細胞の真核生物って言ってた気がする。
  5. 実験デザイン
    • ホストの多様性が高いものと低いものの2パターン、寄生者の多様性が高いもの、低いもの、いないもの3パターンの2×3で計6処理
    • 各処理5レプリケート
    • ホストの多様性
      • 高い処理:10系統のメスを10匹、合計100匹
      • 低い処理:1系統のメスを100匹
    • パラサイトの処理
      • ある系統の感染したメス1匹を、何かで*3Daphniaだけを殺す。で、殺した後のパラサイトだけを水と一緒に加える。
      • 多様性高い:感染したメスの系統が多い処理
      • 多様性低い:感染したメスの系統が少ない処理
    • 野外のタンクにホストとパラサイトを水と一緒に入れて、3年間(2005年の春から2007年の秋まで)放置する。3年の間にDaphniaはだいたい20〜30世代くらい。パラサイトも多分同じくらい。
    • 垂直感染(母子伝播)は100%
    • サンプリングは、1)感染の程度、2)Daphniaの密度、3)Daphniaの遺伝的多様性(酵素多型で調べた。)
  6. 結果
    • 2005年の春から徐々に感染率は上昇する。
    • ホストの多様性が高い方が、感染率は有意に低かった。monoculture effectが見られた。
    • ホストの多様性とホストの密度の間には関係が無かった。*4
    • ホストの密度とパラサイト感染の程度の間には負の相関があった。
    • 3年間、ホストの多様性の高さ、低さは維持された。
    • ホストの多様性による感染の低下は20%程度。植物では90%見られることもあり。
    • 最終的には、どの集団のDaphniaも100%に近く感染された。これは、寄生者の進化のスピードがはやいから。

*1:Ecology Letters 11:9 p918-928 doi:10.1111/j.1461-0248.2008.01203.x

*2:こっちのメカニズムについては質問しそびれた。

*3:処理は忘れた

*4:ちょっと仮説と違う。ホストの多様性と密度に正の傾向はみられるけど有意差は出なかった。残念

2007-12-22

[]メタル君(B4)の研究計画発表

 いろんな意味で面白い発表でした(笑)。あまりに面白かったので、メモしておこうと思います。


 まず、第一声が「最初に言っときますけどー」。。。セミナー聞いてもらうのにそれが最初はないだろう(笑)いや、本人はいたって好人物なんですが、何しろ初めての研究計画発表なので色々とソソウしているわけです。


 で、それに続く言葉が、「これは研究計画発表というよりは、むしろ苦悩の告白です。」(爆笑)もう、色んなところで間違っている!発表じゃないってなんだ?!そもそも苦悩の告白でない研究計画発表なんてあるのか?!とか、イロイロな所につっこみたい。


 駄目押しに、「分かりにくいところは心の目で見てください」。。。もう無理です。面白すぎる。心の目って。。。とまぁ、こんな風にメタル君は計り知れない才能を持っているわけです。


 他にも、正規分布の曲線がいかにもマウスで書いたへろへろの線だったり、とにかく楽しい発表でした。計画自体はまだしっかり仮説があるような段階ではないですが、考えを伝えることに恐れがないので、着眼点が伝わってきたような感じでした。私もこういう発表をしたいです。

2007-12-18

[]望月先生の研究発表について

 私の勘違いでした。後半の内容は論文になっているらしい。というか、In pressらしいです。研究室のメタル君が教えてくれました。ありがとう。JTBだそうです。とにかくすごーく面白い触発されるアイディアなので、興味がある方は読んでみてください。

2007-12-12

[]望月先生のセミナー

 を聞きました。色々とアイディアが満載で触発されるようなセミナーでした。前半は、シアノバクテリアの体内時計のお話で、後半は細胞分化の定常状態を決める遺伝子を沢山の遺伝子の中から絞り込むという話でした。すごくおもしろかった。

 シアノバクテリアは、光合成に関するタンパク質合成のタイミングを決めるために、体内時計を使っているらしいです。*1そのタイミングを決めるたんぱく質が3つあるらしいのですが、最終的に光合成用たんぱく質の合成を決めるたんぱく質(A)の量は、時間的に振動していないと時計になりません*2。で、3つのたんぱく質の量をその遺伝子の発現などの相互作用を考慮して、Aたんぱく質の量の時間変化を微分方程式で記述すると、3つだけではどうしても振動は得られないということが分かったのだそうです。そこで、他のなにか分かっていない状態があるということで、色々調べてみると、Aたんぱく質を作る前の段階に、もう一つ別の物質が作用しているはずだということが予測されたらしいです。この話のすごいところは、その物質が最終的に実際に発見されたというところでした。


 後半の話は、なんとなくまだ論文になっていなそうなので、ここではあまり詳しくは書けないですが、「沢山の要素と沢山の結果が考えられるときに、ありえない状況を排除してから考える。そこから色々な予測をする」というお話が、とても面白かったです。


後半のお話では、前提として遺伝子発現の定常状態を求めていて、遺伝子発現の定常状態って何を意味するのだろうとすごく気になったのですが*3、それもパスタ皇子と発生のTさんの発言や質問と望月さんのお答えですこし分かったような気がしました。

 数学科のT先生がおっしゃっていたのですが、微分方程式の定常状態を求めるということが非常に重要視されてきたけども、定常状態の意味は系によって違っていて、定常状態を求めればそれでO.K.ということではないとのことです。本当にそのとおりだなぁと思います。いつ定常状態に達するのか、定常状態に必要なものはなんなのか、定常状態にいたるまでのトリガーは何なのか、定常状態以外の状態は本当に重要でないのかということが、生物の研究にはとても重要なような気がします。


 もう一つ面白いと思ったことを。定常状態の数がいくつあるか、ということは、ネットワークの要素の数やリンクの数にはあまり影響されなくて、ループの数*4とその関係が重要だというふうにおっしゃっていました。これは、生態系の安定性の研究にも重要なのかも、と思いました。というのも、最近生態系の安定性の研究にbistabilityの問題*5が注目されていて、そのことととても関係があると思うのです。生態系ネットワークの場合、負の自己フィードバックループは普通にみられるかもしれないけれど、それ以外のループ構造というのは古典的な理論で一番の批判対象になった部分だと思うのです。そう考えると、ネットワークの定常状態の数の増加にループ構造が不可欠だとして(実際には他にもあるかもしれませんが)、それが生態系では実現しないなら、定常状態の数を考えるのはそれほど重要ではなくて、少ない定常状態がどれくらい安定的なのか、ということを考えていくことが重要なのではないかなぁと思ったのです。そういえば、以前にU研輪読で聞いた、生態系の安定性の定義と多様性-安定性問題についてのScienceのレビュー論文では*6、定常状態の数は多様性が上がる毎に減ってくるということが述べられていましたし、安定性の指標として特に定常状態が一つのときにどうなるのかということをとても重要視して話が進められていた気がするなぁと思ってみたりするわけです。

*1:お日様が出るまえに、光合成のたんぱく質を作って準備するためには、24時間周期の体内時計が必要らしい。

*2:そのたんぱく質の量が多いときに、光合成のたんぱく質を作るスイッチがオンになる感じ。

*3:私が振動をテーマに扱っているからかもしれないですが

*4:要素Aにフィードバックがある、とか、要素AとBが互いに相互作用をしあうなど。

*5:どれくらい定常状態を持つのか、定常状態が複数ある場合にどう移り変わるかとか

*6:後から、K研の輪読で同じものを自分とG子さんとで発表したのですが、まとめ記事を書いてなかったなぁ。失敗。

2007-05-31

[]U研論文読み会LAND USE, PRIMARY PRODUCTIVITY, AND LAKE AREA AS DESCRIPTORS OF ZOOPLANKTON DIVERSITY*1

 湖の動物プランクトンの種多様性に対して、集水域*2の土地利用率*3の高さがどう影響するのか、ということをメタアナリシスで調べた論文です。


 湖の動物プランクトンの種多様性は一次生産と一山形の関係があること、湖面積と正の関係があるということが知られているので、一次生産、湖面積、土地利用率の3つに対して、種数との関係を調べ、さらに、土地利用率が1%以下のものとそれ以上のものを分けて、同様の傾向を調べました。


 傾向としては、まず全ての湖において土地利用率と一次生産の間に正の相関があること、さらに、1%以上の土地利用率を持つ湖のなかで土地利用率と面積の間に正の相関があるのだそうです。そして、全ての湖では、面積と種数に正、一次生産と種数の間と土地利用率と種数の間に一山形の関係があるが、土地利用がされていない湖(1%以下)では、面積と種数の間の関係はなく、生産性と種数の関係にのみ正の相関(一山形ではない)が見られるらしいです。そして、土地利用率の高い湖では、面積と種数に正、一次生産と種数に有意ではないが負の傾向、土地利用率と種数の間に一山形の関係があるのだそうです。

 まず面白い結果として、土地利用率の低い湖では面積と種数の間に関係がなくなること、それと、全ての湖で一山形が見られた一次生産と種数の関係は、もしかすると土地利用率がされている湖とされていない湖で分けると全く違うパターンが見られる可能性があるということでした。


 正直言って何が面白いのかよくわからない論文でした。好みのタイプの研究なはずだけど、学術的にどんな意義があるのかが理解できなかったです。それとは別にいくつかのマメ知識を得ました(笑)。


新しい知識f:id:daphnia_magna:20070601073830p:image:right:small

  • 統計のお作法その1:独立変数の数は自由度の1/10くらいまでが目安。それ以上は駄目。何故駄目なのかはよく分からないですが、AICを使うときの目安かもしれません。
  • 統計のお作法その2:サンプル数が少ないときのAICはAIC_cというのがあり、-2ln(L)+2k(n/n-k-1)だそうです。L:最大尤度、k:パラメータ数、n:サンプル数
  • 統計のお作法その3:サンプルを検定にかける際にはサンプルが*4正規分布している必要があることがある。比率がデータの場合には正規分布に近づけるためにArcSin変換する。対数変換と似たようなものらしいです。
  • ArcSin変換したもののルートをとると、少なくとも0に近い値はデータはばらつきが大きくなる。図は、0から1を0.001刻みでy=sqrt(arcsin(x))の曲線をプロットしたものです。


 個人的には変数変換はあまり好きではありません。なんか無理やりな感じがして。

*1:Michael D. Hoffmann,a and Stanley I. Dodsona,Ecology: Vol. 86, No. 1, pp. 255–261.

*2:湖に流れ込む水がやってくる土地全てのこと。

*3:よく分からなかったですが、集水域の土地面積に対して人工的に使われている土地の面積の比を取ったものらしいです。宅地、工業地、田畑、道路などが含まれるらしいです

*4:母集団が?だっけ?