【「シネマハスラー」とミスリード】顛末記 ※追記あり完全版

今回はボクがTogetterで「『シネマハスラー』とミスリード」というまとめを作った話。

TBSラジオで放送中の「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル(以下タマフル)」に「シネマハスラー」という人気の映画評論コーナーがある。これが抜群に面白いんだが、先週12/4の放送に於いてtwitterの#utamaruタグ上では興味深い事が起こっていた。

この人(宇多丸)は映画見てて楽しいのだろうか?と思ってしまう
もう悪影響は酷いと思うから、ヤマト最後にハスラやめて欲しい。映画を楽しめる人間が減ると思う
自分でチョイスして、それを語ればいいだけ。。映画ってディテールを見るものじゃないんだよ。そのままを見ればいいんだよ。これを聞く人間が「ディテールばかり」を見ることになるかと思うと、悪影響でしかないよ

これはミューシャン(ミュージシャンでは無い)のYuh(ヤポンスコ)さん がシネマハスラー放送中にツイートしたもの。#utamaruタグをつけているおかげで多くのリスナーにも目に届き、あらゆる反論を受けていた。そこでYuhさんはこの件に関してのご自分のツイートをtogetterに「佐々木士郎へ」というタイトルでまとめた。ボクがこの話題を知ったのはこの「佐々木士郎へ」というまとめを見かけた時からだった。



【シネマハスラーについて】
よくダークサイド・1号という名前からtwitterでフォローされる事があるが、それはこの「シネマハスラー」が始まって一年くらいの間、毎週のように感想を送っていて、それが良くコーナー内で読まれていて名前に聴き覚えがあるからだと思う。タマフルは番組開始当初から好きで聴いていた。シネマハスラーが始まった頃はボクはうつ病を患っており休職していた。気分転換で友人から誘われて観に行った「カンフーくん」が飛びぬけて駄作で誰かにこの話をしたいと思っていた時にちょうどシネマハスラーで「カンフーくん」が取り上げられていた。そこで宇多丸さんが今までに聴いた事のないくらい的確かつ面白いように映画を解説してくれるのが心地よくて一発でハマった。
しかし番組も回を重ねるごとに不穏な空気が。もはや今では考えられないんだが、タマフルが秋には終わるような空気が流れていた。この面白い番組を終わらせるわけにはいかない、とボクはその週の課題映画を観に行き感想を書いて送るという形で参加するようになっていった。当時はtwitterもやっておらず、こんな形でしか番組に貢献できないと思っていたから。当時は本当にリスナーの感想メールが少なかったんだろう。毎週のように名前が読まれた。一緒に番組を盛り上げている気分だった。
毎週感想を送っていて読まれる事もあったが、正直宇多丸さんとボクの意見が合う事は少なかった。いつかのシネマハスラー年間ランキング第一位の「シークレット・サンシャイン」はボクの中ではワーストだった(これは自分のうつ病が関係しているからだけど)。ボクが面白いと思った「ドゥームズ・デイ」は番組ではボロクソ。「その代わりにこれを観ろ!」と宇多丸さんが推していた「第九地区」はボクにはピンと来ず。そんなのの繰り返し。でも別に映画に関しては感想が人それぞれだから別に気にしていなかった。
時は流れて番組も軌道に乗り、シネマハスラーはイベントや本まで出すほどの人気になった。同じ頃、ボクのうつ病も治り仕事に復帰。以前のように映画を観る時間を自由にとれなくなった。mixitwitterやここで映画の感想を書くようになってからは、既にどこかで書いた感想をまたラジオに送るという事も失礼な気がして前のように送りにくくなった。なによりもう「みんな大好きシネマハスラー」になったのだから役目はとりあえず終わっただろう、と自分で勝手に踏ん切りをつけてあんまり感想メールを送らなくなっていった。



【佐々木士郎へ】
時間を戻す。
12/4の放送を聴いたYuhさんが番組に思っている率直な意見を「佐々木士郎へ」という挑発的なタイトルでまとめたものを観た時は非常に興味深かった。内容はもうシネマハスラーの人気が出てきてからしょっちゅう言われている事。
「映画は人の意見を参考にしないでまっさらな気持ちで観るべき。」
ボクもそう思っている。映画に関してはもうタイトルとその映画の上映開始時間だけしか知らない状態で観に行っている。ただ、もう一つの意見
「このコーナーは悪影響を及ぼすからやめろ!」
というのは同意できない。自分の気に入らないものはこの世から無くす!という思想は今話題の「東京都青少年育成条例」にも繋がる危険があるものだと思うからだ。
しかし、その事を別にYuhさんになにか直接言おうとは思わなかった。人にはそれぞれ意見がある。YuhさんもTogetterにまとめるくらいの言いたいエネルギーがあったのだろう。それは一意見として理解した。
ボクが興味を持ったのはその「佐々木士郎へ」という意見のまとめ方だ。
このまとめはtwitter上でYuhさんともうお一人の方の会話をYuhさんの部分だけ抽出して作られたものだ。言わんとする事はわかるが、なにぶん片側の話しかないので非常にわかりにくい。もうお一人の意見を「隠蔽」しているようにも見える。
これを会話形式に戻したらどうなるだろう?という好奇心が湧いた。ボクが「『シネマハスラー』とミスリード」を作ろうと思ったのはこんなきっかけだ。



【Togetter】
Togetterというものはドキュメンタリーだと思っている。
誰か呟いた事(=事実)をまとめ主(=監督)が集積し、再構成して提示する。100%主観の世界。ある人を批判対象にする事も、今ある問題を共有させる事も可能。ただドキュメンタリーというものは作った者が作られた者に対して全責任を負わないといけないと思っている。だから迂闊に作れないと思い、読むだけにしていた。たまたま読んだ今回のYuhさんの「佐々木士郎へ」は自分の主義主張を言う為のもので、じゃあそれを違った角度から見たら別の景色が見えるのではないか?とふと思った。責任問題と好奇心では好奇心の方が強かった。だからYuhさんや他にまとめられた人に対しては誠心誠意対応しようと覚悟してまとめることにした。
実際にまとめてみると本当に恐ろしいものだった。ボクが興味を持ったところを赤字や青字にしたり文字のサイズを大きくしたりしたのだが、もしボクがYuhさんを【「タマフル」の悪口をいうこんな不届者がいる!】と思っていたら貶める事も簡単にできただろう。

だいたいアカウントをとらない佐々木士郎はヘタレ。仕方ないから、貴方宛に書くことになる

例えばYuhさんが呟いたこれを派手にデコレーションしていたら、恐らくYuhさんはボクの手で簡単に悪者に仕立て上げられたと思う。
自分のしたい事は違う。絶対にそうならないようにYuhさんの意見と他の方の意見のデコレーションは同じ数にした。極めて冷静に。面白いと自分が思うところだけに演出を加えた。



【実際作ってみて】
#utamaruタグをつけてまとめた事を伝えると、やがて多くの人の目に届いていった。反応はやっぱりYuhさんに対する反論。そりゃそうだ。そんなのYuhさんが「佐々木士郎へ」をまとめた時に言いたかった主題を変えてはいないのだから。Yuhさんが宇多丸クラスタに異議を唱えている以上、当たり前のリアクション。
ボクが言いたかったのは「同じ内容でもまとめる人が違うと全く違った印象になる」という事。その点に反応される方がいなかったのはしょうがない。やはりYuhさんの異議が刺激的だったからだろう。でもYuhさんの異議がより多くの宇多丸クラスタに届いたのは良い事だと思っている。
しかし、こうまとめてみて一番がっかりしたのは「晒してみんなで叩いている」といった表面しか見ていないコメントを見かけた事。表面しか見ずにそうコメントしてしまうって事こそ「シネマハスラー」を聴いて作品を理解した気になり、観てもいないのにその作品を揶揄するという、【今「シネマハスラー」というコーナーが持つ一番の問題】と同じ事であり、Yuhさんが危惧している【悪影響】の事だ。それに誰だってこの誰でも見る事が出来るtwitterという場所で呟いてる時点でみんな自分を「晒している」。独り言が存在しない世界。プロレス的に言うと「吐いた唾飲み込むなよ!」って事だ。



【本人からの反応】
作ったは良いがアップしてしばらくは緊張していた。なにしろ相手は「佐々木士郎へ」なんて挑発的なタイトルをつけて煽るタイプの方だ。恐らくボロクソに言われるかもしれない。覚悟はしていたが本当に怖かった。
少し経つとyuhさんご本人から反応があった。

どーでもいいとこ文字デカくすんじゃねーよ! RT @dark_side_01: Togetherで【「シネマハスラー」とミスリード】というものをまとめてみました。 http://togetter.com/li/75922 #utamaru

宇多丸君が「サイタマノラッパー」の良さを理解出来てない部分はスルーでつか? RT @dark_side_01: Togetherで【「シネマハスラー」とミスリード】というものをまとめてみました。 http://togetter.com/li/75922 #utamaru


この2つだ。何度も書くが本当に怖かった。とりあえず冷静に自分のこのまとめの制作意図を伝えた。

@yusukeskinjp 「どーでもいいとこ」じゃないですよ。お2人のやり取りを拝見して、「ボクが」面白いと思ったところに色をつけたりデカくしたんです。主観でやらせで恣意的です。「映画の見方など知らずに見れば一番楽しめるのです」っていうご意見、その通りだと思います。

@yusukeskinjp 「サイタマノラッパー」云々の話はあまり心に引っかからなかったのでスルーしました。「宇多丸さんが作品の良さを理解できてない」というか、「ご自分の感想と宇多丸さんの感想が合わない」という事ではないんでしょうか?


yuhさんは#utamaruタグをつけてつぶやくが、この件はボクとYuhさんの話であってRTをしたりタグをつけると他の人も加わってしまい、話が混乱すると思い自分はYuhさんにだけ話すようにした。そしてしばらくするとYuhさんから反応が。

「サイタマノラッパー」のテンポ感の悪さ、というのはあの作品を特別なものにしている「肝」です。それが腑に落いなら「号泣メーン」はないですよ。といいたいわけです。これは、普通の感覚と思います #utamaru
なるほど。要はみんな「シネマハスラー」真面目に聞いてるわけ。ツイッター見てると「ハスラー聞いて勉強しなきゃ」とかあるわけですw #utamaru
自分がシネマハスラーに何を求めてるかは問題じゃない。あの番組を真面目に聞いてる人がいるっていうのは、かなり大袈裟に言えば、「文化的な損失」。毎回「痛い映画」を「こきおろす」ってことなら文句はない。要は彼に「映画に対する愛」がないのよ #utamaru


ビックリした。「佐々木士郎へ」のテンションではあるが、ちゃんとした意見を持っている。何より「SRサイタマノラッパー」に対する感想が興味深い。ボクもYuhさんに返信した。

【「サイタマノラッパー」のテンポ感の悪さ、「拙さ」が素晴らしい】なんてスゴく良い感想じゃないですか!そんなに良い感想をご自分で持ってれば、宇多丸さんがそう思わなくても充分ですよ。「普通そう思う」なんてやめましょうよ。意見が違うなんて素晴らしい事です。
みんながみんな真面目に聴いてる訳ではないと思いますよ。聴いてない人はもう既に呟いてません。というか番組自体を聴いてません。ただ、一週間に一回40分近く一本の映画について取り上げてくれるって事は、たとえボロクソであっても良い宣伝になってると思いますよ
たぶん「シネマハスラー」を一番真面目に聴いてるのはyuhさんなんですよ。多くのリスナーは宇多丸さんの話を「一意見」ととらえてます。話芸を楽しんでるだけ。で、興味がわけば映画館に行って観るだろうし。ラジオが映画館行くきっかけになるって良い事だと思います。
ちなみにいつかのシネマハスラー年間ベストだった「シークレット・サンシャイン」はボクの個人的ワースト1、ラジオでバカ推ししてた「第九地区」は言うほど面白くなかったです。でも別に腹も立ちません。映画の感想は個人的体験に因りますもの。
宇多丸さんが作品に対してボロクソ言うのを「悪影響だからやめて欲しい」というより、その作品についての良い部分を、自分の言葉で宇多丸さん以上に熱く人に伝えた方がその作品の魅力が伝わると思いますよ。


Yuhさんこそ一番シネマハスラーを熱心に聴いているのではないかと思った。じゃないとやはりあそこまで挑発的に自分の意見を#utamaruタグをつけて呟かないだろう。立派だと思ったのでその時点でボクはもう満足して、この一連の騒動を#utamaruタグをつけ、こう締めた。

今日まとめた【「シネマハスラー」とミスリード】は、既に発表された考察を違った目線で見ると何が浮かんでくるか?というドキュメンタリーがやりたくて作りました。 #utamaru
その後のボクとのやりとり等で、「シネマハスラー」について問題提起したyuhさんが、あのコーナーを実は一番真摯で真面目に聴いているのでは?とも思った次第。だからあそこまでのエネルギーでご自分の意見をまとめたんだと。立派なリスナーでした。 #utamaru
しかし実際にtogetterでまとめてみて、よりドキュメンタリーの奥深さを知りましたよ。あの流れをもっと自分の演出次第で恣意的にYuhさんを悪者に仕立てる事も出来たし、Yuhさんの意見が全く間違いないように見せる事も出来た。情報を扱うってスゴい事だと思いました。 #utamaru
でも誰も見てないだろうけど【「シネマハスラー」とミスリード」】について、ボクの唯一の意見って、説明文で消えている「残り三行の部分」なんだよ! #utamaru


Yuhさんはちゃんとした方だと理解し、これから何かまた問題があっても対処出来るだろうと思い、多少安心していた。
しかしその後にYuhさんがご自分の曲を#utamaruタグをつけて連投し始めた時にはかなり慌てた。



【本心】

「佐々木士郎へ3」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/76183 #utamaru
「佐々木士郎へ(おまけ)」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/76184 #utamaru
「「佐々木士郎へ」の続き(独り言かよ?)」をトゥギャりました。 http://togetter.com/li/76208 #utamaru


内容は#utamaruタグをつけてYuhさん本人が歌う曲のツイート。これを観た時、この話題は泥沼化したと本気で思った。
責任はしっかりと取る覚悟で次の日の朝、ボクは初めて意識的にフォロワーの人にも見えるようにYuhさんに喧嘩を売った。

.@yusukeskinjp 「悪影響があるからやめろ!」に関しては全く同意できません。敢えて言うなら #utamaru タグを付けて、もはや番組と関係ない宣伝をする事がご自身の音楽活動に物凄い悪影響を及ぼしてるので控えた方が良いです。そのやり方はファンではなく敵を作ってるだけ。
.@yusukeskinjp 自分の作品に自分でケチつけて、誰の耳に届くっていうんですか?


Yuhさんからのリアクションはその日の夕方くらいにあった。

@dark_side_01 「悪影響があるからやめろ」に関しては、「「佐々木士郎へ」の続き」で弁解(?)しているので聴いてやって下さい #utamaru
@dark_side_01 …そうですね、人というのは「ああいう(ことする)人間にはなりたくないな」と思ったタイプの人間に「必ず」なってしまうものなのです。率直に言えば、それが理解出来れば「佐々木士郎へ3」は、理解してもらえると思います。 #utamaru
@dark_side_01 あなたにも「ああ、こういうことか…」とわかる時が来るのかも。。信じたくなくても。人生とは「厳しいもの」です… #utamaru それは誰もが踏む「轍」です


弁解と聴いて意味がわからなかった。とりあえずその「佐々木士郎への続き」を聴いてみることにした。


そこにはネットのイメージとは違う、生身のyuhさんがいた。
朝の四時。35歳で失職中。フリーターの彼が自分のやっている音楽や現状、ラジオについて語っていた。
言葉を選びながら丁寧に話すYuhさんの声に、ボクは心を撃たれた。
正直、話もよく飛ぶし、最後まで語りきってないし、言い訳をしているようにも聞こえるかもしれないが、奇しくも「シネマハスラー」と同じ「一人喋り」をして自分をしっかりと晒している事に度肝を抜かれた。
やはりネットっていうのはバーチャルな世界でしかないって事を痛感させられたし、それを教えてくれたのは実在する「サイタマノラッパー」だった。


ボクはYuhさんにすぐに返信した。

.@yusukeskinjp 心を揺り動かされました。お話が聴けてよかったです。やはり「言い方が悪かった」としか言いようが無いですね。是非今度飲みましょう!


それ以来、Yuhさんとのやり取りは終わっている。


しかしお互いにフォローし合う仲にはなった。
ボクはこれからYuhさんの音楽活動を応援するし、酒を飲むまでの仲になろうと思っている。
勝ち負けなんて決めるもんじゃないと思っているが、あえて言うならボクは負けた。内容はともかくその熱意に負けた。「一人語り」という「シネマハスラー」と同じリングに上がったYuhさんはやっぱりれっきとしたアーティストだった。いくらボクがこうやって長々と書いたところであのYuhさんのあの20分の語りには敵わない。
こういうドラマチックなエンディングを(今のところ)迎えるとは思ってもみなかった。人の意見は本当にさまざまで、ネットなんて本当に架空の世界でしかないことを痛感した。


Yuhさんは今も「佐々木士郎への続き(まだまだ)」と、自分の意見をシリーズでまとめている。でも最初の頃とまとめ方が明らかに変わって読みやすくなっていた。
シネマハスラーについてみんなが多少なりとも思っている「違和感」を建設的に言える人が増えたようだ。
相変わらず#utamaruタグをつけて語ってはいるが、もう変わる事も変える必要も無いのでボクは良いと思っている。


この3日間は本当に貴重な経験をした。その記録をここに残す。





※追記
と、いう事でこのブログを作成した後、Yuhさんと会い、それをツイキャスで録画した。
このブログの後日談であり、副音声解説であり、エンドロール。


その1
その2
その3
その4
その5
その6
その7




参考文献
togetter -「佐々木士郎へ」
togetter -「佐々木士郎へ2」
togetter -「『シネマハスラー』とミスリード」
togetter -「佐々木士郎へ3」
togetter -「佐々木士郎へ」の続き(独り言かよ?)
togetter -「佐々木士郎へ」の続き(まだまだ)

YuhさんのHP