「先生を流産させる会」

今年の春先頃でしたかねえ。この映画に対して何の思い入れも無い方々に見つかって、どーせ観る気もないような方々にいたずらにバッシングされるという憂き目にあった(とはいえ、結果的にその事が動員に繋がったようなので大成功!な)「先生を流産させる会」。いよいよ公開が終わるとの事で滑り込みで観てきました。今回はこの感想です。


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

郊外の中学校で教師を務めるサワコ(宮田亜紀)が妊娠し、彼女が担任を受け持つクラスの生徒たちは活気づく。そんな中、ミヅキ(小林香織)はサワコがセックスをしていることに異常な嫌悪を示す。やがて彼女は、自分が率いるグループで「先生を流産させる会」を結成、サワコの給食に理科室から盗んだ薬品を混入して流産を促そうとする。味の異変を察知して給食を吐き出したサワコは、ミヅキの仕業だと知って彼女と仲間を激しく戒める。だが、それを受けてミヅキは反省するどころか、より嫌がらせをエスカレートさせていき……。


【予告編】


以下、感想です。
この作品もまたネタバレしてます。
これから楽しもうって方は恐れ入りますがまた後ほどご覧くださいまし。






なんて言うかコメントに困る映画でしたわい。


オープニング、スゴくカッコ良いです。音楽とぴったり合っていて、まさにこれから不穏な事が起こる気配をビンビンに感じ取れます。オープニングがカッコ良かったらだいたいの作品は面白い(ハズ)ですよ。登場人物の顔もイイ顔が揃ってました。こういう優秀な人材どこから見つけてきたんだろう?サワコ先生のちょっと恐そうな感じとか、流産させる会の「そのまんま女子中学生」感、良い味出してました。また、ロケ地とか映画的な意味で「絶景」なんですよね。田舎特有の「なんとなく絶望」感がこの作品にもありました。流産させる会のアジトとなるラブホテルの廃墟とかいちいち素晴らしいんですよ。1枚の画に力があったように思えます。あと、全体を通して画がカチッとしてましたねえ。色味とか照明とか画角とか、若い監督とは思えないくらい丁寧で圧巻でした。


ただどうしても「期待し過ぎたかな?」という言葉が自然と出てしまう自分もいる訳で。


ぶっちゃけ「実際に起こった事件」以外の創作部分が予想以上に浅くてズッコケてしまいました。
「子どもが悪巧みして先生に劇薬を飲ます」ところが一番邪悪で、それ以降失速してしまったように感じたんですよ。


この作品に対する云われなきバッシングのネタの一つに「実際は男子が起こしたこの事件を女子が起こした事にする」という改変問題がありましたが、この話って性別云々を超えて随分と「子ども」を安く見積もり過ぎじゃないですかねえ。全体的にどこかしら子どもをバカにしているフシがある。子どもって我々大人が考えている以上に邪悪な事考える生き物だと思うんですよ。いくら子どもでも本気で流産させようとしてたら周到に準備して実行する気がするんですが、監督自身「なんだかんだ言って子どもは結局のところ無垢である。」とでも思ってらっしゃるんでしょうか、割と堂々とクラスメートみんなが観てる前で実行するんですよね。あれじゃタダのバカですよね。中学生時分なんて男子よりも女子の方が明らかにませてて頭も良いはずなんですが、あの程度だと男子がやってんのと何の変わりも無いんじゃないかと思ってしまいました。


流産させる会のリーダー格の女子、前半「性」を嫌悪していてなかなか良い台詞も飛び出すんですが、後半からクライマックスにかけて空っぽになってしまっているのも気になりました。「性」とか割とどうでも良くなってる感じ。ただ先生を流産させる為だけのキャラクターとなってしまっていてなんかガッカリです。ラストカットの表情とか観る限り何にも考えてないもんね。結果、先生が流産するという酷い事件が起こっていながら、中学生たちに何の変化も起こってないんですよ。あの子またやるよ絶対。あのラストカットから100歩譲って「色々と考えているのは先生一人だけで子どもたちには何にも届いていない...」っていうオチと好意的に捉えましたけど、そういう事言いたい訳でもないみたいだし。うーむ...。


先生も先生で、中盤で犯人グループに目星をつけて「映画的に」尤もらしい台詞を言うんですけどね、「自分の子を殺そうとするやつは殺す!」なんつってね。
じゃ、殺せよ。
先生も変にマトモな教育者なんですよ。結構取り返しのつかない酷い事をされてる筈なのに前半の啖呵は何だったんだか。で、最終的に至極真っ当な台詞をはっきりと主犯格のリーダーに言って終わるんですよね。誰もが思ってる当たり前の事を台詞ではっきりと言っちゃうのマジでダサイんで勘弁して欲しいですわ。


真の教育映画だという意見もありますが、なるほど確かに教育映画でありますよ。
挑戦的な事やっているようで中身は学校の道徳でも見せられるような、非常にわかりやすくて説教臭い大人目線の映画でした。
大人目線の映画の割にモンペのお母さんのキャラとか、薬品の取り扱いの描き方(文系の人が理系のネタ取り扱うとコントみたいになりますね。)とか、他にもいろいろ余計な事思い出してきちゃって、ま、なんつーかなんだか幼稚な映画だったなあ...と、映画の感想の中でもとりわけ酷いコメントがぼんやりと浮かんでしまう始末。


とはいえ、この映画を作った内藤瑛亮監督とこのチーム、美しい映像を作り出すセンスが圧倒的に素晴らしいです。20代でここまでしなやかで力強い映像が作れるとは。恐らく今後熱狂的なファンも増えていくんじゃないでしょうか。(だからこそこういう感想書くのが怖いんですが。)「先生を流産させる会」は内藤監督の名前を世に知らしめる非常に有効な作品になったと思います。ボクはこの映画にハマらなかったけど、次回作がものスゴく楽しみな監督の一人としてしっかりと覚えました。





【おまけ】
というか、個人的エピソード。
小六の時、隣のクラスの先生は妊娠していて、学年一悪かったいじめっ子グループの一人がその先生の膨らんだお腹を調子乗って殴ったんですよ。そしたらその話聴いた学年全体の子たちがそいつらに対して「あまりに酷い!」つって一気に反旗を翻してねえ。いじめっ子グループはみるみるうちに失脚しちゃって。社会に於ける地位なんて割と簡単に崩れるもんだなと子どもながらに学んだもんです。ちなみに先生は無事でしたよ。




※本文から漏れた感想

  • 男の先生の軽薄な感じ、良かったです。間違いなくロリコンな感じ。
  • 冒頭のウサギ、なんでCGなんだろう?...謎。
  • 主犯格の子、女子なのに髪の毛ぼさぼさとか、あーいうのが真っ先にいじめられる気がする。そういうところも「子どもの世界」を嘗めてる感じがするんだよなあ。
  • ホントに先生を流産させようとしてた実在の生徒にもダサく見えるんじゃないかなあ...と思った次第。