あゆみゆい『太陽にスマッシュ!』

連載:『なかよし』(1993年)
単行本:講談社なかよしKC(1993〜1994年) 全2巻


 1990年代前半の『なかよし』黄金時代の一角を担った看板漫画家の一人・あゆみゆいが描いたテニス漫画。作者はその後、『デリシャス!』や『チムチムチェリー』、そして『明日のナージャ』の漫画版などを描きつつ、現在は活動休止中。ちなみに、本作品の主人公の名前が、現代オタク用語「萌え」の語源であるという説もある。
 主人公・高津萌(たかつ・もえ)は、テニス一家の四人兄弟の末っ子で、中学二年生。小学校時代には無敵の強さを誇っていた彼女が、中学進学直前に自身の出生の秘密を聞いてしまったことで長期スランプに陥ってしまい、本来の力を発揮出来ずにいた頃に、アメリカ帰りのテニス少年・月丘開弥(つきおか・さくや)との出会いを通じて「自分の本当のテニス」を模索し始める、という物語。
 プレイスタイルを巡る葛藤など、それなりにテニスの本質に触れた内容ではあるのだが、いかんせんどの試合も描写が短く、テニス漫画としてはやや物足りない(月刊誌だから仕方がない側面もあるのだろうが)。一方、もう一つの軸である主人公の周囲の友情・恋愛物語については、さすがに人気少女漫画家だけあって、淡白すぎずクドすぎず、絶妙のバランスで描けていると思う。
 ただ、正直言って全体的に短過ぎて、せっかくの魅力的なキャラも伏線も生かしきれないまま終わってしまった、という感が否めない。実際、作者自身も「二巻収録分の頃はなげヤリな気分になっていて、あまり思い出したくないくらい」と述懐しており、その意味では非常に勿体無い作品だったと思う(ただ、彼女の場合は人気連載作品の大半が原作者付きであることを考えると、そもそもストーリーテラーとしては、長い話を描くのにはあまり向いていないのかもしれない)。
 この人の描く繊細で丸みを帯びたキャラ達は非常に人気があり、今でも根強いファンも多いので、とりあえず、表紙を見て「萌え」を感じた人なら、買っても損はないと思う。個人的には、日下恵(くさか・めぐみ)と高津青(たかつ・せい)を、もう少し描いて欲しかったかな。