藤臣美弥子「海が待っている」(『美少年育成条例違反』収録)

美少年育成条例違反 (フラワーコミックス)

美少年育成条例違反 (フラワーコミックス)

連載:『少女コミック』(1993年)
単行本:小学館フラワーコミックス『美少年育成条例違反』(1999年)


 『夜を欺く闇』(原作:ジャスミン・クレスウェル)などで有名な藤臣美弥子の初期の短編作品。作者の短編集である「胸打つ恋物語」シリーズの単行本第三弾『美少年育成条例違反』の中に収録されている(同時収録は他に「夏の夜の魔法」「この唇はあなたのため」「ファイナルゲームから始まる」)。近年は主にジュディーコミックスから単行本を発表している。
 物語は、新入生の主人公・田中瑞帆が、新入部員の勧誘をしていたテニス部の二年生・戸村壱平に一目惚れして、テニス部への入部を宣言するところから始まる。そして三ヶ月後の海辺でのテニス部合宿において、壱平に想いを寄せながらもなかなか一歩を踏み出せずにいた彼女が、「願いごとを叶える桜貝」の伝説を知ることになる…………、という物語。
 一見するとロマンティックな恋物語のようだが、実際には一筋縄ではいかない深みのある物語展開が読者を待ち受けており、本当の意味での「お伽噺」的な不思議なストーリーが展開される。正直、実際の物語中における桜貝の本当の効用について、分かったような分からないような形で終わってしまったような印象もあるが、一種のファンタジー物語としてはよくまとまった内容だと思うし、微妙な余韻を残すラストの描写も印象的である。
 作中内での「テニス」に関しては、練習風景が描かれる程度で、その意味ではあくまで背景設定としての描写にとどまっている。正直、別にテニスでなくても良いと言えば良いのだが、それでもやはりこういった恋物語においてテニスが選ばれやすいのは、「さわやか青少年のスポーツ」というイメージが強いからだろう。
 ちなみに、この単行本に収録されている五本のうち、三本は1999年の作品であるのに対して、本作品と「ファイナルゲームから始まる」(バドミントン漫画)は1993年の作品であり、両者の作風が全く異なるのが面白い。まぁ、私はどっちの系統の作品も好きなんだけどね。