小山田いく『ラスト・シーン』

連載:『週刊少年チャンピオン』(1991年)
単行本:秋田書店チャンピオンコミックス(1992年) 全1巻


 前述の「ゲーム・オーバー」の作者である小山田いくが描いた短期連載作品(全五話)。単行本は本作品に加えて読切作品「三畳紀のシンデレラ」を加えた全1巻で発売されている。長年、秋田書店を主戦場としてきた作者であるが、近年はぶんか社の『あなたが体感した怖い話』や『ほんとうに怖い童話』を中心に活躍中。
 主要人物は、香霧(かぎり)高校の男女三名。過去の恋愛で深いトラウマを背負う巴木一史(ともえぎ・いっし)と、高校受験の失敗を精神的に引きずる曽良幸二郎(そら・こうじろう)の二人が、中学時代の怪我でテニスの道を挫折しかかっている花屋典子と出会うところから、物語は始まる。典子の過去に一つの区切りをつけるために、彼女のラスト・ゲームが残った写真を探して巴木と曽良が奔走する、というのが第一話の概要。以後は、この三人が様々な事件に関わっていく姿が描かれていく。
 本作品は、タイトルにある通り、様々な「最後の場面」に直面する若者達の複雑な情感を描いた作品であり、小山田いくの真骨頂とも言える青春学園ドラマの一つである。彼等の台詞の一つ一つは非常に重く、その心情描写も実に味わい深い。画風的には「リアル系」の絵柄で描かれており、同時収録の「三畳紀のシンデレラ」や「ゲーム・オーバー」のデフォルメ主体のタッチとは非常に対照的なのだが、それでも独特の「暖かみ」を感じさせる「線」の描き方は共通している。
 テニス関連の場面に関しては、第一話と最終話に僅かに描かれる程度であり、その意味ではあまり「テニス漫画」と呼ぶべき作品ではないが、「巴木と恋愛」「曽良と勉強」と同様、「典子とテニス」は本作品を貫徹する重要なテーマの一つである。その意味で、少なくとも「テニス関連漫画」と呼ぶに値する作品と言っても良いだろう。
 作者の単行本としてはそれほど古い方ではないので、古本屋を何軒か回れば手に入るレベルだと思う。分量的には短いが、非常に凝縮された非常に内容の濃い良作であり、小山田いくに触れたことがない人が初めて手に取るのに最適な作品だと私は思う。