すみません、しばらく休業します

 先週まで二ヶ月の間、全く更新が出来なかった状態だった訳ですが、正直、まだ通常の更新ペースに戻るには厳しい状態ですので、ここで正式に休業を宣言したいと思います。
 復帰の目処としては、ずっと滞ったままの博論の書籍化を完遂したら、また戻って来る予定です。それがいつの話になるのかは分かりませんが、なんとかこの秋までにはケリをつけたいと思っておりますので、どうか皆様、気長にお待ち頂ければ幸いです。

小野寺浩二『カバディ7』

カバディ7 ?

カバディ7 ?

連載:『月刊コミックフラッパー』(2010-2012年)
単行本:メディアファクトリー・コミックス(2011-2012年) 全3巻


 『妄想戦士ヤマモト』や『それいけ!! ぼくらの団長ちゃん』などで有名な小野寺浩二が、『月刊コミックフラッパー』にて連載した作品。「日本カバディ協会」公認のカバディ漫画でもある。現在の作者は、今月発売の『ヤングキングアワーズ』から始まる新連載「ソレミテ〜それでも霊を見てみたい〜」を執筆中。
 主人公は、インド人ハーフの高校生・北斗クシャトリア。日本の侍に憧れ、玉鋼高校へと転校してきた彼が、カバディ部設立を目論む女子マネージャー・円谷まどかの口車に乗せられて同部への入部を決意し、個性豊かな6人の仲間達と共に、カバディ部の一員として様々な強敵達と戦う物語。序盤は実在するカバディ大会に出場していた彼等であったが、中盤以降は、セパタクロー、男子ラクロスクリケットなど、様々なマイナースポーツの競技者達とカバディ戦う「カバディ甲子園」での死闘が描かれることになる。
 初期島本和彦作品(『炎の転校生』や『燃えるV』など)に通じる「どこか間違ったアツさ」を全面に押し出した熱血スポ根コメディであり、最近の言葉で表現するなら「シリアスな笑い」という言葉が最も似合う作品である。武士道にこだわる北斗を初めとして、大食漢の権田原大吉、ナルシストの仁藤光秀、美少年なのに筋肉フェチの向井優といった面々が、それぞれが心に抱く「こだわり」や「人生観」に基づいて、カバディという特殊な舞台で独自のプレイスタイルを生み出していく展開は、インドの伝統競技カバディの持つ奥の深さと、青春という限られた時空に秘められた無限の可能性を体現していると言えよう。
 その中でも特に強烈な個性を放っているのが、テニス部出身の変態少年・志村慎ノ介である。彼は女子部員への盗撮がバレてテニス部を追われることになったのだが、その際の彼の言い放った魂の叫び、そして、彼の「同年代の女子生徒へのセクハラ」への渇望の慟哭は、全ての男性読者の心を掴んで離さない。彼の言葉に一切賛同出来ない男性は、もはや男性の魂を失ってしまった生きる屍と言っても過言ではなかろう。
 また、物語全体のテーマとしてはカバディを取り扱いつつも、対戦相手となる他種目の競技者の面々も実に魅力的に描かれているため、それぞれのマイナー競技の持つ醍醐味を味わいつつ、それらを包み込んで同じ土俵で戦わせることが可能なカバディというスポーツの懐の深さをも堪能することが出来る。その意味でも、カバディ漫画としてだけではなく、普遍的な意味での「青春スポーツ漫画の金字塔」と呼ぶに相応しい作品である。それ故に、正直、僅か3巻で終わってしまったことが非常に惜しまれる作品なのだが、逆にこの尺の中に収めたからこそ、ここまでの高密度な暴走作品に仕上げることが出来たのかもしれない。

二ヶ月振りです。すみません……。

 なんだかんだで、最後にレビューを書いてから、二ヶ月も放置してしまいました……。ただでさえ日頃から週1ペースという低更新率なのですが、最近は仕事などの関係で色々と生活パターンが乱れていることもあって、なかなか書く気力(&ネタ本を探す気力)が湧かず、すっかりとサボリ癖が定着してしまいました。
 まぁ、正直、今は本業の方で本を書くことの方が優先事項なので、ひとまずそれを終えるまではサボり続けてもいいかな、と思っていたのですが、いつの間にやら(今回紹介した)『ライジングハーツ』が終わってしまっていたことをつい先日知ったので、これは一刻も早く私が紹介して、単行本が絶版になる前に少しでも多くの人々に読んでもらわねばと思い、慌てて書かせて頂いた次第です。
 で、他にもう一本、同様に最近完結した作品で、どうしても紹介したい漫画があるので、来週はそれを取り上げる予定です。その後は……、正式に無期限休止を宣言した方がいいのかもしれないな……。

葵蜜柑『ライジングハーツ』

ライジングハーツ 1 (ニチブンコミックス SH comics)

ライジングハーツ 1 (ニチブンコミックス SH comics)

連載:『さくらハーツ』(2010-2012年)
単行本:日本文芸社さくらハーツコミックス(2011-2012年)全2巻


 成人向け漫画や小説の挿絵などで活躍していた葵蜜柑が、日本文芸社発行の(『週刊漫画ゴラク』の増刊に相当する)萌え漫画雑誌『さくらハーツ』(隔月刊)の創刊当初から約一年半にわたって連載された作品。なお、作者はサークル「BBG」として同人界でも活躍中。
 主人公は、高校一年生の永森このか。両親の海外赴任に伴い、従兄弟の中村樹(いつき)の家に居候しつつ、私立桜ヶ丘高校に転校することになった彼女が、彼の紹介でテニス部を見学する場面から物語は始まる。主将の安藤響香の誘いで、試しに彼女とのラリーに挑戦してみたところ、初心者ながらも「重い球」を打てる素質の持ち主であることが発覚し、そしてまたこのか自身もテニスの楽しさに目覚めたことで、そのまま正式に入部を決意する。
 桜ヶ丘高校のテニス部は男女共には名門で、主人公の同僚や先輩には個性豊かな美少女達が揃っているのだが、物語全体の空気は、良くも悪くも伝統的な王道スポーツ漫画である。そんな中、このかはフォアもバックも両手打ちで、やがて物語の途中でライジングショットを得意技として習得することになるのだが、女子でも片手打ちのベースライナーが主流となっている御時世において、この設定はそれだけで一つの個性としては十分である。
 細かいテニス描写に関しても、やや画面構成が荒れることはあるが、それでも初心者が一からテニスを学んでいく上での「タイミングの取り方」や「力の抜き方」など、作者自身の(軟式らしいが)テニス経験を生かした演出が随所に見られるのは高ポイント。その上で、「テニスの楽しさ」自体を全面に押し出そうとする姿勢にも共感が持てる。
 だが、残念ながら『さくらハーツ』という、明確に「萌え漫画」路線を志向する雑誌に載せるには作風が地味すぎたようで、単行本2巻であっさり打ち切られてしまった。正直、この人の画風自体は明確に萌え漫画向きというか、あまり動的な場面の多いスポーツ漫画には向かないタイプの絵柄だと思うので、もっと『そふてにっ』的な部内のドタバタ・ラブコメ・お色気などを取り入れた方が良かったのかもしれない(もともとエロ漫画の人だし)。というか、出来ることなら作者自身の手で彼女達のエロ同人を描いてほしいと思えるくらいに魅力的&個性的な美少女達がそろっていたので、色々な意味で勿体ない作品だったと思う。

iPadで漫画を読む

 今回紹介した『キララ』は、ebook JapanのiPad版で入手して読みました。去年、PCが壊れた時に、一時的なネット対応用としてiPadを買った訳ですけど、こうやって漫画を読むための端末として使ってみると、思った以上に便利だということが分かりました。
 正直、「電子画面って、見てて疲れる」と思ってたんですけど、さすがにiPadレベルの端末になると、殆どそんな苦痛は感じませんでしたね。というか、むしろ画面が綺麗で(昔の汚れた現物よりも)読みやすいです。縦にすれば、画面全体が1頁分になるので、普通の単行本よりも大きいサイズで読めるというのも結構ありがたいし、立てかけた状態であれば、片手で頁がめくれるので、飯を食いながら読みたい時などにも便利です。
 そして、それよりなにより、「収納場所が必要ない」というのは最大の魅力ですよね。既に足の踏み場が無くなって久しい我が家の環境を考えると、非常にありがたいです。正直、値段的には(巻数の多い作品は特に)ブックオフヤフオクで当時の単行本を買った方が安いのですけど、作者への印税還元という観点から考えても、こういう形で販売してもらう方がありがたいので、再販予定のない作品は、どんどん電子書籍化してほしいです。ただ、値段はもう少し安くならないものかなぁ、と思うんですけどね(特に昔の作品に関しては)。

平松伸二『キララ』

キララ (ジャンプコミックスデラックス)

キララ (ジャンプコミックスデラックス)

連載:週刊少年ジャンプ(1986年)
単行本:集英社ジャンプコミックスデラックス(1986年) 全1巻


 『ドーベルマン刑事』や『ブラックエンジェルズ』などで70年代の『週刊少年ジャンプ』を支えた平松伸二が、同誌で最後に連載した作品。単行本は全1巻で、大判の『JCデラックス』として発売された。現在の作者は『週刊漫画ゴラク』にて『ザ・松田〜ブラックエンジェルズ〜』を連載中。
 主人公は、高校一年生の天才投手・生沢輝良々(いくざわ・キララ)。本気になればいつでも完全試合を達成出来る実力がありながら、勝負への執着心の無さ故に記録達成を逃してきた彼が、恋人である年上の天才テニス少女・斉藤奈美と共に、銀行強盗事件に巻き込まれて重症を負ったことを契機に、本気で甲子園を目指して野球に取り組むことを決意する、という物語。
 ハードボイルドなバイオレンス漫画で一時代を築いた作者だけに、序盤から凶器と狂気の飛び交う急展開の連続で読者を物語世界へと引き込んでいく。キララのチームメイトも、対戦相手も、もはや「不良」という言葉では生温いレベルの任侠系高校生達ばかりであり、野球としてのルールもモラルも無視した命がけの死闘が繰り広げられていくことになる。
 残念ながら、奈美がまともにテニスをする場面は回想シーンなどで若干描かれる程度なのだが、物語の序盤では、キララの野球のボールを投げ、車椅子の奈美がそれをテニスのラケットで打ち返そうとするという、謎の勝負が展開される場面がある。テニスボールを野球のバットで打ち返すのは巨人の星以来の伝統的なお約束展開だが、その逆パターンはかなり珍しいと思う。
 アストロ球団が築き上げた「ジャンプ流スポーツ漫画」の完成型と呼ぶに相応しい傑作であるが、既にスポ根漫画もハードボイルド漫画も斜陽の時代に入りつつあった80年代中盤の読者の支持を得ることは叶わず、わずか15回で打ち切りとなってしまう。だが、そのバトルスポーツ漫画の魂はやがて時を超え、90年代末期のテニス漫画などへと受け継がれていくことになる。

祝・初ボンボン

 一応、なんとか一週休みだけで帰ってきました。とはいえ、土曜ではなく日曜更新になってしまったんですけどね、えぇ。まぁ、それはビックリマンの合成キャンペーンが昨日で終了だったのが悪い、ってことで。来週はちゃんと書けるかなぁ。書きたいなぁ(多分、再来週は無理なので)。
 さて、そんな訳で、今週は遂に、満を持して、初のボンボン作品であります。と言っても、玉越作品なので、あんまりボンボン臭はしないんですけどね。てか、この人がボンボンで描いてたということ自体が、そもそもおかしいんだよなぁ。どうやらこの時期は雑誌全体が色々と迷走していたようで、他にも講談社系の色々な人達が描いてたらしいですけどね。
 ちなみに、私はコロコロ派だったので、実はボンボンのことは殆ど知らない訳ですけど、コロコロにしてもボンボンにしても、やっぱり児童誌でテニスって、人気ないですよね。地味ですもんね。それ以前に、そんな金がかかるスポーツを遊べる小学生なんて、殆どいませんからね。だからこそ、今回の話でも「上品枠」のヒロインだったんだろうなぁ。
 とはいえ、それでも探せば色々と見つかる筈だと思うので、「児童誌で描かれたテニス描写」に心当たりのある方は、どんどん教えて下さい。単行本未収録でも、頑張ってヤフオクで当時の掲載誌を探して、落として、読んで、書きます。