風の吹く川のほとり


雲の多い夕焼け。
この集合住宅に引っ越してもう6年になった。
すぐ前が川なので窓を開けていれば、いつもせせらぎの音がする。
川を跨ぐ橋のたもとには神社があって、昔はすぐ前に淵があり渦を巻いていたらしい。
いつも行く三代続く床屋の主人Kさんが、話してくれた。
こどもの頃のこの辺りは、歓声をあげて飛び込む度胸だめしのかけがえのない淵だったそうだ。
いまでも雨が降ればごうごうと勢いよく水が流れるけれど、
日照りが続くと、どぶのようになってしまう。
昔の姿を偲ぶのは難しい。
川と反対側の東のベランダの真正面に33階建ての高層マンションができた。
窓の外は一面の白い壁。
そのせいか、一日中風が吹いている。
今では「風の吹く」川のほとりの住人になった。