神津島の冬風

晦日神津島滞在2日目。
朝から台風のような風が吹いている。
立って歩くのがやっとのような風である。
島風だ。
空には青空が見えているのに
雲が飛ぶように流れて行って
岸壁にも海岸にも白波が襲いかかるようにしぶきををあげている。

風に吹かれて砂が飛び、顔に当たって痛い。
予定では島の北端まで海辺の道を歩くつもりだったが
風が強くて危険だから行かない方がいいと民宿の女将に言われた。
集落は昨日ほとんど歩いてしまったのでどうするか迷うが
朝8時になって今日の定期船は島のもう一つの港、多幸湾に着岸するという放送があったので
峠を越えて船を見に行くことにした。

途中の道で漁師の家だろうか、ウツボやブダイを軒先に暖簾のように干している家があった。
島を横断する神津本道をショートカットするように
森の中の散策路を歩いていると
伊豆七島の名物(?)アシタバがあちこちに自生していた。
鬱蒼とした森の道では風はなく人がいない。
多幸湾への道を下ってゆくと都立のキャンプ場があった。
しかし年末で休業中。
からからと看板が揺れ、道路工事のオレンジ色の三角錐が風に飛ばされていた。
多幸湾は前浜に比べると波は穏やかだった。

湾内を大きくUターンして定期船が岸壁に着いた。およそ1時間遅れだった。

この時期はシーズンオフで観光客も登山客もおらず
旅行者のほとんどは釣り人か正月に帰省した島の人たちだった。
一人だけ、大きな荷物を背負った年配の客がいた。沢尻湾でキャンプするらしい。
小さな青いライトバンの村内バスに乗って前浜に戻る。
この風と波では今日のキャンプは無理だろう、キャンプ場方面のバスも運休していた(あの人はこのあとどうしただろうか、気になった)。
島内で唯一の温泉施設の保養センターに行こうと思っていたが、
改修中で内風呂は使えず海岸の露天風呂しか入れないそうだ。
でも今日はとても無理だ、こんな風の日に裸でいたら風邪をひくし、危険だよ、とバスの運転手に言われ断念した。
しかたなくこの島の有名な寿司屋、美家古寿司に行くことにした。
風で暖簾が落ちていてまるで開店休業のようなすし屋だった。

地魚寿司を食べ、熱燗と島焼酎を飲んでもう宴会状態となる。
飛び魚のクサヤも食べたが、すごい匂いだ。独特の匂いが服にしみ込んで宿に帰っても臭っていた。
これはとても自分の家では焼けないな。
民宿に帰ってもう一度海岸を見に行くと
朝より波が荒れている。

明日は船がくるのだろうか、心配になる。
ささやかな夕食を終えて大晦日紅白歌合戦が始まるころには完全に出来上がってしまい、
見たこともない若い芸能人たちが宿の小さなテレビに映っている頃には
早々と寝てしまった。