January-31-2012
たまにはクラシック以外の話題も。
Can Science Predict a Hit Song?
(Science Dailyより)
過去50年のヒットチャートを元にして、ヒット曲に見られる特徴を調べたという
変わった研究の紹介です。
テンポや曲の長さ、音量、ハーモニーの複雑さなど23個の特徴を元にして、
ヒットチャートのトップ5の曲と下位30〜40位の曲の違いを調べたところ、
面白い傾向が見られました。それによると、80年代以前はダンス系のような
ノリのある音楽は好まれなかったのが、その後だんだんとダンス系の曲が
チャートを賑わすようになってきました。また、90年代以前はハーモニーの
単純な曲がチャート上位に上ることが多かったものが、それ以降の年代に
なると今度はリズムの単純な曲が多くなりました。さらに、最近の曲ほど
概して音量が大きくなり、さらにチャートで上位の曲ほど音量が大きい
という傾向が見られました。
こうした特徴による分け方は、90年代前半や2000年付近のチャート上位と
下位をうまく区別できた一方、80年代の曲については難しかったようです。
これは80年代の曲に独創的なものが多かったからではないかと研究者たちは
考えているようです。
これ、今の日本のチャートでやってみたらどうなるんでしょうかね(・∀・)ニヤニヤ
Really? The Claim: For Famous Musicians, 27 Is a Dangerous Age
(The New York Timesより)
去年の7月、イギリスの歌手エイミー・ワインハウスが27歳で急死しましたが、
この27歳という年齢は有名ミュージシャンにとって鬼門といえる年齢のようです。
というのも、ジミー・ヘンドリックスやジャニス・ジョップリンといった有名な
ミュージシャンも27歳で死去しており、ほかにも27歳で死去したミュージシャン
たちと合わせて「27クラブ」と呼ばれているようです。
ところが、この伝説をマジメに調べた研究からは当然ですがミュージシャン
の死亡率と27歳という年齢には関連性は見られませんでした。研究では
1956年から2007年までのアルバムチャート1位になったミュージシャン
総勢1046人の死亡した年齢を調べたところ、20代と30代の死亡率が
一般人よりも2,3倍高いという傾向が見られたものの、27歳という年齢
で特に死亡率が高くなるということはありませんでした。
また1970年代から80年代の初頭の間は、その当時20〜40代のミュージシャン
が多く死亡しているという傾向はありましたが、80年代後半からはそうした
傾向も見られなかったようです。これはドラッグの大量摂取に対する医療処置
が進歩したからだと研究者たちは考察しています。
こういう都市伝説的な話はほかにもありそうですが、実際にキチンと研究すれば
大抵のものは否定されそうな気がします。ほかにも同じように特定の年齢で
死亡率が高いと噂される職業があると聞いた気もするんですが、何だったか…
January-09-2012
ストラディバリか新品か?
あけましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりましたとともに、
更新が滞るにも関わらずお越しいただきありがとうございます。今年の目標は
(最低)週一回更新ということにして、細々とやっていきたいと思います。
さて、新年第一回目のニュースはこちら。
Player preferences among new and old violins.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Jan 3. [Epub ahead of print]
Fritz C, Curtin J, Poitevineau J, Morrel-Samuels P, Tao FC.
バイオリン製作者の二大巨頭といえば、アントニオ・ストラディバリと
ジュゼッペ・グァルネリが挙げられますが、彼らの作ったバイオリンは
400年以上経った今でも非常に価値があるとされ、時には1台数億円で
オークションにかけられたとニュースになる事もあります。
なぜ彼らの作ったバイオリンは現代の製作者が作った新しいものより高い
評価がされているのでしょうか。多くのバイオリニストが彼らの楽器は
素晴らしいと言い、その理由として木の材質やニス、制作技術の違いが
指摘されています。ところが驚いたことに、実際にストラディバリと現代
の楽器を弾き比べたり聞き比べたりした研究はこれまでなかったそうです。
そこでこの研究では実際にストラディバリとグァルネリの作った楽器を
借り、プロのバイオリニストや国際コンクールの参加者の協力を得て
実際にストラディバリとグァルネリ、そして現代の製作者が作った
バイオリンを弾き比べてもらい、その良し悪しを評価してもらいました。
使われたのはストラディバリが2本(制作年代は1700年頃と1715年頃)
グァルネリが1本(同1740年頃)、そして現代のものが3本となっています。
3本のオールドバイオリンの総額はなんと1000万ドル!(1億円くらい?)
そしてそれらの弾き比べをするのは、アメリカのインディアナポリスで
4年ごとに行われる国際コンクールの参加者、審査員、そして地元の
インディアナポリス交響楽団の団員というプロ奏者ばかり21人です。
実験は2つのセッションからなり、まずは6台のうち新旧1台ずつを用いて
どちらの楽器が好きかを判断してもらいます。続いて、6台を弾いて最も
好きな1台と気に入らない1台を決めてもらいます。また音色の幅、広がり、
弾きやすさと反応の良さという4つの観点からそれぞれのバイオリンを
評価してもらいました。
実験はホテルの一室を使って行われたんですが、部屋の照明は薄暗くして
参加者はゴーグルをかけ、また楽器を交換するときはカーテンで仕切った
奥から1台ずつ渡すことで、楽器の見た目による先入観を除いています。
また楽器の匂いを消すために、顎当てのところに香水をつけるという
念の入れよう。
こうして純粋に弾いたときの印象だけを元に評価してもらったところ、
新旧1台ずつを比較したセッションでは、なぜか1台のストラディバリは
どの新品と比較しても評価が悪かったものの、ほかの組み合わせでは
新しい方が好きと答えた人と古い方が好きと答えた人の割合は半々でした。
また、このセッションでは評価の一貫性を見るためにひとつだけ同じペア
を2回評価させましたが、2回とも同じ評価をした参加者は21人中11人
しかいませんでした。
また、6台のバイオリンを順番に弾いて印象を答えるセッションでは、
弾きやすさや反応の良さにおいて新品の評価が有意に高かったものの
それ以外は特に違いは見られず、むしろ各バイオリンの個性が出た
結果となりました。面白いのは、6台の中でもっとも好まれたのは
新品のうち1台で、逆に最も気に入らないと答えた人が多かったのは
最初のセッションで評価が悪かったストラディバリでした。また製作者
を答えさせた場合では正解者は21人中3人しかいませんでした。
結論として、参加者の人たちは新品よりもストラディバリやグァルネリ
を好むとは言えず、またそれらを区別することができませんでした。
むしろ楽器の良し悪しに対する判断には、彼ら個人の好みや楽器の
個性が影響を与えていることが分かりました。従って、今後の研究は
ストラディバリの秘密を探るよりも、バイオリンの良さはどのように
評価されるのかという点に焦点を当てた方がいいかもしれない、と
いうことのようです。
この研究は割とインパクトがあったようで、多くのニュースで紹介
されていました。確かに、ストラディバリ=いいものみたいな見方が
一般的でしたから、プロでも新品と区別できないという結果は衝撃
ですね。掲載された雑誌のインパクトファクターも高く、しかもコネが
大きな力を発揮することもあるcontributed submissionではなく
正当なレビューの手順を踏むdirect submissionだったということで、
割と信頼性も高いのではないでしょうか。
ところで、昨年の6月には大震災支援のためにストラディバリ制作の
バイオリン「レディ・ブラント」がオークションにかけられ、約12億円で
売却された様子。バイオリンが持つ歴史的な価値も含めての値段
ではありますが、この研究の結果を考えると…
December-07-2011
音楽の記憶とEarwormの研究
How can musicians keep playing despite amnesia?
(BBCニュースより)
イギリスで指揮者をしていたClive Wearingさんはヘルペス脳炎によって
記憶に障害を受け、わずか10秒前の出来事すら思い出せなくなって
しまいました。これはかなり重篤なレベルの健忘症ですが、彼はそれでも
スコアを読み、ピアノを弾くことができるそうです。
ヘルペス脳炎は、脳内に侵入したヘルペスウィルスによって起こる
感染症ですが、主に大脳辺縁系や側頭葉内側部に病変を作ります。
側頭葉の内側部には特に記憶に関連した領域があり、ここに病変が
できることで記憶障害が引き起こされると考えられています。
彼の症状は、音楽の記憶がほかの記憶とは別の場所に貯えられて
いるという可能性を示しています。この考えを支持する証拠として
前頭葉の損傷によってWearingさんとはまた違った障害が見られた
音楽家の例や、反対に側頭葉の上側頭回を手術で切除した患者が
音楽に関する記憶を失ってしまったという報告などがあります。
ワーキングメモリの大家Alan Baddeley博士は、複数の種類の記憶
が存在すると考えると不思議ではない、と述べています。
しかしこれらの例が示すもっとも大事なことは、記憶障害に陥っても
音楽の記憶が残っていることがあり、これをうまく利用したリハビリ
を行うことで、記憶障害が回復するかもしれないということです。
この記事の後半にある、Wearingさんの妻が語る夫の姿が泣けます。
1分前の記憶すらない人生というのがどういうものか、知りたいような
知りたくないような…
The Science of Ear Worms, or Why You Can’t Get That Damn Song out of Your Head
(Scientific Americanより)
ある音楽がふと頭の中に浮かんで、それがずっと耳から離れない
という経験は誰でもあると思いますが、これは英語でEarwormと
言われます。ほかにもいくつか言い方はあるようですが、最近に
なってこれに関する研究が雑誌に載るようになってきたそうです。
インターネットを使って1万人以上の人たちの年齢性別や性格など
とearwormの現れ方との関係を調べた研究や、どのようなきっかけ
でearwormが生じたかをラジオ番組への投稿から調べたりという
研究が行われ、実に様々なきっかけでこの現象がおこることが
分かってきました。またどうやらearwormを消そうとしてもあまり
効果はないようです(論文)。
先月の時点では、最もearwormとして悩まされる曲をFacebookの
ページで投票してもらっていたようですが、今どうなっているか
また投票の結果についてはちょっと不明です…
ところでearwormという現象は我々もよく経験すると思うのですが、
これは日本語で何と言うのでしょうか?
November-23-2011
音楽の脳科学に関する論文集 vol.56
以前の記事で、Physics of Life Reviewsという雑誌で組まれた
音楽と感情についての特集号と、Koelschさんのレビューを紹介
しましたが、これ対する意見論文がまた同じ雑誌に掲載されました。
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):120-1; discussion 125-8. Epub 2011 May 27.
Reich U.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):116-9; discussion 125-8. Epub 2011 May 27.
Cross I.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):122-4; discussion 125-8. Epub 2011 May 23.
Seifert U.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):112-3; discussion 125-8. Epub 2011 May 23.
Besson M, Frey A, Aramaki M.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):114-5; discussion 125-8. Epub 2011 May 20.
Davies S.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):108-9; discussion 125-8. Epub 2011 May 12.
Fitch WT, Gingras B.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):110-1; discussion 125-8. Epub 2011 May 10.
Slevc LR, Patel AD.
Phys Life Rev. 2011 Jun;8(2):106-7; discussion 125-8. Epub 2011 Apr 30.
Kreutz G.
これはKoelschさんの論文を読むべきなのかな…
October-31-2011
音楽やればノーベル賞も夢ではないのですよ。
The newest Nobel Laureate is also a musician!
(Scientific Americanより)
今年のノーベル物理学賞は宇宙の膨張加速を発見したアダム・リース、
ブライアン・シュミット、ソール・パールマッター教授らに決まりましたが、
パールマッター教授は宇宙物理学者であるだけでなくバイオリンを弾く
音楽家でもあり、カリフォルニア大学で音楽と物理学というコースを
教えているそうです。どれほどの腕か記事からはわかりませんが…
(Science Dailyより)
就学前の児童に音楽を利用した認知機能のトレーニングをしたところ
わずか20日間で大きな効果が見られた、という研究です。
この実験では、4〜6歳の児童48人を2つのグループに分けて、
片方には音楽を用いた様々な運動や認知に関する課題や音楽の
訓練を行わせ、もう片方には絵画を用いて主に形や色といった
視空間的な能力に関する訓練を毎日1時間20日間行わせました。
訓練の前後で知能検査を行い、言語的な知能と空間的な知能の
評価をしたところ、絵画を使っていたグループでは言語に関する
知能向上は見られませんでした。しかし音楽を使っていたグループ
では、90%の児童に言語的な知能の大きな向上が見られたそうです。
わずか20日間の訓練でも効果が見られたということで、お子様の
言語能力を上げたかったら音楽を習わせれば効果的、ということが
言えそうです。でも、絵画を使ったグループでは空間的な知能が
向上しているでしょうから、音楽に限らず色々なことをやらせたら
いいよねという感じです。
Removal of restrictions can decrease music piracy
(EurekAlert!より)
最後は一風変わった研究を。
音楽産業は、海賊版が流行ることでCDなどの売り上げが落ちるという
主張のもと、Digital Rights Management (DRM)という不正防止技術を
導入しましたが、これがかえって売り上げを抑制する面もあるということ
を示した研究です。
DRMの有無が海賊版の存在にどのような影響を与えるかを調べた
ライス大学のDinah Vernikたちは、こうした技術は確かに海賊版を
作ることを困難にする一方で、正規ユーザーにとっても悪い影響を
与えることを発見しました。
どんなに不正防止技術を使っても、違法ユーザーは海賊版を手に
入れようとするでしょうし、この技術を導入することでCDなどの値段は
高くなり、そのあおりを受けるのはマジメに買う正規ユーザーだけと
いうことになります。さらに、バックアップひとつするだけでも非常に
面倒くさいので、正規ユーザーが海賊版に手を出す原因の一つにも
なり得ます。
ならばいっそDRMをなくせば価格は安くなるし、不便さもなくなり、
上述のような理由から海賊版に手を出していた人たちも通常版に
戻ってくるのではないか、というのが彼らの主張です。さらに彼らの
分析からは、海賊版が減ることで利益が増すということは一概には
言えないということが示されているそうです。
そういう一面もあるとは思いますが、企業側としてはDRMをなくして
しまったら海賊版の存在を認めるという形になるので、やめることは
難しいでしょうねぇ。
