彫り始めました

彫り方を教えてくれる人がいない以上、あたりさわりのないところから彫って、石の持っている癖や、道具の使い方など、手探りで学んでいくしかありません。


まず、底面を平らにする作業から始めました。


底面は、先日割った断面ではなく、最初から露出していた表面です。全体はやや丸っこく、少なからず凹凸がありました。これを平らに削り、直立して置くことができるようにします。


木を削るというのは、小さい頃からよくやっていました。木刀のようなものを作ったり、仏像のようなものを作ってみたこともあります。しかし、石を削るというのは、木を削るのとは、随分感じが違うとわかりました。


木を削る場合、ノミや小刀の刃が入った分だけ削れて、その刃の通った軌跡が、そのまま断面の姿になります。石を削る場合、そういうわけにはいきません。まず、硬くて刃が入らないので。刃で「削る」というより、ツチで直接叩いて、表面を細かく「砕き」ながら、少しずつ形を整えていくことになります。


その上、硬さが均質ではないんですね。とくに今回使っている御影石の場合、白くて硬い結晶と、比較的軟らかい黒っぽい部分とが、細かく入り混じっています。結晶部分は一粒が丸ごと、ぽろりとはがれてしまいがち。うまく目を読んで叩けば、効率よく粒子を剥がして、楽に削ることができます。失敗すれば、残すべき部分までぼろりです。


露出していた表面の、五ミリから一センチほどの層は、風化しているんでしょうか、とくにもろくて使い物になりません。内部のほうでも、極端にもろい部分が時々あって、冷や冷やします。細かい細工をすべき所が、たまたまもろい部分にあたってしまったりすると、絶望的ですね。


しかし、思っていたよりは簡単、という印象を持ちました。ツチの角の部分を使って、小刻みに叩いていくと、順調に剥がれていきます。ツチでこうすることを、「はつる」というのですが、その語感がぴったりの作業です。力加減をいろいろ試しながら、少しずつ慣れていきます。あせらずコツコツやっていけば、どうにかなりそうかな、と一安心したところで、「コツコツ」という擬音語は、そもそもこの作業のことかなとも思い。


ツチだけではつれないところは、先の尖ったチスタガネを使います。丸っこく安定した形のところは、おおむね頑丈で硬いので、チスタガネで切り込んで、形の均衡を崩していきます。均衡が崩れて、突出した角ができれば、そこはもう簡単に砕けます。均衡を崩しては戻し、崩しては戻ししながら、形を変えていきます。


やはり周縁部を叩くときは、気をつかいます。一か所、角のところが大きく欠けてしまいました。最初に大きく割った時、ひびでも入っていたのかもしれません。周縁部を叩く時は、できるだけ石の内側に向けて叩きました。外側に向けて叩くと、弱い力でも大きく欠けてしまいがちです。


やや傾いてはいますが、どうにか立てられる程度にはなりました(左下の角が欠けてます…)。他にも上の角のあたりがふくらんでいて、バランスが悪かったのを、削って直方体に近い形にしました。これは七月二十六日のこと。