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東京閑居   t。ky。kanky。

2012-03-29

さめた冒険家の伝記

スティーヴン・ナドラー(有木宏二訳) 『スピノザ 』ーある哲学者の人生



1999年にアメリカで出版されたスピノザ伝記本の翻訳。

「完全な伝記」というだけあって、

スピノザが置かれていた絶えず変転する状況を、

詳しく知ることができる。


スピノザ・ファンにとっては必読書である。


訳者は逐語訳を心がけたとのことで、

翻訳は非常に丁寧でありがたい。


洋書にありがちなこの分厚い本は、

スピノザ誕生以前にさかのぼり、

当時のイベリア半島ユダヤ人が置かれた背景を

描くことから始まっている。


中ほどあたりから、

スピノザ哲学の解説なども挿入されてくる。


『エチカ』出版の地ならしのつもりで出版した『神学=政治論』は、

すっかり裏目に出て、

ますますもって、主著を秘匿するはめに陥るが、

不慮の病に斃れたことで、日の目を見る。


スピノザの葬儀と遺品整理の顛末で、本書は閉じられる。


振り返ってみれば、

スピノザ自身は、ほとんどオランダから出なかったし、

なにをした、というのでもない。


ただ単に、


思ったことを口にし、

文字にしただけだというのに、


万客来訪、波乱万丈な出来事が、次から次へと振りかかってくる。


その度に窮地を切り抜けていくスピノザは、

まるで冒険家のようである。


田舎に引き払って、静かに思索に耽る冒険家とは、形容矛盾である。


言ってみればスピノザは、精神の冒険家だった。

スピノザが言うように、精神が身体の観念であるなら、

精神の冒険は身体の冒険でもある。


繰り返すが、

スピノザ自身は、ほとんどオランダから出なかったし

なにをした、というのでもない。

ただ単に、思ったことを口にし、文字にしただけだ。




訳者はあとがきで「正真正銘のスピノザへの入門書」と

書いているが、どうだろうか。

すでにスピノザについてなにほどか知っていれば、

大河小説なみに面白いのだが、

そうでなければ、読み通すのはつらいのではないかと感じた。


訳者も書いているが『エチカ』は難解であると、よく言われる。

一方、分りやすいということも、よく言われる。



「解」かろうとすれば「難」かしいであろうことも、

「感」じてみれば、いきなり分ってしまうこともある。


細部につまずく前に、まず感じること。

拘泥するのはそれからである。


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スピノザの生涯は、ほとんどアムステルダムとデン・ハーグ間で語り尽くすことができる。


スピノザ―ある哲学者の人生

スピノザ―ある哲学者の人生

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