蒼龍のタワゴト-評論、哲学、認知科学- このページをアンテナに追加 RSSフィード

2006-12-09

進化心理学に疑問を抱く皆様に朗報です、実証研究に基づいた考察本が出ました!

ブランバーグ「本能はどこまで本能か」は生得経験問題に少しでも興味を持つ人にはともかくお薦め。中でもトマセロやエルマンらの本を好むような発達に興味のある人には必読。私は本への評価は厳しい方だと思うが、これは絶賛していい。本能や生得性に関して思弁ではなく実証性から接近している素晴らしい本。これでもう下らない進化心理学話に右往左往しなくて済む。

リドレー「柔らかな遺伝子」も生得経験問題を扱ったお薦めできる本だが、それでも話が発生の域をあまり超えないので生得寄りな感じがぬぐえなかった。胚発生時の環境の重要性も扱われているとはいえ、この本はそればかりじゃない。狭い意味での環境だけでなく広い意味での経験が重要だと言う。メチル化と呼ばれる遺伝子を介さない遺伝の話には従来の進化説に慣れた身には驚きだったし、発達心理学の古典的な実験への批判はかなり辛らつなものだ。例えば有名な模倣実験、赤ん坊の前で大人が舌を出すと赤ん坊も舌を出すという実験。これに対してその後の追試から、口を開いても真似しないとか、舌を出すのは刺激に対するよくある反応だとか、手を伸ばせるようになったら舌を出さなくなるとか、かなり手厳しい。心理学の実験でよく被験者となる生後三ヶ月でも既に何かしらの経験かはしてるんだとか。例えば、心理学実験で赤ん坊が男性の顔より女性の顔をよく注視するのは母親から世話を受けるための進化的適応だって話に対して、父親に育てられた赤ん坊は男性の顔の方をよく注視するのだと実証されたという。ローレンツ以後の動物行動研究*1(心理生物学)での実験から分かるように、鳥のヒナの餌つつき行動のような一見したところ生得的な行動でさえ経験が関わっているし、鳥のヒナが親鳥の鳴き声を聞き分けられるのは孵化前に自分の鳴き声を聞いていたせいだし。こうして生得説に偏りがちな進化心理学モジュール説が叩かれ、発達の視点を持ち込むことで生得/経験の対立を破棄することが推奨されている。文句なしだ。

著者のサイト Blumberg Home Page http://www.psychology.uiowa.edu/faculty/blumberg/blumberg.htm

この本にあった遺伝と発達に関する引用文献を検索したらネット上にあったのでよかったらどうぞ(もちろん英文)
Johnston, T. D. & Edwards, L. (2002). Genes, Interactions, and the Development of Behavior:http://home.fau.edu/lewkowic/web/Johnston%20Psyc%20Review_2002.pdf(PDF)(リンク元http://home.fau.edu/lewkowic/web/readings.htm

難癖つけてるだけの怪しい本じゃないかと疑う生物学の人向けに、この本で褒められている引用文献である表現型可塑性で有名な「発達の可塑性と進化」の著者ウエスト-エバーハードのページにもリンクしときます
Mary Jane West-Eberhard http://www.stri.org/english/scientific_staff/staff_scientist/scientist.php?id=35

ウエスト-エバーハードの進化説に関してはこちらを参照。日本語のブログなのでご安心を。ちなみに電話帳とは「発達の可塑性と進化」のことです http://hodotermopsis.seesaa.net/article/13518353.html

*1:参考のために取り上げられている生物学者を挙げると、D.S.LehrmanやGilbert Gottlieb

スパム対策のためのダミーです。もし見えても何も入力しないでください
ゲスト


画像認証

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/deepbluedragon/20061209/p1

認知科学リンク

生成文法
Noam Chomsky
Ray Jackendoff

認知言語学
George Lakoff
Gilles Fauconnier
Ronald W. Langacker
Len Talmy
Eve Sweetser
Adele Goldberg
Paul Kay

哲学
William Bechtel
Ned Block
David Chalmers
Paul Churchland
Andy Clark
Daniel Dennett
Hubert Dreyfus
Jerry Fodor
Ruth Millikan
Thomas Nagel
Hilary Putnam
John Searle
Wilfrid Sellars
Stephen Stich
Paul Thagard
Evan Thompson
Mark Turner
Tim van Gelder

計算機科学
Allen Newell
Marvin Minsky
Seymour Papert
Terry Winograd
Rodney Brooks

神経科学
V. S. Ramachandran
Joseph E. LeDoux
Oliver Sacks
Francisco Varela
Alexander Luria

人類学
Dan Sperber
Scott Atran
Roy D'Andrade
Edwin Hutchins
Lucy Suchman
Etienne Wenger

心理学
John R. Anderson
Bernard J. Baars
Paul Bloom
Richard Byrne
Michael Cole
Jeff Elman
Howard Gardner
Dedre Gentner
James Gibson
Thomas D. Gilovich
Richard Gregory
Keith Holyoak
Nicholas Humphrey
Philip Johnson-Laird
S. M. Kosslyn
Elizabeth Loftus
James L. McClelland
Andrew Meltzoff
George A. Miller
R. E. Nisbett
Don Norman
Jean Piaget
Steven Pinker
Michael Posner
Zenon Pylyshyn
Barbara Rogoff
Eleanor Rosch
Daniel Schacter
Herbert A. Simon
Linda B. Smith
Michael Tomasello
Anne Treisman
Michael Turvey
Lev Vygotsky

URL変更などでリンク切れの可能性もあり
リストマニア
心の哲学(分析哲学)の古典
認知心理学を理論的に知る

たまに内容を更新することもあります
マニア向け記事
認知科学年表(増補版):英語原典版つき
心の哲学に関する説明(改訂版)
19世紀心理学前史(年表)

随時、改良による書き換えを行なう記事

あわせて読みたいブログパーツ なかのひと