蒼龍のタワゴト-評論、哲学、認知科学- このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-07-07

心理学の概念的混乱は解消できるのか?

しかし、すべての苦闘を経た今、結局私は、心理学心の哲学の制約を免れないと確証している、ウィトゲンシュタインは、そのちょっと気取った文章(「探求」)の一つで、心理学について次のように言う。

心理学の混乱と不毛は、それを「若い科学」とよぶことによって説明されるものではなく、その状態はたとえば初期の物理学のそれに匹敵するようなものではない。…というのも、心理学には実験的方法と概念的混乱があるからである。

実験的方法が存在するおかげで、われわれは自分たちを悩ませている問題を解決する手段をもっていると思ってしまう。問題と方法とは、お互いに関係がないのに。

心の性質と働きに関するわれわれの概念と言語を明確化しうる、そのより好ましい方法の問題を、もし哲学が扱うのなら、明らかにわれわれは哲学と提携していなければならない(どれほどわれわれが、その提携を内密にしておきたいとしても)。心についての洗練された哲学的思考の所産である矛盾とディレンマは、哲学者に対すると同じぐらい、心理学者にもその影を落としている。心の哲学の知に導かれて、われわれが自分たちのデータや実験計画にたどりつくということはあるまい。むしろ、この研究やあの研究を行ない、またこの別の理論を提出するといった場合に、われわれが自分の関心をせばめてしまい、取るに足らないことに足をすくわれそうになる、その取るに足らないことからわれわれを守ってくれるのが、心の哲学の知なのだと思う。

ジェローム・ブルーナ*1「心を探して」isbn:4622030640のp.211-212より

ウィトゲンシュタイン哲学探究」は好きな本だし、いろいろな解釈があることも知っているが、最近になってここに挙げたような問題が心底分かるようになってきた。ブルーナーは心理学者なので、ここで言われている「われわれ」とは心理学者のことだが、認知科学一般にも成立する。認知科学には様々な具体的研究があってそれはそれで好きだけれど、それらの具体的研究をどうまとめ上げればいいのかはさっぱり分からない。それを知りたいとは思うが、現在の哲学者がその任を果たしているとはとても思えない。でもこうした科学の哲学的問題って言うのは、物理学におけるマッハや進化論におけるマイヤのように当の科学者自身が行なうしかないような気もしてくる。哲学者は科学の現場に無知すぎる。まぁだからといって、科学者の側に哲学的問題を語れる素養のある人などめったにいやしないのも確かだが。

*1ジェローム・ブルーナーはチョムスキーハーバート・サイモンと並べられる認知革命の立役者の一人

ぺんぺんぺんぺん 2008/07/24 00:51 そもそも、心理学って科学なんでしょうか?
私は、化学を専門にするものですが、直感的にいって、文科系と思います。
わたしもウィトゲンシュタイン先生は好きです。要は0か1か検証できんものは科学ではないっつーことですよね。
ウィトゲンシュタイン先生は数学から哲学に入っただけあって、理系学徒の気分にぴったりくるところがあります。

deepbluedragondeepbluedragon 2008/07/24 10:29 臨床系をとりあえず脇に置いておいて実証的な検証ができるものに限るとしても、まぁ日本のある種の理系さんからしたら科学には見えないかもしれません。でもcognitive scienceやsocial scienceだってscienceって入ってるしねぇ…あなたの科学観は狭くて英語のscienceとは意味が違うのでしょうね、としか言いようがありません。

「要は0か1か検証できんものは科学ではないっつーことですよね」がウィトゲンシュタイン解釈として適切かは関与しないでおきます(ウィトゲンシュタイン解釈はいろいろあって私にも分かりません)。「理系学徒の気分にぴったりくるところがあります」…ウィトゲンシュタイン好きの社会科学者ってのもよく見かける気がしますが、ここも私は関与しないでおきます。

でもね、もし心理学が科学じゃなかったら、心理学と同じ手法を借りている認知神経科学も科学じゃないことになります。私自身はそれでも別に構いませんが、すべての人がそれを許してくれそうにはないと思います。厳密さに頼った科学観を全般的に用いるとどうなるかは自分で考えてください(例えば古生物学は?気象学だってもしかして?)

deepbluedragondeepbluedragon 2008/07/26 00:02 上の元のコメント主は聞いちゃいなそうだろうから、これは単なるメモです。
(広義の)科学とは何かを知るのに適切な例はスノーボールアース説(地球のほぼ全面が氷に覆われた時期があったという説)だと思います。経験的データによって行なわれるやりとりは科学の醍醐味です。別に科学史から別の例を引き出すこともできるでしょうが、最近の面白い例としてはこの辺りがいいんじゃないかと思います。厳密さだけを科学の定義に用いると問題が生じることは、論理実証主義の時代に既に言われていたことです。何が科学かなんて議論は非生産的です。どうすれば科学たりえるのかの議論こそが重要です。

deepbluedragondeepbluedragon 2010/03/22 23:47 悲しみの向こうさんへ。該当のコメント消しました。書いてしまってから後悔する気持ちはよく分かります。

悲しみのむこう悲しみのむこう 2010/03/25 21:43  本当にありがとうございます。うっかりばっかりの坊やです。私も早く大人になりたいです・

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/deepbluedragon/20080707/p1

認知科学リンク

生成文法
Noam Chomsky
Ray Jackendoff

認知言語学
George Lakoff
Gilles Fauconnier
Ronald W. Langacker
Len Talmy
Eve Sweetser
Adele Goldberg
Paul Kay

哲学
William Bechtel
Ned Block
David Chalmers
Paul Churchland
Andy Clark
Daniel Dennett
Hubert Dreyfus
Jerry Fodor
Ruth Millikan
Thomas Nagel
Hilary Putnam
John Searle
Wilfrid Sellars
Stephen Stich
Paul Thagard
Evan Thompson
Mark Turner
Tim van Gelder

計算機科学
Allen Newell
Marvin Minsky
Seymour Papert
Terry Winograd
Rodney Brooks

神経科学
V. S. Ramachandran
Joseph E. LeDoux
Oliver Sacks
Francisco Varela
Alexander Luria

人類学
Dan Sperber
Scott Atran
Roy D'Andrade
Edwin Hutchins
Lucy Suchman
Etienne Wenger

心理学
John R. Anderson
Bernard J. Baars
Paul Bloom
Richard Byrne
Michael Cole
Jeff Elman
Howard Gardner
Dedre Gentner
James Gibson
Thomas D. Gilovich
Richard Gregory
Keith Holyoak
Nicholas Humphrey
Philip Johnson-Laird
S. M. Kosslyn
Elizabeth Loftus
James L. McClelland
Andrew Meltzoff
George A. Miller
R. E. Nisbett
Don Norman
Jean Piaget
Steven Pinker
Michael Posner
Zenon Pylyshyn
Barbara Rogoff
Eleanor Rosch
Daniel Schacter
Herbert A. Simon
Linda B. Smith
Michael Tomasello
Anne Treisman
Michael Turvey
Lev Vygotsky

URL変更などでリンク切れの可能性もあり
リストマニア
心の哲学(分析哲学)の古典
認知心理学を理論的に知る

たまに内容を更新することもあります
マニア向け記事
認知科学年表(増補版):英語原典版つき
心の哲学に関する説明(改訂版)
19世紀心理学前史(年表)

随時、改良による書き換えを行なう記事

あわせて読みたいブログパーツ なかのひと