蒼龍のタワゴト-評論、哲学、認知科学- このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-08-12

ダメットの言語哲学について(コメント用に書いたものをここに転用)

  • 専門の学者さんのブログ(→こちら)に長々と素人見解を書くのは僭越で恥ずかしいと思ったのでそれはやめたのですが、せっかく書いたのにもったいないのでここに転用します

ダメットの言語哲学は日本語ではめぼしい情報が手に入りにくいのですが、私が今現在おそらくこうではないかと構成したものを書きたいと思います。素人の戯言だとでも思ってお付き合いいただければ光栄です。ちなみに、ここでするのは意味論の話(例えば世界と言語との関係)なので、語用論的な例(例えば含意や命名)は枠外において考えてください。

言語への直観主義的な理解法

ダメットの主張可能性条件*1は正当化条件*2とも言われますが、こちらの方が本質を示した分かりやすい呼び名だと思います。まず、ダメットがこれを主張した基盤となった直観主義数学の話から。数学的命題(たとえばフェルマーの定理やゴールドバッハ予想)は証明によって真偽が確かめられます。数学的命題はすべて(私たちが知らないだけで)真偽が定まっている(つまり証明可能である)と考える方が一般的です。しかし、直観主義の立場はこれを否定します。すべての数学的命題が真か偽かである(つまり排中律が成立する)という考え方を否定するのが直観主義数学です。つまり証明できない数学的命題がありうると主張しているのです。ダメットの正当化条件はここからのアナロジーだと思います。要するにすべての文が正当化可能という訳ではないという主張です。正当化は証明と同じで、それによって真偽が定まります。ある文を正当化できるかどうかは、ある文を主張できるかどうかの条件と同じになります*3。極端な例を出すと、詩的な言葉(例えば「緑の概念が眠る」)は正当化不可能なので(意味論的には)主張できません。

意味を正当化によって理解する

次は意味論の話です。デイヴィドソンの真理条件意味論はタルスキを用いた形式的な議論なので意義を説明するのは面倒ですが、とりあえず真理条件によって文の真偽が定まる*4と考えます。ダメットはそれでは当たり前のことを言っているだけのトートロジーだと批判します(トートロジーにも関わらずなぜデイヴィドソンの真理条件意味論に哲学的意義があるかの説明は省略)。ダメットはなぜその文が真または偽かを問うことが重要だとします。ここで『なぜ』と問うことへの回答が(明示化された)正当化に当たります。ある文が真または偽であると正当化できることが、その文を主張できる条件だとします。正当化には検証が含まれていて、それ以外にも推論も含まれているので、論理実証主義に似ているところもあるかもしれません(ただし反実在論による修正がなされてます)。しかし、正当化においては検証と推論の区別がはっきり付けられるわけではなく、その点ではクワインの分析的と総合的の区別への批判が取り入れられている。だが、すべての文が正当化可能な訳ではない点で前節のように直観主義数学と同じ主張になります。正当化できないことは実在しないのであり、だから過去は実在しない(少なくとも実在するとは言えない)。

ダメット言語哲学への批判

ただしパトナムによると、ある文が真または偽であると正当化できるというのは、数学の証明可能性とは違って無理があると批判しています。確定された証明はありえても、確定された正当化はありえない。真偽の二元論を批判したダメットは正当化の二元論にはまっているのだ*5。ちなみに私の直観では正当化と文脈を結び付けられるのではないかと思っていますが、これは単なる個人的見解なので信用しないでください*6。というか、ここに書いたこと全体の妥当性自体を個々の読者の側でお確かめください(私は責任を持てません)

以上、長々と書いてしまってすいません。少しでも参考になればうれしく思います。

追伸(分子論的言語観について)

これはさらなる推測の範囲に入るのですが、導入規則や除去規則といったものはダメットの分子論的言語観にとって必要なようです。つまり真偽を前提にした数学体系の全体をいきなり想定するのではなく、なされた証明をそのつど体系に組み入れて(元の体系を保存しつつ)拡張させていくというイメージのようです(命題の集まりとしての証明が分子に当たるようだ)。だから、ダメットによる言語の全体論に対する反論は有名ですが、言語の原子論への反論も含みこまれているはずです。

真理条件説と実在論(PDF) https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/1187/4/KJ00000685603-00001.pdf

ただし、この論文ダメットに辛く書かれているので注意。例えば直観主義や分子論への言及はない。

ダメットにたどりつくまで』書評 http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/35066

*1:assertability contition

*2:justification contition

*3:主張可能性条件と訳されますが、主張という言葉には「意見」を言うという含みがあるので誤解されやすい。主張可能性条件とはある文をある場面において言うことができる条件であり、意見を強弁するなんて場面が想定されているわけではない(説得の場合は演繹が用いられる例なので構わないが、意見の一方的な主張だと誤解されてしまうとまずい)。ちなみにダメットは検証主義と呼ばれることもあるが、これは(論理実証主義と一緒にされそうな)誤解を招く呼び方な気がする

*4:古典的真理条件なら世界がある状態ならばその命題は真であること。ただしデイヴィドソンの場合はもうちょっと異なる感じがあるが、それは省略

*5:ただしダメット自身はこれを承知しているようだ。"A justificationist semantics is more difficult to apply to empirical than to mathematical discourse because an empirically decidable statement does not remain decidable as a mathematically decidable one does"Thought and Reality 1996--1997より→訳:正当主義者の意味論は数学的言明に比べると経験的言明に当てはめるのは難しい。なぜなら数学的に確定できる言明のようには経験的に確定できる言明を残せないからだ

*6:一応注意しておくと、分析哲学では文脈主義は言語哲学としてよりも認識論の問題として議論されることの方が目立ちます

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