Hatena::ブログ(Diary)

夜の爪

2019-01-22

「伝えなくちゃいけないお前の言葉で」 19:45 「伝えなくちゃいけないお前の言葉で」を含むブックマーク

昨年末、友達と約束していた。話を聞いた結果、白紙に戻した。

気をつけていたつもりだったけれど、十分ではなかった。もしくは不適切だった。友達が恋人と喧嘩した。原因は俺らしい。12月28日が終わった夜、いつもの焼鳥屋さんが避難所になっていた。

彼女から話を聞いた俺は「ごめんね」と謝った。そんなつもりじゃなかったし、そんなつもりはなかった。だけれど、俺の気持ちは関係ない。大切なのは、相手がどう思ったかだから。友達の恋人は、一緒にお酒を飲んだり遊んだりするのが嫌だったらしい。よくある話だ。そして、たぶん俺はよくある話が好きじゃなかった。お前の知っている誰かと俺を一緒にするな。俺は誰かに対してそう思っているのかもしれない。少し、嘘をついた。本当は、こう考えている。俺は、お前みたいにはならない。会ったこともない特定の相手に対して、そう思っているのだ。

「あのね」

「はい」

「優先順位の話なんだけど。本当に困ったことが起きたとき、俺は大切なことを上から三番目くらいまで考えて、それ以外の全てを無視する」

「はい」

「俺にとって約束はとても大切なことだけど、今回の場合は三番目までに入らない。ご飯食べに行くの、やめよう」

「‥‥はい」

そうして、我々の約束は白紙に戻った。お店の人になんて言おう。後で考えることにした。

「彼に一言謝ろうと思うんだけど」

「謝らないでください。悪くないんだから」

「良いか悪いかって話じゃない気もする」

「謝らないでください」

困った。

29日は昼くらいに起きた。

友達の恋人からメッセージが届いていた。それは、要約すると「言いがかりをつけてすみませんでした。まったく嫌じゃないので、これからも彼女と仲良くしてください」という内容だった。どうしろっていうんだよ!! 地の文で久し振りに感嘆符を使った気がする。状況が分からない、どういう話になっているのだ。

「起きてる?」友達にメッセージを送ると、すぐに「起きてます!」と返事があった。逃げるな、行け。電話した。緊張する。

「彼、酔っていて何も覚えていないらしいです。私は、ネチネチとメッセージを送り続けています」

「だから、返事が早かったのか」

「はい」

心配だから電話した。言わなかった。

「たぶんまだ間に合う。先のことを考えよう」

二人のことを考えよう。お酒さえ飲まなければ。よくある話の、息の根を止めよう。

友達との電話を終えた後、予約していた店に電話した。どうしよう。俺は、意味のない嘘をついた。

「振られました。一人で行きます」

今日も格好悪い、恥ずかしい。そう思いながら。

店長と料理人。二人が俺を迎えてくれた。俺のことをキッチンの方からチラチラと見ては、にやにやしていた。

「深爪さん、振られちゃダメだよ」

笑った。まったくもって、その通りだ。

「料理の写真、送ってください」

友達からのメッセージ。

「嫌がらせになると思ったからやめておこうと思って」

「ならないです! 送ってください」

二枚ほど送った。

「行きたかった! 行きたかった!! 行きたかった−!!!!」

だから言ったのに。

「今の問題が解決できたら、きっとまた誘うから」

「約束ですよ!」

また、約束か。昨日の友達は、俺が驚くくらいに弱っていたけれど、少しは回復したのだろうか。

俺が何かを話したところで、おそらく、彼は俺の話を聞き流すだろうというのが彼女の予想だった。もしそうなら意味がない。そして、俺には謝って欲しくないとも。優先順位の話だ。俺が納得するかどうかは、三番目までに入らない。最優先するべきは。

年が明けた。彼に会えた俺は二つの提案をした。そのうちのひとつに、彼女は抗議した。無視した。とても大切なことだ。意地悪をしたいんじゃない。俺が悪かったと非を認めず、彼の立つ瀬を壊さず、聞き流すという選択肢を彼から奪う方法はこれしか思いつかなかった。

うまくいくかどうかは分からない。それが分かるのは、早くても来年、もしくは再来年だろう。自分なりには、頑張った。

そういうわけで、ちょっと長くなったけれど本題に入ろうと思う。

はてなブログに引っ越します! 今まで、俺の話を聞いてくれてありがとうございました。これからもよろしくお願いします。いや、本当に。俺の話を聞いてくれ! 俺の、話を、聞いてくれーーーー!!!!!!

https://deepcut.hatenadiary.com/

2019-01-20

「何度消えてしまっても、砂の城を僕は君と残すだろう」 19:27 「何度消えてしまっても、砂の城を僕は君と残すだろう」を含むブックマーク

12月10日、友人のMに言った。

「今回の件、俺は首を突っ込まないことにした」

Mからは「私も」という返事。彼女は、ああ、そうだと続けた。

「私もきみに言いたいことがあったんだ。課題図書を交換しない? 本を読んでいたらきみに合いそうだと感じた。送る。でもそれだったら、きみからも何かお薦めを教えてもらおうと思って」

俺のことを覚えておいてほしいとは思わないけれど、何かをしていて俺のことを思ってくれたのだとしたら、それはとても幸運なことだ。俺も、見上げた月が細いとMのことを思い出す。猫の爪、俺じゃなくて彼女が使った言葉。少し考えてから正直に話した。

「互いに本を送り合うという行為は、とても瑞々しいものだと思う。俺の提案は『未来に訪れる瑞々しさ』を放棄するものになってしまうかもしれない。けれど、お互い、タイトルを伝えるに留める形はどうだろう? 俺、あんまり家にいないから本一冊受け取るのも難しくて」

Mは「うん。そうしよう。何か思いついたら教えてね」と。あれから1ヶ月。「これかな?」と思いついた本が二冊ほどあったけれど、読んだのはだいぶん昔のことで、彼女に薦めたいのかどうか確信が持てない。だから、もう一度読んでみようと思う。

2018-12-27

「いったい誰が知っているの? いったい何が教えてくれるの?」 03:27 「いったい誰が知っているの? いったい何が教えてくれるの?」を含むブックマーク

俺のことを「○○ちゃん」と呼ぶ人は限られている。そのうちの一人から電話があった。勤務中、原則として仕事以外の電話には出ないのだけれど、彼からの連絡はそう多くなかった。

「○○ちゃん?」

呼ばれて、少しだけ懐かしい気持ちになった。

「何かあった?」

「××くん、うちの会社に来ているよ」

最初、俺は聞き取ることができなかった。あるいは聞こえていたけれど、彼が××の名前を口にすることを想定していなくて、認識できなかった。聞き直した。

「××くん」

「まじか」

××は元同僚だ。そうか、友達の会社を受けたのか。どれくらいの頻度で発生する偶然なのだろう。友達が代表を務める会社は、まったくの別業種だった、友達は、今回の偶然を面白いと感じたのだろう、だから、俺に電話をくれた。

「今、目の前にいる」

正解か不正解かを別として、俺は自分が正しいと思うことを選択している。試験と同じで、わざとは間違えない。どうするべきか? 話しながら考えていたけれど分からなかった。どうすれば良いのか、判断できなかった。

電話の向こうにいる友達のことを思う。そして、友達の向かい側に座っている元同僚のことを思う。だけれど、それはきっと一瞬だった。それ以上に、二人の家族のことを考えていた。

余計なことをしたくない。邪魔を、したくない。俺は、俺の一言に対して責任を取ることができない。だけれど、だったら、沈黙すれば良いのだろうか。沈黙が正しいのか?

それもたぶん、違う。

きっと俺の異変に気付いた友達に言う。

「話したいことがある。けれど、時間がほしい。かけ直す」

通話時間は1分くらいだった。今、携帯電話を確認して驚いた。1分しか話していないのか。5分後に、友達からもう一度着信があった。

「席をはずした」

友達は勘が鋭いけれど、それ以上に、俺の挙動がよほどおかしかったのだろう。

××が会社を去ることになった理由を、友達に話した。間違っている。俺は人の邪魔を選んだのだ。こっちも、たぶん間違いだ。

「そう、だったんだね」

××は、俺にとってかわいい後輩の一人だった。俺は友達に続ける。差し出がましいと思った。だけれど話した。彼の優秀なところ、彼と働くうえで気をつけた方がよいところ。時間が足りない。話したいことは沢山あった。

「あとは、きみが判断してほしい」

「分かった。仕事中だよね、ありがとう」

友達との電話が終わった。俺は、電話をしながら汗をかいていただろうか? 覚えていない。

deepcutdeepcut 2019/01/04 09:16 12月29日、友達から電話があった。
「今回は、不採用という形にさせてもらった」
「そう、か」
「うちの会社、結構なお金を使って身辺調査するのね。だから、○○ちゃんが教えてくれなくても、たぶん」
「うん」
「教えてくれてありがとう」

2018-12-09

「しょうがないけど笑いながら、追い出さないで暮らしてみる」 06:27 「しょうがないけど笑いながら、追い出さないで暮らしてみる」を含むブックマーク

11月25日の日曜日はお休みだったが、少しだけ会社に行った。週末、色々なものをぶん投げて帰ったから。1時間もあれば終わるだろう、パソコンを開いたとき同僚のRからメッセージが届いた。

「家っすか!」

「ううん。今、会社ついたとこ」

「現場っすか!?」

「いや、明日の準備」

中華料理屋さんと焼き鳥屋さん、どっちがいいですか!」

飲むことは決まっているのか。笑った。

後で話を聞いたところによると、日中、Rはゲーム仲間と遊んでいたらしい。彼はそのままお酒を飲みに行くつもりだったが、ゲームが盛り上がってしまい、酒の席がなくなった。お酒を飲む気になっていたRは、代わりというわけでもないけれど休みである俺とMさんに連絡を取った。なるほど、よく分かった。なお、Mさんからの返信は、我々が一緒のときにあった。

元々、明日の準備が終わったら焼き鳥屋さんに行こうと思っていた。明日は早い、7時に起きなくてはならない。普段夕方に起きる俺にとっては、早起きである。Rは気兼ねなく話せる同僚であるし誘ってくれた彼の気持ちもある。Rじゃなければ、断っていたかもしれない。

携帯電話は引き続きブルブルと震えていた。無視して準備を終わらせた。

テーブル席で酒を飲みながらRとモンスト。このゲームを、我々は比較的真面目にやっている。2年か3年。そして、彼はモンストの師匠だった。彼の技術には届いていないけれど、ゲームについて話し合うくらいのことはできるようになった。

途中、カウンター席にKさんが座った。昨年の7月、深夜に連絡してきた友人である。軽く挨拶を交わす。その後、Cさんも店に来てカウンターに座った。彼女の挨拶も最小限だった、いや、素っ気なかった。「ミックスをやらずに遊んでいるのか!」違う。そんなことを思う人じゃない。

「みんな友達ですか?」

「うん、みんなじゃないけど」

俺はRに二人を紹介した。

彼がトイレに行ったとき、Cさんが話しかけてきた。

「私のこと、会社の人に知られたら駄目なのかと思っていました」

彼女だけではなく、二人とも、どうやら気を遣ってくれていたらしい。だけれど、誰かに何かを知られて困る関わりが俺にはなかった。

「Rは、俺たちが音楽やろうとしていることも知っているよ」

会計を済ませ、Rと店を出た。彼は、そのままネットカフェに行った。まだ電車がある時間だったけれど、今日は家に帰らないらしい。色々あるのだろう。

家に帰ってコーヒーを飲んでいるとCさんから着信があった。1時22分。珍しい、初めてじゃないか、なんだろう。

「あの、とあるヤカラがですね。家を知らないとしょんぼりしていまして」

「だから、隠していないってば」

「お酒買いました。飲みましょう」

「待て。待って。家は無理だよ。本当に無理なんだ。君たちがという意味じゃなくて、例外なく無理なんだ」

「家の前でいいから飲みましょう」

「明日、俺、早い」

「何時ですか? 私たちは休みです」

「7時。嘘じゃない」

「早っ! もうすぐ着きます」

俺はジャージのまま上着を羽織り、外に出た。

桃の缶酎ハイをおごってもらった。アパートの前にある公園で飲む。寒い。話の流れでCさんの家に行くことになった。俺はもう、学生のような飲み方をする年齢でもないのだが。彼らの後を付いていった。

「Cさん、こんなことは言いたくないのだけれど、こんな夜遅くにだね」

「相手は選んでいます」

そうかもしれないけど」

「選んでいます」

あまりにピシャリとしていて、笑ってしまった。

「彼ら」は、この日記を読んでいない。だから正直に書こうと思う。

この夜、本当はCさんと話がしたかった。音楽の話。

もしかしたら店に来るかもしれないと思っていた。だけれど、Rが俺を誘ってくれた。どんな事情があったにせよ、せっかく誘ってくれたのだ、音楽のことを一度忘れてRとゲームを楽しもう、そう思った。Cさんはお店に来た。それはそれ、これはこれであった。Rと別れて店に戻るという選択肢もなかった。今日はそういう夜だ、俺が決めたから。

Cさんから電話があったとき「人の気も知らないで」と笑った。身勝手な物言いではあるけれど、そう思った。

俺は好意を隠さない傾向にある。自覚している。だからといって、彼らが俺の考えを察したとは思えない。彼女が俺に連絡してきたのは偶然だろう。そうだ、Kさんはこの日、電話をなくしていた。

Kさんも、俺にとっては大切な友人である。俺は、音楽の話をしなかった。三人で話したい内容を選んだ。たとえば、服の話。俺が服の話をするということ。俺のことを知っている人はどう思うだろうか。越川くんとしたことはある。が、それは参考にならない。

Kさんを一人残して先に帰るのもいかがなものか。彼らは俺の帰りたいオーラをしっかりと感じていた、解散したのは午前4時くらい、良い友人を持った。お前ら、覚えてろよ。

次の日、俺は寝坊しなかった。

後日、カウンターでKさんと一緒になった。

「こないだは、やってくれたな」

「何のことでしょう」

「忘れたとは言わせない」

「違うんですよ」

Kさんは、俺の勘違いを正した。俺は、KさんがCさんに電話を掛けさせたと思っていた。彼は電話を持っていなかったし、Cさんからの電話だったら出ると予測して。そうではなかった。

「夜も遅かったし、ほら、一応Cちゃんを家まで送ろうと思ったんですよ」

「うん」

「で、歩いているときに家を知らないって話になって」

「うんうん。隠していないけどね」

「Cちゃんが、私知っていますと」

「ん?」

「案内しますと言わんばかりで」

「う、うん」

「せっかくだからお酒を飲みましょうという話になって」

「……」

「家の前で乾杯して終わると思っていたんですけど、まさかあーなるとは」

「……」

主犯は、二人いた。

2018-12-06

「少しだけ平気な様子でいよう」 22:21 「少しだけ平気な様子でいよう」を含むブックマーク

午前3時頃に仕事を終えて、一度家に帰る。4時を待ち、バス停に向かう。羽田へ。たまには帰れと組まれた北海道出張。新千歳空港に到着したのが8時すぎ。機内では寝なかった、少し、眠い。

外で煙草を一本吸ってから電車に乗った。「快速エアポート特急じゃないから普通乗車券OK」という内容のアナウンスが流れている。席が空いていた。座る。向かい側に座った男の子は三人組だろうか。「長旅になるね」と言っていた。どこへ行くのだろう。一席空けた端に、もう一人の男。彼が厄介だった。

南千歳か、千歳か。忘れてしまったけれど何人かの客が新たに乗る。俺の右隣には女性が座った。眠ったら小樽に行ってしまうかもしれないと考えた俺はブラック・ラグーンの11巻を読んでいた。読み終わったので、ドリフターズを1巻から読み返した。

「ちょっといいですか!」

突然、隣の女性に男が声を掛けてきた。声は、だいぶん大きい。何事だ? 恐らく眠りかけていたのだろう、彼女は驚いていた。向かい側の端に座っていた男だと分かったのはしばらく経ってからである。男は、おそらく20代半ばから30代前半、格好は比較的いかつい。話している内容が若干支離滅裂で、目的が分からない。ナンパのような感じもするし、そうじゃない気もする。以下は原文ままではない。

「昨日、埼玉スーパーアリーナで××のコンサートを見てきてですね。××の電話番号知りたくないですか? 向かいに座っている彼が、あなたのこと好きなんです。彼と連絡先を交換してください」

酒に酔った感じではない。少なくとも、俺の知る酔っぱらいとは異なっていた。彼女は、やんわりと拒絶の意思を示していた。そりゃそうだ、なんなんだ、この人は。男は女性の前に立ったまま、お構いなしにしゃべり続ける。

タブレットをしまった。昨日の夜から働いている。うっすらヒゲが生えているし、煙草の匂いがするだろうし、ビールも二杯くらい飲んでいるし、可能であれば誰も俺には近寄りたくないだろうなという自覚はあった。だけれど、ほんの少しだけ、女性の方に身体を近づけた、お互いの腕が触れるように。普段だったら、絶対にしない。不愉快だろうから。想像通り、彼女は震えていた。彼が目を離した隙を狙い、腕で合図し、女性に携帯電話の画面をみせた。メモで打った文章。

「たぶん、襲ってはこないと思う」

画面を見た女性は小さくうなずいた。薬物だろうか? 朝っぱらから? いや、昼も夜も関係ないか。男はリュックからリストバンドを取り出し、女性に無理矢理渡した。

「コンサートで買ってきたんですよ。あげます。一生大事にしてくださいね。とても良いものだから」

「そんな大切なもの、いただけません。お返しします」

「いいんですいいんです。名前はなんていうんですか? そうですか、答えたくないですか。いいんですいいんです」

電車は動いている。前には男が立っている。逃げ場がない。彼女は、男を刺激しないように気をつけているように感じられた。俺はもう一度画面をみせた。

札幌まで?」

首肯がもう一度返ってきた。二択。

仮に「お嬢さんが嫌がっているじゃないか」と言い、男の首根っこをつかまえて女性から遠ざけるとしたら。パソコン、壊れたら嫌だな、買ったばかりなんだ。眼鏡。眼鏡くらいだったら構わない。やるなら、停車する直前。じゃないと、他の人たちにまで飛び火してしまうかもしれない。被害の範囲が読めない、また、俺が自分の荷物を抱えた状態で男をつまみ出せるかどうかも微妙なラインだった。もう一つの方を選んだ。こっちの方が穏やかだ。怖いと思うけれど、もう少しだけ。

札幌駅の手前、苗穂をすぎたあたりで俺は席を立った。男は、女性の正面から左手前に移動していた。俺は、男とも女性とも目を合わせていない。棚の上に置いていたジャケットを着て、ふぁっきゅんトートを肩に掛ける。次で降りるから準備を早めに始めたように。男は俺の背後にいる。座っている彼女と立っている彼の間に、俺はいた。ライブの時は「無駄に大きくてすまん。ステージ見えにくいよね」と申し訳ない気持ちになっているけれど、この時だけは俺の横幅が役に立つはずだ。俺が立ったことで、彼女の左隣が空いた。男は向かい側に座っていた三人組の一人に声を掛ける。

「空いたよ! 席空いたよ! 彼女の隣。座りなよ!!」

今なら分かる。彼らも、おそらく巻き込まれたのだろう。動きはなかった。

「なんだよ、照れてんのかよ」

男がそう言ったかどうかは、覚えていない。覚えていないが、彼は女性の隣に座った。大丈夫、予定通り。その方が話しかけやすいよね。もうすぐ札幌駅に到着する。女性が席を立つ。俺は彼女の後ろを歩いた。男と女性の間にいる状態を常に保つ。

女性が降りてから俺も降りた。もう一人、心配していたサラリーマンがいた。リストバンドは彼が処分してくれた。我々が右と左を固める形になった。男は、付いてこなかった。

電車が走り出してから彼女に声を掛けた。

「怖かったね」

「はい‥‥」

「ありゃ怖いわ。早く忘れた方がいい」

「はい。ありがとうございます」

「俺、●●までだから。それじゃあね」

「本当にありがとうございます」

笑うの、あんまり得意じゃないけれど。笑って手を振った。じゃあね、バイバイ。

荷物をおろしてしまえばこっちのもんだ。もしも男が付いてきたら「ここは俺にまかせて先に行け」作戦に切り替えるつもりだった。煙草を一本吸って、俺は次の電車に乗った。札幌駅構内には、まだ喫煙所がある。最寄り駅から実家までの帰り道、青空の下、雪が降っていた。

寝て起きて夜。俺は蝦夷天酒場 夢助に行った。店主の真大さんは、元テキヤ。年齢は俺の七つ上、だろうか。店内は潔いまでに右寄りで、天ぷらがおいしいのに食べられるとは限らない面白い店だ。料理の腕は確か。おでん、姫ほっけ、卵焼き。全部おいしかった。普段は飲まない焼酎のお湯割りを頼む。俺は、麦よりも芋の方が飲みやすかった。酒々しくない。

「真大さんみたいにはできなかったけれど」

「頑張ったね」

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2018-12-04

これくらいやっていい 05:20 これくらいやっていいを含むブックマーク

本編よりも先にあとがきを書いて公開するような、そんな幼稚な行為かもしれない。

だけれど、どうしても書きたかった。それくらいに彼の音楽は、彼の言葉は、鋭かった。

やってみたいと思いついたのがいつなのか、正確な記録は残っていない。おそらく、ふぁっきゅん夏の陣2018のどこかであるとは思う。

8月13日(月)

友達のCさんに「話したいことがある」と連絡した。お互いのスケジュールを調整し、25日に焼き鳥屋さんで待ち合わせる。ここは、彼女と知り合った店だった。

「歌ってもらえないだろうか?」

どうやってお願いしよう、どういう順番で話をしよう。まとまらなくて、結局、順番通りに話した。

「いいっすよ」

即答。

9月24日(月)

久し振りに、越川くんとお酒を飲む。楽しかったし、嬉しかった。冗談を口にすると応えてくれる。彼は、親切な人なのだ。KちゃんとJくんの話は別の機会に。忘れないよう、メモを残す。

「いじわるで速く叩いているのかと思った」

小節をまたいでしまうから」

「分かった。たぶん、読んでほしいんじゃなくて読んでいいよって意味だ」

これで大丈夫。越川くんとは、真面目な話もした。

「あのね、録音にチャレンジしようと思う」

「うん」

「君にお願いした方が確かだということは分かっている。でも、それは違うと思う」

「うん」

「本当は、君に音源を送りつけてしまえばいい。そうすれば、とても簡単だ」

「送る方は簡単かもしれないけれど!」

君を頼る日があるなら、それはもっと先に訪れる。今じゃない。その時、俺はそう考えていた。

名残惜しかったけど、次の日、俺は日勤だった。彼もきっと仕事があるだろう。

「ありがとう、じゃあ、またね」

彼は、駅まで送ってくれた。駅の名前、思い出せない。行けば、きっと分かる。

9月27日(木)

Cさんと打ち合わせ。この時の話は、日記に書いている。

付け加える点があるとすれば、彼女が恋人に話をしていなかったということだ。後で知った。俺だけの感覚がずれていた。誰かに内緒話を押しつける行為は、可能な限り回避したい。軌道を修正する。

10月8日(月)

スタジオを借りて録音の練習をした。2時間があっという間にすぎた。準備にどれくらい掛かるのか。技術と経験以外に足りないものはないか。初挑戦なので下調べを兼ねた。

10月12日(金)

Cさんは勘を取り戻すために自主練を行った。

「思いのほか弾けなくなっていました。やべえっす。15日も練習することにしました」

スタジオを後にした彼女はそう言った。

10月14日(日)

8日と同様、一人でスタジオに行った。3時間。

宅録が可能であればそれが一番良いのだけど、俺の部屋は世界の終わりに近いレベルで荒れ果てているし、彼女の部屋はなるべく使いたくなかった。隣人問題もある。俺のアパートには俺しか住んでいないけれど、彼女の家はそうじゃない。

10月15日(月)

翌日の16日は休日申請を出して休みを確定させていたのだけれど、上司の心遣いで前日も休みになった。この日はCさんが2回目の自主練を行う日でもあった。

「そのへんをうろうろしていても邪魔じゃないなら、君が弾いているところを試しに録音してみてもいいだろうか?」

「うろうろOKです!」

そうか。一人で集中したい人もいるに違いないと案じたのだけれど、彼女は平気らしい。言葉通りに受け取り、甘えることにした。スタジオ代も、二人で払えば安くなる。俺はピアノが弾けない。二回行った録音練習は「猫踏んじゃった」で、音の数とか強さとか、不安要素しかなかった。

10月16日(火)

5時間。本来は、ピアノと歌の両方を録音する予定だったが、歌は次回ということに。

「せっかく休みを取ってくれたのだから」

彼女は何度そう言っただろう。何一つ気にすることはない。問題ない。俺は、Cさんが少しだけ怖かった。本人にも伝えた。そうか。集中している時、こういう表情になるのか。素敵だった。

「追い詰められていただけです」

彼女はそう笑ったけれど、本当にそうだろうか。Cさんと別れた後、俺は「たぶん間違えた」とつぶやいている。このことも、日記に書いている。

10月21日(日)

音源と感想のやりとりを幾度となく行っていたが「メッセージのやりとりでは伝えるのが難しいところがある」と言われた。焼き鳥屋さんで30分程打ち合わせ。

「二箇所あったんですけど、一箇所はもう直っている。直しました?」

「分からない」

「直しましたよね?」

「わ、分からない」

思い返せば、彼女との会話がきっかけとなり、俺の去年の目標は定まったのだ。知ったかぶりをしない。正直に答えた。

11月19日(月)

歌を録音。3時間。こちらは、ほぼ予定通りに終わった。おまけというわけではないけれど、彼女が演奏している姿も一度だけ録画した。

「も、もう忘れました。転調後、分からない!」

俺の姿も入り込んでいた、どのみち、本編では使えない映像になった。

「おなか、すいた!」

「ご飯を食べよう」

そうして、ピアノと歌の録音が無事終わった。肺と腎臓が痛かった。「俺多分長生きできない」siriに話しかけている。今は、大丈夫。

11月27日(火)

日勤。仕事が終わって、あーでもないこーでもないと音源のミックスを続けた。一応は形になった、と感じた。ピアノも歌も細かいところを含めると、それぞれおそらく10回以上触っている。俺が唯一断った編集は、ピアノの音量調整だった。小節単位で強弱をつける作業を俺は拒否した。「技術的にも心情的にもやりたくない」Cさんに伝えた。

24日、奇しくも俺は「感想を求めること」について考え、さらには他の方を巻き込んでいる。順番が逆だ。他の方を巻き込んだ後に、俺は感想を求めることについて考えたのだ。その節は、ありがとうございました。

俺の考えは変わっていない。感想とは、原則として善意が形になったものだ。つまり、感想を求めるという行為は善意を求める行為に近い。

だけれど、越川くんは俺にとっての例外だった。

彼だけは、別なのだ。何をしても良いという話ではない。そうではなくて、だけれど、別なのだ。

俺は、越川くんに音源を送った。

それは「できた!!」という報告ではなく「どう思う?」という問いだった。

「聞いた。ミックス前の音源はある?」

俺がどれくらい触ったのか、比較するためなのかなと最初は思った。違った。2時間後、音源が届いた。彼は、最初からミックスしてくれたのだ。

「これくらいやっていい」

その時は至らなかった言葉、今、思い浮かんだ言葉。それは、絶句だった。俺が遠慮して触れなかったところを、彼は容赦なく触っていた。

「どうやったらこうなんの?」

「知らないけど、適当に選んでいって」

越川くんからのプレゼントは二つ。一つは、音源。もう一つは言葉。そこから生まれたすべては、俺のものだ。彼が言ったわけじゃないし、どう思っているかなんて分からない。

「何、遠慮してんの? びびらなくていいよ」

繰り返す。これは俺の言葉だ、彼の言葉ではない。俺は遠慮していた。Cさんも越川くんと同じ音楽の人だ、俺は違う、びびっていた、逃げていた、俺は意見を言っていない、何も、言っていない。彼だって暇じゃない。「いや、時間があったから」と言うかもしれない。仮にそうだとしても持て余しているわけじゃないだろう。それなのに、やってくれた。

こんな形の応援を、俺は誰かにすることができるだろうか。厳しい人だとも思った。右辺を提示する、左辺はがんばれ。

「できるよ、がんばって」

とても嘘くさくて恥ずかしいのだけれど、事実だから書き残す。俺は越川くんのミックスを何十回と聴いた。笑った。なんだよ、これ。笑った。昔、とある人に言われた言葉。「そういうふうに笑うところが嫌い」分かっている。やってやる。

悩んだ結果、俺はCさんにも越川くんの音源を送った。伏せておくことが卑怯だと思ったから。俺は、きっとここにたどり着けない。関係ない。

12月1日(土)

俺は、Cさんと越川くんに音源を送った。

「越川くんみたいに格好良くはならなかった」

迷いもあった。これでいいのか? 合っているのか? 分からない。でも、答えてくれる人たちがいる。向き合ってくれる人たちがいる。彼女と彼、二人から返信があった。俺は、恵まれている。

12月4日(火)

夜勤。昼、Cさんと打ち合わせを行う。

そしてきっと、越川くんに聴いてもらう次の音源はギターが加わったものだ。公開する音源。二人を巻き込んで、できるだけのことをやって、仕上がった音源に俺のギターを加える。それは、今までの時間を台無しにするようなものになるかもしれない。それで良いと思っている。最初から決まっていることだから。Cさんにも伝えている。

チューニングだけはさせてください!!」

俺は、彼女の悲鳴に応答しなかった。キッズ達に届いて欲しいと思って今日を迎えた。下手くそな人が関わっても良いのだということを、俺は伝えたい。

薄々気付いていたことではあるが、ここ数ヶ月、Cさんとは毎日のように連絡を取り合った。共有した時間も、合算すると恐ろしい。彼女は録音が終わった日に「次は何をやりましょうか」と言ってくれた。迷ったけど、これも言葉通りに受け取った。あなたとやる音楽は面白かった、そんなふうに言ってくれた気がした。にわかには信じがたいが、決めたことだ。そのまま受け取った。さあ、次は何をやろうか。実現するかどうかは、分からない。何より、まだ終わっていない。

夜だったか、朝だったか。忘れてしまったけれど、夢をみた。病院。入院している彼女に音楽を聴いてもらった。イヤホン。「頑張った」彼女は感想を言ってくれただろうか、覚えていない。「違う。そういうんじゃない。友達なんだ。俺、友達がいるんだよ」彼女は、どんな表情だっただろう。

2018-10-24

「くわえ煙草の煙が、ちょっとしみたみたいに」 21:26 「くわえ煙草の煙が、ちょっとしみたみたいに」を含むブックマーク

「諦める」という言葉に「決めつける」という言葉を紐付けることが多い。

つまり、諦めた人に対して「決めつけるのはまだ早い」と抗議することが多いという意味だ。なんだかそう言う俺自身が何かを決めつけているような気がしないでもないけれど「たぶんまだ終わっていない」と意見し、そして、どうして終わっていないと思ったのか、その理由を伝える。

「諦める」のすぐ近くには「知る」という言葉もある。

「決めつける」と「知る」は、俺の感覚では、ほぼ正反対の意味を持つ。決めつけるのは知らないからだし、知っている人は決めつけない。

これ、仏教の話か?

俺は、諦めたのかもしれない。仕事の話ではない。人との関わりの話だ。

どうにもならないと決めつけたのか。それとも、知ったのか。

思えば、とある友人から「決めつけない方がいいよ」と助言されたことがある。その時、俺は肯定も否定もしなかったけど実は「いやあ、でも無理だろ、これ」と思っている。

これも、前に書いたかもしれないけれど、俺は抗う人が好きだ。憧れている。

物語シリーズの阿良々木くんも、ピーチボーイリバーサイドホーソンも抗っていた。無理ゲーをひっくり返してきた。大好きだ。

いやあ、でもなあ。