天帝の愛でたまう孤島

内容(「BOOK」データベースより)

古野まほろが所属する、勁草館高校吹奏楽部と生徒会は、文化祭で演劇を共演することに。しかし、通し稽古のため渡った絶海の孤島で、その脚本に登場する怪人が現実に暗躍し、メンバーを密室で殺戮し始める。台風に見舞われた孤島。神出鬼没の殺人鬼。生き延びるために。大好きな人を守るために。まほろに用意されていた悲しすぎる衝撃と絶望とは。


 このシリーズは一冊が厚く、また最近は350ページくらいでもちょっと長いなあと感じてしまうようになってしまったのにその倍の700ページ近くもあるので、最初は中々終わりが見えないから、つい他の本を読んでしまいがちで、読むペースもあがらなかったけど基本的に読みやすいから、読むペースが一度調子づけばあっという間に読み終えることができる。あと、いつもどおりといえばいつもどおりだのことなんだが、ミステリー作品で真相に全く触れずに感想を書くのは無理なので、以下ネタバレ有りです。
 主演出演者(登場人物紹介)のページでの峰葉実香の『公式ヒロイン、カバー出演率と支持率が比例しない。』という説明には思わず笑ってしまった。
 P152-3で献本されて、探偵小説の重箱の隅をつつくような輩への毒舌は、著者の本音というか著者自信の毒も混ざっているだろうという文章なので、その勢いには思わず少しひいてしまう。
 宮前が持っていたチョコがおクスリだというのはわかったけど、その彼女は早々に退場したというのもあり、果たしてそうした学園に蔓延するクスリという事情はこの事件とどうつながるのかについて結局探偵が推理を開陳するまでわからなかった。というか、さっぱり推理に頭をめぐらしていなかったというほうが正しいと思うけど。
 なんかピラニアが普通にいて、それなのに小さな船を使って館に渡らなければいけないという島で変な風土病もあるのにどうしてリゾートにするという考えが浮かんだのか非常に疑問というか、それで利益が出るとは思えなかったので、なぜ栄子たちにそんな考えが芽生えたのか疑問だった。しかし最後まで見ると、それが単なる方便だったことがわかる。
 はじめの2つの事件が発覚した時の状況が本当に不可能だと思えたので、最初から推理するのに高いハードルというか壁にぶち当たったので最初から推理しようと思わなかったので、事件が進むにつれていよいよ人間業とは思えなくなり、果たしてこれをどう収拾つけるのか気になったが、超常的現象をつかわずそういうからくり(大勢の人間の共犯、本当の計画を知っているか否かという違いはあるが)という真相だとは思わなかった。しかし「死神仮面」という一つのキャラクターということに騙されたので、てっきり単独犯だと思っていたので、共犯という可能性にすっかり目を瞑っていたなあ。ミステリーで共犯が真相というのは実際あまりない印象があるから、単独犯なのだと決めつけていたわ。よく考えれば、あからさまに一人じゃ無理な状況だといっていて、しかも「死神仮面」という入れ替わっても気づかない装束を纏っているので、真相解明後に改めて思い返すと共犯だということくらいはわかるはずなのに最後まで共犯と思っていなかった事実には赤面してしまう。
 あと探偵だから当然すぎて改めていうべきことではないのかもしれないけど、「まほろ」はめちゃくちゃ頭のめぐりがいいなあ。今回は連続殺人について不可解な印象だけが大きくなっていくばかりだったので、推理で披露してくれる彼の能力のすごさがより理解できた。
 秘められた宝については、童謡(今回はオラショだが)の解釈というのは考えるのも難しいし、探偵が推理してその意味が明らかになっても、ふうん、そうなんだとしか思えないなあ。またその宝の価値が98兆という天文学的で、意味の分からない数字なので本気にしていなかったというのもあるが、まさか本当に宝があるとはミステリーなんだからそういう話はどこかしら回収するとは思っていても、ちょっと驚いた。
 芹野が、なぜ屋敷の構造をそんなに細かく知っていたのかとても疑問に思っていたが、前の所有者と知己で彼から麻薬を受け取っていたという付き合いがあったと思いきや、真犯人らの操り人形で、彼女らから知らされていたのか。
 しかし今回は全く犯人だと疑いもしなかった人たちが真犯人だったので、驚いたなあ。こうしたキャラクターが立っているシリーズ物で、それまでレギュラーで仲間だった吹奏楽部の面々という、絶対にありえないと思えるような人物たちを犯人にすえてくる柔軟な発想にはおそれいる。しかし、相変わらず著者は「まほろ」に、というか探偵に厳しいなあ。徹底して道化を演じさせる、今回は「まほろ」が哀れな道化じみた役割をロールさせられていることをハッキリ感じさせられた。
 4、5章の実香視点での「まほろ」のねじくれているが、まっすぐな(絶対の「正しさ」という存在しないものを信じるあまり歪まざるを得ない)気質と、火のような激しい一面、そして5章での彼の激しい怒りは目をひきつけられ、彼の魅力が彼視点よりも良く伝わってくる。そして、その彼の悲痛な叫びには深い同情を抱く。
 しかし彼女らが犯行に及んだ理由を知ると、そのために何人も殺し、この殺人劇の舞台・脚本を作ったのかと思うと、彼女らもやはり普通とはかなり違う特殊な人間たちなのだということを改めて実感させられる。