ソードアート・オンライン オルタナティブ クローバーズ・リグレット

内容(「BOOK」データベースより)

戦巫女のナユタと忍者のコヨミ。“アスカ・エンパイア”で仲良くなった二人の少女は、ゲーム内で不思議な法師ヤナギと出会う。その老僧侶は、とあるクエストの“謎解き”を“探偵”に依頼したいという。しかもその報酬は一〇〇万円。法外すぎる値段に驚く少女二人だが、その奇妙な依頼を受ける“探偵”も負けず劣らず奇妙な青年だった。ステータスボーナスは“運”に“全振り”―つまりバトルは最弱、しかしレアアイテムドロップ率最強のトリッキーなプレイヤーで…。最先端VRMMOの世界で、少女二人を引き連れた“胡散臭い探偵”による“謎解き”が始まる。

 ネタバレあり。
 ソードアート・オンラインの外伝。こうして別の作者によるスピンオフが展開していくのは珍しいし面白いな。世界観になじみがあるから、原作のキャラクターが登場しなくても読みやすくていいね。ナンバリングついていないが、今後続刊はでるのだろうか。
 かつて絶剣ユウキもやっていた和風ホラーな世界観のVRMMOアスカ・エンパイアが舞台となった物語。
 主人公のナユタとコヨミがVRMMO内で道に迷った老人ヤナギ氏を目的の場所である三ツ葉探偵社まで連れて行く。ヤナギ氏は三ツ葉探偵社の探偵、プレイヤーネームクレーヴェルに依頼があってきた。
 クレーヴェルはそうした看板で運営から観光業として許可を貰い、VRMMOはどんなことをやれるのかというのを、そうしたものに詳しくない企業の方々に案内し紹介するという仕事をしている。ヤナギ氏の依頼は百物語というユーザー制作で投稿されたクエストの一つであり、いまだクリア者のいない新規クエスト・幽霊囃を1週間以内にクリアしたいというもの。ヤナギ氏が述べたその依頼料の成功報酬の高さに、コヨミは思わず自分たちが手伝うからそんな依頼しなくてもと口を出す。
 探偵はそれなら土日は私は事前調査として同行しますが、彼女らに任せて、それでクリアできなければ改めて依頼するという形にしてはと提案する。
 ヤナギ老人がVRMMOで若いころのように普通に歩けることが楽しいと思い、それで現実では身体を動かせない人も自由に動けて、好きなことをできる。そうしたVRMMOが与えてくれるものをしみじみと感じているのがいいな。
 そしてこの4人でクエストを攻略しにかかる。しかしそのクエストで亡くなった知人やペットを見るという現象が起こった。同日に別の人がそれを見てクエスト中に気絶し救急車に運ばれたことで、そのクエストは配信停止となった。
 病院にいるヤナギ氏にあって、幽霊囃はヤナギ氏の亡くなった孫である清文が作ったクエストだということを知る。それだから終末期医療を受けているヤナギさんは、高額な依頼料をだしてまで早期クリアを願っていた。それだからヤナギ氏は再配信まで待つのことのできない。
 そこでクレーヴェルは以前から運営との取引があるので、その伝手を使って、このクエストの安全性の検証を請け負う。そして依頼者であるヤナギ氏やナユタ、コヨミを雇ったという形式にして、4人で再び幽霊囃に挑むことになる。
 挑む前にこのクエストの話を運営の人としていると、幽霊囃にでてきた友好的NPCである狐面の少年を運営が把握していないことがわかり、新たな謎が生まれる。元々アスカ・エンパイアはホラーテイストのVRMMOだが、幽霊囃というクエストはVRMMOながら運営も把握していない2つの謎があるということで本当にホラー感もでていいね。
 製作者の清文氏は、スリーピング・ナイツ(ユウキが所属したグループ)のメンバーだったのか。
 幽霊を見させる夢で何かあった時に運営はどう責任をとるべきか尋ねた探偵に対して、ナユタは運営側がこの会話を聞いていて、それを彼女(プレイヤー)の口から聞かせようと思っていると気づく。そして『リスク、リスクといいますけれど、その程度のリスクは……”ユーザー投稿のクエストを採用する”リスクに比べたら、誤差の範囲でしょう。故人の遺志を守るためにも運営が甘受すべきであって、その覚悟すらないなら、こんなイベント自体、やるべきじゃありません』(P301)とはっきりと言っているのがいいね。
 クリア後のナユタと探偵の会話。探偵が『いずれ必要があれば相談に乗るよ。(中略)君なら知り合いのちゃんとした企業にも推薦できそうだ。少なくとも損はさせない』(P302)というセリフは、クレーヴェルが彼女の亡き兄と友人だったという事情を知っていると、なんかいいなと思える。こうした相手が知らずとも、何かしらの縁がある相手に助力しようとするのは好き。
 そしてヤナギ氏は、孫が残した最後のメッセージを読むことができてよかったね。
 ヤナギ氏の葬儀に参加したクレーヴェルとナユタの会話。そこで彼はナユタの兄との親交を告白し、共に墓地に赴く。その日の会話もあって、主人公も一つ吹っ切れる。そのラストで明らかになったナユタの闇には驚いた。
 テスターとなってのクエストの謎を解くという展開も面白かった。クレーヴェルの仕事やヤナギ氏のリアルの事情など現実世界とVRMMOの関係が書かれている。
 そうしたVRMMOが物語の舞台となっているが、現実の物語とつながっている感じもいいね。普通にゲームとして別世界で遊び、そこで関係性を作っている物語もいいけど、こうしたものもいいよね。