昆虫はすごい

昆虫はすごい (光文社新書)

昆虫はすごい (光文社新書)

 kindleで読む。 
 さまざまな昆虫の変わった生態を知ることができて面白かった。しかし虫の写真がいっぱいあるのは、アップでそうしたのを見るのは苦手なのでそこはちょっと辛かったけど面白かった。
 現在知られている昆虫だけで百万種以上で、『研究者によって見解が異なるが、少なくとも既知の二〜五倍の種数が実際には生息していると考えられている。』(N135)そして日本でも現在発見されている昆虫の『約同数かそれ以上の未知種が残されているとされている。』(N144)日本でもまだ発見されていない種がそんなに多いとは知らなかったので驚いた。
 昆虫の特徴は飛ぶことと変態すること。『九九%の昆虫(なかには進化の結果として翅を失ったものもある)は飛翔を行い、八〇%以上の昆虫は「完全変態」を行う。』(N189)
 昆虫は飛ぶことで生活圏を広げ、『この移動によるさまざまな生活環境への移動と適応が多様性の引き金となった。』(N204)
 植物と昆虫の関係。『被子植物は一億数千年前に出現し、その生態的な優位性から瞬く間に地球上を覆いつくすようになったが、それとほぼ同時に昆虫も爆発的に多様化した。
 その背景には被子植物の多様化とともに、それぞれの植物種に対してそれを食べる昆虫が特化し、種がわかれというのがある。そして、送粉(花粉の受け渡し)を昆虫に依存する植物、花粉や蜜に栄養を依存する昆虫が出現し、両者の特化によって、植物と昆虫双方の種が多様化していったということもある。』(N305)相互作用で多様化。
 『植物の多様化の歴史はそれを食べる生物、とくに昆虫との戦いの歴史でもあった。
 実は大部分の植物には、昆虫に対する防御物質が含まれている。防御物質とはつまり昆虫にとっての毒である。(中略)植物側の対抗策としてよくあるのは、昆虫が食べた部分に植物が防御物質を送り込むという方法である。それに対する昆虫の接触方法として、防御物質を流し込む葉の管を切断するというやり方がある。』(N312)他にもその有毒物質をため込んで外敵から捕食されないようにする昆虫もいる。
 無毒な生物が有毒な生物に姿を似せる「ゲイツ型擬態」。『南米にはさらに見事なハチ擬態のカノコガというガのなかまがおり、人眼ではガとわからないほど、体の構造の細かい部分までハチに似せている』(N553)。そのように同じ種類でなくても、よく姿を似せて擬態しているのは興味深い。
 『毒のあるものや不味いもの、食べにくいものが互いに似せ合うことによって、捕食者の学習の機会を増やす』(N576)。そうして捕食者の学習機会を増やして毒があったり・不味いから食べないようにさせる「ミューラー型擬態」。例えば日本のスズメバチがどれも似たような模様をしているのも「ミューラー型擬態」。
 オドリバエの婚姻贈呈。『オドリバエの中には、得物を前脚から出る糸でくるみ、包装してから渡すものもいる。(中略)もっと面白いのは、中身は空っぽで、その糸だけでできた風船状の偽物の贈り物で雌と交尾する種がいることである。そうなると婚姻贈呈はすでに儀式化しており、雌にとっても意味がまったくない。』(N689)儀式化した婚姻儀礼を持つ虫というのは面白いな。
 『ブラジルの洞窟に生息するトリカヘチャタテ(写真35)というカジリムシ目の昆虫では、雌に陰茎状の器官があり、それを雄の膣状になった交尾器に挿入し、精子を吸い取るという行動が観察されている。つまり、交尾の関係が雌雄で逆転しているのである。
 チャタテムシの雄の精包には栄養物質がついており、雌がそれを積極的に求めるためにこのような交尾形態が生じたようだ。』(N814、817)興味深い。
 ミイデラゴミムシの発する摂氏百度の「おなら」。『実は、ミイデラゴミ虫の腹部には、ヒドロキノン過酸化水素という二つの化学物質を貯蔵する袋がある。危険を感じると、両者を腹部先端の小さな部屋に流し込み、そこで酸素が反応し、爆発するのである。』(N989)そして、その反応の際に出るベンゾキノンという物質が強力な匂いを出す。
 糞虫。『糞を食べる虫は自然界における重要な清掃者である。もしこれらがいなかったら、森や草原は哺乳類の糞だらけになってしまっているに違いない。
 実際、オーストラリアに家畜が持ち込まれた時、オーストラリアには羊や牛などの糞に対応できる糞虫がおらず、糞がそのまま残り、数々の問題を引き起こした。結局、あちこちの国から糞虫が導入され、その問題は解決されたのである。』(N1177)仮定だけの話でなく、実際にそうなって困った実例が存在するというのが面白い。
 『グンタイアリ属の一員であるバーチェルグンタイアリ(写真64)は、サスライアリのように絨毯攻撃を行う。(中略)このアリは郊外の畑地などにも見られ、現地の人にとっては身近なありである。家がこのアリに包囲されると数時間は退去を余儀なくされるが、ゴキブリなどの害虫を一掃してくれるため、重宝がられるアリでもある。』(N1352)害虫を一掃してくれる掃除屋のアリで、重宝がられているというのは面白い。
 『東南アジアに分布するアカネ科のアリノトリデというとげに覆われた植物のなかま(写真77)は、
茎のなかに入り組んだ迷路状の空洞を持ち、アリにとって絶好の巣環境を提供している。そして、その空洞はアリの出す糞やえさの食べ残しから栄養分を吸収できるようになっている。つまりアリは、住居に肥料を与えて維持と拡大(植物の生長促進)を行っているのである。』(N1480)そこまでがっつりとアリと共生している植物って面白いな。