本好きの下剋上 第三部5

 ネタバレあり。
 プロローグ、ベンノ視点でのそれまで板で作っていた玩具を新しい紙で作ることで専属の木工工房の仕事が減るとか、ルッツとギルがイルクナー出張中でいないから工房と細かい連絡が行き届かないなどの細かなところが書かれていて面白い。
 ハッセの新村長が貴族的言い回しを意味を理解せずに使っているので、今後のトラブル防止のために灰色神官を教師として派遣することになる。神殿や孤児院では毎日清められているので、彼ら基準では掃除の行き届いていない部屋に案内されて目を白黒させる。他にも食事の作法の違いなど、そうしたギャップに驚いている様が書かれているのはいいね。
 旧ヴェローニカ派が、領主ジルヴェスターの姉で現在は他領の領主夫人であるゲオルギーネ派として、ヴィルフリートを旗頭として復活の兆し。ヴィルフリートがローゼマインへの唐突な糾弾をしたことで、彼らにそそのかされて軽率な行いをしていたことがわかる。ヴィルフリートは、ジルヴェスターに怒られて素直に反省して考えを改めるなど悪い人ではないのだけど、良くも悪くも素直すぎて危うさがある。
 洗礼式後のローゼマイン達への襲撃。ローゼマインは妹のシャルロッテを庇って危機に陥り、毒薬を飲まされて危うく死にかける。囚われたローゼマインを助けにきたフェルディナンドが、丁寧な態度をかなぐり捨てるほど真剣にローゼマインの身を案じている姿が書かれて、フェルディナンドへの信頼が一層増す。フェルディナンドの処置もあって一名は取り留めるが、飲まされた毒薬から回復するために約2年間の眠りにつくことを余儀なくされる。
 エピローグでフェルディナンドは約2年間の眠りから目覚めたことをオルドナンツで方々に報告する。その時に毎日のようにローゼマインは目覚めたかと尋ねてきたボニファティウスに、報告のオルドナンツを十羽以上飛ばしてちょっとした報復をしたというのはいいね。
 今巻は本編は半分くらいで終わって、後はローゼマインが眠りについた二年の間の出来事を書いた短編と書き下ろし短編。
 「洗礼式の日のおじい様」ボニファティウス視点で襲撃を受けた日のことや、事件直後の領主たちが犯人捜しなどの動きが書かれる。ローゼマインは襲撃後すぐ眠りにつかなければならなかったのでわからなかった事件直後の動きがここで見られるのはいいね。
 「お姉様の変わり」シャルロッテ視点、ローゼマインの代わりを務めてみて改めて色々とやっていたことの多さに気付いて改めて驚いているのがいいね。例えば子供部屋の運営一つとってみても、ローゼマインは実は気付きにくいけど色々と細かく動いていた。モーリッツ先生も今回彼女のやっていたことを知って驚く。他の短編にもあるけど、こうした不在によってローゼマインの重要さや凄さがわかるという描写はいいね。
 「オレ達に休息はない」ルッツやトゥーリは自分たちでは服が少々小さくなろうが頓着せず買わないだろうから、ローゼマインは二人が他の見習たちと混じっても浮かないように、適宜服を報酬代わりといって買い与えていた。そうしたいなくなって初めて気づく気配りもいいね。
 「下級貴族の護衛騎士」この短編を見ると色々と事情があるからそもそもブリギッテとダームエルがくっつくことは難しいことだったということがわかる。