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deku_decさんの読書メーター

2015-08-03 秋の牢獄

秋の牢獄

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秋の牢獄 (角川ホラー文庫)

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)


内容(「BOOK」データベースより)

十一月七日水曜日。女子大生の藍は秋のその一日を何度も繰り返している。何をしても、どこに行っても、朝になれば全てがリセットされ、再び十一月七日が始まる。悪夢のような日々の中、藍は自分と同じ「リプレイヤー」の隆一に出会うが…。世界は確実に変質した。この繰り返しに終わりは来るのか。表題作他二編を収録。名作『夜市』の著者が新たに紡ぐ、圧倒的に美しく切なく恐ろしい物語。


 短編集。「秋の牢獄」、「神家没落」、「幻は夜に成長する」の3つの短編を収録している。この作者さんの小説は個人的には設定が特に魅力的で、色々と想像力をたくましくさえてくれるというか、同じ設定でのifだったり、こういう設定ではこういうドラマがありそうだというような、ちょっとそうしたその設定下での色々な場面を自然と想像させてくれる楽しさがあるから好きだ。まあ、ようするに同じ舞台設定での色々な物語が見たいと思わせるほど設定が魅力的だということです。

 「秋の牢獄」何度も続く11月7日水曜日、秋の一日とその日にはまり込んでしまった多くの「プレイヤー」たち。SF的なタイムループ物の作品。ただ、そのプレイヤーも全く同じときにその日を繰り替えしているわけではなく、その日を繰り返した回数は別々で、11月7日から解放されるのは不気味な超現実的存在である北風伯爵に捕まるしかない。

 北風伯爵は禍々しい雰囲気を持った化け物のような存在で、ループ中のプレイヤーたちの口からは奴に捕まると殺される、あるいは捕まることで次の日に送られるなど様々な憶測が語られる。永遠の余暇のような日々を過ごすうちに退屈の牢獄にとらわれる。

 この永遠に繰り返す一日は、その日が終わると全てはリセットされる世界でプレイヤーたちは散々好きなことを楽しむこともできる。しかし虫歯だったらずっと虫歯のままとか、妻が不倫していたことを知って妻を愛人と共に殺しても、翌日にはその妻に起こされたり、自分が事故で死んでも生き返る、あるいはプレイヤー間での怨恨が発生したら永遠の殺し合いが起きる可能性もあるなどという恐ろしい空間でもある。

 1日でできることには限界があるということもあって、次第にどんな楽しみも飽きて、単調な日々にプレイヤーたちは倦んでいく。そして主人公は最後には、最初は恐れていた北風伯爵を待ち望むことになり、どんな形であれこの永遠の一日から解放してくれる存在である北風伯爵が自分の元にやってきたことに救いを見ることになる。

 そうやって、その設定で出来るいろんな可能性を楽しさや辛さ、恐ろしさ含めて見せてくれるのはうれしいね。ぱっぱとこんなことできるこんなことできるとして紹介するが、短編と言うこともあってその一つ一つをあまり描写しないのも、そういう体験したらなんてことやそうした永遠の一日の味わった開放感なんてものも想像させる。

 そして今までルーチンのように常に変わらなかった友人が、11月7日にはまり込んでしまうといったように、世代が色々あるようで、そうしたところでもifでの色々な物語を想像させるね。

 「神家没落」数日に一度と日本全国周るように動く家、一人の状態ではそこから脱出できない。かつては一定期間で交代することになっていたが、何らかの自由でそうした習慣が廃れたことによって、長らくその家を守っていた老人は、よって近道しようとした時に迷い込んだ主人公に家主のバトンを渡すと共に消え去り、死んだことで、主人公である男は家から出られなくなった。

 主人公がそうした動く家を、かつては列車のように利用して移動した人もいるだろうし、そんな時代には『きっと悲喜こもごもの、たくさんの物語があっただろう。』(P93)と想像しているが、そんなこと書かれたら、そんな時代の話、あったであろう場面や物語が気になるしちょっと思いをはせたりしちゃうよね。

 そこに来る人もいるが中々代わりの人身御供にするようなことはできないでいた。しかしそんな理不尽に囚われている中でもこの生活に少なからず魅力を感じているというように、そうした閉じ込められた状況の良し悪しを書いてくれているのはいいね。

 あるとき決心をして、一人の男に家主を無理に押し付けて家から脱出する。しかし出てみるとその家への恋しさ、あの生活に自分が魅力を感じていたことを知る。そして押し付けた男が、その家を犯罪行為に利用していると知って憤り、犯罪事実で脅しつけて、再度家主を変わってもらおうとする。最後は最後はその男が家と共に焼け死ぬ、そしてその男も今際にざまあみろとでもいうような笑いを見せたことで、彼もまたグロテスクな使い方であり愛し方ではあったが、その家への愛着を持っていたことを知る。

 「幻は夜に成長する」幻術を使える特別な能力のある資質のある少女は、子供のころに一時期同じ力を持つ「祖母」(といっても血縁はないが)にその力を使うための指南を受けた。

 彼女の能力で作った風景を、付き合っていた最近全然描けないといっている美大生に見せたら、彼は感動で泣いて、君は神かと尋ねたというのは、世界の美しい風景を作り出せるのだからそれはそう思われるだろうなあ。特にそうしたものを紙で表現する人間であるのだから。だからこそ、彼女の首を絞めかけたり(嫉妬か、神なのかという試しか)、自分が彼女の隣にふさわしい人間と思えなかったりしたのも無理はない。

 かつて教団のトップとして力を振るっていた「祖母」だったが、後に身を引きその教団は解体したが、その教団にいた人物が大人になった彼女を拉致して薬を使って、思いのままに能力を使おうとするが、内で折を食い破る能力を蓄えていた彼女は、十分な力を得た最後の場面でその力を発揮し、暗い復讐の喜び、そして解放の喜びで笑うというところで終わる。彼女の現在の状況を思えば、その終わりはこれ異常ない爽快な終わりのハッピーエンドだ。

 解説『牢とは、諦観とともに安らぎを与えてくれる存在であるのかもしれない。』(P216)とあるけど、そうした牢という不自由な状況での楽しさと倦みが書かれているから好きなのかな。

 そして最後の短編「幻は夜に成長する」は完全に人為的に作られた牢であるし、そのような楽しさや安らぎがないからこそ、牢からの解放が単純明快なカタルシスとなったのだろう。読者にとっても主人公当人にとっても。

2015-06-03 雷の季節の終わりに

雷の季節の終わりに

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雷の季節の終わりに (角川ホラー文庫)

雷の季節の終わりに (角川ホラー文庫)


内容(「BOOK」データベースより)

雷の季節に起こることは、誰にもわかりはしない―。地図にも載っていない隠れ里「穏」で暮らす少年・賢也には、ある秘密があった―。異界の渡り鳥、外界との境界を守る闇番、不死身の怪物・トバムネキなどが跋扈する壮大で叙情的な世界観と、静謐で透明感のある筆致で、読者を“ここではないどこか”へ連れ去る鬼才・恒川光太郎、入魂の長編ホラーファンタジー。文庫化にあたり新たに1章を加筆した完全版。



 「夜市」が面白かったので、著者の他の作品を読んでみようと思い、夜市も短編(中編)周だったから、次も短編を読もうかとも思ったけど、せっかくデビュー作の夜市をはじめに読んだのだから、順々に読んでいこうかと思い2作目、長編のこの本を読む。

 読む前は「夜市」は面白かったけど、長編だと、別の作だとどうだろうという思いがなきにしもあらずで、長編読んでいる途中で辟易してしまわないかちと不安だったが、読み始めてみればそんな不安を抱いていたことがばからしくなるほど、読みやすかったし、面白い。

 読了2冊とも非常に読みやすく、物語の雰囲気も好きなので、きっと他の作品も楽しめるだろうと思える。これで好きな作家、その著者の作なら読もうと作家買いできる小説家が一人増えたことが嬉しい。

 異界にある隠れ里「穏(おん)」で育った少年賢也が主人公。姉が雷季にいなくなってから、風わいわいという超常的存在に付かれる。

 「夜市」収録の「風の古道」もそうだったけど、こうした少年時代の純さだったり、子供らしい感じがちゃんと描写できているのっていいよね。個人的にはそうした描写がしっかりとしているだけでも好きになってしまうくらいだ。

 相変わらず異界の描写が素晴らしい。起こっている出来事的にもっと重苦しい雰囲気となりそうなものを、語り手が過去の出来事について語っているという形式だというのもあるが(そういえば「風の古道」もそうだったか)、穏やかな雰囲気で書いているというのはいいね。この作中で怖いような出来事が起こっても柔らかな雰囲気を保っていて、シリアスになり過ぎない、ジュブナイル・ファンタジー的な(そうしたのよく知らないから印象だけども)優しさあふれる感じの文章の雰囲気に惹かれる。そしてその出来事が教訓じみずに(「風の古道」の結末の文章でもそうしたこと書かれていたが)、ただそういう出来事があったとある意味突き放して、純粋に一つのストーリーとして書かれている感じもいいね。

 異界の描写も夜市とか隠とか、綺麗な理想郷でなく、因習蔓延るというような側面などその場所特有の怖さもあるから諸手を挙げて行きたいとは思わないが、おっかなびっくりとでもその場所を垣間見たいとは思うし、物語の舞台としては魅力的だ。

 里に来る幽霊や化物を追い返す闇番になんか無性に惹かれる。

 こうした現実世界とファンタジーがほどよく融合している感じ、いいなあ。なんというか作者の描く異界は、民話的雰囲気もあるし、子供時代の恐れなどについての想像力をベースにして、そこから発展させてしっかりとした世界観が作られているという印象を受ける。そうした異界描写が子供時代の感性を思い出させるのか、なんだか近くにある、どこかにあると感じられる。そんな風に感じる異界が現代日本とつながっているという設定だし、どこかにあると感じさせるだけのものがある。

 主人公の友人のボーイッシュな少女穂高。友達で、本人も少女らしさと言うよりまだ少年らしさが強い子だけど、それが主人公に対して、キスして、「大人になったらさあ」と言っているのがなんかいいのお。恥じらい見せずに行動で直接的に好意伝えて、それに主人公がまだ子供だからいまいち反応を返せないから、普通に彼女も平常運転に戻るという78-9ページの一連流れがなんか好きだなあ。

 自衛のために反撃して大きな傷を負わせた。相手が名家の人間と言うことで、不当な処刑は免れ得ないだろうと親しい闇番の男にいわれて、彼に勧められ「穏」から出る。追っ手くるもののその人を倒す。そして追っ手たちは、別の因果によって動物に殺されるという結末に至って、現代日本へと行くことに成功。

 途中から挿入された現実パートは、「穏」パートあったからこそあまり不条理、ホラー色が強くなってなくていいね。そしてここで姉とつながるか。それに同じ時間軸かと思っていたので、それが明かされたときちょっとやられたと思ったわ。

 少年の決意とかでなく、風わいわいの因縁や強い思いだったり、あるいは謎の超越的存在(早田)の遊び的な思惑から、最終決戦に赴く。直接戦ってはいるものの、他の人の因縁、縁などの理由でその場にいるという感じで、中心にいるけど局外者っていう風で、後半は彼の物語でなく、姉の物語・風わいわいの物語みたくなっていることや、早田は結局トリックスター的に面白そうになるように盤外で動いているのだろうと推測できるだけで彼のことは描かれないことが、なんか面白いし、ある一人のヒーローみたいな存在を作ってその人のための物語にしないのが、あくまで世界観が真の主役といった感じで、「らしい」と思う。

2015-05-13 夜市

夜市

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夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)


内容(「BOOK」データベースより)

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。


 100ページほどの中篇二つ、表題作の「夜市」と「風の古道」が収録。

 この本は評判がいいし、著者の名も良く目にするから、以前からちょっと気になってはいたのだが、デビュー作のこの作品がホラー文庫で、ホラーではなくファンタジー的と書かれているのを目にしていても、でもホラー文庫で出ていて、個人的にちょっとホラー苦手だから読むのが遅れてしまった。実際読んでみたら、個人的に苦手な精神的に圧迫感のあるような描写やグロもなかったし、ちょっと不気味なファンタジーとして楽しめたし、平明な文章(軽すぎず、ごてごてとおどろおどろくしくしたような描写・文飾もない)で読みやすく、しっかりとした異世界を描写しているのは個人的に好みなので、今まで読んでこなかったことが悔やまれる。早速、別の作品も読もう!

 化物だったり、その異世界のルールを変に人間に優しくしたり、人間的に親しみやすくするのではなく、逆にやたらと厳しいものでもない。それでいて、ただその世界では当然のルールとして存在しているもののように描き、異界のルールは現実とは別のルールであり、また物理法則のように変えがたい確固としたもので、本当に「異界」(神秘的、稀有であり、同時にちょっと不気味さや怖さのある魅力的な場)という感じがしていいね。不気味であり魅力あり、想像力を書き立てる、なんか民話のような雰囲気の世界観であり話。

 「夜市」不定期に、どこかで異世界で開かれる(そしていくつもの異世界と繋がる)夜市へ向かう道が開かれる。そこでは買い物をしなければ帰ることができない世界のルールとなっている。

 いずみは知り合いの男、裕二に連れられて行く。彼は子供時代そこから帰るため、そしてそこで見かけた野球選手の器(才能)に惹かれて弟を売ってしまい、それを買い戻しにきた。そこまで読んで、交換と嫌な想像が脳裏をよぎったが、単純にそんなブラックなオチにしたりせずにそこから一ひねり、二ひねりいれて、二人と彼の弟の3人はそれぞれが望んだ結果を得て、ちょっと切ない感じがありつつも後味の良い終わり方だったのはいいね。弟が語る自身の数奇な体験(冒険譚)もとても面白い。

 個人的には短編、中編くらいの長さの作品を好きになることはあまりないけど、これは単純に面白いし、弟のエピソードとかは色々と想像が捗るし、好きだわ。

 「風の古道」ひょんなことから、別世界で独特の世界の摂理があり、化物がいて、かつて修行を積んだ僧などが通っていた道、「古道」の存在を知った子供二人がそうした由来を知らずに、そこに入り込む。現在の「私」がその出来事を語るという形式。

 外の世界を間近で見ることはできるが、外の世界と行き来できる場所は限られている。

 カズキと「私」の二人は、その出入り口まで一人の青年に連れて行ってもらうことになる。しかしその途上で、その青年レンと因縁のある相手が、青年に銃撃してきて流れ弾がカズキにあたり死んでしまう。

 そしてそれを見て、レンはあっさりとその攻撃してきた男を殺す。そのあっさりさにはショックを受けるが、旅の途上で話される彼の話を聞いて、そうした理由に納得。

 そしてこの道の世界の中で生き返らせられるかもしれない場所をレンと「私」、カズキの死体をつれて古道を旅する。

 その旅の途上、レンは「私」に自分の生い立ちを語る。ホシカワとレンの関係はいいなあ。年の差の相棒であり、親子のような存在だった二人。

 結局カズキは蘇生させるにはあまりにも高い代償が必要だとわかり、自然の摂理のままにそのまま死の世界へと解放してあげる。

 両方の短編で『永久放浪者』という語がでているので、彼は両短編の世界観的には繋がりあるのかな。まあ、夜市はさまざまな世界に繋がっているようだから、どの程度のつながりかはわからんけどね。

 そして永久放浪者なんて語を使っているところを見ると、現在の「私」はそれ以後もそうした世界と交流をもっているのかなと思ったり。