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2014-12-03 蹴る群れ

蹴る群れ

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蹴る群れ (集英社文庫)

蹴る群れ (集英社文庫)


内容紹介

選手、指導者、サポーター。世界中でサッカーに携わる人々の生き方を綿密に取材した傑作ノンフィクション。文庫化にあたりボスニア・ヘルツェゴビナ代表選手・ジェコの章を追加。(解説/高野秀行)



 この著者の本はスポーツについて書いたノンフィクション作品の中では群を抜いて面白いし、単にそのスポーツのことだけでなくもっと視野が広く、サッカーと同時に世界・社会についても書いているから好きだ。著者は解説の高野さんや一部の序で本人の筆で書いてあるように「サッカーを観ることで世界を知ることはできる」というスタンスで、そのサッカーを通じて見えてきたものを読者にも伝えようとしている。

 この本は三部構成で計18章で、各章でそれぞれ一人か二人の選手(冒頭のイラク代表は例外的だが)にスポットをあてている。そしてそうしてスポットを当てた選手やその周囲の人間について取材することでその選手の背景、その選手の国の背景まで書いているので、サッカー選手についての話を読むと同時にある国のある時代の状況を知ることができる。

 「第一部 歴史から蹴りだせ」は、トルコのイルハンを除いて絶えざる戦闘などで国情が不安定だったり、独裁政権下でプレーしていた選手たちの話。「第二部 日本サッカー稗史」は、語られることの少ない、本当の意味で地域に根ざしている小さな少年世代を中心として大人の世代までをフォローしたチーム、バブル期・創生期の女子サッカー、知られざるかつての高校最強チームである在日朝鮮人の高校など日本サッカーの傍流を見る。「第三部 守護神を見ろ」他のフィールドプレイヤーとは得意な位置にいるゴールキーパーたちにスポットが当てられる。

 こういった本はなんと呼ぶのか分からなかったが、解説で「短編ルポルタージュ」という言葉が出てきたので、短編ルポルタージュ集と呼べばいいのかな。

 第一部。

 「イラク代表旅行記」イラク五輪代表チームにはシーア派スンニ派クルド人もいるが和気藹々としている。イラク代表の選手たちの移動のバスにまで乗せてもらって、かなりフレンドリーな状況で取材していた。

 彼らは(当然のことながら)誰もがアメリカを侵略者とみなしていた。そして彼らの五輪出場が決まったときに、アメリカの新たに自由になった国がオリンピックに参加していると世界にアピールしたことに、そして侵略者に抵抗する人間をテロリストと扱っていることに彼らは怒っている。そしてフセインが酷かったからで仕方のないことと捉えている人間はおらず、誰もがアメリカ軍に「一刻も早く出て行って欲しい」と思っている。戦争終結後5万人のイラク人が殺され、ホームで試合が開催できない状況(2013年のw杯予選もそうだった)が続く。

 「デヤン・サビチェビッチ」の章ではモンテネグロセルビアから独立するときのことを扱っている。しかしモンテネグロセルビアは人種は異ならずほとんど出身地の差異であった。しかしこの投票によって、独立に投票する人間は自分はモンテネグロ人、連合に入れる人間は自分はセルビア人という規定することになった。そのため家族でも兄弟姉妹の中で、セルビア人モンテネグロ人が割れ始めるという事態が起こっていた。

 レバノンイスラム教一色の国ではなく、キリスト教徒もかなりいるようで(議席数がイスラム教徒と同数の議席が充てられているのだから)、イスラム教キリスト教の宗派もさまざまで多くの宗教、宗派の集団を抱えた国だということは知らなかった。

 「エディン・ジェコ――ボスニア内戦で生まれたダイヤモンド」内戦時のサラエボは、彼はスナイパーが多数いて外に出るなら死を覚悟しなければならない状態でも、ボールを蹴り続けた、文字通り命をかけてサッカーを学んでいた子供だった。そんな子供は彼一人ではなく、他の子供たちも、サッカーをするために外にでていた。もちろん外では危ないからガラスが散乱する体育館の中でトレーニングをしていたが、そこに行き来するまでの道中に死ぬ危険性があった。水道が使えない状況で、女性が水を汲みに行くのに殺されても恥ずかしくないように外に行くときは常に薄化粧をしていた時代のことだから、そうした学校の体育館までの行き来ですら安全とは程遠かった。ジェコというサッカー選手はそんな時代に少年時代をすごした。

 第二部。

 「小幡忠義――東北サッカーの逆襲」小幡が40年前に作り、現在まで続いている本当の意味で地域に根付いた少年サッカーチーム。この章の話は、古きよき時代って感じのエピソードが多く出てくるからちょっと癒されるわ。

 「リンダ・メダレンとその時代――世界最強リーグが存在した」バブル期の日本の女子サッカーリーグの話。世界最高峰の女子サッカー選手たちを獲得して、バブル期といった時代背景のおかげで非常な好環境でサッカーに打ち込め、世界のトップクラスの選手たちと対戦できた、「毎週がワールドカップ」といえるようなリーグとなっていた。世界トップの選手と戦うことが日本人選手たちのレベルを押し上げた。

 第三部

 「土田尚史と田北雄気」Jリーグ創生期から同じチーム(浦和レッズ)で実力的にも拮抗して、競い合ってきた二人のキーパーの物語。ここまで相手を猛烈に意識したライバル関係はちょっと珍しいなあ。

 「リュシュトゥ・レチベル」02年W杯で3位になったトルコ代表のGK。彼に取材に行くときに拾ったタクシーの運転手が彼のファンで急にやる気を見せ始めたという冒頭のシーンと、そのタクシーの運転手が彼に直接サインをもらった後に帰りの社中で俺が奴をキーパーに育てたんだなんて言い始めて、著者はGKは確かに心が大きくなければ難しい仕事だと感じたというラストのシーンは面白いなあ。リュシュトゥ本人への取材は02W杯では実は病で痛みがあったが、トルコで起こった震災に見舞われた人間を勇気付けるためにも奮戦していたといういい話であるのに、このタクシーの運転手の存在のおかげでこのしょうが一気にコミカルな色調になってしまった(笑)。

 「村岡博人」ユニバーシアードで、戦後初の海外遠征に行ったときの日本代表のゴールキーパーだった人への取材だけど、基本的には彼は記者としても有名な人らしいので、サッカーのことよりも記者としての話のほうが分量多いな。

2014-07-08 オシムの言葉 増補改訂版

オシムの言葉 増補改訂版

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オシムの言葉 増補改訂版 (文春文庫)

オシムの言葉 増補改訂版 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

言葉は極めて重要だ。そして銃器のように危険でもある―。スポーツの枠を超えて、各界の日本人に多大な教訓を与えたイビツァ・オシムの箴言。彼の言葉は、なぜこれほどまでに人の心を揺さぶるのか?祖国の崩壊から、日本代表監督就任、大病、奇跡の復活まで、激動の半生を綿密な取材でたどった、傑作ノンフィクション



 集英社文庫で一度読んでいるが、新たに11章が追加されているので購入し、改めて読んだ。

 ユーゴスラビアの崩壊前にはサッカー代表の世界でもスロベニアセルビアクロアチアなどのグループが代表に居る各々の民族の代表メンバーにだけ気にかけるようになっていた。そしてイタリアW杯では、PK戦にもつれたとき外したら、メディアからどこの(○△民族の)選手が外したかが問題視され、他民族との軋轢の具となることが目に見えているから約2人を除き、他の選手はやりたがらなかった。そうした単なるバッシングでなく、民族間の溝を深める宣伝に利用されかねないことが、ユーゴ代表の選手たちにキッカーを避けさせた。初読時にはあまり気にならなかったが、今回読んで、その選手たちのキッカーを避けたいという気持ちが、単にはずしたら嫌だなとかでなく、非常に重いものだったということに気づく。そして11章で、オシムはこのW杯でもしユーゴ代表が優勝していれば戦争という災禍は避けられたのではないかと思って、自責の念を持っているということが明かされ、オシムはそんな重い十字架を背負っていると感じていたのかとは知らなかったのでハッとさせられる。

 そしてユーゴ崩壊直前には、代表召集に応じることが家族や親族の安全だったり、『(代表に)行けば、(味方から)自分の村に爆弾が落とされる』(P101)という懸念が大げさな表現ではなく、リアルな心配事として迫ってきていたというのは想像を絶する。

 一つの国だったユーゴが崩壊していくさまを、代表監督としてまざまざと目の当たりにしなければならなかったその無力感はいかようだったことか。

 そして、オシムは代表監督の他にもクラブチームの監督も勤めていたが、自身が監督を勤めるパルチザン人民軍のクラブが、故郷のサラエボを攻撃して、市民に犠牲が多く出る状況になるなど、想像できないような事態が巻き起こった当時の胸中は察するに余りある。

 勝っても負けても頭の中にサッカーのことしかない、それほどサッカーのことが好きな人間が、代表監督を辞任する際に「サッカーよりも大切なものがたくさんある」と公言しなければならなかったことが痛々しく、悲しみを覚えてしまう。

 ジェフ時代のオシムの通訳だった人は、大学の哲学かにあるクロアチア語のコースに入ってクロアチア語の勉強を改めてしていたが、会話のテストの際に喋り捲った結果、在外クロアチア人の2世3世ばかりの最上位のクラスに入れられて辛かったが、クラスを変えることは許されなかった。そんな彼がオシムの通訳に内定したときに、そのクロアチア語の勉強を教えてもらっていた厳格な女教授に、オシムの通訳をやるので帰国するという報告をしたら、素の表情で驚いて、ちょっと興奮気味に「私のクラスにいて正解だったでしょ。けど、あんたがクラスで一番の出世かもしれない!」と言ってくれたというエピソードはなんか無性に好きだな。

 オシムがする『モチベーションアップとは「アメか、ムチか」ではなく「選手が自分で考えることに向けてのサポート」という姿勢が一貫している。』(P237)

 11章、オシムの祖国であるボスニアはいくつもの民族が入り乱れる国だが、かつて内戦になってしまって、それぞれの民族に対して不信感や敵対的感情が少なからず残る土地となってしまったから、サッカー協会もトップが民族語とに3人居る体制となっていたので、それが規則違反だとFIFAやUEFAから国際大会出場停止を言い渡された。そのボスニアサッカー協会を何とか健全な他の国と同じ体制へと作り変える、正常化委員会の委員長に病み上がりながらもオシムは選ばれ、ユーモアを交えた交渉でそれぞれの感情的な対立を抑えながら、粘り強く広範な人間と話し合うことで、そして本人の名声のおかげで、サッカー協会の正常化に成功したので、国際大会への参加が認められ、その後ボスニアがW杯出場を決めた。しかし万全の状況でないのに多くの人との話し合い、折衝、お疲れ様でした、オシムさん。

2010-04-15 誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡

誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡

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誇り―ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)

誇り―ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

フィールドの妖精“PIXY”ドラガン・ストイコビッチ。人々を魅了する華麗なプレー。だが、その半生から浮かび上がるのは、政治に翻弄された祖国ユーゴスラビアへの熱き想いと誇りだった。来日当初「乱暴者」のレッテルを貼られた、彼の真の姿がここにある。過酷な運命を乗り越え世界を舞台に光り輝く、憂国のフットボーラーの軌跡を綴るヒューマン・ノンフィクション。一章分の書き下ろしを追加し、貴重な初公開写真も収録。

木村さんのユーゴサッカー3部作『誇り』『悪者見参』『オシムの言葉』で一番はじめに出たの本だけど、この本は本屋で見つからなかったので最後に読了。次に『終わらぬ「民俗浄化」セルビアモンテネグロ』を読みたいと思う。

こうした個人のスポーツ選手に焦点を当てた本は文庫で(スポーツはあまり見ないので、それと単行本で買うのには躊躇してしまうので)選手自体に興味があってということがないので、あまり読んだことがなかったけど面白かった、けれど全体感がある悪者見参の方が個人的には好みだけど。悪者見参よりも誇りをさきに読んどいたほうが楽しめたかなと思った。

2010-04-10 オシムの言葉

オシムの言葉

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オシムの言葉 (集英社文庫)

オシムの言葉 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

「リスクを冒して攻める。その方がいい人生だと思いませんか?」「君たちはプロだ。休むのは引退してからで十分だ」サッカー界のみならず、日本全土に影響を及ぼした言葉の数々。弱小チームを再生し、日本代表を率いた名将が、秀抜な語録と激動の半生から日本人に伝えるメッセージ。文庫化に際し、新たに書き下ろした追章を収録。ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞作。

木村さんの著作を読むのは2作目。悪者見参を読んで面白かったので、購入。

悪者見参では名前が覚えにくかったけど、ジェフ千葉の監督時代のことを中心に書かれているので、名前を覚えやすかったというのが良かった。それに前読んだ著作からあまり時を置かずに読んでいるので、旧ユーゴでの状況をあまり混乱したりすることなく読むことができた。

オシム監督がジェフをある程度の力を持ったチームにすることができたけど、現在オシム監督がチームを離れて数年で今はJ2にいるから、チームの力が短期間に落ちてオシムが積み上げていたものを崩してしまっているのだとすると少し悲しい。

2010-03-19 悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記

悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記

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悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)

悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)

出版社/著者からの内容紹介

「世界の悪者」にされ、NATOの空爆にさらされたユーゴ。ストイコビッチに魅せられた著者が、旧ユーゴ全土を丹念に歩き、その素顔を抉る。新たに100枚を書き下ろした力作。(解説・田中一生)

内容(「BOOK」データベースより)

「世界の悪者」にされNATOの空爆にさらされたユーゴ。ストイコビッチに魅せられた著者が旧ユーゴ全土を歩き、砲撃に身を翻し、劣化ウラン弾の放射能を浴びながらサッカー人脈を駆使して複雑極まるこの地域に住む人々の今を、捉え、感じ、聞き出す。特定の民族側に肩入れすることなく、見たものだけを書き綴る。新たに書き下ろした追章に加え、貴重な写真の数々。「絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ」。


木村元彦さんの著作を読むのは初めて、ユーゴスラビア、バルカンの現代史に興味があるので購入。情報戦争に負けて国際社会から「絶対悪」のレッテルを貼られたセルビアユーゴスラビアの代表、プラーヴィたちのそしてユーゴに住むサッカーを愛する人たちの話。サッカー選手の人たちが政治について考えざるを得ない状況というのは悲しいね。今までなんということもなかったのに、急にある民族に所属するというだけで、自分の住んでいた場所を追われ危害を加えられるような状況になるということがたった10年前に起こっていたということは怖いね。

『オシムの言葉』は木村さんの著書だったのか、なんかタイトルからして語録のようなものだと思いタイトルは知っていたけど興味はなかったけど、悪者見参がすごい良かったので、きっと面白いと思うから読もうと思う。