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49/12/14 (Wed) 正木昊「自由法曹団の功罪」 2/END

id:dempax:19491215 からの続き


これらの諸事件を通じて看取出来ることは


(1) ポツダム宣言ならびに新憲法記載の基本的人権の言葉通りの実行


(2) 労働者に対する無条件的応援


(3) 朝鮮人に対する同情


(4) 官権の不信に対する法律的攻勢


等がいちじるしい特徴ではないかと思われる


(1) に属する事件としては,終戦の翌年に起ったプラカード事件を通じて,不敬罪の消滅を主張したこと,政令第201号取消訴訟事件によって,憲法第28条に例外を排除し,公務員の罷業権を基本的人権として確立しようとすること,その他新刑事訴訟法を活用して,被疑者の人権を最大限度に擁護しようとしていること等であり


(2) に属するものは,自由法曹団として,もっとも華やかで,もっとも得意とする生産管理,労組法第一条の活用等,団活動の中心をなすもので,前記の著名事件の大部分は労働問題といってさしつかえなく,全国の労働争議に団員が団として,あるいは個人として関係しないのは,かえって少ないかも知れない. これは大疑獄事件に元大臣,元検事総長という顔がかならず出るのと好一対だとの評がある


(3) に属するのは,神戸における朝鮮人学校閉鎖事件に関する騒擾事件,東京深川における巡査が朝鮮人を射殺した事件,その他,朝鮮人が自由法曹団に駆け込む事件は多い


(4) に属するのは,あらゆる事件に派生的に起ってくるもので,係裁判長に対する忌避の申立とか,警察官の暴行に対する告訴告発とか,団は仮借なく,あらゆる法律を官権に対する攻勢の武器として使っている. その代表的のものは,三鷹事件の被告人に対する取調べ検事の職権濫用を理由とする告発事件であろう


以上のように団の活動を概括して見るとき,私は再建後の団は,前期の団が法律的武器をもって人権を護るという消極的立場であったのに比し,いちじるしく積極的に,法律的武器を民権の強化拡張に用いようとしていることを知る. それは時代の変化によるものではあるが,団の推進力として,共産党員の活躍が大きな力になっていることを認めなければならない. 共産主義とヒューマニズムとは近世の産んだ双生児であり,その出発点と到着目標については,おそらく大して相違するところはないと思うが,その道中において,かなりちがったコースをとる. しかし共同の敵に対して一致することは,大戦中のソ連や中国が明白な実例であるし,また最近においても原子爆弾の使用を罪悪視する点において,両者の意見が一致しているように見受けられる


本稿の冒頭で私は共産主義に反対するといったのは,共産主義がその理想世界の実現に対し,一定不変の階級闘争を目的のごとく神聖視し,手段にとらわれて最終目的を遠ざけている点に賛成できないからであるが,現在の日本では,共産主義者はポツダム宣言,新憲法ならびに占領政策というかたい枠の中で,合法的に闘う以外になんらの方法もとれなくなっているし,かつ,旧日本の亡国的官僚ならびに戦時どさくさ成金という共同の敵が目前に厳存するのであるから,われわれヒューマニストは共産主義者と部分的な共同戦線を張ることが出来る. また共同の敵を倒すには共産主義陣営のエネルギッシュな支援が大いに役立つのである. いな,そればかりでなく,日本における共産主義運動を永久に合法的運動たらしめ,その頑固なる階級闘争の対象を,真に憎むべき人類の敵に向わしめるよう誘導するためにも,共同の法律闘争が必要なのである


戦後における自由法曹団がポツダム宣言の要求する日本民主化の線にそうて,不敬罪の撤廃,基本的人権の確立に対し,不屈不撓の努力をしたこと,労働者をして人権を意識させ,また労働運動の合法化に貢献したこと,朝鮮人の人権を護ったこと,官権の非民主性を指摘し,これと不断にたたかっていることは世間周知のことで,その他,法律技術上において生産管理その他,新しい分野を開拓したことも大きな足跡といいうるだろう


しかしなんといっても自由法曹団は,その幹部に布施[*1],上村[*2],青柳[*3],福田,為成[*4],林,神道[*5],牧野[*6],梨木[*7],岡林[*8],小沢,東方[*9],今野,岡崎というようなそうそうたる共産党の理論家や闘士を擁しているのであるから,世間の眼から見ると,自由法曹団のなすことが,すべて共産党的に見られるのも無理がない. ことに団員が個人としてやる党活動までが自由法曹団弁護士という名前のゆえに,団の活動と混同される場合も多い


現日本は厳重なる占領下にある. たとえ共産主義がどんなに立派なものであったとしても,共産主義革命を目的とする運動は一切壁につき当る. それが法律闘争である場合は,その反動としてかえって既得権利の縮小を来すおそれがあることは,公安条例の発布とか,公務員の組合活動および政治活動の制限のごとき実例がなによりもよき証明ではあるまいか


しかし,それよりも大きな壁は民衆の無智ということだ. 罷業や生産管理の権利を濫用し,たとえ争議に勝っても,日本全国の起業家を萎縮させて労働者全体の職場を狭くし,,年のうちには自分たちも永久的失業者となるような自己矛盾を犯している


世間ではそれらの責任について自由法曹団を責めているようだ. しかし私はそれを日本共産党の責任であると思っている. 共産主義の戦術の一つは,民衆の無智を利用し,共産主義社会への夢を大きく見せるために,刻下の現実が労働者にとって,できるだけ絶望的であることを,労働者の身をもって体験するようひそかに求めることだ. 労使の協調や融和を極端に排撃するのはそのためである. しかし自由法曹団の党員たちははなはだ僭越ないい方であるが,共産主義者より前に弁護士である. 公立病院建設の必要を宣伝するために,自分のところへ来た患者に,死の苦痛を与えるような残酷な真似は出来ない人々だ. いな,むしろ労働者に対し,あまりにも無条件的に好意を持つ結果,彼等のわがままにひきずられる点がいけないのであろう


旧日本的の官僚の中には,自由法曹団が行き過ぎをやることを期待し,それによって反動的に自己の陣営を強化しようとたくらんでいるものがある. 裁判所侮辱制裁法を成立させようとして横浜の人民電車事件の法廷の混乱を口実にしようとしたのもその一つの現れである. もしも,そのようなことが実現されたなら,自由法曹団の罪,これより大なるはない. 自由法曹団にとって,もっとも警戒すべきは,共産主義的になることよりは,センチメンタリズムとなることであろう. 検事の拷問が悪いのと同様に,拷問のために虚偽の陳述をする労働者も讃めた話ではない. 検事の取調べの杜撰を非難する時には,団の調査も杜撰であってはならない. 一方に寛にして一方に厳というのは人類の合理性が反撥する


不合理を許すということは,結局,大衆を犠牲にするとともに,自分等も犠牲になることだと信ずる

正木昊「自由法曹団の功罪」


初出 『中央公論』vol.64 No.12(1949/12月号)p.64-p.69


出典 『正木ひろし著作集 IV 政治・法律時評』三省堂,1983/04/01 p.221-p.229






*1:『近代日本社会運動史人物大事典』日外アソシエーツ,1997/01/20より

近代日本社会運動史人物大事典

布施辰治 1880.11.13-1953.9.13 IV.-p.146

*2:上村進 1889.1.23-1969.5.13 II.-p.130

*3:青柳盛雄 ?-.. I.-p.19

*4:為成養之助 1904..- III.-p.390

*5:神道寛次 1896.11.20-1971.2.17 II.-p.995

*6:牧野芳夫 1905.5.29-1981.6.24 IV.-p.279

*7:梨木作次郎 1907.9.24-1993.4.9 III.-p.730

*8岡林辰雄 1904.1.7-1990.3.1 I.-p.714

*9:東方紀方=三浦次郎 1907..-1971.. IV.-p.396

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