前口上

「朕惟フ」と言うと、ふつう「私は思う」と訳す。もちろん間違っていない。でも、なんか違う。「朕」を使えるのは、天皇ただひとり。同時代で、「朕惟フ」を読んだ人は、「私は思う」とは受けとらなかったんじゃないかな。正確だけれど「正しくない」訳、そんな気がする


というようなことを、昨晩、ここ何年か連載している「論語」全訳の途中で、思ったわけです。そして、訳している間に、いま話題の「教育勅語」を読んで、やはり同じ感想を持った。意味がよくわからない。なので、一時間ほどかけて、訳してみました。「教育勅語」現代語全訳です。ツイート8回分ほどです

【1】教育勅語(1)

「はい、天皇です。よろしく。ぼくがふだん考えていることをいまから言うのでしっかり聞いてください。[*1][*2]


もともとこの国は、ぼくたち天皇家の祖先が作ったものなんです。知ってました? とにかく、ぼくたちの祖先は代々、みんな実に立派で素晴らしい徳の持ち主ばかりでしたね」[*3]

*1:「朕惟フ」の「朕」は唯一の天皇=その思いを聞けを「朕は命令する」と読むのが普通の理解ではないか…私の周りだけの普通か?

*2:そもそも竹橋近衛砲兵隊の蜂起から準備が始まり自由民権運動(畏れ乍ら天長様に敵対するから加勢しろ)と米寄越せに決起した民衆を圧殺した国権の頂点が「しっかり聞いてください」とは「私は思う」と何処が違うのか

*3:【皇祖皇宗國ヲ肇ムル】の【皇祖皇宗】理解の混乱について山住正己『教育勅語』朝日選書154 1980年,141頁参照 高橋さんは【(四)歴代天皇を皇祖とよばれし】派のようだ ちなみに 森清人による整理では(一)漠然と皇室の御先祖を指す(二)天照大神を指す(三)神武天皇を指す(五)列聖中の御一方を指す【山住上掲141頁】

【2】教育勅語(2)

「きみたち国民は、いま、そのパーフェクトに素晴らしいぼくたち天皇家の臣下であるわけです。そこのところを忘れてはいけませんよ。その上で言いますけど、きみたち国民は、長い間、臣下としては主君に忠誠を尽くし、子どもとしては親に孝行をしてきたわけです」

【3】教育勅語(3)

「その点に関しては、一人の例外もなくね。その歴史こそ、この国の根本であり、素晴らしいところなんですよ。そういうわけですから、教育の原理もそこに置かなきゃなりません。きみたち天皇家の臣下である国民は、それを前提にした上で、


■ 父母を敬い、兄弟は仲良くし、夫婦は喧嘩しないこと」

【4】教育勅語(4)

「そして、友だちは信じ合い、何をするにも慎み深く、博愛精神を持ち、


■ 勉強し、仕事のやり方を習い、そのことによって智能をさらに上の段階に押し上げ、徳と才能をさらに立派なものにし、なにより、公共の利益と社会の為になることを第一に考えるような人間にならなくちゃなりません」

【5】教育勅語(5)

■「もちろんのことだけれど、ぼくが制定した憲法を大切にして、法律をやぶるようなことは絶対しちゃいけません。よろしいですか。さて、その上で、


■ いったん何かが起こったら、いや、はっきりいうと、戦争が起こったりしたら、勇気を持ち、公のために奉仕してください」

【6】教育勅語(6)

「というか、永遠に続くぼくたち天皇家を護るために戦争に行ってください。それが正義であり「人としての正しい道」なんです。そのことは、きみたちが、ただ単にぼくの忠実な臣下であることを証明するだけでなく、きみたちの祖先が同じように忠誠を誓っていたことを讃えることにもなるんです

【7】教育勅語(7)

「いままで述べたことはどれも、ぼくたち天皇家の偉大な祖先が残してくれた素晴らしい教訓であり、その子孫であるぼくも臣下であるきみたち国民も、共に守っていかなければならないことであり、あらゆる時代を通じ、世界中どこに行っても通用する、絶対に間違いの無い「真理」なんです」

【8】教育勅語(8)

「そういうわけで、ぼくも、きみたち天皇家の臣下である国民も、そのことを決して忘れず、みんな心を一つにして、そのことを実践していこうじゃありませんか。


以上! 明治二十三年十月三十日 天皇

【後口上=あとがき】とまあ、サクっと訳したので、若干間違いあるかもしれませんが

だいたい、いい線いってると思います。自分で読み返して思ったんですが、これ、マジ引くよね……。




【出典】高橋源一郎でTw.検索して収集(アクセスは2017/ 03/14 03/15)


改行による段落分け,■による箇条書き及び註記は紹介者による