太陽はどっちから出る?

森達也『世界を信じるためのメソッド』(理論社
「あとがき」より。

僕の妻は小学校に入ったばかりの頃、テストで太陽は東西南北のうちどこから出てどこへ沈むかという問題を出されて、
「西から昇って東へ沈む」
と書いたそうだ。もちろんペケ。
納得できない彼女は、テストを手に先生に、「私は間違えていません」と言った。
「間違っているよ。太陽は東から出て西へ沈むんだよ」
「違います。テレビでちゃんと西から昇って東へ沈むと言っていました」
「妻がそう言った根拠は、その頃テレビで放送されていたアニメ「天才バカボン」のテーマソングだ。
(歌詞を省略)
この歌を聞いた彼女は、これをそのまま信じ込んだ。
頭を抱える先生に、「テレビが嘘をつくはずありません」と言い返したらしい。
(149ページ)


というエピソードが書かれているのだが、これはテレビが悪いのか? むしろ、いくら小学生とはいえ、こんなアニメの主題歌をそのまま信じるほうが悪い。
だってその番組は、『天才バカボン』だぜ。
バカボンはバカだから、バカなことを言うんだな、ということくらいは子供でもわかる。それにこの歌詞だって、「西から昇って〜」のあとで、「あ、たいへーん」というママの声が入ってるし、アニメでびっくりした顔が描かれてあるから、これはこういうバカバカしいアニメなんだな、とわかる。
それにしても、「テレビが嘘をつくはずありません」と信じていた森さんの妻は、はたしてバカボン本編で展開されるシュールなギャグの数々を、いったいどのような思いで見ていたのだろうか。レレレのおじさんや、ウナギ犬や、拳銃をぶっ放す目玉のつながった警官も、すべて実在すると信じていたのか。そっちの方が気になる。
それに、この程度のことで「頭を抱える」教師もだらしない。生徒がこういうことを言ったら、校庭に連れていって実際に太陽が、どの方角から出てどこへ沈むのか、観察させて教えてやればいいだけのことだ。そのうえで、「テレビは嘘をつくこともあるんだよ」と教えてやればいい。
おれなんか、このバカボンの主題歌を覚えているおかげで、いまでも、日の出と日の入りの方角を即答できる。バカボンが、「西から昇ったお日さまが〜♪」と歌ってるから、その逆が正しいんだな、と。そういう覚え方をしている人は、多いはずだ。
森達也のこの本には「ぼくらの時代のメディア・リテラシー」という副題があって、子供向けに書かれたメディア・リテラシーの本なのだが、そのamazonのレビューを見たら、10人がすべて星5つで、皆が皆、絶賛していてきもちわるい。まあ内容は初歩的なもので、独自の視点はない。この程度の本を絶賛しているおまえらこそリテラシーなさすぎだろ。


この主題歌をひさしぶりに聞いてみたら、おれはずっと、「てんさいいっかだ、バーカボンボン」という歌詞を、「天才以下だ〜」と思いちがいしていたことに気づいた。