隠れるオタクたち

岡田斗司夫しゃべり場に出たときに、専門学校の生徒が「オタクの俺を認めろ!」と言ったという話で)
てっきり僕は「アニメファンで、みんなが偏見で見ているから、そんな目で見るのはやめてくれ!」みたいな話なのかなぁと思ってたら、彼の話をよく聞いてみると、そうじゃなくて。
その人は別に、周りに自分がアニメ見ているということを言ってないんですね。
「俺は隠している」「隠してるのは、きっと言えば、みんなに変な目で見られたり、いじられたりするに決まってるから言えないんだ」
で、彼の結論というのは「こういう世の中が悪い!」「もっとアニメを見るというようなことが、当たり前でもいいじゃないか!」「アニメを見るというようなことで、人を差別しないでほしい!」みたいなことを言い出して。
で、まわりのみんなが「えっ」て思ったのは、「だっておまえアニメみるってみんなに言わなかったら、俺たち差別しようがないよ」「今日初めて言って、差別しないでほしいって言われても、俺たちも困る」みたいな話になりまして。
そりゃそうだろうと。
これは彼が口下手なのか、それとも周りのリアクションが落ち着いているのか、どっちかわかんないんだけども、「オタクって最近、変なことになっちゃってるなあ」と思ったわけです。
岡田斗司夫 「オタク・イズ・デッド」)

また気がつくと一週間経ってしまった…ということで隠れオタクの話ですよ。
この話を書くにあたり、色々ネットで調べてみたわけなんですが、隠れオタクについて書いた文章って意外と少ないんですよね。
いや、「隠れオタクやってま〜す」みたいなブログは山ほどありますし、「どうすれば隠れオタクを見抜けるか」「どんなときにバレそうか」「どういうタイミングでカミングアウトするか」みたいな話も多くあるのですが、意外に「なんで隠れオタクになるのか」とか「オタク趣味を隠すってどういうことなのか」っていうのを真正面から書いた文章があんまり無いんですな。僕が見つけてないだけかも知れないのですが。
ただ、これも昔から語りつくされた話題なんで、「今更そんなこと言わんでも」という部分もあるのですが、前から言ってる「地方とオタク」を考えるにはこの辺も押さえんといかんかなと思いますし、最近話題のいじめだなんだという問題にも関わってくる話なんで、一応書いてみたいと思いますよ。


そもそも、なんでオタク趣味を隠すようになるのかといいますと、日常生活の中でオタクだってのが周りの人間にわかっちゃうと、色々不都合が生じるからっていうのが根本にあるわけですな。
不都合っていうのは、例えば通りすがりの女子校生にすれ違いざま「オタクキモイ」と悪口言われたりするのが嫌だ、ということでもありますが、それよりも割と身近な人間関係において支障がでるというのが大きいでしょう。
学校とか通ってる年頃の子が一番これを気に病みます。大体、中学〜高校・ひどけりゃ専門や大学生くらいまでが、そういうのを最も気にする時期ですかね。
竹熊健太郎先生も仰っていましたが、小学生の頃はみんなアニメやマンガが大好きなオタクなわけですよ。後々サッカー部とか入って女をとっかえひっかえするようなイケメンさんも、小学生の頃にはビックリマンチョコだのミニ四駆だのにメチャメチャ金つぎ込んだり、午後6時からのテレ東アニメを視聴したりしてるわけです。これが中学生くらいで色気付くと「オタクはもてない!アニメ見てるようじゃダメだ!」という意識が働いて、マンガとかゲームをやめてスポーツとか音楽とかのモテ趣味に走るようになるわけですな。男女問わず。
で、そういうなかで色気づくのが遅くて「オタク=キモイ公式」を察知できず、気がつくとオタクになってる子や、気づいているけれどオタク趣味から離れられないような子が、狭い教室のなかで「あいつらオタク=キモイ」という風に認識されて、クラスの中でイジメられたり見下されたりする層として組み込まれるわけです。
勿論オタクとかとは全く関係なしにこういう層に組み込まれる人も大勢いるわけですが、それは話が違うのでひとまず置いといて。
で、そこから逃げようと人は隠れオタクだの脱オタだのに走ってしまうのですが、その中でどうしてもオタク趣味を捨てられない人間は、隠れオタクとなってしまうのです。
さらに、その隠れオタクにもバリエーションがあるような気がします。例えばこんな感じ。

  1. 隠れオタク・罪悪感型…オタクを隠し「オタクってキモイよね!」みたいな一般人の発言に「そ、そうだねー」とか同意しつつも、相手と自分を騙しオタクを貶めていることに一抹の罪悪感を感じるタイプ。ワイワイオタク話で盛り上がってるオタクたちを遠めに見てうらやましく思うが、かたぎの暮らしを捨てそこに混ざる覚悟は無い。たまに普通のオタクも一般人との会話中にうっかり「そ、そうだねオタクはダメだよね」とか言ってしまい、家に帰った後罪悪感に悩まされるが、ほぼ同じ症状であると言って良いだろう。割と隠れオタクのスタンダードな形。
  2. 隠れオタク・オタク排泄型…オタクを隠し、オタクであることがバレるのを極端に恐れるため、「オタクってキモイよね!」みたいな発言を始めとするオタク虐めを率先して行い、それで何とか自分の心を落ち着けようとするタイプ。人によっては隠れオタクというよりも「オタクを捨てた・あるいは自分にはオタクらしさなぞ無い」と思い込んでいたりする。だがその割には深夜アニメだの午後六時からのテレ東アニメだのをチェックしていたり、旬のギャルゲーなんかを押さえていたりするので、周りからはオタクだとバレてることもしばしば。しかしそこを突っ込むと「俺はオタクじゃなくてゲーマーだよ」とか言い訳になってるのかどうか分からない事を言ったりする。全く可愛げのないツンデレのようなものと考えると、少しだけ彼らに優しくなれるかもしれない。無理か。
  3. 隠れオタク・優越感型…オタクを隠しているというよりかは、オタク文化を何一つ知らないような、だけども興味は抱いているという顔をしている。そうしてクラスのオタク集団に接触していき、彼らの「あ、この人僕らと同じオタクなんだ!じゃあ面白いものを紹介してあげなきゃ!」という布教精神に付け込んでアニメのDVDやエロゲーを借りまくったりする。そしてさんざ相手を利用したあげく、「うん、中々面白かったよ。こういう世界もあるんだね。良いと思うよ。僕は違うけど」と、「あくまでも一般人だけど、オタク的な趣味わかることの出来る自分」を演ずる隠れオタク意外に多いタイプ。
  4. 隠れオタク・完全孤立型喪男(女)ぶりが昂じて隠れオタクになったタイプ。どういうことかと言うと、周囲にオタク友達をさっぱり発見できず、発見できても人付き合いの下手さから友達になれず、かといって一般人ぶることも出来ないので結局友達が全然出来ない。そのため「オタクってキモイよね」みたいな会話を振られて罪悪感を背負うということもオタクを弾圧することも、「オタクのこともわかってるよ」という顔もせずに済むのだが、逆に言うとそういうことを言える人自体がそもそも居なかったりする。


まあ学生時代までの隠れオタクっつうとこんな感じですかね…実際は各タイプに要素を足したり引いたりしたものや、それぞれのタイプの複合型とかが多いと思うのですが、とりあえず基本形はこの四つなんではないかなと。少なくとも僕のみたことある隠れオタクはこんな感じの人が多かったです。
で、こういう隠れオタクたちの中で、1番と4番はコミュニケーション能力云々の差こそあれ、割と近しい存在なのかなと思います。この辺の人たちが冒頭の岡田斗司夫の話にでてくる専門学校生とかになりやすいかもです。
2番と3番は見ててむかつくという点でよく似てますが、どちらも「自分は世間に蔑まれてるオタク」という現実に立ち向かえない人間という点では同じです。そこでとる方法がオタクを攻撃するか、オタクより優位に立とうとするかという違いはありますが。オタクを率先して叩く人やオルグしてくる人には、この手の隠れオタク者が結構多いです。
でまあ隠れオタクになって何か良いことがあるのかというと、隠れオタクになったら人生最高にハッピーですという話は寡聞にして聞かないので、オタクを隠したところで嫌われはしないかも知れんけど、人から好かれるようにはならないというのが隠れオタクの現実のようです。


さて、このような隠れオタは、基本的には「オタクはダメ」という前提が共有される人間関係があって、しかもそれが固定的で逃げ難い状況…ようするに、中学高校あたりで発生しやすいものです。逆に言うと、高校卒業以後の人間関係の流動性が激しい状況だと、あんまりオタクを隠さなくて済みます。
例えば大学生。これくらいの歳になると隠れオタクも徐々に減ってくるのですが、それはサークルとかバイトとかでオタク系のところを選んでいけば、そういう趣味の人たちだけと日常を過ごせるようにもなるからというのが大きいでしょう。ここでその選択肢を選ばない人や選べない人もいますが、なんだかんだで大概の人はオタクとしてそれなりに開花していくものですし、オタクは買い物とかだけなら一人でもなんとかやっていけます。脱オタの場合は、オタクと一般人を行きつ戻りつするケースも多く見られますが、結局は落ち着くべきところに落ちつくようです。
結局、「友人関係においてオタクを隠さなきゃいけない」っつうような状況は、歳をとればある程度楽になるようです。
オタクでない人はオタクでなくなり、オタクな人はオタクから逃れられんのです。

オタクちゃんであることを相手の脳裏にまず刻み込んじゃえばあとから趣味がバレて困るなんてコトもないし、それでつきあいが切れるならその人はそもそもアナタの人生において重要な存在ではなかったちゅコトよ。(中略)
だいたい興味のない話題を振られて苦痛なのはお互いさまなんだから、話題がないならわざわざ話さなきゃいいだけのハナシ。世の中想像以上にたくさんいるマジで無趣味なヒトなんちゅのは一緒にいるだけでも苦痛だし、オタクちゃんは己のオタク道をひたすら進んでりゃいいの。……

ウロンのひとりごと 05年7月12日より)

ということで人生の貴重な時間を無駄に使わないためにも、少年少女におかれましてはオタク趣味を隠さないで堂々と生きていって欲しいものです。
ただまあ、そうは言っても他人からの「キモイ」という視線より、自分の心の中の「『キモイ』と見られてる」という視線が気になるのが中高生ですから、そう簡単にはオタク全開で生きるのも難しいと思うんですよ。そこで自分の中の視線に打ち勝つ精神力が要求されるというか。

オタクであるからにはそりゃ頭がいいでしょう、オタクであるからには仕事くらいできるでしょうと思ってたのに、君たちは馬鹿なのにオタクなのかぁ、世の中変わったなぁ、と。
どうやって自分の中に折り合いつけてるのと思っちゃうんですね。なんでかっていうと、ギャルゲーが好きな自分というのは、ものすごい強い精神力がないと、世間の視線に潰されちゃうんですよ。
俺は好きだからかまわないという強い精神力がないと、それをはね返せない。そういう人は、そんなに馬鹿のはずがないのに、どうなってるの?
岡田斗司夫 「オタク・イズ・デッド」)

そこで頭脳や容姿や運動能力やらの、自分に自信のもてる要素が別にあればオタクとして開きなおることも容易いと思うのです。そういう「オタク趣味以外での心の拠り所」がない人は隠れオタクでなくなるのがキツイかもしれません。
しかしですね、何度も言うように隠れオタクになったからって幸せになれるわけじゃない」のですよ。むしろ変なストレス溜め込んだり、オタクから嫌な奴と思われたりするし、だいたい頭脳も容姿も運動神経も特筆するようなところの無くて性格も普通、という人は、なにかした時に悪く見られこそすれそれ以上評価が上がることはまず無いのです。
ですので、他人の視線と自分の内側の視線を両方を引き受けて「どうせキモがられるんだったらアニメみようぜ('A`)」という悟りを開いたほうが、人生楽しく生きられると思いますよ。
ただ、それも出来ない人もいるんですよね…どうしてもね…


さて、社会人になってからの隠れオタクというと少々事情がことなってきまして、今までどおり「ノンケの人とどういう会話をすれば良いのか」という問題も無いではないのですが、割と瑣末なものとなっていきます。
それよりも「上司が大谷昭宏とか「親が大谷昭宏とか「夫が大谷昭宏とかの、フィギュア萌え族(仮)と思われたら人間関係どころか食ってくこと自体に影響が出る」とか、あるいは社会人とか学生どうこうに関係なくフィギュア萌え族(仮)と思われた血縁レベルでの人間関係が危うい」とかいう状況で「社会人の隠れオタ」はおこるもんで、それは隠しても仕方ないんかなという気はしますが…親がオタク=犯罪者予備軍的な見方をしていると、その子どものオタクは「親はオタクを犯罪者予備軍だと思っている→自分はオタクである=オタクであることがバレたら、親に犯罪者予備軍と軽蔑される」という風に考えてしまうでしょう。まあ「バレたら」って、多分そういう場合は殆どバレてるんでしょうが。家族から軽蔑されるとかは、「家出ろ」としか言いようがないのですが、世の中そうもいかない事情のある人間もいますから、難しいもんです。
しかしそれにしても、家族に軽蔑されたり、上司の大谷昭宏を恐れて隠れオタクをやっているオタクは意外に多いと聞く…


隠れオタクにも色々とありますが、世の中にこうも隠れオタクが多いというのは、結局未だにオタクがカタワ扱いされてるっつうことですね…誰だチョイオタがモテ趣味とかいったやつは。そうやってオタク釣られたところを叩こうとするオタクホイホイみたいなもんでしょうか…('A`)


そこでどうするのかというと、結局「オタクはいいもんだよ」「オタクをいじめるんじゃないよ」ということを、オタクの息子や娘を内心で軽蔑している親とか、趣味を隠しながら付き合ってる友人とか、そういう身の回りからでも少しずつ伝えて広めてくしかないのかなと思います。
それは確かに、冒頭に引用した専門学校生のように、馬鹿で必死で幼稚で、引いちゃう部分もありますし、そんな面倒でつらいことしたくないと思うでしょう。俺も思います。
だけど、それでもやるしかないんだよ。そうしないと、しんどい思いする人が増えるだけだから。

やっぱり世間は僕らをヘンな目で見ます。どうやっても、いじります。
わかってもらえなくても平気という貴族主義はもうつかえないし、こんないいものがあるんだ、わからないおまえらが悪いんだというエリート意識もつかえない。

で、わたしたち、ついさっきまでオタクだった個々人で残ってるのは、やっぱりわかってもらえなくて不安、一番最初に言った「しゃべり場」に出てきた高校生のように、いやちがう、声優学校生だ。彼のように、「なんでみんなわかってくれないんだ、わかってくれるべきだ」
その彼の主張は愚かなんだけれども、ギリギリの本音なんですよね。
彼を笑っちゃいけない。笑ってすませたらいけないんです。
岡田斗司夫 「オタク・イズ・デッド」)