基準規程条項の三類型

小布施由武「JR旅客営業制度のQ&A(第2版)」(自由国民社、2017)によると

「旅客営業取扱基準規程」など「○○規程」という名称のものは規則(約款)に対応する部内命令です。

とされているが、その条項は性格上三つに大別され、4月10日の記事で書いた基準規程の条項をあてはめると次のとおりとなる。

1 旅規から委任を受けた事項 113-2, 117
2 旅規の規定に対する特例 101-2, 109, 110, 114, 115, 149, 150, 151, 151-2, 153, 153-2, 155, 157
3 係員に対する指示事項 (145)

3だけが本来の内規としての条項で、1と2は約款と不可分な契約事項である。
1の委任事項は、旅規で「別に定める」などとし、基準規程はこの委任を受けて「規則○条の規定による○○は、○○のとおりとする」と規定する。113条の2の特定運賃のほか、129条の2(大人の特別急行料金の特定)、131条の3(特別車両料金(A)の特定)などがこれに該当する。旅規の細則であり、文言上も裁量の余地がない。
2はこのブログで本則緩和事項と呼んでいるもので、「規則○条の規定については(にかかわらず)○○することができる」という条文である。「することができる」とは、旅客が希望すればそのように取り扱ってもよいということだろう。しかし、少なくとも乗車券類の効力規定に関する限り実際の運用は「する」で、例えば149条(特定の分岐区間区間外乗車)は、JR東日本の「きっぷあれこれ」の特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例では、

次の各区間をご利用になる場合は[ ]内の太線区間のキロ数は含めないで計算します。

と断言している。なお、153条の定期乗車券による他経路乗車の条文は「乗車の取扱いをする」であり、統一がとれていない。
「きっぷあれこれ」で解説されていない109条、114条、115条の運賃計算規定の「することができる」も、本則より旅客にとって有利な取り扱いである。前記事のコメントで質問があったが、なぜ114条と115条を「することができる」としているのだろうか。旅客が特例の不適用を希望することがあるだろうか。
114条については、そのような例は思い当たらない。ジパング倶楽部の割引を受けるために何かないかと考えてみたが、単に割引の対象となる駅まで乗車券を購入し、前途放棄するほうが得である。115条を含めて、不適用を希望するような例があればご教示願いたい。
114条がマルスに実装されていない例が報告されたが、周知されてない規定を知っているかによって運賃に差が出るのは、鉄道事業法の16条5項の旅客に対する差別的取り扱いの禁止に反し、問題である。本則どおりの114条不適用がマルス搭載で、114条適用の場合出札補充券で対応しているようだが、逆に114条適用をデフォールトとしてマルスに搭載し、不適用を希望する旅客がいれば出札補充券とすべきではないか。
基準規程は内規であるというタテマエから、「することができる」と断言を避けているのかもしれない。86条ただし書きの特定都区市内の単駅指定は、2008年4月基準規程115条から昇格したものだが、基準規程時代は「することができる」だった。

特定都区市内にある駅を発駅とする場合で、普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内の外を経て、再び同じ特定都区市内を通過となるときの普通旅客運賃は、実際乗車船経路が環状線一周となるとき又は折返しとなるときを除いて、その着駅が、発駅に関連する特定都区市内の中心駅から、営業キロが200kmを超えるときであつても、規則第86条を適用しないで発駅から、実際の営業キロ又は運賃計算キロによって旅客運賃を計算することができる。(後略*1

第3分類の係員に対する指示事項は、7条(つり銭の準備)、144条(途中下車印の押なつ方)や、第5章(乗車券類の発行方)などがある。「かっこ」つきで第3分類に該当するとした145条2項は、特定都区市内発着の乗車券で大阪・新神戸等で下車した場合、第1項の一時出場に準じて取り扱うという係員に対する指示規定で、途中下車(一時出場)ができるという規定ではない。しかし、キップあれこれの途中下車の項の記載は、「途中出場ができます」となっている。

*1:2項:特定都区市内にある駅を着駅とする場合、3項:東京山手線駅への準用