『駅神』

駅神

駅神


易。占いの易。あの、ゼイチクをじゃらじゃらいわすやつ。易占をコインの裏表でもできることを知ったのはP.K.ディックの名作『高い城の男』読んだときだ。ディックは『高い城の男』書く時、ある場面で展開に迷い、易を立てて出た卦に従って書いたと言う。

『駅神』は、その易による占いを扱った連作短編。雨の日に、とある路線の駅に現れる謎のおじいさん。おじいさんは悩みを抱えた人に対して無料で易を立てて占ってくれる。けれどもおじいさんが与えてくれる卦(易による占いの結果)は時に謎めいていて難解だ。人々が抱えた悩み=事件が解決に向かうにつれて、その卦の意味もおのずと明らかになる。

カバー袖の紹介文に"人情ミステリー"とあるけど、ちょっとミステリーとはいいがたいかも。おじいさんが与えてくれた卦の解釈をする場面はミステリっぽいけど、事件の解決は、ほぼ状況自体の自然な成り行きによってなされます。推理によって劇的にトリックが明かされ犯人が逮捕されたりするわけじゃない。
この連作はミステリーやオカルト、ファンタジィが微妙に混じりあった領域を狙っているように見えます。それはうまくいっているように思えました。日常にわずかなファンタジィが混じる感じ。描かれるのは下町の人情。微妙に半村良なんかにも近いかな。主人公の大学生が住んでいる古いアパートの描写がなかなか楽しげです。

ちょっとしか出ない端役まで、印象に残る形でキャラが描かれてるのはすごい。あと主人公の章平君が半端なくいい人だ。

たのしく読むことができました。いいドラマシリーズのイントロ部分、という感じなので、続編出るといいかなと。

こさ ささこさんの装画と挿絵。ささこさんの絵は良いなあ。良いです。良い。