フラナリー・オコナー『賢い血』

本棚の整理しててフラナリー・オコナーの『賢い血』が出てきたのでなんとなく読み返した。

賢い血 (ちくま文庫)

賢い血 (ちくま文庫)

前読んだときはうまく読めなかったのだが、今回は引き込まれて最後まで読んでしまった。前よりずっとよく理解できたような気がする(というか前は全然わかってなかった)。
たぶん映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を観たせいだ。

この小説は『ゼア・ウィル〜』とある面で良く似た問題を扱っているように思える。『賢い血』は、"キリストのいない教会"の教えを説く説教師ヘイズ・モーツの物語。ヘイズの苛烈さは、『ゼア・ウィル〜』のダニエルのそれと重なる。ヘイズは映画館の前で人々に向かってこんな説教をする。

「さまざまな種類の真理があるとわたしは説く。あなたがたの真理もあるし、だれかほかの人の真理もある。だが、そういうあらゆる真理の背後には、ただ一つの真理しかない。そしてそれは、真理などというものはない、ということだ」と彼は大声で言った。「あらゆる真理の背後に真理はないということ、それがわたしと、この教会とが説くことだ! あなたがたがもといた場所はもうなくなった。あなたがたが行こうと思っていた場所は、そこにはなかった。そして、あなたがたが今いる場所は、あなたがたがそこから出られないかぎりは、なんの役にも立たない。あなたがたがいるべき場所はどこにあるか? どこにもない。」

キリストの徹底的な不在を説くヘイズの言葉が、信仰を持つかのようにふるまう信仰者の欺瞞を逆に暴き出す。『ゼア・ウィル〜』のダニエルとイーライの対立と似ていると思います。
ブラックコメディとサイコホラーが入り混じったような雰囲気も、似てる気がする。

(追記)これ映画にすればよさそうだよなあ、と思って検索したら、ジョン・ヒューストン1979年に映画化してた。日本未公開らしい。ちょっと観てみたい。

『バクネヤング』の松永豊和は今

本棚整理してたら『バクネヤング』が出てきたので読み返す。やっぱりこりゃ異様な傑作ですな。

バクネヤング (ビッグコミックス)

バクネヤング (ビッグコミックス)

作者の松永さんのHP
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ここに掲載されている自伝的小説がすごく面白かった。一気に読む。
邪宗まんが道
創作者の業、というものがモロに出ていて圧倒されます。モデルになったマンガやマンガ雑誌もわかるので、非常に生々しい。面白い。
このひとは作品を描(書)かずにはいられないんだろうなあ、という点で花輪和一さんにも通じるものを感じました。