イーヴリン・ウォー『囁きの霊園』(The Loved One)

ちょっと前にブックオフイーヴリン・ウォー『囁きの霊園』が105円で売ってるのを見つけた。

映画化もされた有名作品ながら長く絶版だったので、amazonで見るとちょっとプレミアついてる。今だと3800円だ。105円で買えてもうかったワーイ(せこいっ)。

これを入手してしばらくして新聞を見ると、この作品の新訳が文庫で出るという広告があった。
うぬぬ、希少価値が若干薄れた(器が小さいっ)。

表紙がカワイイ。
んでどういう偶然か、岩波からも同時期にこの作品の新訳が出るのだった。

『囁きの霊園』『ご遺体』『愛されたもの』とタイトルは違うものの、いずれも”The Loved One”の翻訳です。
というわけでなんだかイーヴリン・ウォー祭りである。この程度で祭りってこともないか。
しかしなぜ今The Loved Oneなのか。終活ブームにぶつけてきたってことなのだろうか。
この作品は映画にもなっている。映画の粗筋については山形浩生さんがこちらで言及している。やー、ヒドい話ですねー。この非人情ぶりが素晴らしい。
映画の方は観てないけどテリー・サザーンが脚本を書いてるそうで(監督はトニー・リチャードソン)、いかにもテリー・サザーンな予告編がこちら。

検索するとyoutubeに全編あがってるみたい。

ところで金井美恵子の『タマや』って小説があるんですけどね。

そのなかで

トニー・リチャードソンって奴はまったく才能がないね、イヴリン・ウォーの『ラヴド・ワン』なんかも図々しく撮りやがって、あれなんかブニュエルが撮りたいと思ってた小説だし、『マルゴ』だって、ジョセフ・ロージーが撮るべきだよ

と毒づく一節があったなあと思いだして、『タマや』を本棚から引っ張りだして確認した。『タマや』はわりと頻繁に引っ張りだしてゴロゴロしながら読む。ゴロゴロしながら読むのに適した小説なのである。

『囁きの霊園』で、軽薄な詩人の男が、女の子を落とそうとしてロマンチックな詩をいくつも贈る。それで女の子は最初は感激するんだけど、ある時それらの詩がどれも古い有名な詩の剽窃だということを知って、男をなじる。すると男は、だって有名な詩なんだから当然君も知ってると思ったよ、と開き直るという場面がある。
実は『タマや』にもエリオットの「荒地」をめぐるよく似たやりとりがあって、あ、引用という奴かな、と思った。『タマや』だと女のほうがユリイカとかに書いてる詩人で、でも「荒地」の引用に全然気づかない、という、皮肉がさらにキツい状況になっている。

『囁きの霊園』読みながらもう一つ思い出したのはジョン・スラデックの『遊星よりの昆虫軍X』で、イギリスから来た若い詩人/作家がアメリカでドタバタする、という話の骨格がよく似ている。そこから見える現代アメリカの風景の空虚さ、狂気も通じるものがある。

『遊星よりの昆虫軍X』も名作なんだがなー。復刊してほしいものです。