「MURAKAMI」

MURAKAMI―龍と春樹の時代 (幻冬舎新書)

MURAKAMI―龍と春樹の時代 (幻冬舎新書)

「W村上」なんていうと「W浅野」(古!)みたいでちょっと恥ずかしいが、高2の時に「ノルウェイの森」と「69」を読んで以来、春樹と龍を読み続けて早20年…。
確かにこのふたりを同時代の作家として読んできた者にとって、その作品をふり返ることは自分の半生をふり返ることでもある。
清水良典という文芸評論家が二人の作品を対比させて、時代背景を踏まえつつ、書かれる過程を解説した一冊。著者本人の文体も読みやすく、むりやりなこじつけを展開することもなく、丁寧に読み解いている。両氏に対して敬意も払われていて好感が持てた。
こうやって二人を比較してみると、文体や作風はまるで違えど、同じ時代を共に生き、その影響を大きく受けて、それを反映した作品を書いてきたことがあらためてわかる。
それを読んでいた自分も、当時社会で、身の回りで、起きていた事件について考えていたことを絡めながら小説世界に没頭していた。そして読み終えた時には、ひとつ仮想世界を潜りぬけ、濃縮された人生を体験したような気分に浸っていたのだった。
ざっくり分けると静(ダウナー系)の春樹と動(アッパー系)の龍の効用か。ふたりがまるで違う作風に離れれば離れるほど、その振れ幅の大きさが自分の感情の振れ幅と重なるような気がしている。
そこで得た実感は確実に自分の人格の一部を形成しているような気がしているので、剥がれてきた壁のペンキを塗り替えるように、今でも二人の作品は何度も読み返しているのだ。