アニメ三銃士

Column41 語ろう!『アニメ三銃士』(スタッフルーム通信編8 -美術 中村光毅・木下和宏-)

『別冊アニメディア アニメ三銃士 PART1』からの証言特集。メインスタッフ陣のインタビュー記事「スタッフルーム通信」からの紹介も、第8弾となる今回で最後になります。

最後に紹介するのは「美術」を担当した中村光毅さんと木下和弘さん。クレジットもお2人の連名となっているためか、インタビューも2人一緒になっています。


アニメーションにおける「美術監督」の担当は、劇中の背景や小物など、それこそ「キャラクター以外の全ての絵」いっても過言ではない程。その量はもちろん、歴史物ならではの難しさもあるようで。
それでも、苦労を補って余りあるやりがいが語られているインタビューです。

●美術 中村光毅・木下和宏


木下 設定、背景、レイアウト、とかの量的な問題で二人でやってるんです。
中村 実際には一つの話を折半で(笑)。このシーンは私、ここは……という具合に打ち合わせながら。ただ、当時の資料が少なくて、多少わからないところも出てくるんですよ。
木下 背景に彩色するのにどうしても版画とか色の資料が少ないし、宮廷画家の描いた宮廷画には庶民の生活は描かれてない。僕は、フランスで出している文化史のシリーズものを参考にして描いてます。これを見ると、メチャクチャな色はないから、あとは想像で。色といえばポルトスの家に中村さんが使った色がピンクのような……。
中村 あー赤っぽいのね。あーいうおおらかな人間ならではの好みかなって(笑)。あと私は、どちらかというと日本のチャンバラがいいって年代ですけど、これをやってみると中世の町とか違う面で知ることができてメリットになったなって思いますよね。
木下 同じ舞台か設定で、オリジナルものとかしたいですね。
中村・木下 好きなキャラは何といってもミレディー!この歳になると、中年女性に走るのかなぁ(笑)。


PROFILE
中村/昭和19年4月7日東京都生まれ。B型。代表作に『科学忍者隊ガッチャマン』『機動戦士ガンダム』『風の谷のナウシカ』。
木下/昭和27年12月10日愛媛県生まれ。血液型O型。代表作は「ヒ・ミ・ツ」なのだそうだ。

歴史物では避けて通れないのが、時代考証に使う資料の問題。現代であれば資料集めも考証もインターネットでだいぶ楽にできるけど、『アニメ三銃士』の放送当時はそんな便利なモノは無し。加えて、記録を残すことができなかったであろう一般庶民の暮らしぶりを調べるのは大変だったことが窺えます。
しかし、資料の少なさを想像力で補うのが「美術監督」の腕の見せ所。豪放磊落なイメージのポルトスだけど、その家(9話「はだしのジャンのお母さん」で登場)の壁をピンク色にしたのもコダワリの現れのようです。


アニメ三銃士』を通じて「中世の町を知ることができた」「同じ舞台でオリジナルものをしたい」と嬉しそうに語るお2人。その後のお仕事にも、『アニメ三銃士』で得た知識と経験が活かされたことでしょう。


それにしても、お2人揃ってミレディーのことを「中年女性」とは、なんと失礼な。せめて「円熟した大人の女性」とか「妖しい魅力の女性」とか言って欲しいなぁ。


中村さんはPROFILEにあるように、『ガッチャマン』に代表されるタツノコプロ系作品(『マッハGoGoGo』『いなかっぺ大将』『新造人間キャシャーン』)や、『ガンダム』に代表されるサンライズ系ロボットアニメ(『伝説巨神イデオン』『太陽の牙ダグラム』『機甲戦記ドラグナー』)。そして『アニメ三銃士』のルーツである『ニルスのふしぎな旅』や『スプーンおばさん』など、実に幅広い作品で美術監督を務めました。
2000年代に入っても『ボボボーボ・ボーボボ』『フレッシュプリキュア!』などのヒット作を手掛けましたが、2011年に惜しまれつつ享年67歳で他界されました。


一方、代表作が「ヒ・ミ・ツ」という木下さんですが、中村さんが美術監督を務めた『風の谷のナウシカ』では「背景」を務めた他、『魔女の宅急便 』『アルスラーン戦記』『流星機ガクセイバー』『BLUE SEED』『火宵の月』などの劇場作品やOAV作品で背景や美術監督を務めました。


さて、ここまで「スタッフルーム通信」から全8回(延べ9人)のメインスタッフのインタビューを紹介してきました。しかし『アニメ三銃士』には、当時の時点でもレジェンドと呼ぶべきベテランから、後にヒット作を手掛ける新進気鋭の若手まで、様々なスタッフが携わっていました。
「録音」を務めた斯波重治さんは『うる星やつら』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『機動警察パトレイバー』などの歴史的大ヒット作品で音響監督を務め、多くの声優を見出し育て上げたことで知られています。
「音楽」を務めた田中公平さんは、90年代に『サクラ大戦』『勇者王ガオガイガー』『ONE PIECE』など大ヒット作の作曲を手掛けてブレイク。今ではアニメ界を代表する作曲家として活躍しています。
そして各話演出の中には、後に『スレイヤーズ』シリーズや『灼眼のシャナ』シリーズなどライトノベル原作の人気アニメを手掛けた渡部高志さんや、『疾風!アイアンリーガー』『マクロス7』『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』など熱いメカ物を手掛けたアミノテツローさんも名を連ねていました。


彼の方々が『アニメ三銃士』に携わっていた当時、あるいは当時を振りかえって、どの様な想いを抱いているのか。それを語る証言は残念ながら見つかりませんでした。しかし願わくは、本作に携わったスタッフ陣にとって『アニメ三銃士』に携わったことを、今でも誇りに思っていますように。