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歯切れが悪いのは仕様です。

危険を語り継いでいくこと

 次の記事を読んで。

フランス東部の地下奥深くに有害な放射性廃棄物が埋まっていることを、人類はどのようにして何千年、何万年も後に生きる人々に伝え続けられるだろうか?
http://www.jiji.com/jc/rt?k=2011110900372r

 記事中にはいくつかの試みが紹介されていますが、ここでは言葉/記号関係について少しだけ。おそらく当たり前のことを書いていきます。

難しさ

また、埋められた地下トンネルに銅板に刻んだ警告をつける案もあるという。
 これはアンドラの取り組む別の研究分野につながっている。それは言葉やシンボルの研究で、将来の世代の人々が「警告メッセージ」と確実に理解できるような言葉やシンボルだ。同氏は「フランス語が消滅したら、何が起こるだろうか。またシンボルの意味は時を超えて同じだろうか」と問い掛けた。
http://www.jiji.com/jc/rt?k=2011110900372r

 端的に言うと、「将来の世代の人々が「警告メッセージ」と確実に理解できるような言葉やシンボル」というのは(「確実」の精度にもよりますが)無理ではないかと思います。
 言葉/シンボル/記号と意味の結び付きには様々な要因(文化的背景など)が介在してくる可能性がありますし、将来どのように変化するのかということを予測するのも、大雑把な傾向については可能かもしれませんが*1、こういうかなり特定的なところについてはかなり厳しいのではないかと考えられます。 もちろん、完璧は無理だとしてもできるだけ精度を上げることには意味があるでしょう*2
 文献学/言語学のこれまでの成果に断片的にでも触れていると大きな期待も抱いてしまうのですが、このようなケースで求められている精度とリスクの大きさを考えると、やはり不安ですよね。あまり詳しくないのですが、(認知)心理学や神経科学の知見を生かせば「人間であれば危険であると察知できるシンボル(や装置)」というのは作れる可能性があるのでしょうか。

どのように保険をかけるか

 さて、上の記事でも紹介されているように、「危険(性)を伝える」という目的を達成するためには、まず様々な対策をして多方面から保険をかけまくっておくのが良いのでしょう。
 言葉/シンボル問題については、様々な場所で、様々な言語によってその危険(性)に関わる情報を保存しておくのが保険になるのではないでしょうか。僕自身は自分の研究でそういう作業はほとんどしないのですが、昔の言葉を読む/解読する際には、色々な種類の関係史料があればあるほど可能性も精度も上がるように思います*3

語り継いでいくこと

 おそらくやはり「保険」の一つとして「普遍性を持った言葉やシンボル」に言及しているのではないかと推測しますが、現実的には「絶えず語り継いでいくこと」が一番重要なんだろうと思います。
 これも断言はできませんが、(何百年・何千年後の人々とは言葉を用いた直接のやりとりが厳しいとしても)よほどの外的要因が無ければ一世代後の人々との言葉を用いたやりとりは可能なので、それを延々と続けていき、危険(性)の伝達を途切れさせないのが不安定なようで確実なのではないでしょうか。
 色々考えてみたのですが、結局、「他の地域や集団と、あるいは次の世代と断絶しないこと*4」がよい対策に(も)なるというところまでしかたどり着けませんでした。もちろん、断絶してしまっても機能するような保険を考えておくのも同時に重要でしょうね。

余談

 「人類がほとんど全滅しかけた後の世界」設定の物語で時々「その世界の人々には放射性/放射能標識*5などのシンボルの意味がわからない」という展開が出てきますが*6、あれの原型ってどの辺りにあるんでしょうね。おそらくSFなのではないかと推察しますが、SFにはあまり詳しくないもので…

追記(2011/11/15)

 とっくに専門分野では考えられているのかもしれないのですが、こういうところの対策にかかるコストも含めて考えると、やはり放射性廃棄物管理のコストは膨大なものに思えますね…

*1:それでも様々な“例外的”なケースがありうるでしょう。

*2:それを達成するためのコストとの兼ね合いもあるでしょうけれど。

*3:そのことにより生ずる困難も色々あるのかもしれませんけれど。

*4:こういうのも「持続可能性」の問題に入ってくるのでしょうか。

*5:ハザードシンボル - Wikipedia

*6:最近だと貴志祐介『新世界より』にそのような下りがありました。