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思索の海 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

歯切れが悪いのは仕様です。


2013-12-30

[]Jonathanさんのコメントへ返信(2):分散形態論(DM)における範疇と素性

 Jonathanさんのコメントへ返信(1):分散形態論(DM)におけるRootと範疇 - 思索の海の続きです。前回で結構燃え尽きかけていますので今回は簡潔に…

また、destructionは[3person, sg]の素性を持つはず(主語になるとVは-sをとる)ですが、√DESTROYはsyntactic environmentで(Dとmergeすることで)Nと特定されるという説明がなされていますが、範疇がsyntaxで決まる場合、[3person, sg]というNに関する(Vがもたない)素性はlexiconには含まれないことになりそうな気がします。では、そういった素性はどこで含まれるのでしょうか?

Jonathanさんのコメントへ返信(1):分散形態論(DM)におけるRootと範疇 - 思索の海

範疇はどうやって決定される?

 DMではRootが何にc-commandされるかによって範疇が決定される(D->N, v->V, ...)という可能性も提案されましたが(Harley (2003)など)、現在ではRootが(範疇素性を持つ)範疇決定主要部(category-defining head: v, n, a)とmergeすることによって範疇が決まるとする分析が広く受け入れられています。

 この両者の分析はあまり直接対決させられてきたというわけではなく、現象の分析のために後者が採用されていることが多い、という感じです。ちなみに僕個人もこれまでの研究では後者を採用することが多いですが(その方が日本語の分析はやりやすい)、もしかしたらcategory-defining headなしでRootと何らかのfunctional headだけで範疇が決まることがあっても良いんではないかとこっそり思っています。まだそれに当てはまる具体的な現象は思いついていないのですが。

[3person, sg]はどこにある?

 さて、それでは素性[3person, sg]はsyntaxではn(Rootが名詞であることを決定する主要部)にあるのか…というとそんな簡単な話にはならないようです。

 DMでは素性(の束)そのものが"morpheme"だと考えられます。もしnが範疇決定素性[+N]を担う主要部だとすると、[3person, sg]はそれとは独立した主要部にある可能性があります(この二つがまた独立している可能性も)。もし[3person, sg]がnにあるとなると、(少なくともその言語では)[+N, 3person, sg]が素性の束としてレキシコン(後述)に入っていると言うことになります。これはDMにおいてsyntaxに入る前に独立した素性をまとめるといった操作を認めてしまうと、syntaxの前にはgenerativeなcomponentはないというDMの(anti-lexicalisticな)特徴と衝突してしまうためです(ただこれは部分的に緩めることができるかもしれません)。

 ただし、Embick (2012)で示唆されているように、範疇素性が何らかの他の素性に還元される可能性はあって、それが[3person, sg]といった素性だということはあるかもしれません。これを推し進めると実は上で紹介した前者のアプローチになっていくのかも…?この辺り、僕もまだよく整理できていないところです。

レキシコン?

 こういう話をすると「あれ、DMにレキシコンてあるの…?」と混乱されるかもしれません。DMにおいて存在が否定されているのは、「各要素に関連する音、意味、百科事典的知識などが全てまとめて入っている、語形成などの操作も行われる(=generativeな)レキシコン」であって、syntaxの演算の対象になる要素(Rootと形式素性)が貯蔵されている部門はあります。これも「レキシコン」と呼ぶことがあるのでややこしいのですよね…

 というわけで、[3person, sg]などの素性が貯蔵されているのはその(syntaxの前にある)部門です。僕自身はDM初期にちょっとだけ使われた"pure lexicon"という名称が好きなのですが、最近は"abstract morphemes"といったように貯蔵されているものの名前で呼ばれることが多いように思います。

 この辺りの話は、前のエントリで書いたRootとは何か、とも関係してくる話で、今後Encyclopediaとともに研究の進展が待たれる部分ですね。MPとの関連でもなかなか重要なお話だと思います。誰か…

おわりに

 いかがだったでしょうか。読み返してみるとDM初心者の方が読んでもわかんねーんじゃないかという思いが大変込み上げてくるわけですが、その辺りは僕の力不足ということで来年もまた勉強と研究に励みたいと思います。

参考文献

  • Harley, Heidi(2003) “How do verbs get their names? Denominal verbs, Manner Incorporation, and the ontology of verb roots in English,” talk at the Ben-Gurion University workshop on ‘The syntax of aspect’.
  • Embick, David (2012) "Roots and features (an acategorial postscript)," Theoretical Linguistics 38(1-2): 73-89.

killhiguchikillhiguchi 2013/12/31 12:43 要は、語彙主義の立場をとらないから面倒くさいってことでしょ、などという身も蓋もないことを。
形態(形態論・統語論)を操作する部門を他の部門から分ける理念をつきつめると分散形態論になるわけで(そこでソシュール的な記号概念から離れるわけで)、その前提やその前提をとる利点からすると、経験的データはこういう処理をすべきなのだ・する可能性があるのだ、という風に持っていくと、私のような初心者には分かりやすかったのではないかと。

dlitdlit 2014/01/01 19:02 > killhiguchiさん

> 要は、語彙主義の立場をとらないから面倒くさいってことでしょ、などという身も蓋もないことを。

ぶっちゃけそんな感じですね(おい

今回はややテクニカルな質問だったのでテクニカルに答えようとしたところテクニカルになりすぎました><
具体的な分析例を挙げると分かりやすかったんでしょうけれど力尽きました…

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