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歯切れが悪いのは仕様です。


2018-02-13

[][]呪文名を中心としたDQ語の時代区分の提案とRPG語研究の特性に関するノート

 FC版DQ3発売30周年を祝して,私が細々と続けている呪文名・魔法名の言語学(形態論)的研究のネタ論文(研究ノート)を公開します。以前書いたメモを発見したのでそれにちょっと手を加えてまとめることにしました。

 過去の研究については,下記の記事をご覧下さい。

0. はじめに

 本稿は,「ドラゴンクエスト」シリーズにおける呪文名に対する形態論的研究を拡張し,言語学的特徴を基盤とした「ドラゴンクエスト語」(以降,「DQ語」とする)の時代区分を行うことを目的とする。

 また,合わせて本研究で提唱している方法論に内在する,「文法」の取り扱いに関する問題を指摘し,簡単に整理する。

 本稿で論じる方法論や問題は,DQ語だけでなく,RPG語,あるいはゲーム語研究全体に波及する可能性があることをはじめに記しておく。

1. 「DQ語」の範囲

 「DQ語」の範囲は,まだはっきりと確定できたわけではないが,ひとまず「ドラゴンクエストシリーズにおいて用いられる特有の表現・語彙の集合体」と考えておく。

 形態論的研究上重要なのは下記のものである。

  1. 呪文名
  2. アイテム名
  3. モンスター名
  4. 特技名

後述するように「特技」はDQ語には当初存在しなかったものであるが,現在はかなりの大きさの語彙になっており,また呪文との関連からも無視することができない存在である。

 他にも人名や街・村の名前が候補として考えられるが,これはシリーズ毎に大きく変わることが多くここではひとまず考察の対象に含めないこととした。

 呪文名,アイテム名と比較するとモンスター名も作品ごとの変動が大きいように見えるが,「スライム」等DQ語を考える上での基礎語彙の有力な候補になるものがあるため重要な要素であると判断した。

2. 時代区分の提案

 主に1節で述べた4つの語彙,特に呪文名およびその変動を元に,派生作品やリメイクを除くシリーズ1〜11の11の変種に対して,下記のような時代区分を提案する。

 なお,現在個々の研究が進んでいるのは呪文名のみであるため,他の語彙の研究の成果によって大きな見直しが必要な可能性も十分にある。また,名称は日本語史の時代区分を参考にした(「近代語」が暫定である理由については後述する)。数字がシリーズ名を指す。

時代区分該当するシリーズ
上代語1
中古語2
中世語3, 4, 5
近世語6, 7, 8, 9
(近代語)(9)
現代語10, 11

表1. DQ語の時代区分

2.1 上代〜中古

 上代DQ語と中古DQ語,すなわち1と2を分かつ最も大きな言語的特徴は「(複)数」の概念の登場である。

 田川 (2013)でも「ヒャダイン」の通時的変化を取り上げて論じたように,《対象》の値([+単体][+グループ]等)としての「(複)数」の概念は呪文名の言語的特徴を考える上で非常に重要な言語(文法)的特徴である。また,異なる系統の言語(FF語やウィザードリィ語等)を含めた類型論的,対照言語学的研究を行う上でも鍵になるのではないかと考えている。

2.2. 中世

 呪文名を中心として見れば,中世DQ語は3から始まると考えて問題ないであろう。ここで多くの呪文名が登場し,一気に体系化が進んだ。ここでできた体系は4, 5でもある程度安定して引き継がれているが,その後の現代まで続くシリーズ全体の基盤となっているとさえ言える。

2.3. 近世および近代

 中世DQ語と近世DQ語の境,すなわちシリーズ5と6の間にある最も大きな変化は「特技(名)」の登場である。上述の4要素のうち,この語彙のみが新たに発生したものであるが,リメイクや派生作品への影響も大きく,DQ語の歴史を考える上で1つの転換点と言える変化である。

 大きく捉えれば6〜9までを1つの区分とすることで問題ないと考えられるが,細かく分けて「近代DQ語」を設定するのであれば,シリーズ9が該当するであろう。

 これもやはり呪文名の話であるが,9において「イオグランデ」等のより強力でしかも「メラゾーマ」などより長い6モーラの呪文名が登場していること,「バーハ」「ピオラ」「ボミエ」「メダパニーマ」等(主に「数」に関わる)体系の空き間を埋める呪文名が発生したこと,新たに闇系(「ドルマ」等)の呪文名が発生したことなどが挙げられる。さらに,上代より存在してきた「ギラ」系が消失したことも見逃せないが,これはそれほど間を置かず現代語において復活する。

 呪文名全体を見れば,9において最も豊かでかつ安定した体系が形作られているようである。

2.4. 現代

 近世(あるいは近代)DQ語と現代DQ語の間には,また大きな変化がいくつか発生している。

 《対象》の値として[+グループ]が消えたという文法に関わる変化も起きている上に,呪文名に関して言うと土系(「ジバリア」等),自動回復系(「リホイミ」等)のような新たな系統の発生が大きい。また全体として見ると蘇生系に「ザオ」が追加される等,体系化もさらに進んでいる。

 また,詳しく論じることはできないが,特技についても複雑化,系統化が大きく進んだ時代と言えるのではないだろうか。

3. DQ語における「文法」とは何か

 従来の言語学における形態論研究では,語形を考える上で,「文法」の存在は欠かせない。たとえば“cats”という語形は,実際に「文」において「複数」として機能することが確認できる(たとえばbe動詞が“are”になる等)から「複数形」とすることができるのである。

 では,呪文名を形態と考えた時に,「文法」に当たるものはなんであろうか。それは,本研究の手法では「呪文の効果」そのものになってしまう。すなわち,言語以外の要素について考えざるを得ないのである。

 このような要素も広義の「文法」と呼ぶことはそれほど奇異なことではないかもしれないが,本研究で進めている手法が大きく形態論・語彙論に偏っていることと関係して,言語学的研究としては深刻な問題となるかもしれない。

 これはDQ語だけでなく,RPG語やゲーム語の研究全体を考える上でも重要な課題である。

4. おわりに

 以上,本稿では呪文名を中心に,非常にざっくりとしたDQ語の時代区分を提案した。以下,いくつか課題について述べたい。

4.1. その他の語の取り扱い

 リメイク・派生作品は考察の対象としなかったが,DQ語全体を考える上では重要かつ貴重な研究対象となる可能性もある。DQ3のSFCリメイクに特技が存在することを考えると,リメイクは方言,派生作品は同系統の言語というような単純な対応では済まない可能性も十分にある。

4.2. 呪文名以外の取り扱い

 特技名も含めて,アイテム名,モンスター名についてはまだ具体的に論じることができていない。

 アイテム名,モンスター名間にも独特の形態論的関係が見出せること,アイテム名には「アサシンダガー」や「ホーリーランス」のような外来語と考えたくなるようなものも存在することなどから,新たな研究の糸口も垣間見える。今後の研究の発展に期待したい。

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