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歯切れが悪いのは仕様です。


2018-02-13

[][]呪文名を中心としたDQ語の時代区分の提案とRPG語研究の特性に関するノート

 FC版DQ3発売30周年を祝して,私が細々と続けている呪文名・魔法名の言語学(形態論)的研究のネタ論文(研究ノート)を公開します。以前書いたメモを発見したのでそれにちょっと手を加えてまとめることにしました。

 過去の研究については,下記の記事をご覧下さい。

0. はじめに

 本稿は,「ドラゴンクエスト」シリーズにおける呪文名に対する形態論的研究を拡張し,言語学的特徴を基盤とした「ドラゴンクエスト語」(以降,「DQ語」とする)の時代区分を行うことを目的とする。

 また,合わせて本研究で提唱している方法論に内在する,「文法」の取り扱いに関する問題を指摘し,簡単に整理する。

 本稿で論じる方法論や問題は,DQ語だけでなく,RPG語,あるいはゲーム語研究全体に波及する可能性があることをはじめに記しておく。

1. 「DQ語」の範囲

 「DQ語」の範囲は,まだはっきりと確定できたわけではないが,ひとまず「ドラゴンクエストシリーズにおいて用いられる特有の表現・語彙の集合体」と考えておく。

 形態論的研究上重要なのは下記のものである。

  1. 呪文名
  2. アイテム名
  3. モンスター名
  4. 特技名

後述するように「特技」はDQ語には当初存在しなかったものであるが,現在はかなりの大きさの語彙になっており,また呪文との関連からも無視することができない存在である。

 他にも人名や街・村の名前が候補として考えられるが,これはシリーズ毎に大きく変わることが多くここではひとまず考察の対象に含めないこととした。

 呪文名,アイテム名と比較するとモンスター名も作品ごとの変動が大きいように見えるが,「スライム」等DQ語を考える上での基礎語彙の有力な候補になるものがあるため重要な要素であると判断した。

2. 時代区分の提案

 主に1節で述べた4つの語彙,特に呪文名およびその変動を元に,派生作品やリメイクを除くシリーズ1〜11の11の変種に対して,下記のような時代区分を提案する。

 なお,現在個々の研究が進んでいるのは呪文名のみであるため,他の語彙の研究の成果によって大きな見直しが必要な可能性も十分にある。また,名称は日本語史の時代区分を参考にした(「近代語」が暫定である理由については後述する)。数字がシリーズ名を指す。

時代区分該当するシリーズ
上代語1
中古語2
中世語3, 4, 5
近世語6, 7, 8, 9
(近代語)(9)
現代語10, 11

表1. DQ語の時代区分

2.1 上代〜中古

 上代DQ語と中古DQ語,すなわち1と2を分かつ最も大きな言語的特徴は「(複)数」の概念の登場である。

 田川 (2013)でも「ヒャダイン」の通時的変化を取り上げて論じたように,《対象》の値([+単体][+グループ]等)としての「(複)数」の概念は呪文名の言語的特徴を考える上で非常に重要な言語(文法)的特徴である。また,異なる系統の言語(FF語やウィザードリィ語等)を含めた類型論的,対照言語学的研究を行う上でも鍵になるのではないかと考えている。

2.2. 中世

 呪文名を中心として見れば,中世DQ語は3から始まると考えて問題ないであろう。ここで多くの呪文名が登場し,一気に体系化が進んだ。ここでできた体系は4, 5でもある程度安定して引き継がれているが,その後の現代まで続くシリーズ全体の基盤となっているとさえ言える。

2.3. 近世および近代

 中世DQ語と近世DQ語の境,すなわちシリーズ5と6の間にある最も大きな変化は「特技(名)」の登場である。上述の4要素のうち,この語彙のみが新たに発生したものであるが,リメイクや派生作品への影響も大きく,DQ語の歴史を考える上で1つの転換点と言える変化である。

 大きく捉えれば6〜9までを1つの区分とすることで問題ないと考えられるが,細かく分けて「近代DQ語」を設定するのであれば,シリーズ9が該当するであろう。

 これもやはり呪文名の話であるが,9において「イオグランデ」等のより強力でしかも「メラゾーマ」などより長い6モーラの呪文名が登場していること,「バーハ」「ピオラ」「ボミエ」「メダパニーマ」等(主に「数」に関わる)体系の空き間を埋める呪文名が発生したこと,新たに闇系(「ドルマ」等)の呪文名が発生したことなどが挙げられる。さらに,上代より存在してきた「ギラ」系が消失したことも見逃せないが,これはそれほど間を置かず現代語において復活する。

 呪文名全体を見れば,9において最も豊かでかつ安定した体系が形作られているようである。

2.4. 現代

 近世(あるいは近代)DQ語と現代DQ語の間には,また大きな変化がいくつか発生している。

 《対象》の値として[+グループ]が消えたという文法に関わる変化も起きている上に,呪文名に関して言うと土系(「ジバリア」等),自動回復系(「リホイミ」等)のような新たな系統の発生が大きい。また全体として見ると蘇生系に「ザオ」が追加される等,体系化もさらに進んでいる。

 また,詳しく論じることはできないが,特技についても複雑化,系統化が大きく進んだ時代と言えるのではないだろうか。

3. DQ語における「文法」とは何か

 従来の言語学における形態論研究では,語形を考える上で,「文法」の存在は欠かせない。たとえば“cats”という語形は,実際に「文」において「複数」として機能することが確認できる(たとえばbe動詞が“are”になる等)から「複数形」とすることができるのである。

 では,呪文名を形態と考えた時に,「文法」に当たるものはなんであろうか。それは,本研究の手法では「呪文の効果」そのものになってしまう。すなわち,言語以外の要素について考えざるを得ないのである。

 このような要素も広義の「文法」と呼ぶことはそれほど奇異なことではないかもしれないが,本研究で進めている手法が大きく形態論・語彙論に偏っていることと関係して,言語学的研究としては深刻な問題となるかもしれない。

 これはDQ語だけでなく,RPG語やゲーム語の研究全体を考える上でも重要な課題である。

4. おわりに

 以上,本稿では呪文名を中心に,非常にざっくりとしたDQ語の時代区分を提案した。以下,いくつか課題について述べたい。

4.1. その他の語の取り扱い

 リメイク・派生作品は考察の対象としなかったが,DQ語全体を考える上では重要かつ貴重な研究対象となる可能性もある。DQ3のSFCリメイクに特技が存在することを考えると,リメイクは方言,派生作品は同系統の言語というような単純な対応では済まない可能性も十分にある。

4.2. 呪文名以外の取り扱い

 特技名も含めて,アイテム名,モンスター名についてはまだ具体的に論じることができていない。

 アイテム名,モンスター名間にも独特の形態論的関係が見出せること,アイテム名には「アサシンダガー」や「ホーリーランス」のような外来語と考えたくなるようなものも存在することなどから,新たな研究の糸口も垣間見える。今後の研究の発展に期待したい。

2015-09-29

[][]【研究ノート】「ファイナルファンタジー」シリーズにおける魔法名の形態論的記述に向けて

0. はじめに

 本稿では「ファイナルファンタジー(以下「FF」と略記する)」シリーズにおける魔法名に対する形態論的な観点からの記述・分析、および他シリーズとの対照研究の準備として、いくつかの現象の整理を行う。研究の方向性や基本姿勢については下記拙論を参照されたい。

 当初はある程度の分析とともに公開する予定であったが、「ドラゴンクエスト(以下「DQ」)」シリーズの呪文名と違って音韻論的な議論を行う必要があり、筆者一人では分析に時間がかかると判断したため、ひとまず基本的な記述をまとめておくこととした。

1. 対象と方法

1.1. 記述対象

 FFシリーズ1-9の魔法名を対象とする。魔法(名)については下記のページを参考にした。

  1. no title
  2. ファイナルファンタジーの魔法一覧とは (ファイナルファンタジーノマホウイチランとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

1-9までを対象とした理由は、筆者が8を除く1-7および9のプレイ経験があること、資料1が1-9までを対象としていることなど、便宜的なところが大きい。シリーズによってどの魔法が採用されているかについては違いがあるものの、形態法や接辞の種類にそれほど大きな変化がないことも幸いした。複数のシリーズを取り上げるが、現時点では基本的な記述が不足しているため、通時的な観点からの考察は極力行わないこととする。また、必要に応じて上記以外のシリーズに出てくる魔法名にも言及することがある。

1.2. 形態変化に関わる素性

 基本的には、DQシリーズで用いた以下のものを文法的素性として用いる(詳細については上記のエントリを参照)。

  1. 《対象》:値としては[+単体][+グループ][+全体]など
  2. 《威力》:値としては[+増][+減][+小][+中][+大][+最大]など

例:ファイラ《対象[未指定]》《威力[+中]》

 DQシリーズとの大きな違いは、FFシリーズにおいてはそれぞれの魔法の系列によって対象の値が指定されているということが少ない(対象の範囲を任意に変化させることができる)という点である。これをどのように捉えるかについてはいくつかの可能性があるが、ここでは簡便のため素性を[未指定]としている。

 FFシリーズにおいても、同系列にある呪文の形態変化は他の段階の形態変化を含まないことがほとんどである。たとえば、「ファイガ《威力[+大]》」は形態上は「ファイラ」を経ているわけではなく、基本形の「ファイア」に接尾辞「ガ」を付すことで直接得られる。

1.3. 語幹の範囲と表記

 語幹は上記拙論と同様「語形同士の差異から切り出すことのできる接辞類を除いた最大の部分」とする。なお便宜上、必要がある場合にのみローマ字表記を用い、それ以外は片仮名表記とする。語幹の認定についてはDQシリーズにはなかった問題があるが、それについては下記の接辞に関する議論において述べる。

 以下、形態の境界を表す際は「-」、音節の境界を表す際には「.」を用いるが、必要がない場合には表記しないこともあるので注意されたい。

2. 接辞と語幹

 FFシリーズの魔法名は、DQシリーズの呪文名に比べると、非常に生産的・規則的な接辞群を持つ。しかしそれゆえにDQシリーズには見られない興味深い振る舞いと問題が存在するようである。

2.1. 基本的な屈折接辞(inflectional affix):「-ラ」「-ダ」「-ガ」

  文法素性《威力》の値を変化させる場合は、多くがこれらの接辞によるものであり、ほとんどの場合接尾辞として現れる(具体例は2.2を参照されたい)。

  • 「-ラ」《威力[+中]》
  • 「-ダ」《威力[+大]》
  • 「-ガ」《威力[+最大]》

「ディア」に付く場合は

  • ディア、ア-ディア、ダ-ディア、ガ-ディア

といったように接頭辞として現れるが、 《威力[+中]》に対応する形態が「ア-」となっており、接尾辞のパターンと完全に対称的にはなっていない。ちなみにこの接頭辞「ア-」は

  • レイズ、ア-レイズ

のパターンにも現れるものとの関係性が興味深い。

 もう一つ異なる振る舞いをするのは「ヒール」系列で、

  • ヒール、ヒー-ラ、ラ-ヒー-ラ

という形態変化を見せる。 《威力[+中]》の形成では接尾辞付加、《威力[+(最)大]》の形成はそれにさらに接頭辞を付加したものとなっており、上述した数少ない一つ前の段階の語形を踏まえた形成になっている。

 また、これらの接辞には次のような階層があると考えられる。

(1) 《威力》接辞の階層:ガ≧ラ>ダ

これは、 《威力》に関する接辞の出現は、その値の強弱の順ではなくこの階層に従っているということである。たとえば、「ブレイク」の系列に一段階強力な屈折形が加わる場合は 《威力》の値が最も小さい「ラ」が付加され「ブレク-ラ」が形成されるのではなく、「ブレク-ガ」が現れるという現象が見られる。「ラ」も「ガ」より優先的に現れることがあるのでここでは「≧」を用いている。「ダ」は明らかに「ラ」「ガ」の次に使用される傾向があるようである。

2.2. 語幹の範囲と変化

 上記の接辞自体は非常に規則的に振る舞うのであるが、一方で語幹の振る舞いはそれに比べて複雑に見える。

 まず、基本的な規則として

(2) (接辞が付加した場合も含めて)語形全体の出力が4モーラを超えてはならない。

というものがあると推察される。

これは、

  • ブリザド、ブリザ-ラ、ブリザ-ガ
  • サンダー、サンダ-ラ、サンダ-ガ
  • グラビデ 、グラビ-ラ、グラビ-ガ
  • クエイク、クエイ-ラ、クエイ-ガ
  • ブレイク、ブレク-ガ

等に見られるように、語幹が4モーラの場合語幹末の1モーラが削除され接辞が付加されるという現象が広範に観察されることからわかる。現れなくなる語幹末音の種類に共通性は見受けられないため、語幹も複数の形態からなると考えるよりは、削除と考えた方が良いであろう。

 「ブレイク」→「ブレク-ガ」では二重母音の2モーラ目の削除が起きており、外来語の複合語短縮(例)サウンドトラック→サントラ)を思い起こさせる。もし両者に共通性があるのであれば、 《威力》による形態変化が「屈折」である可能性についても考え直す必要が出てくる可能性がある。

 さて、問題は、語幹が3モーラの場合である。これには2つのパターンがある。

  • 語幹にそのまま接辞が付加
    • ケアル、ケアル-ラ、ケアル-ダ、ケアル-ガ
    • エアロ、エアロ-ラ、エアロ-ガ

このパターンは(2)の制約に従っている。しかし、次のような例も見受けられる。

  • 語幹末音の削除や音韻変化が起こる
    • ファイア、ファイ-ラ、ファイ-ガ
    • ウォータ、ウォタ-ラ、ウォタ-ガ

これらの形成は接辞をそのまま付加しても「出力形が4モーラ以下」という制約には抵触しないにも関わらず、語幹末音の削除や語中の特殊拍の削除が起こっている。

 以上の2つのパターンをどのように捉えればよいのか現時点で良い分析法はないのであるが、たとえば「ファイア」系列では語幹末音と接辞の母音が同一である点など、個々の語幹の形態的、音韻的特徴を細かく見る必要があるのかもしれない。

2.3. 「サンガー」と「サンダガ」

 「サンダー」のガ形はシリーズ1では「サンガー」となっている。これもやはり(2)の制約に従った結果であると考えられるが、どのようにこの出力形になるのかということを考えるのは難しい。

 まず語形成の適用範囲については、「語幹末のモーラ」ではなく「語幹末の音節」であると考えれば「san.daa」の「daa」が対象になるので語幹「サンダー」にのみこのような変わった現象が見られることがある程度捉えられる。形態の対応だけを見ると「ダ」から「ガ」への音変化という可能性を思いつくが、「ガ」は全て接辞であるという共通性を保持するためには、「サンダガー」といった中間形を設定し、母音の共通性による縮約などを考えた方がよいのかもしれない*1。しかしこの場合も接中辞的な振る舞いを追加で想定せざるを得ない。

2.4. 派生接辞

 FFシリーズで興味深い特徴の1つに、規則的な派生接辞(derivational affix)が見られるという点が挙げられる。すなわち、接辞の付加によって文法素性が変化するのではなく語彙内容(≒魔法の効果)が変わるのである。代表的なものは以下の2つである。

  • バ-【+対抗】:バ-ファイ、バ-サンダ、バ-コルド、バ-ウォタ、バ-マジク、バ-オル
  • -ナ【+治癒】:(エス-ナ)、スト-ナ、ポイゾ-ナ、ブライ-ナ、バス-ナ

他にも「バリア、マ-バリア」や「アスピル、r-asupiru」のペアが候補として考えられる。また、シリーズ11 に登場する、【属性付与】の特徴を持つ「エン-」が気になるところである(例:エン-ブリザ)。

2.5. 屈折と派生の間

 屈折なのか派生なのか判断が難しいものとして「レイズ」系列が挙げられる。

  • レイズ、ア-レイズ、リ-レイズ

全体としてはパターンになっているように見受けられるが、「レイズ」→「ア-レイズ」は 《威力》の値の変化としても、「リ-レイズ」は派生として捉えた方が良さそうである。

 形態論においてはそもそも屈折と派生に明確な線が引けるかということ自体が大きな問題の1つであるが、FFシリーズの魔法名はその議論から見ても面白い。

3. 補充法

 FF シリーズの魔法名における形態的特徴としてもう一つ興味深いものが、補充法(suppletion)の存在である。 補充法とは “good-better-best"のように、形態変化の際に形態の一部(ここでは語幹部分)が基本的な形態とかなり異なるものに置き換わってしまう現象のことである。以下の2つが明確な例である。

  • ブリザド:バ-コルド(×バ-ブリザ)
  • ブレイク:スト-ナ(×ブレク-ナ)

特に「バ-コルド」はシリーズ11, 13では規則的な形成である「バ-ブリザ」が現れており、通時的に見ても面白い。

 語形全体による補充法の可能性があるものとして

  • ポイズン:バイオ
  • コメット:メテオ

のペアが考えられるが、それぞれ同系列なのか検討する必要がある。特に「バイオ」はシリーズによっては「バイオ-ラ」「バイオ-ガ」という規則的な形成を見せることもあるので注意が必要である。

 補充法に関しては専門的ではあるが下記のエントリも参照されたい。

4. おわりに

 以上、非常に簡単にではあるがFFシリーズの魔法名について、形態変化と接辞を中心に基本的な記述を試みた。取り上げることのできなかった魔法名も多く、記述面に限ってもまだ整理の余地が大いにある。また、言語研究の中でどのような問題を提起するのか、先行研究と絡めた形で示すこともできておらず、研究ノートとしても課題が残るところである。

 FFシリーズはDQシリーズと比較すると接辞の振る舞いなど規則的な面が多く見られるが、規則的だからこそ語幹の変化や補充法などの問題が浮き彫りになり、DQシリーズの呪文名と違った魅力がある。今後の研究の展開に期待したい。

追記(2015/09/30)

 はてブのコメントにお答えする形で少し補足を書きました。

*1:このように考えると、「ファイア」系列との共通性も見えてくる。

2014-11-25

[][][]C87冬コミにラオウとかが使う「うぬ(ら)」を役割語の観点から見た論考が出ます

 SJLL (Semiannual Journal of Languages and Linguistics)にヒャダイン論文以来となるfull paper (?)を投稿し、無事受理されました。

タイトルは

  • 役割語としての二人称「うぬ(ら)」:ラオウとハドラー

です。以下、「はじめに」より要旨のようなものを抜粋。

 本稿では、役割語研究の中でこれまでそれほど取り扱われてこなかった、二人称表現にも役割語として機能するものがあるという可能性について、「うぬ(ら)」をケーススタディとして取り上げ検討する。

 本稿の主張は次の通りである。A) ラオウによる二人称表現中に於ける「うぬ(ら)」の使用割合はそれほど高くなく、また『北斗の拳』の段階では「うぬ(ら)」は役割語としての位置づけがまだ明確ではない、B) 『ダイの大冒険』における「うぬ(ら)」の例を見ると、その使用は≪敵≫≪武人≫≪強者≫≪誇り高い≫といった特徴と結びつき、役割語としての性質を持つようになっている。

dlit (印刷中)「役割語としての二人称「うぬ(ら)」:ラオウとハドラー」

論旨は雑(しかもややネタ混じり)ですが、データはがんばって一つ一つ確認して数えましたので、好きな方はそちらだけ眺めても楽しめるかもしれません。あ、ちなみに最近のラオウの創作セリフネタを取り扱ったものではなく、原作を調べたっていうやつなのでその点はご了承下さい。

 冬コミ後は通販で買えるようになり、またその後しばらくしてpdfを公開することも考えていますが、売り上げに貢献していただけると嬉しいです。

関連エントリ

2014-01-20

[][]【販促】SJLL (Semiannual Journal of Languages and Linguistics) vol.2絶賛販売中

 言語系のネタ(と言い切って良いのか大変悩ましいガチさもほのかに漂う)同人論文誌SJLL (Semiannual Journal of Languages and Linguistics) vol.2が冬コミ後通販で購入できるようになっています。

 購入方法は下記ついーとをご参照ください。

【SJLL#2】在庫がやっと40切りましたがまだまだ通販続行中です。SJLL#1も残10程度ですが併せて通販を受け付けております。下記アドレスからお申し込み下さい。(SJLL#1の方もご希望の方は備考欄にお書き添え下さい)ページが見つかりませんでした - leap in the dark WEB

Sachiko, H-M.さんのツイート: "【SJLL#2】在庫がやっと40切りましたがまだまだ通販続行中です。SJLL#1も残10程度ですが併せて通販を受け付けております。下記アドレスからお申し込み下さい。(SJLL#1の方もご希望の方は備考欄にお書き添え下さい) https://t.co/Jsgi6m

vol.1の方は僕のヒャダイン論文も載っていますのでよろしく。

 そのうち電子書籍でも公開予定とのことですが、装丁きれいですし付録に私費シール(cf. 科研費シール)が付いてきますよ。写真はついったーであげてる方がいらっしゃいますので「私費シール」で検索すると見れます(手抜き

2013-12-25

[][]【告知】SJLL Vol.2 No.1刊行@C85冬コミ

 SJLL (Semiannual Journal of Languages and Linguistics)の2号がC85冬コミで出ます。今回も精力的に原稿収集から編集・印刷・販売まで進めてくださった@nanaya_sacさんをはじめ作成に関わった皆さんありがとうございます。

Semiannual Journal of Languages and Linguistics(略称:SJLL)は、 Twitter Free University Pressから出版されている架空の論文誌です。(実態はTwitter上の言語クラスタが集まっていろいろ好き勝手書く合同同人誌です)

コミックマーケット85落選いたしましたが委託をお願いすることになりました。

委託先:3日目(12/31) 西へ−02b 安川製作所さま

ページが見つかりませんでした - leap in the dark WEB

 今回はネタが間に合わずoriginal paperを投稿することはできませんでした。どこかからお叱りを受けそうな気もしますが内容をさらして紹介しておきます(上のページに乗ってるんですけどね)。本数増えましたねえ。

  • @kzhr 「二〇一三年第十二月三十一日」
  • @killhiguchi 「現代日本語において、複語尾の終止法独自の用法を、喚体メカニズムで説明する可能性について」
  • @shutodainohito 「引き出しの中のロシア語:ソ連のことばからロシアのことばへ」
  • @yearman 「早口な言語と遅口な言語を調べるのは難しい」
  • @TTAGGGn 「ウォーター!」
  • @nanaya_sac 「東大前は東大『前』だったのか」
  • @chekhavac 「ロシア語 Q&A (仮)」
  • @nkmr_aki 「木曽節考」
  • @taiki_wger 「イスタンブルの向こう側:トルコ南東部に少しだけ行ってきた話」
  • @paritoperi 「ねこまとぺ・マ法少女おのまとぺたん」

(特集)Ask.fm@Linguistics

@nanaya_sac, @chekhavac, @dlit, @nkmr_aki, @taiki_wger

せめてもの、と思って特集のAsk.fm@Linguisticsは書いてみました。自分語りがほとんどですが読む機会がありましたらついでにご笑覧いただければ。Ask.fm@Linguisticsの質問項目は以下のとおりです。

  1. アカウント名と、差し支えなければその由来を教えて下さい。
  2. TwiFULL学徒ですか?
  3. 専門領域(あるいは興味のある言語領域・言語現象)は何ですか?
  4. 言語学(あるいは言葉に関する研究)を始めたきっかけは何ですか?大いに語って下さい。
  5. ご自身の研究内容について、中学生がわかるようなレベルで教えて下さい。まだ研究を始めていらっしゃらない方は好きな言葉でも書いてください。
  6. 言語学・言葉に関するオススメ本と、その理由やオススメポイントを教えて下さい。
  7. 落ち着いて研究を行えるのはどこですか?ノマド派の方はお気に入りのお店など教えて下さい。
  8. 研究資料や文献は自炊する派ですか? 紙媒体で保存派ですか?
  9. 論文はどのように管理されていますか?何かテクニックがありましたら差し支えない範囲で教えて下さい。
  10. TwiFULLクラスタでよかった!と思ったことはありますか?まだTwiFULLクラスタではない方は好きなおでんの具を書いて下さい。

 ちなみに年末年始は沖縄に帰省いたしますので今回も参加は見送りです…

2013-07-22

[][][]呪文名研究シリーズの「ヒャダイン」についての論考が出ます(紙で)

 以前ここで書いた「ドラゴンクエスト」呪文名の研究シリーズ

の第二弾となる、

  • 「「ヒャダイン」の消失についての形態論的一考察」

と題した論考をSJLL (Semiannual Journal of Languages and Linguistics)という雑誌に投稿しました(このタイトルの元ネタが何かについても書いてあります)。

 SJLLについては

Semiannual Journal of Languages and Linguistics(略称:SJLL)は、 Twitter Free University Pressから出版されている架空の論文誌です。(実態はTwitter上の言語クラスタが集まっていろいろ好き勝手書く合同同人誌です)

2013年夏コミ(コミックマーケット84 2日目 東地区“Q”ブロック−51aへ委託予定)にて創刊号を発売する予定です。

no title

とのことです。

 僕自身は現状、夏コミに参加するのは大変厳しいスケジュールなのですが、結構貴重な論考も色々含まれるものになるようですので、参加される方は気にかけていただけると嬉しいです。

 今後も目次などの詳しい情報が出ましたら告知いたします。

追記(2013/07/22)

 掲載予定のタイトルについてはこちらに出ていました(僕はぎりぎりに出したので載ってません 現在は僕のタイトルも出ています)。

2012-02-15

[][]【研究ノート】「ドラゴンクエスト」シリーズにおける呪文名の形態論的記述に向けて

0. はじめに*1

 本稿は「ドラゴンクエスト」シリーズにおける呪文名に対する形態論的な観点からの記述の準備として、記述方法や論点、重要なデータの整理を行い、議論の足がかりを作ることを目的とする。従って全ての呪文名を取り上げることはせず、形態論的な派生関係や接辞類の考察に有用だと考えられる呪文名を主に取り扱う。また、各語彙/形態素の由来・語源は考察対象としない。

 できるだけ多くの現象・論点に言及しようと務めた結果、全体としては雑駁な論考になってしまったが、今後の研究の叩き台となれば幸いである。

1. 対象と方法

1.1. 記述対象

 「ドラゴンクエスト3」の呪文名を対象とする。なお、呪文(名)とその効果については以下のページを参考にした。

3のみを取り上げる主な理由は、3においてその後のシリーズにも引き継がれていく呪文の基本系統がある程度出揃い、また体系的な記述を行うのに魅力的なだけのデータ量があるという点である。4以降も基本的に呪文は増える傾向にあり、特に9において多くの呪文が追加され形態論的な考察には向くが、筆者が8および9は未プレイであり内省に自信が無いこと、また複数の作品を取り扱うと作品によって効果が異なる呪文の取り扱いが複雑になることから今回は対象を3に絞ることとした。しかし、考察の都合上他作品に登場する呪文(名)に言及することもある。

1.2. 派生に関わる素性

 文法的素性とその値としては次の二種類を仮定し*2、以下にある例のように記述する。なお、《威力》は「ダメージ」「成功率」の両方をカバーする素性である。

  1. 《対象》:値としては[+単体][+グループ][+全体]
  2. 《威力》:値としては[+増][+減][+最小][+中][+最大]など

例:ベギラマ:《対象[+グループ]》《威力[+中]》

 《威力》の値としての[+増][+減]は相対的な威力の変化を担う素性であり、[+最小][+中][+最大]は絶対的な威力の程度を担う素性であるとする。両方を仮定する理由は、同系統にある呪文名が段階的な派生を経ている場合と、最小威力の呪文名から直接派生されていると分析できる場合があるからである。たとえばメラ系を例にとると、最大威力の「メラゾーマ」は、形態上は中威力の呪文名「メラミ」を経ているわけではなく(=「ミ」という形態を含まない)「メラ」+「ゾーマ」という構成によって「メラ」から直接的に得られる。相対的な威力の変化と呪文名の関係については以下の記述で具体的に述べる。

 なお、「火炎」「回復」「すばやさ上昇」といった各呪文系統が持つ特徴は形態的派生によって変化することがほぼ皆無なので、文法的素性ではなく語彙的特徴であると考えたい。また、たとえばギラ系は常に《対象[+グループ]》であり派生による値の変化は起こさないが、このような場合は語彙に指定されている文法的素性としておく方が体系的な記述のためには良いと考えられる。

1.3. 語幹の認定について

 語幹は「語形同士の差異から切り出すことのできる接辞類を除いた最大の部分」とする*3。なお便宜上、形態素境界が音節を分断する場合はローマ字表記とし、それ以外は片仮名表記を用いる。分析の方法によっては語幹の範囲の可能性が複数考えられる場合もあるが、本稿では取り上げない。

2. 接辞類

 「ファイナルファンタジー」シリーズにおける接辞「ラ」「ガ」に比べると、規則的あるいは生産的な接辞は比較的少ない。ここでは、複数の呪文系統に出現しかつ派生に関わる形態素を接辞と考えておく。

2.1. 接頭辞「ベ」
  • 該当する語形:ベホイミ/ベホマ/ベホマラー/ベホマズン、ベギラマ/ベギラゴン、

 「ホイミ」→「ベホイミ」、「ギラ」→「ベギラマ」の派生を考えると《威力[+中]》あるいは《威力[+増]》の素性を担うのではないかと考えられる。「ギラ」→「ベギラマ」の例では「べ-マ」が接周辞(circumfix)であると考えることもできるが、以下に述べる接尾辞「マ」の存在や日本語が基本的に接周辞を持たない言語であることを合わせて考えると、「べ-マ」は接尾辞と接頭辞のペアであるという可能性が高いように思われる。

2.2. 「マ」
  • 該当する語形:ベホマ/ベホマラー/ベホマズン、ベギラマ、バギマ、(マヒャド)

 基本的には接尾辞であろう。「バギ」→「バギマ」の派生から《威力[+中]》あるいは《威力[+増]》の値を持つ接辞ではないかと考えられるが、「ベホマ」が「ベホイミ」からの派生であると考えると、《威力[+増]》である可能性が高い。しかし、ホイミ系に現れる「マ」は「ミ」の音変化と分析できる可能性もあり、現段階では強い証拠とは言えない。

 「ヒャド」→「マヒャド」の場合の「マ」は《威力[+最大]》の値を仮定する必要があるため上記の接尾辞の「マ」との共通性がそこまで見られないが、英語の"en"のように接頭辞としても接尾辞としても現れる接辞(例:en-rich, sick-en)の例も無いではない*4し、《威力》という文法的素性に関わるという点では共通しているのでここでは括弧書きで示しまとめて記述しておくこととした*5

 また、シリーズ4で出てくる「ラリホー」→「ラリホーマ」の派生では「マ」の付加により《威力》の値が変化していて上記の接辞「マ」との共通性が見られる。しかしこの派生では同時に《対象》の値も[+グループ]から[+単体]へと変化しており、シリーズ5〜8では再び[+グループ]の値を取り戻しているものの、シリーズ9では[+全体]に変化し、「ザラキーマ」「メダパニーマ」における《対象[+全体]》の値を持つ「ーマ」に合流していった様子が見て取れる。これは「ラリホー」の語幹末の長音と接辞「マ」の組み合わせが直前の音節の長音化の力を持つ「ーマ」に再分析されていった過程であると考えられよう。

2.3. 接尾辞「ズン」
  • 該当する語形:イオナズン、ベホマズン

 「イオ」→「イオナズン」の派生から《威力[+最大]》の値を持つと分析したいところだが、「ベホマ」→「ベホマズン」の派生を見るとむしろ《対象》の値が変化しており([+単体]→[+全体])、文法的素性というよりは「その系統における最難度」を表すような接辞であるのかもしれない。

 なお、「イオナズン」の「ナ」は「イオラ」の「ラ」の音変化の可能性も考えられ*6、そうすると「イオラ」→「イオナズン」という派生関係になるので、「ズン」に指定されている素性は《威力[+増]》であると分析できる可能性も浮上する。現段階では考察に該当する語形が少なすぎるので、今後新しい呪文名が出てくることに期待したい。

2.4. 「ラ」
  • 該当する語形:イオラ/(イオナズン)、ザラキ、(ベホマラー)

 「イオ」→「イオラ」の派生からは《威力[+中]》あるいは《威力[+増]》の値を持つ接辞であると考えられるが、「ザキ」→「ザラキ」の場合は《対象[+グループ]》かつ《威力[+減]》の値を付加するため両者の共通性は見えにくい。「ザラキ」の場合「ラ」は接中辞(infix)であるが、接中辞は接頭辞に近い性質を示すものは存在する*7一方、接尾辞に近い例は(管見の限りでは)あまり無いということも考慮すると、接尾辞「ラ」との共通性についてはやはり疑問が残る。

 この接中辞の「ラ」は《対象[+グループ]》かつ《威力[+減]》の値を持つという点では「ベホマ」→「ベホマラー」に見られる「ラー」との共通性が見て取れるが、長音の存在が気になるためここでは括弧書きで示している。「イオナズン」が括弧書きで示してあるのは前項目「ズン」で述べた分析の可能性を取ると「ナ」は「ラ」が音変化したものとも考えられるからである。以上のことを合わせると、「ラ」を接辞としてたてるにはまだ根拠が弱いのではないかと思われる。

2.5. 接辞とその機能について

 以上見てきたように、複数の環境に生起する少数の接辞についても、素性やその値が一定でないことが多い。ここでは接辞と文法的素性を対応させた記述を行ったが、各系統に単なる呪文のレベルのようなものを設け、そのレベルと接辞が対応すると考える方がすっきりした記述が可能になるかもしれない(cf. Word and Paradigmモデル)。また、各接辞は単に形態的な差異を表すという機能を担っているだけという可能性も考えられる*8

3. 各論

 全ての派生関係を取り上げることはできないので、ここでは特に興味深いものについて考察する。

3.1. ヒャド系

 1.3で示した定義からは、語幹は「hyad」ということになる。では「hyad-o」の「o」は何かという疑問が浮上してくるが、「ヒャド、マヒャド」対「ヒャダルコ、「ヒャダイン」という後続形態素の有無による対立を考えると、「hyad-o」は露出形、「hyad-a-」は被覆形ではないだろうか(例:「雨 ame」対「雨傘 ama-gasa」、有坂(1934))。しかし、露出形-被覆形には/o/-/a/という母音のペアが存在しないという問題点はある*9

 さらに、この系統の呪文名はその形態的派生に《威力》と《対象》の二つの素性が関わるためか「ヒャダイン」という語形の存在と後続シリーズにおける消失という体系性から見ると興味深い現象が見られるが、この問題については稿を改めて論じることとしたい。

3.2. すばやさ、守備力増減系

 まず、ルカニ系の語幹は「rukan」、スカラ系の語幹は「suk」となり、上記ヒャド系と同じく閉音節で終わる語幹を持つことを指摘しておきたい*10。また、シリーズ9で「ピオリム」に対して「ピオラ」、「ボミオス」に対して「ボミエ」という呪文が登場していることは、「ルカニ-ルカナン」、「スカラ-スクルト」という対立に対応する形で体系の“あきま”を埋める動きとして注目に値する。

4. おわりに

 以上、非常に荒いものではあるが具体的な記述、分析例を示した。以下では主に残された問題、今後の課題について簡単に述べたい。

4.1. 音韻論的観点からの記述

 本稿ではアクセントについて記述することはできなかった。形態的派生とアクセントパターンの関係についての記述および考察は重要である*11。また、同系統内では基本的な呪文ほどモーラ数が少なく、強力な呪文ほどモーラ数が多くなる傾向にあることも形態論的な観点からは気になるところである。

4.2. 歴史的変遷

 1.1で述べたように基本的にシリーズ3を対象としたため、語形あるいは体系全体の歴史的変遷についてはほとんど考察することができなかったが、いくつか指摘したように興味深い体系の変化は見られる。ちなみに作品内での時間関係よりは、現実世界での作品の時系列に沿った方が言語学的な研究には向くのではないかと考えている。

4.3. 対照研究の可能性

 他体系(ファイナルファンタジーシリーズ、ウィザードリィシリーズなど)との対照研究も興味深い所ではあるが、そのためにはまず各体系における魔法名、呪文名の記述が必要であろう。ドラゴンクエストシリーズとともにそれらの研究が今後盛んになることを期待してやまない。

4.4. その他

 他にも本稿で接辞として取り上げることのできなかった派生に関わる形態素(例:「ベギラゴン」の「ゴン」など)をどのように扱えばよいのかという大きな問題が残されている。それと対になる問題であるが、各呪文系統の具体的な分析もほとんど示すことができなかった。先に述べたようにドラゴンクエストシリーズの呪文名はそれほど体系的な派生関係を作っていないように見受けられるが、だからこそ形態論的には興味深い研究対象になるとも考えられる。今後の研究の発展が楽しみである。

引用文献

  • 有坂秀世(1934)「古代日本語に於ける音節結合の法則」『国語と国文学』11(1).(『国語音韻史の研究 増補版』, 1957, 三省堂 所収)
  • 川端善明(1997)『活用の研究1』清文堂出版.
  • Kitagawa, Chisato and Hideo Fujii(1999) “Transitivity alternation in Japanese,” Papers from the Upenn/MIT Roundtable on the Lexicon (MITWPL 35): 87-115.
  • 松本克己(1995)『古代日本語母音論―上代特殊仮名遣の再解釈―』ひつじ書房.
  • 坪井美樹(2001)『日本語活用体系の変遷』笠間書院.

補遺(という名の追記)

 接中辞(infix)についてはアメリカ英語の-fucking-を例に書いたことがある。参考にされたい。

*1:本稿の執筆にあたって黒木邦彦氏、吉村大樹氏をはじめ数名の言語研究者諸氏より貴重なご指摘をいただいた。記して感謝したい。もちろん本稿における不備や誤りは全て筆者の責任である。

*2:《威力[+最小]》の値などは記述の際は未指定としてよいかもしれない。

*3:本稿では「語幹/接辞」や「派生/語形変化」などの概念をどのように考えるのかという問題には立ち入らない。

*4:ただし、ここでの"en"は派生接辞であり屈折接辞ではないことに注意されたい。

*5:さらに、「メラゾーマ」も「メラ-ゾー-マ」のように分解すれば接尾辞「マ」が含まれていることになるが、理論的にも経験的にもその根拠が弱いためここではその可能性を指摘しておくだけにしたい。

*6:黒木邦彦氏の指摘による。

*7:オーストロネシア系の言語に見られる接中辞には頭子音の存在の有無により接頭辞としても振る舞うものがある。

*8:形態的な差異という要因が屈折形態論において重要であるという研究はたとえば坪井(2001)などを参照されたい。また、Kitagawa and Fujii(1999)は自他両用の形態素-eについて形態的な差異を表す機能を持つというような分析を提示している。

*9:松本(1995)、川端(1997)には上代語における/o/-/a/の母音交替の例が提示されているが、いずれも語幹内の母音の対立で意味の変化に関わり、後続要素の有無には関係が無いようである。

*10:他には「ザオラル」「ザオリク」の語幹「zaor」が挙げられる。

*11ドラゴンクエストシリーズの呪文体系 - Wikipediaの「ボミエ、ボミオス」の項目でなぜかここだけ「アクセントは「ボ」」という記述がある。

2011-03-23

[][]用語「理系」「文系」撲滅試論

そろそろ「理系」「文系」という言葉の使用を禁止してはどうか。less than a minute ago via Tween

※注意点:私は理系文系学の専門家ではありません。

はじめに

 「理系」「文系」という言葉を使い続けるにはデメリットが多く、特に使い続ける必然性も特に思いつかないので、いっそのこと使用を一切やめることを提言する。

 なお、本稿では言葉の使用のみに焦点を当て、教育システムの問題は取り扱わない。

「理系」「文系」という言葉の問題点

1. 定義が曖昧である

つまるところ、まともな議論がしたい場合には、「文系/理系」を

  • 高校での所属科、入試に必要な科目、大学での学部/学科などの被教育歴
  • 大学やその後携わっている専門分野の性質
  • 職種

などで区別するのか、それとも

  • 文章の書き方や論の進め方における特徴、あるいは得意な技術
  • 「理屈っぽい」とか「感情的になりやすい」とかいう漠然とした性質

に対する手近で適当なレッテルとして用いるのかぐらいは意識しないと、大分すれ違いが起こりそうだよなあ、という気がします。

理系文系論メモ:文系としてのアイデンティティ - 思索の海

 定義をすりあわせてから議論を始めること自体が困難である場合も少なくない。また、この曖昧さの危険性は、そこに起因する誤解やすれ違いが罵倒や殴り合いまで発展することがあるというだけではない。定義が曖昧なために、「これだから理系/文系は…」という新たな偏見が生まれ、固定化されるのを防ぐことができない。

2. 特定の領域の代わりに使用されてしまうことがある

 実際には「理系」「文系」という言葉を用いていても、「物理学」や「文学」といった非常に特定の分野のことしか指していないケースがしばしば見受けられる*1

 このため、「文系には実証という過程が無い」などといったトンデモな発言さえ割とさらっと出てきてしまう。恐るべきことに、これはアカデミックな世界に職を持つ専門家から発せられることもあり、げに恐ろしきは「理系」「文系」という用語の魔力、といったところであろうか。この用語を使わなければ、たとえば上の発言は「哲学には実証という過程が無い」といったものになるので、後は哲学者にフルボッコにしてもらえばよい*2

3. 雑な一般化を誘発する

 1および2にも通底する問題である。この言葉が存在するために、「理系は〜」「文系は〜」という「理系文系性格判断」とでも呼ぶべき大変雑な一般化をしてしまうのではないかと推察される。

 自分の体験談や伝聞を含むごく少数の例からの一般化など厳に戒められているはずの大学院生やプロの研究者にもこの魔境に絡め取られてしまうものは少なくないという頭の痛い事実を考慮すると、血液型性格判断のケースのような啓蒙をするよりも、用語の使用を辞めてしまった方が効率的であると考える。

4. 他の「〜系」が新設し難いために、二分法に陥りやすい

 すなわち、理系=非文系、文系=非理系という意味で用いられてしまい、さらに話がややこしくなる危険性がある*3。1で述べた「定義が曖昧である」という特徴とコンボになることにより、実際にそれを見抜き指摘するのは案外難しいようである。

 なお、第三(以降)の勢力として有力なものにはすでに「体育会系」があるが、「理系」「文系」と同じく定義が曖昧であり、さらに「理系」「文系」と必ずしも排他的関係に無く*4、「体育会系」という用語使用の強化が新たな混乱を招く危険性もある。

 第三、第四、第五の「〜系」を作り出すことができればこの問題は回避できるかもしれないが、それならば既存の「理学部」「文学部」「経済学部」などを使用すればよい。

 以上の問題は、「理系」「文系」という用語を速やかに廃止することによって簡単に克服されるものと考えられる。

代案

 通常は「理学部」「工学部」「文学部」「物理学」「文学」「経済学」「心理学」などを使用すればよい。どうしても上位のカテゴリを使用しなければならない場合は「人文(科)(学)(系)」「社会(科)(学)(系)」「自然科学(系)」を使用することを提案する*5。実際、筆者はここ数年理系文系問題に言及する場合以外はそのようにしているが、特に支障は無い。

 筆者の私的体験という確たる証拠を示したが、不安な方のために具体的な会話例も示しておこう。

Before

A: B君の進路は理系?それとも文系?

B: 理系

A: へー数学大変だね!

After

A: B君の進路は理学部?それとも文学部?

B: 理学部

A: へー数学大変だね!

全く問題無いのが明らかだろう。さらに蛇足ではあろうが、「理学部と理系ってどう違うの?」「しっ!「理系」って言葉は使用禁止だろ!誰かに聞かれたらどうするんだ...」「ごめん、でも「理学部」ってよくわからなくて...」「しょうがないなあ」...のように、会話が発展していく希望も見込まれるという点についても触れておきたい。

さらなるメリット

 「理系」「文系」という言葉の上での単純な二分法を無くしてしまうことは、どちらかと聞かれると困ってしまう分野(心理学など)の人々や、「数学の必要性」が大変重要なファクターであるにも関わらず、「理系」じゃなくて「理数系」だろ!と主張することの無い*6奥ゆかしい数学徒諸氏にも、眉をひそめる機会の少ない社会を提供できるものと信ずる。

考えられうるデメリット

 用語「理系」「文系」を使用しないことによるデメリットはあまり思いつかないが、唯一「理系の人々」シリーズ

理系の人々

理系の人々

などのタイトルを今後どうすればよいのかというのは頭が痛い問題である。

おわりに

 本稿では、数学が苦手で理学部・工学部以外を選択→卒論で突然統計が必要に→学生「えっ」教員「えっ」というような問題には踏み込むことができなかった。これは教育システム上の問題とも深く関係するので、理系文系学自体の発展とともに今後の研究の進展を望むものである。

関連エントリ

*1:単に他分野のことまで考えが至らないのか、戦略的に行っているのか、というのは興味深い論点であるが、稿を改め論じることとしたい。

*2:哲学者の食指が動くかどうかは別の問題である。

*3:筆者の体験では、後者の方が多く観察された。

*4:ガチ人文系学部の学生でありながら、体育会系の部活に所属してジャージで授業に来たりしていたために、当初一部から「女子学生目当てに授業に来てる体育専門学部の人」という疑惑さえかけられていた私のようなケースを考えてもらえばよい。

*5:どうしても必要な場合は「いわゆる」付きで「理系」「文系」の限定的使用を許可する、という案も考えられる。

*6:少なくとも筆者は見たことが無い。

2009-02-03

[][]命がけで散歩しなければならない沖縄の公園

f:id:dlit:20090204012200j:image

 これ↓を見たら思い出したもので。

 ちなみに三年ぐらい前フリスタの練習に行った時に、沖縄市民会館の側にある八重島公園で撮ったものです。一人看板の前で爆笑してしまいました。

 まあおそらくモデルガンとかの話だと思うんですけどね(^^; しかし英語の注意書きにある"fire"も発砲とか射撃なんて意味があるのでさらにややこしいです("use of fire"って言い方でたぶん分かるんだろうけど)。

2008-02-27

[][]三段飛ばし論法

 論理の飛躍がひどい論の展開の仕方を指す言葉として「三段論法」をもじって「三段飛ばし論法」というのはどうだろう、とふと考えた。きっと使いどころはたくさんあるはず。

 念のためググってみたところなんと一件ヒット*1(2008/02/27正午過ぎ)。

 その該当ブログ記事↓

 うーむ、一件とは…なんというか惜しかったなあ。

 それにしてもグーグル先生の検索結果で一件って久しぶりに見た気がする。

 三段も飛ばそうとすると失敗してこけるとか勢いを付けすぎて止まれなくなってしまうかとかっていうことが多いと思うけれども、頭が痛いのは「私は上手く三段飛ばしができるんですよ!すごいでしょ!」と本気で言い出すような人がいるということだったりする。

*1:クォーテーションを外して丹念に調べれば(そうすると数百件ヒット)他にも見つかったりするのかな?