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歯切れが悪いのは仕様です。


2018-02-23

[]【告知】形態理論研究会第4回:Epenthesis(2/28, 早稲田)

 直前の告知になってしまい申し訳ないです。

 研究会の主旨については下記のページなどご覧下さい。

 第4回のテーマはEpenthesis(挿入音)です。

 以下概要です。

  • 日時:2018年2月28日(水)13:00から17:00程度
  • 場所:早稲田大学早稲田キャンパス8号館6階613教室(早稲田キャンパス南門を入ってすぐ左手の建物)
  • Ustreamのチャンネルで配信予定
  • (過去のものを含めた)発表資料:Documents | 形態理論研究会
  • Twitterのハッシュタグ:#wislimt21

 気軽にご参加下さい。

2018-02-05

[]授業/ゼミでしている話や授業の資料公開記事のまとめ

 タイトルの通り,授業やゼミの内容の公開に当たる記事のまとめです。基本的には専門以外の話を収録しています。

 ちょっとずつ増えてきて,自分で探すのに時間がかかるようになってきたのでまとめました。

 タグを増やすという手もあるのですが,これ以上あまり新設したくないんですよね。こういう情報は個人サイトにまとめるのが良いかもなと思いつつ,手つかずのままです。

※新しい記事ほど上になるように配置しています。

おまけ

 授業やゼミでは特にやるわけではない,あるいは断片的にしか話さないけど関連するかもしれない内容の記事です。こちらは教員になる前に書いたものも含まれています。

2018-02-04

[]指導教員を(卒論・修論の)サブのバックアップにしよう

はじめに

 指導教員の電脳に侵入して外部記憶装置のバックアップに使う…とかそういう話ではありません。

 かなり昔からいろいろ言われている話題だと思いますが,卒論・修論のバックアップ絡みでは今もいろいろな悲劇があるようですね。

 そこでこの記事では,私(人文系,専門は言語学)が卒論/修論の指導にあたって指導学生にすすめている補助的なバックアップの方法を紹介しておきます。「補助的」と呼んでいるのは,メインのバックアップは自身で取っていることを前提にしているからです。

 基本的な考え方は,「指導教員をサブのバックアップにしよう」というものです。といっても,それほど教員側に負担はないやり方になっていると思いますので,教員/学生双方から提案することができる方法ではないかと思います。

Dropboxの共有フォルダを使う

 Dropboxに「2017 卒論(学生の氏名)」のような専用のフォルダを作って,それを学生と共有します。

ここ数年やっていますが,このやり方がバックアップとしては安心感があります。同じやり方ができるなら,Dropboxでなくても良いと思いますが,私は試したことがありません。

  • Dropboxの共有フォルダをサブバックアップに使う
    • メリット
      • 教員の使用しているコンピュータにファイルが残る(重要)
      • 通知等を利用して作業しているかどうか,作業の進捗等について知る/知らせることができる(細かい連絡を省ける)
      • 原稿だけでなく関連論文やデータ・資料の共有も簡単
    • 難点/ハードル
      • 教員/学生のどちらが使用経験がない場合,導入や使い方に慣れるまで時間がかかるかもしれない
      • 教員に対して指導学生の数が多い場合に容量等の面で大変かもしれない
      • 教員が誤ってフォルダやファイルを削除してしまう可能性がある

 バックアップとして重要なのは,「教員のコンピュータにファイルが残る」ことですね。関連論文やデータ・資料を共有して教員側で簡単にチェックできるのも便利ですが,これは分野やテーマによっては容量面で大変かもしれません(たとえばデータとして大量の動画があるとか)。

 ファイルの情報を見ることで作業の進捗状況や,作業に取りかかっているかどうかを判断できるのも地味に便利です。特に提出直前等で添削->修正のプロセスが頻繁に発生する場合はメール等でやりとりするより早いですね。

 ちなみに私は共有フォルダ上にあるファイルに直接コメントを書くことはせず,別のところに一度ファイルを移してコメントをぜんぶ書いてから共有フォルダに上げるようにしています。面倒に思えるかもしれませんが,こうしないと,書いている途中の,あるいは修正・補足前のコメントを読んで学生が修正等を行ってしまう可能性があるためです。

 あと私はこの用途ではあまり使ったことがありませんが,Dropboxではファイルの古いバージョンもweb版から取ってこれるので,それも場合によっては便利かもしれません。

指導教員に原稿等のファイルをメールで送る

 Dropboxを使わない場合はこちらの方法を取っています。また,Dropboxと併用することもあります。

  • 指導教員へのメールをサブバックアップに使う(メールでファイルを送る)
    • メリット
      • 教員の使用しているコンピュータやメールのサーバーにファイルが残る(残らない場合もあるかも)
      • Dropboxよりは導入のハードルが低い(かもしれない)
    • 難点/ハードル
      • 毎回送る作業が必要なので忘れた場合はバックアップが残らない

 人によっては,こちらが気軽にできる方法かもしれません。Facebookのメッセージ等でもファイルの送信はできますが,検索等の利便性を考えるとやはりメールが良いですかね。

 一番の難点は,やはり送る作業が必要だということです。まめな人なら問題ないのでしょうが,意外と忘れてしまうことがあります。また,その都度教員からリマインドするのもなかなか手間です。

 私のゼミではバックアップを一番重視しているので,ゼミの資料は事前に送って読んでもらえるのがベストだが,直前でも構わないし,ゼミ修了後でもよい,ただし必ず送るという方針にしています。

 たとえ卒論・修論の原稿のファイルが全部なくなっても,ゼミや発表会の資料が残っていれば,一から書き直すよりだいぶ楽だからです。もちろん,原稿もこまめに指導教員に送っておけば自分のところからぜんぶファイルがなくなってしまってもある程度は安心です。

おわりに

 以上の2つの方法であれば,教員/学生がそれほどコンピュータに慣れていない場合でも,なんとか導入できるのではないでしょうか。

 ただ,私が指導を担当する卒論・修論では基本的にはWord等の文書ファイルが主で,あとは関連論文のpdf,データといっても容量的にはたいしたことのないExcelファイルとかですので楽に実現可能という側面はあるかもしれません。

 上にも書きましたが,学生の数や,教員/学生がそのやり方/サービスにどれぐらい慣れているか,教員/学生の性格によっても適切な方法は違ってくると思いますので,よく相談しておくことが重要です。

 私のゼミでは最初の頃にやり方を相談するのですが,(学生が)Dropboxに挑戦してみたけど使いにくいのでメールに切り替えるというようなこともあります。

 一番重視しているのは教員として負担を増やさずにバックアップの手助けをするという点ですが,上記の方法を取ることで全体として指導がスムーズにできるという側面もありますので,方法を模索している方は一度試してみてはいかがでしょうか。

2018-02-02

[]「日琉語族」を考える場合「琉球語」は複数ある—「琉球諸語」の話

はじめに

 先日「アルタイ語族」についての記事で下記のように書いたのですが(現在は修正済み),

日本語と系統関係がはっきりしているのは琉球語のみ(琉球語を独立した言語と考えない場合は「孤立した言語」扱い)

高校地理における「(ウラル・)アルタイ語族」の取り扱いについてのメモ - 思索の海

その後「琉球語」で少し検索をしてみたところ,どうも「琉球語」を単独の言語のように捉えている人がそこそこいるような印象があり,まずいかなと思って上記の記事の該当箇所を「琉球諸語」に書き直しました。

 というわけで,せっかくなのでこの記事では簡単に「琉球諸語」,つまり複数の言語からなる琉球の言語グループについてごくごく簡単に紹介してみようと思います。

トマ・ペラール氏の分類

 Wikipediaの「琉球語」の記事はかなり充実していますし,文献もいろいろ引かれていて良いですね。

ただ,見る前からなんとなく予感はしていたのですがノートは荒れています…

 私がさいきんの日琉語族や日琉祖語に関する研究・話題で信頼している研究者の一人としてトマ・ペラール (Thomas Pellard)氏がいます。

 その著作から琉球諸語の分類を紹介します。

琉球諸語の系統分類に関する近年の研究によってUNESCOの言う「国頭語」が歴史・系統的に一つの分岐群ではないことが明らかになっている(文献情報省略)。すなわち上の分類(dlit注:UNESCOの分類)で国頭語に含まれていた南奄美諸方言が奄美語に,北沖縄諸方言が沖縄語に属するのである。

 一方,八重山諸島の中に相互理解を欠く方言が存在することも報告されており,おそらく「八重山諸語」を認めるべきである。筆者はとりあえず奄美語・沖縄語・宮古語・八重山語・与那国語という5つの琉球語を認める立場をとっている。八丈語も認めるべきであるが,その系統的な位置はまだ明らかにされていない。

(ペラール・トマ (2013)「日本列島の言語の多様性—琉球諸語を中心に」『琉球列島の言語と文化 その記録と継承』, p.83,強調はdlit)

掲載されている書籍はこちらです。

琉球列島の言語と文化-その記録と継承

琉球列島の言語と文化-その記録と継承

 このように分類にはいくつか説がありますが,「琉球語」を日本語とは独立した言語として考える場合,複数の言語からなる「琉球諸語」として考えるのが標準的な見解と言って良いと思います。で,日本語,八丈語と合わせて「日琉語族」になるわけですね。

 もう少し補足で引用を。

方言と言語の区別は簡単な問題ではなく,政治や歴史の背景が必ず深く関わってくる。特に日本の場合,日本は一文化・一民族・一言語の国だという考え方がいまだに根強く,多様性そのものが否定されることもある。

(中略)

 琉球諸語は基礎語彙を80〜85%共有している一方,日本語とは70%ほどしか共有していない(文献情報省略)。琉球諸語と日本語とのこの距離はロシア語・ポーランド語・ブルガリア語・セルビアクロアチア語等を含むスラヴ語族内の多様性に近い。また,ドイツ語とオランダ語との距離やスペイン語とポルトガル語との距離よりも大きい

(ペラール・トマ (2013)「日本列島の言語の多様性—琉球諸語を中心に」『琉球列島の言語と文化 その記録と継承』, p.83,強調はdlit)

この前後にも重要なことが書いてありますので,興味のある方はぜひ。人類学・考古学の研究との関連についても簡潔に触れられています。

 また,日本語と琉球諸語の分岐等より詳しい話について興味のある方は,より新しい下記の本に掲載されている同氏の論文が参考になるでしょう。

従来の様々な説にも積極的に言及していて,レビュー論文としても有用なものだと思います。琉球語というと気になる人の多いであろういわゆるP音(「母(はは)は昔パパだった」というアレ)についてもけっこう詳しく書いています。

 ただ,こちらの本はかなり専門的なので言語学や日本語学に詳しくない方が読むのはしんどいかもしれません。

 また,氏はAcademia.edu等でも積極的に書いたものを公開してますので,フォローしているといろいろ読めます。

おわりに

 琉球諸語は今研究がどんどん進んでいるので,これからいろいろ面白い進展があると思います。動詞の活用とかものすごくおもしろいんですよ(突然なんだと思われるでしょうが一応私は活用研究が専門なので)。楽しみですね。

追記(2018/02/03)

 こんな記事を書いた次の日にこんな記事が。

作成された系統樹も掲載されいてるのでぜひ見てみてください。

2018-01-30

[][]現代日本語の表現の意味・用法を調べる時にとりあえず当たってみる本のおすすめ

はじめに

 この記事では,現代日本語(共通語)の特定の形式の意味・用法を調べる必要が出てきた(例:「明日休講だっけ」の「っけ」の意味・用法が知りたい)時に,手っ取り早く調べることが可能で,それでもある程度はしっかりした記述がなされている本を紹介します。私が担当している専門の授業でもよく話している内容です。

 すごくざっくり言うと,(『日本国語大辞典』を含む)国語辞典以上,専門の論文以下の情報を調べるための本の紹介です。

 ただし,場合によっては下で紹介する本の記述が専門の論文で先行研究として言及されることもあります。

おすすめ

グループジャマシイ(編)『教師と学習者のための日本語文型辞典』
日本語文型辞典

日本語文型辞典

 通称?『文型辞典』。もう出版から20年になるのですね。どちらかというと日本語教育畑の人におなじみの本という印象がありますが,カバーされている形式は幅広く,用例がたくさん挙がっていて文法研究の出発点としても非常に使いやすいです(詳細な分析がない場合にこれの記述を出発点にするとか)。

 本体は辞典形式で形式を50音から引けますが,末尾にも50音索引,逆引き索引,意味・機能別項目索引(「完了」「命令」などから形式を探せる)が付いています。

 あと,いろいろな言語のバージョンが出ているのも特徴ですね(英語版より中国語,韓国語,ベトナム語,タイ語版等が先に出ているというのが日本語教育的背景を感じさせます)。

日本語記述文法研究会(編)『現代日本語文法』シリーズ

こちらが記述は専門的であることが多いかもしれません。

現代日本語文法1 第1部総論 第2部形態論

現代日本語文法1 第1部総論 第2部形態論

 7巻セットのシリーズなのですが,第1巻に総索引が付いていて,ここに各巻で取り上げている形式が網羅されています。各巻は「アスペクト」「モダリティ」などのトピック別になっているので日本語文法についてとりあえず基礎的な知識を得たい場合にも便利ですが,形式から調べる場合は第1巻をどうぞ。

 『現代日本語文法』シリーズは学生がそろえるにはちょっと値段がきついと思いますが,少なくとも図書館のどこにあるか把握しておくと良いかと思います。

基本的には出発点

 この2つはあくまでも出発点であって,調べた形式について詳細な分析を行う場合は,もちろん専門書や論文を探さないといけないということには注意して下さい。

おわりに:紹介の背景

 とりあえずどの本か知りたいという人はここは読まないでも問題ありません。

 なんでこんな記事を書こうと思ったかというと,特定の形式の意味・用法の情報源として,卒業論文の審査や演習の授業でも辞典の情報をあげてくるケースがしばしばあることが前から気になっていたからです。

 もちろん,研究のメイントピックになっている形式についてはきちんと専門書・論文を探せているケースがほとんどなのですが,メインではないけれども少し/幅広く言及する必要がある場合(例:終助詞「ね」がメインの分析対象で,その前に付く色々な形式の意味・用法に言及するような場合)等にそういう事態が発生するようです。

 また,談話・文章研究で特定の形式にフォーカスしない場合(例:女性ファッション誌10誌1年分のコピーの分析)とかだと,その分さまざまな表現・形式の分類・分析をする必要があり,一つ一つの形式に関する調査が手薄になることもあるようです。

 もちろん卒業論文だと個々の形式についても詳細に分析した専門書・論文がないか探すことが必要になります。一方で場合によっては詳しい分析が存在しない形式もありますし,上記の本にも記述がなく結局国語辞典を引くこともあるのですが*1,やはりこれらを知らない/調べないのはもったいないと思ったので記事にしてみました。

 言語学や日本語学だけはなく,哲学,文学,社会学等でも具体的な現代日本語の表現・形式の意味・用法に言及する必要が出てくるケース(あと言語学系の研究者でも日本語の研究には詳しくない場合とか)はあるように見受けられますので,そのような時にも使ってもらえると日本語の研究者としては嬉しいです。

関連:授業の内容を紹介した記事

*1:場合によっては『日本国語大辞典』の方が記述がやや詳しいとか,語誌を知りたい場合は『日本国語大辞典』の方がいいというようなことはあります。

2018-01-18

[]高校地理における「(ウラル・)アルタイ語族」の取り扱いについてのメモ

追記(2018/02/02)

 「琉球(諸)語」について簡単な補足を書きました。

はじめに

 先日のセンター試験の地理に出たムーミンに関する問題は大きく話題になって,大阪大学大学院言語文化研究科スウェーデン語研究室から声明が出されるような事態にまでなりましたが,

ついったー上などでこの話題についてやりとりする時に「アルタイ語族」という名前がそこそこ出てきたのが言語学の研究者としては気になりましたので,この名称が現在も高校地理の関係書籍で使用されているのか少し調べてみました。とりあえずここでは調べたことのメモだけ書いておきます。

 ちなみに,上記の阪大のページと合わせて下記の記事もおすすめしておきます。

現在の(おそらく)標準的な見解

 研究者によっていろいろ見解はあるでしょうけれど,現在言語学概論等の授業で簡単に紹介するのであれば,

  1. 「ウラル・アルタイ」というくくり方はしない
  2. 「ウラル語族」は系統関係が認められている
  3. 「アルタイ語族」は系統関係がはっきりするところまでは行っておらず,「アルタイ諸語」と呼ばれる
  4. 日本語と系統関係がはっきりしているのは琉球諸語のみ(琉球諸語を独立した言語グループと考えない場合は「孤立した言語」扱い)

という辺りでしょうか。

 ちなみに,いつも紹介している黒田龍之助『はじめての言語学』でも,第5章に「3—《ウラル・アルタイ語族》なんてない」という節が出てきます(ちょっと表現がきついです…)。

 たとえばアルタイ諸語というものがある。諸語というのは,語族の関係がいまいち証明できていない言語のグループである。(中略)明らかに似ていて親戚だろうというのもあるが,一方ではっきりしないものもある。だから慎重に考えて諸語と呼んでいるのだ。

(中略)

 現在の言語学では,《ウラル・アルタイ語族》は認めていない。(中略)古い本ならともかく,いまどき《ウラル・アルタイ語族》なんて書いてあるものがあったら,次の二つのうちのどちらかである。不勉強で新しい学説を知らない。またはすでにイっちゃっている。

(黒田龍之助 (2004)『はじめての言語学』講談社. pp.194-195)

はじめての言語学 (講談社現代新書)

はじめての言語学 (講談社現代新書)

高校地理関係書籍の記述

 では,高校地理の用語集等に出てくる記述を見てみましょう。

 網羅的な調査ではありませんし,教科書は未チェックです。書店等で手に入りやすいものをいくつかさっと見ただけですので,他にもあるかもしれません。

 まずは山川の用語集。「アルタイ語族(アルタイ諸語)」で立項があります。

地理用語集―A・B共用

地理用語集―A・B共用

アルタイ語族(アルタイ諸語)

東アジアからトルコまで広がる言語集団。モンゴル語派(モンゴル語・ブリヤート語など),テュルク語派(トルコ語派),ツングース語派(満州語・エベンキ語など)からなる。ウラル語族との関連性が認められなくなり,アルタイ諸語と表記されることが多くなった

(地理用語研究会編 (2014)『地理用語集』山川出版社. p.188,強調はdlit)

おお,ちゃんと言及がありますね。

 次に解説書2冊。

新版 もういちど読む 山川地理

新版 もういちど読む 山川地理

言語はその系統をもとに,インド・ヨーロッパ語族,ウラル・アルタイ語族,北アフリカ・西アジア語族,アフリカ語族,シナ・チベット語族,マレー・ポリネシア語族,オーストラリア語族などに分類されているが,正確な系統分類は完成していない

(田邊裕 (2017)『もういちど読む山川地理』山川出版社. pp.189-190,強調はdlit)

あれ,同じ山川でも違いますね。ただ解説書なので「語族」「諸語」の使い分けを単純化したという可能性はありそうです。ちなみに,索引に「ウラル・アルタイ語族」がリストされていました。

 下記の本は索引には「ウラル語族」だけで,

 日本語は,モンゴル語・トルコ語などとともにアジア系のアルタイ語族に含まれているとされてきましたが,さまざまな異説もあります

(中略)

 なお,以前は「ウラル=アルタイ語族」という言い方がありましたが,現在では両語族の類縁関係は否定されています

(山岡信幸 (2012)『忘れてしまった高校の地理を復習する本』中経出版. p.53,強調はdlit)

ウラル・アルタイ語族についてははっきり否定していますが,アルタイ語族の存在は前提にしているように読めます。また,日本語の系統についてはちょっと古い言い方な気もします。

おわりに

 印象としては,もっと調べてみると本によってスタンスや記述がけっこうばらついてそうだなあというところです(ただ言語学や日本語学関係の本でもたまに微妙な記述を見かけるという話もあります)。

 ちなみに,高校地理や高校の教育を非難するというような目的で書いたわけではありません。

 学問の成果をどれぐらい,どのような形・タイミングで教育に反映させるかというのはなかなか簡単には一般化できない難しい課題だと思います(こういう内容だと反映させやすそうな気がしますがどうなんでしょう。たとえば,生物の方の分類に関する新しい知見はどんな感じで取り入れられていくのでしょうか)。

 むしろ,「これだから学校教育ってやつは…」って考えたり言ったりする前に,まず事実・実態を調べた方が良いのではないかと考えて書きました。

 どなたか教科書も調べてくれると嬉しいです。

追記(2018/01/21)

 DG-Lawさんが教科書について詳しく調べてくれました。

やはりばらつきがあるようですが,思いのほか「諸語」も使われているようです。しかし日本史の用語集は…

2018-01-11

[]講演会・ワークショップ「なぜ、ヒバクシャを語り継ぐのか〜ノーベル平和賞ICANを支えたキャサリン・サリバンさんとの対話〜」(1/19-20 関西, 26-27 関東)

はじめに

 標記の講演会・ワークショップが関西・関東それぞれで開催されます。

 なんで突然こんな宣伝をするかというと,私も所属している筑波大学総合言語科学ラボラトリーの「記憶の継承と言語」プロジェクトが関わっているということがあります。当機関のサイトの告知記事から詳細な情報が掲載されたpdfファイルがダウンロードできます。

そのpdfファイル(チラシ裏面)から趣旨を引用しておきます。

 2017年7月,核兵器の保有や使用などを初めて法的に禁じた「核兵器禁止条約」が国連本部で採択されました。多くの外交官たちが広島,長崎の被爆者による証言に「心を揺さぶられた」といいます。

 その採択に向け「主導的役割を果たした」として,今年度のノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)。その「被爆者担当」として世界に被爆体験を広めてきたアメリカ人平和活動家,キャサリン・サリバンさんを招き,関東と関西で講演会とワークショップを開催します。

 サリバンさんは被爆者とともに,アメリカの高校生3万人余りに核兵器の非人道性を訴えてきました。北朝鮮の核の脅威が高まる今こそ,サリバンさんの思いに触れ,改めて被爆体験を語り継ぐ意味を見つめてみませんか。

イベントの概要

 各イベントの概要は以下の通りです。上記告知サイトにありますが,ワークショップの申し込み締め切りは関西が1/12(金),関東が1/16(火)に延長されています。講演会は申し込み不要です。

【関西会場】

  • 講演会
    • 日時:2018年1月19日(金)13:45〜15:45
    • 場所:京都外国語大学 森田記念講堂
  • ワークショップ
    • 日時:2018年1月20日(土)10:00〜17:00
    • 場所:京都外国語大学 4号館432教室

【関東会場】

  • 講演会
    • 日時:2018年1月26日(金)19:00〜21:00
    • 場所:文京シビックホール小ホール
  • ワークショップ
    • 日時:2018年1月27日(土)10:00〜17:00
    • 場所:横浜国立大学 教育7号館202号室

おわりに

 こういう活動を応援している人も,懐疑的な人も,具体的な話や情報を元に考える・議論するのが重要だと思いますので,興味のある方はぜひどうぞ。

2018-01-10

[]筑波大学の人文社会系に関する噂?についてちょっとだけ

噂?

 先日から筑波大学の人文社会系の教員がビジネス科学に組み入れられるという話が話題になっています。

一方で,デマだという指摘もあったようです。

 私は筑波大学の「人文社会系」に所属する教員(助教)ですが,とりあえず今のところこのような話を聞いたことはありません

 ちなみに,ここでいう「人文社会“系”」というのは,一般的な「〜系」という表現ではなく,特定の教員組織を指しています。

 ただ,教授と助教では入ってくる情報(の早さ)にかなり違いがあると思いますので,私1人の話ではたいした判断材料にならないかもしれません(私が(まだ)知らないだけという可能性)。

人文(社会)系に対する風当たり

 ではなぜこんな記事を書いたかというと,この話が何らかの不毛な対立,あるいは人文(社会)系に対する過剰な攻撃を生み出すきっかけになってしまっていないかということが少し心配になったからです(生み出すというよりは表面化させているということなのかもしれませんが)。

 分野間,あるいは理系文系の対立みたいなことについてはずっと気になっていて,以前もいくつか記事を書きました。

あとこの辺りの記事も関係するかな。

 人文(社会)系が持つ問題点の指摘と,それについて批判や議論をすることは歓迎しますが,あやふやな情報に基づく議論はできるだけ減るといいなと思います。

おまけ

 参考までに,ちょうどさいきん書いた私の仕事内容を紹介しておきます。

追記(2018/01/10)

 学長名義で大学の公式サイトに上記のような情報を否定するメッセージが掲載されました。

最近,インターネット上において,本学の人文社会系が他分野に吸収されるかのような情報が掲載されていましたが,そのような事実はありません。本学の教育改革の取組内容については,本学の公式な情報発信をご参照いただきますようお願いいたします。

筑波大学|ページが見つかりません|

2018-01-03

[]レポート共有サイトにおける盗用疑惑(への一部のはてブコメント)についてちょっとだけ補足

 先日書いた記事への反応を見て,少し補足しておいた方が良いだろうと思ったので簡潔に書きます。

はてブコメントはこちら。

盗用か?

 そもそも「盗用」とまで言えるほどのものなのか,という反応がけっこうありました。関連するはてブコメントとしては,

辺りでしょうか。

 確かにそこは私も迷ったところで,そのために,元の記事ではふだんの文章に輪をかけて断言しないような表現を多用しています。

 引用の使い方,つまり,先行研究の知見を参照するときにできるだけ直接引用を使うようにするのか,それとも簡潔な要約引用を使うようにするのか,という判断は,研究分野や研究者のポリシー,またトピックや個々のケースによっても違ってくるようです。

 今回取り上げたケースについては,共有されたレポートの全体の文章をそもそも私しか読んでいないのでアンフェアなのですが(販売されていて購入したレポートですが,私の著作物ではないので全文公開は避けました),問題にした箇所の最初にたとえば「動詞と形容詞の文法的な相違点について,田川 (2005)では次のように述べている。」と書いて始めれば,学部生のレポートであれば,長めの要約引用として問題ないと判断したと思います(むしろよく簡潔にまとめたとして高く評価したかもしれません)。

 また,そういった修正がないものが私の学部の授業のレポートとして提出された場合でも,一発で「コピペレポート」扱いにはせず,提出者本人に問いただして,その内容によっては引用の技術が未熟なので低評価ぐらいで済ませるかもしれません。

 投稿論文の査読であれば,もっとしっかり引用として書き直すことが求められる可能性が高いと思います。

 また,私が厳しめの判断をしたのは,「例文」の取り扱いにも一因があります。元の記事で書いたように,通常も先行研究で示された例文を多少変えて用いることはあるのですが(もちろん出典情報と改変したことは明示する),文法研究における「例文」はデータ・証拠そのもので,時に例文のそのものがその研究の第一の貢献だったりしますので,例文(のアイディア)のプライオリティが不誠実な扱いを受けた場合,「データ(場合によっては研究のアイディアそのもの)を盗まれた」ような感覚を持つのだと思います。ただ,例文が文字通り例示として用いられることもあるので場合によりますし,文法研究者間でも感覚に違いがあるでしょう。

誰がなぜやったのか

 悪意があったのではなく,何らかの事情がある者がやったのでは,という指摘がありました。関連するはてブコメントとしては,

辺りでしょうか。

 実は私もそのようなことを考えてしまいまして,元の記事で「ダメだ」とか「ひどい」といった評価の表現を用いず,「悲しい」という評価にしているのは,その辺りのことが頭にあったからです。

じゃあどうする?

 レポート等を課す側としては,盗用・剽窃が不可能,またはやっても意味がないような課題を出すというのが一つの手段とあって,私自身も考えてはいるのですが,私の知識と技術では常にそのような課題にできるわけではなく難しいところです。

 もちろん,盗用・剽窃に関する(研究)倫理の徹底,「教育」はそれとは別の問題として考えなければなりません。

2018-01-01

[]自分の書いた論文から盗用したような文章がレポート共有サイトで売られていた話

追記(2018/01/03)

 盗用かどうかの判断を中心に,簡単な補足記事を書きました。

はじめに

 下記の,卒論がメルカリで売られているという話を見て思い出したので,「私が書いた論文(からの盗用を含む可能性が高い文章)がレポート共有サイトで売られていた(のを買って確認した)」体験談を,記録として書いておきます。

 新年最初の記事がこういう話なのは切ない気もしますが…

経緯

 もうだいぶ前なのでどういう経緯で見つけたのか詳しくは忘れてしまいましたが,たしか何かの検索に引っかかったんだったと記憶しています。で,どうも「レポート共有サイト」に上がっている文書らしいと。発見したのは専業非常勤講師時代です(2011年,論文発表年は2005年)。

 どうしても気になったので,アカウントを登録してその「レポート」を購入しました。値段は525円でした。購入後に届いたメールにはこんな文面が。

件名:課題は提出しましたか?

(中略)

作成した資料がございましたら、ハッピーキャンパスで販売してみてはいかがでしょうか。

貯まった販売収益金は、現金で出金することも可能であり、資料購入もできます。

(中略)

 どうも体裁は「レポート作成のための資料や参考になる文章」を売買するという感じなのですが,私が購入した資料を見ると,レポートそのままと言って良い(ほぼそのまま提出できる)ものでした。

 ちなみに,刹那的なサービスですぐ消えるだろうと思っていたら,この「レポート共有サイト」,まだ存在していました。

論文とレポートの比較

 では,部分的に私が書いた論文と購入したレポートを比較してみましょう。

 私の論文は大学院生の後期課程在籍時に「動詞と形容詞の形態統語論的な相違点について」というタイトルで書いたもので,いわゆる紀要論文です。下記(機関リポジトリ)からダウンロードすることができます。

 購入したレポートの件名は,「動詞・形容詞の共通点と相違点」です。

 まず私の論文の文章から(ちょっと長いです。あと下線は省略)

(7) a. 明日は雨が降りそうだ。

b. 明日は 暑/*暑く そうだ。

c. 太郎は昨日走り過ぎた。

d. あのフェンスは 高/*高く すぎる

 上の対比に見られるように、「〜そうだ(様態)」、「〜過ぎる」に接続する場合、動詞では連用形が現れるのに対して、形容詞は連用形ではなく語幹部分だけが現れる。これは動詞の連用形と形容詞の語幹部分が同じ環境に現われる、おおよそ同じ大きさの要素であることを示している 。

 また、次の例に見られるように複合語を形成する場合にも、動詞の場合には連用形が現われるのに対して、形容詞では語幹部分が使用される。

(8) a. 立ち食いする、殴り書きする

b. 薄切り/*薄く切り する、早食い/*早く食い する

(田川拓海 (2005)「動詞と形容詞の形態統語論的な相違点について」『筑波応用言語学研究』12: 74)

 次に購入したレポートの文章

まず様態に接続する場合を比較してみたい。

  動詞   日曜は降りそうだ。

  形容詞  日曜は暑そうだ。

動詞は連用形によって接続されるが、形容詞は連用形ではなく語幹部分のみが使われている。

 次に複合語を形成する場合を比較してみる。

  動詞  リンゴを立ち食いする。(した)  

  形容詞 リンゴを薄切りする。(した) 

 やはり同様に、動詞は連用形によって接続されているが、形容詞は語幹部分のみである。これは過去形でも同じことが言える。

(購入レポート)

 どうでしょうか。文章そのものはぜんぜん丸パクリではありませんが,全部読んでみたところ,これはむしろ悪質なのではないかと私は考えました。

 私の論文の文章や例文をうまくアレンジしているのではないかと思われるのですが,(改変*1・要約した)引用であることは明記されていないのですね。

 で,この後接頭辞に関する議論(元の論文だと3節冒頭の話)も私の論文と同じ現象をほぼ同じ例を用いて示した後に,唐突に次のような文章が出てきます。

表面的には一見区別がないが、動詞の否定と形容詞の否定では、統語論的に違いがあり、動詞文における「ない」は否定辞の具現形であると考える、と田川拓海氏は述べている。(参考文献(1))

(購入レポート)

確かに私の主張はざっくり述べるとそのようなことなのですが,おそらく多くの人は,この書き方だと(前半部分の議論は含まず)否定に関するところだけが私の主張であると読んでしまうのではないかと思われます。ちなみに,書き忘れたのかどうなのか,この「参考文献(1)」の情報はどこにも記載されていません(名前とキーワードで検索すればたどり着けそうですが)。

おわりに:誰が書いたか

 この購入したレポートには,おそらく他にも辞書や日本語文法の入門書から引っ張ってきたような内容なども(出典情報なしで)含まれていました。

 私が気になったのは,この購入レポートの完成度が高いことです。複数の文章の文体をかなりうまく統一してつなげていると思われますし(少なくとも私の文章の文体はうまくソフトにしてあります),私の元の論文の(生成文法をベースにした)理論的な分析や抽象的な議論はうまく省いて例文とそこから導かれる記述的一般化をシンプルにまとめています。

 私はたまたま自分の議論が含まれていたので気付きましたが,盗用(控えめに言ってかなりひどい「引用」)に気付かれなければ,おそらく高い評価を得られるのではないかと思います(論点に対して個別の議論がマニアックなことや,やや継ぎ接ぎな感じがするところから気付く研究者はいそう)。

 私はまだそれほど研究のキャリアも教育経験も長くないのですが,これは日本語学や日本語文法の議論にある程度慣れ親しんだ人(学部3, 4年生か大学院生ぐらい)か,そうでなければかなり学術的な文章を読み/書き慣れた人でないとできないことではないかと思います*2。そういう人が書いたそれなりの議論を含んだ学術的文章で,文献は一つしか言及せず,しかも文献情報は示されていないというのも不自然に感じます。「引用の方法だけよく分かっていなかったため盗用に見えるような文章になってしまった」可能性はかなり低いのではないかと。

 もちろんこのような(実質的な)レポート売買サービスが存在していること自体問題なのでしょうが,ある程度特定の分野の勉強に励んだ人が関与しているとしたら,大学教育に携わる者として大変悲しいことです。

 とりあえず経験談と感想をまとめてみただけになりましたが,どうすべきか,ということについては簡単には書けなそうなので,また機会を改めて。

*1:文法研究の論文では,特定の理由のために,(もちろん)断った上で例文を少し変えることがあります。

*2:優秀で要領の良い学部生なら専門が違ってもこれぐらいできてしまいそうな気もしますが。