「ララピポ」奥田英朗

ララピポ

ララピポ

「負け犬」ブームって去ったのかな?
確か30代超で婚暦・子供なしの女性のことを差すコトバだったっけ。社会的ステータスはあるけど伝統的に言われてきた「結婚・子育て=シアワセ」って方程式にはあてはまらない女性が自分たちをそう呼ぶ、自嘲気味な逆説的エンパワメントと教わった気がする。

でも社会的地位がある時点で負け犬ではないわな。社会的には思いっきり「勝ち組」じゃんw
所詮、「結婚・子育て=女のシアワセ」「仕事・成功=男のシアワセ」っていう手垢のついた方程式を逆にしてみた、出来損ないのアンチテーゼに過ぎない。
アンチってのはその対象がないと存在し得ない寄生虫です。生産性も再生産性もありません。アンチモダンとポストモダンは違うのです。
それに仕事/家庭の2つでしかシアワセを測れないってのも、つまんない。
も少し周りの声とかマスコミのイメージに踊らされず(草食系とかもね)、シアワセの尺度を変えたらいいと思います。


で、ララピポ。
ララピポが何を意味するかは読んでいただくとして、本作品の「負け犬」は本来の意味で使われている。
強い相手には牙を剥かず、ヒエラルキーの下の方で運命に服従し使役される、哀れで卑小な人々のお話。
6人の負け犬が1章ずつを担当し、それぞれが微妙にリンクしながら物語を創ってゆく。


引きこもりフリーライターから始まり、風俗スカウトマン、ゴミ屋敷の主婦、転じて熟女AV女優、徹底的に押しに弱いカラオケ店員、援助交際にはまる官能小説家、テープリライター兼デブ専裏DVD女優。
まさに選りすぐりの負け犬。しかもオン・パレード。
登場人物一人一人のへたれ具合や運の悪さ(自業自得だったりするけど)、不幸の連鎖がこれでもかこれでもかと描写される。
この6人を基軸に、流されるままAV女優になっちゃうデパガ、カラオケ屋で売春する女子高生たち、仕事をさぼって情事にふける郵便局員なんかの脇役が負け犬モザイクを彩るわけで。
下手するとこっちが鬱になりかねない題材なんだが、奥田さんの筆力によって伊良部シリーズ同様、高品質・高画質のオムニバスに仕上がっている。
1つ1つの短編の高い完成度とつなぎの巧さはまさに一級品。そしてあくまでもエンタメ。すごいわー。
あんまり赤裸裸で哀れすぎると笑えてくるって始めて知った。


最初から最後までずーっと不幸な登場人物もいるんだが、救いが用意されている幸運な主人公もいる。
中でも胸がすっとしたのは裏DVD女優の小百合。
男を引っ掛けてはアパートに連れ込み、セックスシーンを録画してアダルトショップに売り込む。
「デブ女と醜男シリーズ」と題されたこの裏モノ、マニアの間で大ウケらしい。
ビデオが回ってるとなれば「私のために争わないで!」なんてクサい台詞も平気で口にできちゃうわけで、小百合のしたたかさと踊らされてる男達の負け具合が絶妙のコントラストを成している。


小百合のDVDを観たアダルトショップの店長はこう語る。

登場人物全員が負け組。さらにはこのシリーズを待ちわびているマニアも負け組。ルーザーの祭典ですよ。いやあ、世界中の人に見せたいなあ。東京の片隅に、こんなにも凄まじい負け組のドラマがあることを知らせてやりたいなあ。


うん、素晴らしい負け組ドラマだと思う。かなりデフォルメされてるとはいえ、根っこはすごくリアルだし。
…でもさー、小百合にしても熟女にしても女子高生にしても、結局カラダ売ってお金になるのって女だけなのね。
この本でも若くもなく金もない負け犬(オス)は、したたかにさえなれずに流されてくばっかりだったし。
負け犬認定されちゃった男性は、ホントに出口がないのかもしれない。…笑えないね。