「オー!ファーザー」伊坂幸太郎
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/03/01
- メディア: 単行本
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高校生の由紀夫は母親と父親の6人暮らし。
ん?計算合わない??
だって父親4人いるんですもん。
由紀夫の母親は結婚前四股をかけていて、由紀夫を妊娠したのを機会に、誰が父親かわからないけどみんなで家族やっちゃえ、となった。
ギャンブル好きの鷹、女好きの葵、スポーツマンで熱血教師の勲、大学教授の悟。
由紀夫は生まれた時から(麻雀好きということを除けば)全く共通点のない父親4人に囲まれ、勉強もスポーツも女関係もうまいこといっているのだが、老成しているというか、少々ひねくれて成長している。
何かにつけて「俺に似ている」「やっぱり俺の子だ」を連発する4人は由紀夫に干渉してくるわ、鬱陶しいわ、父親面しまくるのに、DNA鑑定に踏み切る勇気はないあたりが微笑ましい。
鷹曰く、「そんな鑑定なんかして、もし俺が父親じゃなかったらどうすんだよ」ということらしい。
こういったタイプの主人公にふさわしく?由紀夫は典型的巻き込まれ型のヒーローだ。
中学時代の悪友鱒二や同級生の多恵子に振り回され、思いもかけないトラブルに巻き込まれつつ、やれやれとため息をつきながら問題を解決していく。
手旗信号、クイズ番組、ランナウェイ・プリズナー、鱒二の父など前半に用意された伏線が見事に回収されるのは相変わらずの伊坂節。
理想の父親なんていないけど、由紀夫にうざがられながらもがんばって父親を演ろうとしている4人を見ていると、ボーヴォワールをもじって「人は親に生まれるのではない、親になるのだ」と言いたくなる。
本作品は2006-7年に新聞で連載していた小説を2010年になってまとめたものだそうで、伊坂作品第一期の最後にあたるらしい。
あとがきで伊坂さんは単行本化が遅れた理由を
「物語があまりに自分の得意な要素やパターンで作り上げられているため、挑戦が足りなかったのではないか、と感じずにはいられませんでした」
と書いているが、巧妙な伏線の配置といい、魅力的な登場人物といい、伊坂ワールドの真骨頂だと思う。
さらっと読めてしかも心に残る、巧い小説のお手本だ。
そして文章中に散りばめられた素敵な台詞の数々。
他作品に比べて割と日常に近い(といっても地上から数センチ浮いているけど)主題だけに、日常会話で使いたいコトバがたくさん出てくる。
試験期間を控えた由紀夫に悟さんがこう言う。
人が生活をしていて、努力で答えが見つかるなんてことはそうそうない。答えや正解が分からず、煩悶しながら生きていくのが人間だ。そういう意味では、解法と回答の必ずある試験問題は貴重な存在なんだ。答えを教えてもらえるなんて、滅多にないことだ。だから、試験にはせいぜい、楽しく取り組むべきだ。
あるいは、ゲームセンターの格闘ゲームで対戦相手の中学生をぼこぼこに負かした鷹さんが言う。
あのな、大人の役割は、生意気なガキの前に立ち塞がることなんだよ。煩わしいくらいに、進路を邪魔することなんだよ。
もし俺が部屋に閉じこもったら?と由紀夫に聞かれ、勲さんが即答する。
お前の閉じこもっている部屋の外壁を、工事車両でぶち壊す。そうすりゃ、ひゅうひゅう風が吹き込むし、きっと泣きながら出てくる。いくら部屋に閉じこもっていたところで、外の壁を壊してしまえば、そこはもう部屋じゃなくて、外だろ。
女の子の扱いはプレイボーイの葵さんの独断場だ。
大腿骨と女の子と、どっちが大事なんだよ。大腿骨はそのうち繋がるけど、女の子は二度と戻ってこないぞ。
4人全員にちゃんと名台詞が用意されているあたりは予定調和なんだけれど、すごく考え込まれた洒脱な台詞を一人一人に配置するあたり、伊坂さんの愛を感じる。
親になったらこういう台詞を子供にかけてやりたいな。