『Rust And Bone』(邦題『君と歩く世界』)


"Rust And Bone" 写真クレジット:Sony Pictures Classics
題名の「錆びと骨」はボクシング用語で、パンチを受けて歯で唇が切れた時の血の味のことだという。恋愛映画の題名としてはかなり風変わりだが、なるほどと納得させられた。
ロマンチックなムードや感傷を誘う音楽を排除して、荒々しい魂がガツンと出会い、ゴツゴツとした道を歩きながら愛を掴んでいく過程を描いて秀逸な作品だ。昨年のカンヌ映画祭でコンペにエントリーされ、ゴールデングローブの外国映画賞にもノミネートされている。
舞台は光り輝く海が美しいフランスのコート・ダジュール。姉を頼って、幼い息子を連れてベルギーから文無し状態でやってきたアリ(マティアス・スーナールツ)。彼は腕っぷしを買われてナイトクラブの警備員の仕事を得る。ある晩、クラブで男と争うステファニー(マリオン・コティヤール)を助けて家まで送り、「いつでも電話くれよ」と軽く言い残して別れる。
ステファニーはオルカの調教師で、マリンワールドのショーでは花形スター。しかし、ショーの際に起きた事故で彼女は両足を切断されてしまう。絶望のどん底でのた打ち回る彼女はふとアリに電話する。
元ボクサーだったアリはおよそ洗練とは無縁の粗野で野性的な男だが、身体と心に深い傷を負ったステファニーを動物的なカンで守ろうとする。
「即戦力」と自称するアリとカジュアルなセックスを続けるステファニーは、次第に元気を取り戻して行く。事故がなければ付き合うこともなかった異質な二人。これは恋愛なのか?と自問するステファニーと、そんなことにはまったく無関心なアリとの対照が面白い。
監督は09年『預言者』を作ったジャック・オーディアール。カナダの作家クレイグ・デヴィドソンの二つの短編小説を下地に脚本も書いている。コティヤールが「ステファニーの人物像が掴めない」とオーディアールに問うた際に「自分も分からないんだ。作りながら発見して行こう」と言われ、彼女の俳優根性がかなり刺激されたようだ。
確かに本作中の彼女は、絶望のどん底から再生をつかみ取っていく女性を力強く演じて素晴らしい。また後半になって、ストリート・ファイトで稼ぎ始めるアリを演じたスーナールツも「元ボクサーだった?」と思わせる文字通り体当たりの演技で目を見張らせてくれた。
フランスの恋愛映画というと微妙な表情や言葉のニュアンスで見せるというイメージがあるが、本作はそんなイメージから遠く、まさに生命と肉体の躍動を伝える血の味がする恋愛映画の秀作であった。
それにしても、邦題の『君と歩く世界』はいただけない。この題名では障害を持った女性を強い愛で助ける…というお涙頂戴の恋愛映画にしか思えないだろう。内容を伝えていないだけでなく、歪めている。本作を観るべき人たちが敬遠しないことを祈るばかりだ。
上映時間:2時間。サンフランシスコはエンバカデーロ・シアターで上映中。
"Rust And Bone" 英語公式サイト: http://www.sonyclassics.com/rustandbone/
『君と歩く世界』日本語公式サイト:http://www.kimito-aruku-sekai.com/