"Whiplash"(邦題『セッション』)


"Whiplash" 写真クレジット:Sony Picture Classics
念願の名門音楽学校に入学したジャズ・ドラマー志望のニーマン(マイルズ・テラー)は、学内でも有名な指揮者テレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)のスタジオ・バンドのセッションに招待される。
才能も自信もあり、野心満々のニーマンは得意となって初セッションの臨むが、完璧主義のフレッチャーが指導するセッションは厳しい罵声が飛ぶ異様なもの。彼の鋭い指導の矛先はニーマンへも向けられた。テンポの些細な遅れも絶対に逃さないフレッチャーは怒声を発し、椅子をなげ、侮蔑的言辞を弄してニーマンを追いつめる。

自信の鼻をへし折られ、屈辱に血をたぎらせるニーマン。彼は文字通り血の滲む練習を重ね、フレッチャーに自分の腕前を認めさせようとする。そして、ついに彼のバンドのドラマーとしてコンペに出場出来ることになるのだが…

物語はこの後も二転三転、ドラマーと指揮者が音楽を巡って繰り替すバトルがスリリングに描かれ、息も着かせない。オリジナリティと音楽性、人間ドラマが複合した音楽映画の傑作と言えるだろう。本年度のアカデミー賞作品賞は逃したが、名脇役として知られるベテランのJ・K・シモンズ助演男優賞、トム・クロスが編集賞、トマス・カーリー他2名が録音賞など3賞を受賞している。

ドラマーが主人公なのでドラムを打つシーンが多いが、ドラミングの音とテンポがニーマンの内面に渦巻く怒りや焦り、いら立ちなどと連動し、音楽的であるとドラマチックで、しかも極めて映像的に表現にされ、まったく新しいタイプの音楽映画という印象を強くした。

監督/脚本は30歳デイミアン・チャゼルで、09年の初作品 『Guy and Madeline on a Park Bench』で注目を浴びた俊才だ。脚本は彼の実体験を下地にしたとのことで、生徒の成長のために厳しく指導する鬼教師という旧来の枠を超えた一筋縄ではいかない指揮者フレッチャーを造形した功績は大きい。こういう師に出会うことを幸運と呼ぶのか不運と呼ぶのか、観客の判断に任せたい。

またバディ・リッチのような偉大なドラマーを目指すニーマン像も明快である。彼の大きな野心が父権的親族らからスポーツ選手になる男だけが評価され、音楽家である彼が見下される悔しさに根ざしていることがしっかりと描かれている。ふっくらとした風貌には似合わない執念のドラマーを演じたテラーも、ドラミングシーンの多くを自ら演じて素晴らしい健闘をみせている。

ニーマンは、親族を見返すため、フレッチャーに認められるためドラムを打ってきた。そんな彼が最後に打ち続けたドラムの9分余は圧巻、本作のテーマを見事に伝えている。

上映時間:1時間46分。日本では現在劇場上映中。

"Whiplash" 英語公式サイト:http://sonyclassics.com/whiplash/
『セッション』日本語公式サイト:http://session.gaga.ne.jp/