文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

江藤淳先生の「小沢一郎論」を再読する。

江藤淳先生は、1996年(平成8年)から、産経新聞に「月に一度」という政治コラムを連載していたが、それに小沢一郎中曽根康弘竹下登の三氏との対談を合わせて一冊にまとめた本が『月に一度』として、産経新聞社から、1998年(平成10年)に刊行されているわけだが、今年、その本が、屋山太郎の解説つきで、装いも新たに復刊された模様である。僕は、昔の「著者謹呈」の初版本を持っているので、改めて買う必要もないが、しかしそれぱともかくとして、「屋山太郎の解説つき」と聞いただけで買う気は失せたと言っていい。産経新聞社が、政権交代後の今、そして小沢一郎が政治的実権を握った今、何故、この本を緊急復刊しなければならなかったのか、その意図は正確には分からないが、民主党政権小沢一郎に何かしら危機感を抱いているにちがいないことは分からなくもない。実は、江藤淳先生の『月に一度』の眼目が、その卓越した「帰りなん、いざーー小沢一郎君に与う」という、小沢一郎に故郷・水沢への引退を勧告した「小沢一郎論」にあることは言うまでもない。しかし、『月に一度』という本の本文テキストを読まずに、タイトルだけから内容を想像して誤解している人も中には少なくないので、ここで、あらためて、江藤先生の小沢一郎論なるものを紹介しておきたい。江藤先生の言う「帰郷のすすめ」は、所謂「引退勧告」ではない。むしろ、逆である。小沢一郎が、政界で政治的実権を握り、その才能を発揮し、縦横無尽に活躍するためには、ここで、一度を身を引いておいた方がいいのではないか、という深慮遠謀としての「帰郷のすすめ」だった。むろん、江藤先生も、小沢一郎に本気で帰郷を進めたわけでせはない。江藤先生は、こう書いている。

新進党は、いや日本の政界は、構想力雲のごときこの優れた政治家を、寄ってたかって潰してしまおうとしているのだろうか。それは嫉妬からか、反感なのか、はたまた゛豪腕゛を謳われた小沢一郎自身の、不徳のいたす所というほかはないのか。

この江藤先生の言葉が、小沢一郎に「引退勧告」や「退場勧告」をしているものではないことは一目瞭然だと言っていい。むしろ、「日本の政界は、構想力雲のごときこの優れた政治家を、寄ってたかって潰してしまおうとしている」「それは嫉妬からか、反感なのか・・・」というこの言葉は、今、現在の小沢一郎を取り巻く政界とマスコミ、そして検察にピタリと当てはまるのではないか。さらに、こんなことも言っている。

過去五年間の日本の政治は、小沢対反小沢の呪縛のなかを、行きつ戻りつして来たといっても過言ではない。小沢一郎が永田町を去れば、この不毛な構図はたちどころに解消するのである。野中広務亀井静香両氏のごとき、反小沢の急先鋒は、振り上げた拳の行きどろを失うのである。

この言葉もまた、ピタリと現在の政界とマスコミにおける「小沢一郎バッシング」の実体を見抜いていると言っていいだろう。現在、小沢一郎を、「悪徳政治家」「金権政治家」という烙印を押して、必死で政界から排除・抹殺しようとしている「反小沢一郎派」の面々に、語るに値するような政治的な理念や政策があるわけではない。彼等には、「反小沢」という旗印だけがある。小沢一郎がいなくなれば、当然、彼等は存在理由を失い、消えていくしかあるまい。小沢一郎が永田町を去れば、永田町は反小沢の天下になるのだろうか。ならない。「反小沢を唱えさえすれば能事足れりとして来た徒輩が、今度は一人ひとり自分の構想を語らざるを得なくなるからである。」したがって、小沢一郎が去れば、いよいよ「反小沢」の面々が小沢一郎に代わって登場してくるのではなく、むしろ、皆、茫然自失せざるを得ないだろう、というわけである。

その茫然自失のなかで、人々は悟るに違いない。過去五年間日本の政界を閉ざしていた暗雲の只中に、ポカリと一点の青空が現れたことを。党首の地位にも議席にも恋々とせず、信念を枉げず、理想を固く守って故山へ戻る政治家の心情の潔さを。小沢君、君は何もいう必要がない。ただ君の行動によって、その清々しさを示せばよい。

江藤先生の小沢一郎に対する思い入れは深い。人を褒めることの少ない「文芸評論家・江藤淳」が、これだけの賛辞を、小沢一郎に寄せるということは、尋常ではない。僕は、これを書いてから、程なく江藤先生が自裁したのは、当時の小沢一郎を取り巻く政界やマスコミの雰囲気に絶望したからではないか、とさえ思う。江藤先生は、死ぬのが早すぎたのかもしれない。今こそ、江藤先生の出番だったはずだ。残念なことである。しかし、書かれたものは永遠である。再読、三読したい文章である。(続)
 



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