文藝評論家=山崎行太郎の『 毒蛇山荘日記(1)』

文藝評論家=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記1(1) 』です。

カンサンジュン=

姜尚中(カン・サンジュン)の『在日』
《そうだ、もうひとりの自分、「姜尚中」になるのだ。そう思ったとき、わたしは「永野鉄男」を捨てて「姜尚中」を名乗ることにしたのである。
「自分探し」の果てに今まで抑圧してきたものを一挙に払いのけ、新しくよみがえりたい。名前の変更は、その「通過儀礼」のように思われたのである。性急にもわたしは「にわか民族主義者」に変身していた。そのような性急さは、逆に言えば、わたしの鬱屈した世界の深刻さの反動だったに違いない。とくにわたしの中に澱のように沈殿していたのは、同じような在日二世学生の焼身自殺の衝撃だった。
70年、三島由紀夫の割腹事件が起きたその同じ年、日本名山村政明(梁政明)という早大生が文学部正面前の神社で自殺した事件は、わたしを震撼させた。三島の華々しい自死とはあまりにも対照的なわびしくも孤独な死だった。
》(姜尚中『在日』91)